待望の春がそこまでやってきていた。
黒雪は、大臣たちを集めて会議を開いた。
「道路建設は東国側の協力もあって、今年中には目途が立つでしょう。
次の策は、荒野に冬季用の城と街を作る事です。
今のこの城の場所は、雪に埋もれてしまいます。
その間、すべてが停滞してしまうのです。
それでは国力を伸ばせません。
しかし国土の形状を考えると、この場所に本拠地が必要です。
よって、ここは春夏秋用として、冬場のみ閉鎖にしましょう。」
大臣たちが、うなずきながらも反論する。
「それは我々も考えておりました。
しかし実現には莫大な費用が掛かります。」
「工事には、東国の職人も入れましょう。
東国にとっては雇用の促進になるので
私の父にもいくばくか用立ててくれるよう、交渉します。」
会場は小さく歓声が上がった。
大国と繋がりができるというのは、こんなにもメリットがあるのか
驚きとともに、閉鎖的だった時代を悔やんだ。
「だけどそれだけでは、工事費用はまかなえません。
そこで私は別動で、資源を探してみます。」
「資源?」
「ええ。 この広い大地には、絶対に地下資源が眠っているはずです。
学者たちにも協力してもらって、それらを探します。」
「その資金はどうするんですか?」
「私の持参金を使います。」
「ちょっと待ちなさい。」
口を挟んだのは王であった。
「そなたの持参金は、国庫に入った。
もう使い道は決まっておる。」
「城の者の衣服や装飾品等ですね?」
王子が書類を手に立ち上がった。
「申し訳ありませんが、しばらく皆辛抱してください。
他国に助けてもらいながら、贅沢な暮らしをしようなど
失礼というものですよ。」
王が明らかにムッとしている。
「あ、じゃあ、捜索は私と少人数でいたしますわ。」
黒雪が手を上げた。
「あと、私のドレスは作らないでくださいね。
もう充分に持っておりますし、正直似合いませんしね。」
あはは、と笑う黒雪に、会場がなごむ。
「大国の姫など、どんな鼻持ちならないお姫さまかと思っていたら
気さくな良いお方ではないか。」
「ああ、さすがうちの自慢の王子様がお選びになっただけある。」
大臣たちが喜んでいる中、王だけがムッツリとしていた。
王子と王子の妃が、どんどん物事を決めていくのが気に入らないようだ。
これが “老害” というやつか。
続く
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黒雪伝説・湯煙情緒 4 11.3.31
黒雪伝説・湯煙情緒 1 11.3.23
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一週間に及ぶ、結婚のイベントをこなした直後
黒雪は議会で道路建設の指揮を取ると言い出した。
莫大な持参金と、大勢の従者を連れて来た大国の姫は
新参なのに、北国の城の中で既に一大勢力を持っていた。
「結婚したばかりなのに、早すぎませんか?」
せいぜいがこの程度の異議しか出ない。
「浮かれてる場合じゃないと思います。
それでなくとも、年の半分は雪で身動きが取れないのだから
動ける内に動いておかないと。」
この意見には、もちろん文句は出ない。
「ただ・・・、その・・・、お世継ぎも・・・。」
「私も王国で生まれ育った身。
世継ぎの重要さはわかっております。
出産は真冬にしますから。」
黒雪の言い切りに、会場はどよめいた。
妊娠出産を、そう都合良く出来るものか。
だが黒雪の強運さは、そこにあった。
雪が積もるギリギリまで、奔走しつつも
冬に見事に出産するのである。
しかも男女の双子であった。
これにより、北国での黒雪の地位は確固たるものとなった。
「はあ・・・、出産、すんごいしんどかったわ・・・。」
「お疲れ様でした。
ありがとう、奥さま。」
王子は感動しきりである。
「さすが元ヘビ、多産させられるわー。
卵で出て来い、っつの。
双子、この国では不吉じゃないわよね?」
「はい。 むしろ幸運だと言われてるみたいですよ。」
王子の抱擁を受けながら、ベッドの上で黒雪は考え込んだ。
「何です?
私の奥さまが恐い顔になっていますよ?」
黒雪の眉間をチョンチョンと王子が突付く。
「ああ、いえ、ちょっと気になったんだけど・・・。
あの王さまって、実のお父さんじゃないわよね?
王さまの奥さんはいないの?
そこ、どうなってるの?」
ヒソヒソと王子に耳打ちする黒雪。
「この国は母のせいで消えていたらしいのです。
それを作り直した上に、更に後から私を組み込んだみたいですよ。
この国の人の記憶では、私は父王の嫡男となってます。
父王の奥さん、この世界での私の母の事でしょうかね?
とにかく王妃は、私を産んですぐ死んだ事になってますね。」
王子の話に、黒雪が首をひねった。
「国の再生はどれぐらい掛かったのかしら?
あなたをそこに組み込むのは一瞬で出来たの?」
王子も少し顔を曇らせた。
「そこがよくわからないんです。
いつ国の再生が完了したのか。
でも私が組み込まれたのは、最後のようです。
どうもところどころ、わからない部分があるんですよね。
300年前の戦いの時から。」
「ふーむ、私たちの結婚も、偶然だけじゃないかもね。」
黒雪の言葉に王子は慌てた。
「えっ? 私はあなたを真剣に愛していますよ!」
「そこじゃなくて、この結婚は私たち以外の誰かにとっても
何かの意味とか、目論みみたいなのがあるのかも、って話よ。
もう! こういう頭を使う事はあなたがやってよね!
