カテゴリー: 黒雪伝説・王の乱

  • 黒雪伝説・王の乱 15

    レグランドが城内に入ると、皆がチラッとこっちを見る。
    が、すぐまた、自分の仕事へと戻る。
    見て見ぬフリなのである。
     
    要するに、コトを起こしたくない、って事だよね。
    レグランドは、衆人の視線を感じながらも
    とりあえずネオトスのところに向かった。
     
     
    意外にもネオトスは、王子たちを案じてはいなかった。
    「黒雪さまと一緒なら、無敵ですからね。」
    無表情で言うネオトスの心理が、レグランドには謎だった。
     
    妖精界時代からの家臣だと聞いていたけれど
    それにしては、この突き放しっぷりが不可解である。
    これが親なら、わかってはいても心配でならないだろう
    ましてや、妻があの無鉄砲な黒雪さまなのに・・・
     
    怪訝に思うレグランドに、ネオトスが言う。
    「“そんな事” より、早く王子たちを呼び戻すのです。
     王は自室にこもっています。
     これは、王の身に何やら起きているようですぞ。」
     
    レグランドは、ネオトスの言い回しに気付かず
    その剣幕に圧されて、慌てて城の出口へと取って返した。
     
     
    城外に出ると、頭上からファフェイが降ってきた。
    飛び退こうとするヒマもなく
    レグランドの喉には、短剣を突きつけられた。
    「おぬしの首、いただいたり!
     なんちゃってー。」
     
    ファフェイは素早く短剣を回しつつ、サヤに入れた。
    「おぬしは、相討ちを狙うタイプだから
     こういう遊びは危ないでござるな、フシュシュ。」
     
    何度も不意を衝かれ、プライドはズタズタである。
    だがこの男、黒雪よりレグランドより素早いのは確かだ。
     
    この変態に戦いで負けるとは、と
    激しくイラ立つレグランドだったが、ひとことだけ言った。
    「・・・メガネを掛けて・・・。」
     
     
    「拙者は、お后さまに報告する。
     黒雪さまたちは、すぐにおいでになる事であろう。
     では、さらばだ!」
    ファフェイの黒装束は、一瞬で闇に溶けていった。
     
    「あっ・・・」
    レグランドは追おうとしたが、もうファフェイの姿はなかった。
     
    さっき別れたはずの彼が何故ここにいるのか、何をしてたのか。
    黒雪さまたちは彼を信用しているようだけど
    しょせんは他国の間者、疑いは常に持っておかないと・・・。
     
    豹変した自国の王、他国の密かな介入
    レグランドは、得体の知れないものに前後を挟まれた気分であった。
     
     
     続く 
     
     
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  • 黒雪伝説・王の乱 14

    レグランドは困惑していた。
    城の周囲に、見張りすら見当たらないのである。
     
    まさかもう皆殺し・・・?
    恐ろしい考えが頭をよぎる。
     
    どうしようかと、しばらく辺りを伺っていると
    城の一部屋で、白い布が振られている。
    観察していると、その布は定期的に振られているようである。
     
     
    罠か? 囚われている人があそこにいるのか?
    迷いに迷ったあげく、レグランドは黒雪を見習う事にした。
    堂々と正門から入るのである。
    あたしが無理をしないと、きっと黒雪さまがムチャをなさるから・・・
     
    主を危険な目に遭わせるのは
    親衛隊として、無能を意味する。
    生き恥を晒すぐらいなら、犬死にを選ぶレグランドもまた
    筋肉バカのひとりであった。
     
     
    正門への道を歩き始めた途端
    城の外壁の東端で、白い布が激しく振られ始めた。
    レグランドは、反射的に道路脇の木の陰に隠れた。
     
    北国の城は、城下町の東1kmぐらいのところに
    孤立して建っているのである。
    高い塀で周囲を囲まれていて
    街道脇には木が等間隔で、ポツンポツンと生えているだけで
    何とも寒々しい風景である。
     
    逆に言えば、気付かれずに城に近付くのは困難なのだ。
    レグランドは、そのまま夜を待つ事にした。
    城壁の布は、自分を止めている気がしたからである。
     
     
    太陽が沈みきり、自分の影が闇に溶け込んだ頃
    先ほど、白い布が振られていたあたりで
    今度はランプの明かりが揺れている。
     
    レグランドは、足音を立てないように気をつけつつ
    明かりの方へと走った。
     
     
    明かりの主は、城内警護の兵士であった。
    「王子さまたちはご無事でしょうか?」
    「ええ、今は私の報告を待ってるところです。
     あれから城内では何が起こったんですか?」
     
    「それが・・・」
    兵士が首を横に振りつつ言う。
    「何も起きていないんです。」
     
     
    「それは一時待機、とかでですか?」
    「いえ、あの後、王さまは何も言わずに
     部屋にお戻りになられて、それっきりなのです。」
     
    レグランドは、兵士の言う事が理解できずにいた。
    「私たち警護も、どうして良いのかわからず
     城の者も皆とりあえず、通常の業務をこなしていて・・・。」
     
    レグランドの無言に、兵士が小声で叫んだ。
    「だって、ヘタに訊いたらマズい雰囲気なんですよ。
     王子さまたちを追え、という命令でも出されたら
     それこそ、困りますし・・・。」
     