私は労働担当だから。」
「・・・小人さんたちに言われた事を、根に持ってますね?」
王子がクスクス笑った。
「今度あいつらに会ったら、お礼をしないとね。」
鼻息を荒くする黒雪。
「ふふ、頑張ってくださいね。」
まるで他人事のように言う王子。
「・・・あなた、時々すごく冷たいわよね?」
ちょっと引く黒雪に、平然と答える王子。
「どうせ爬虫類ですからね。 ふん。
でも、あなたにだけは何があっても忠実ですよ。」
「へえ? ハブ女王の息子だった事とか、ウソを付いていたのに?」
その言葉を聞いた途端、ガバッと黒雪にしがみつく王子。
「それは本当に謝ります。
真実がわかったら、全部言いますから!!!」
え? まだ何か秘密があるの?
と黒雪は思ったけど、まあ、いいや、と流した。
筋肉脳は、太っ腹である。
続く
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黒雪伝説・湯煙情緒 3 11.3.29
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黒雪伝説・湯煙情緒 1
北国の王は動揺した。
息子が連れて来た結婚相手が
超・兄貴! だったからである。
(注: 超兄貴とは、その昔PCエンジンというハードで出た
伝説のシューティングゲームである。
と言うか、こういう解説がいる言葉を多用しないでもらいたい。
えっ? 自分で書いてて人のせい?)
真っ黒に日焼けして、筋骨隆々のその婚約者は
本当に女性なのか? と、疑うほどであった。
だが、そこが逆に国民にウケたのは意外であった。
厳しい気候のせいで、裕福ではない我が国に
あの大国、東国の姫が嫁いでくれる事自体、奇跡だったが
体中アザだらけ傷だらけなのに、堂々とウエディングドレスを着る
→ さすが、大国の姫君! ってな具合に。
しかもそのアザや傷や日焼けは
我が北国への道を作るためにできたものなのだ。
国民たちは、感謝とともに期待を持って黒雪を歓迎した。
ふむ、少々気の弱いところのある王子には
このような逞しい姫が良いのかも知れん。
王はカイゼルひげを引っ張りながら、納得した。
「アタシは納得しないですわん!」
黒雪の枝毛だらけの髪をセットしながら
ヘアメイク担当のカマが不満をタレる。
「しばらくイベント続きだというのに
このきったないお肌に、ボッサボサの髪!
アタシが代わりにドレスを着た方が、よっぽど美しいわん!
ああ、姫さまのヘアメイク、とっても苦労ーーーっ!!!」
「ちょ、待て、何故おまえがここにいるの?」
黒雪が問うと、カマが驚愕する。
「あらっ! あらららっ!
結婚式もアタシ担当だったのに、今頃気付いたんですのん?
あんまりですわん!
腐った雑巾のような姫さまを、花嫁へと何とか変身させたのに!」
「す・・・、すまん・・・。」
「まあ、いいですわん。
結婚式なんて誰でもアタフタしてますしねん。
・・・あーたは準備中、ずっと寝てたようですけどねん。」
「す・・・、すまん・・・。」
「ヘアメイクアップアーティストというのは、花形の職なんですのよん。
特に王室勤めともなると、ファッションリーダーですわん。
カリスマですわん。
なのに姫さまに付いて、辺境の国に移住するなんて
もったいなさすぎますわん。」
ベラベラ喋りながらも、テキパキと手を動かす
この、“ヘアメイクアップアーティスト” が
とても有能らしい事は、美容に無頓着な黒雪にもわかった。
「へえー、何故おまえは来てくれたの?」
「東国の城には、もうトップがいたのですわん。
彼には適わないから、アタシは新天地でトップを目指しますわん。
“鶏口となるも牛後となるなかれ” って言うでしょん?
牛の中ではビリでも、鶏の中で一番になりゃ良いでしょ、って。」
「ふむ、そうなのか。
頑張ってくれ。
一緒に来てくれて、ありがとう。」
その言葉を聞いたカマは、一瞬手を止めて黒雪の顔を見た。
「・・・・・・ふーーーっ
ブスなのに大らかな性格なのよねん、姫さまったら。」
首を振って溜め息を付かれ、黒雪は複雑な気分になった。
「・・・・・・・・・どうも・・・・・・・・・・。」
そこへ王子が入ってきた。
「仕度はできましたか? 姫。
いえ、・・・私の奥さま・・・。」
王子の顔が赤くなるので、黒雪までつられて赤くなる。
ふたりの間に花びらが降りかけたところで
カマが割って入る。
「もーーーーーっ!
イチャラコチャラは後でやってくださいよねん!
まだ準備中ですのよん。
殿方は出入り禁止ですわん。」
カマがキイキイ言いながら、王子を追い出す。
「まったく、このゴリ姫の夫が
あんな美男子なんて、世の中狂ってますわん。」
「えっ、あいつ、美男子なの?」
「・・・そういう自覚のないところが、また腹が立ちますわん。
さあ、さっさと用意しますわよん!」
カマの逆鱗に触れ、グイグイ髪を引っ張られる黒雪。
こいつに逆らえるヤツは、多分いない。
ちなみに彼の名は、キドである。
続く
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