     
    「姫さまと王子さまのお子さまたちは無事ですか?」
    「はい、ネオトス殿がお守りになっておられます。」
    「そう・・・。」
     
    レグランドは考え込んだ。
    実際に追手が来なかった事から、この兵士の言葉は信じられる。
    では、次にどうするか・・・。
     
    「王さまの部屋を探る、しか選択肢はないだろう!」
    いきなり真後ろで声がしたので
    慌てて飛び退くレグランド。
     
    見ると、ファフェイが立っていた。
    後ろを取られる、というのは想像以上に悔しいものだ。
     
     
    「拙者は忍びだから、これが仕事なのだ。」
    ファフェイは、悲しき宿命のように頭を振ったが
    単なる趣味である事は、レグランドにはわかっていた。
     
    ゆえに、その小芝居で余計にはらわたが煮えくりかえった。
     
     
     続く 
     
     
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  • 黒雪伝説・王の乱 13

    「何故、寝袋って1人用しかないんですかね・・・。」
    王子が星空を見上げながら、白い息を吐く。
     
    「・・・さあ・・・。」
    眠い黒雪は面倒くさそうに、それでも返事だけはする。
     
    「ふたりで一緒に寝られる幸福、というのは
     孤独に育たないとわからないものでしょうね。」
     
    王子の可哀想な身の上ぶりに、少しイラッとした黒雪が
    低音で不機嫌そうに言う。
    「片時も離れずに側にいてくれた執事がいるでしょうが。
     人間界の王族は、ふたりで寝る、という意識すらないものよ。」
     
     
    じい・・・
    王子は妖精界での、隠れ住んでいた日々を思い出した。
     
    あの頃は、定期的に住処を替える時以外は
    私は閉じこもった生活だった。
    家や食料や生活道具は、全部じいが用意してくれた。
    学問や常識なども、すべてじいが教えてくれた。
     
    私はいつも本を読んで過ごした。
    ずっとそうやって生きていくのだと思っていた。
    自分がハブ女王の息子だと聞かされるまでは・・・。
     
     
    王子は、ふと疑問が湧いた。
    そう言えば、何故あの時に
    小人さんたちの家に行く事になったんだろう?
    確か、じいが一緒に来てくれと言い出したんだった。
     
    今になって思い返すと、あの家に姫がいると
    じいはわかっていたんじゃないだろうか?
    何故・・・?
     
     
    王子は、この自問自答にショックを受けた。
    何故今まで、この事に疑問を感じなかったんだろう?
     
    気付かない事、知らされていない事は多い。
    黒雪はそれでも平気なようだが
    幸せを知った今の王子は、子供時代の自分が
    みじめだった事にも気付いてしまったのだ。
     
    その理由を探さないと、この幸せがまた
    自分の元から去っていきそうな気がして
    不安でたまらなくなる。
     
     
    「奥さま、私はもう二度とひとりになりたくありません!」
    王子は寝袋に包まれたまま、寝ている黒雪の上に頭を乗せた。
     
    「んーーー・・・、神さんに言え、そういう事はー。」
    黒雪が寝ぼけつつも、厳しい事を言う。
     
    王子は、イビキをたてて爆睡する黒雪の胸の上で
    シクシクとすすり泣いた。
     
     
    夜中に泣くヘビ王子・・・
    なかなか恐いものがあるが、本人にとってはドン底である。
     
     
     続く 
     
     
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  • 黒雪伝説・王の乱 12

    剣を静かに抜いた黒雪の目の前に現れた馬車の窓には
    女性の姿が見えた。
     
    「相変わらずのバカップルぶりですわね。
     温泉から丸見えでしたわよ。」
    その声には聞き覚えがある。
     
     
    「・・・お・・・継母さ・・・ま・・・?」
    黒雪がとまどいながら言う言葉を聴いた王子は
    紳士としての根性で、驚きを包み隠した。
     
    「東国での披露宴以来ですね。
     ご無沙汰をしております。」
    冷静に片膝を付いて頭を下げる王子の隣で
    黒雪が言ってはならない言葉を叫ぶ。
     
    「お継母さま、荒地の魔女かと思いましたわよ!!!」
    (注: ハウルのあの魔女)
     
     
    継母は、渋い顔をした。
    「・・・産後太りをしてしまって・・・。」
    「はあ? 産後何年経って、ようやく太ってるんですか?」
     
    まったく、この人の口は塞いでおかねば
    王子は黒雪を押しやって、話題を変えた。
    「ご心配をお掛けしたのは申し訳ございませんが
     王妃様御自らがおでましになって大丈夫なのですか?」
     
    その言葉でも、話題は変わらなかった。
    「ええ。
     温泉でダイエットをする、という理由で
     何ヶ月も城を離れていられますのよ・・・。」
     
    もう、この母娘の間に入るのは止めとこう
    王子はさっさと諦めた。
     
    「ああ、それはそうですね。
     さすがお継母さま、丸くなって転がってもタダでは起きない。」
    黒雪には、あくまで悪気はない。
     
     
    「で、そっちはどうなっているの?」
    継母が窓越しに、見下す目つきで訊く。
     
    黒雪が冷たい視線で返す。
    「お継母さまの方が詳しいんじゃないんですか?」
     
     
    ふたりで喧々ごうごうと言い合った結果
    王の様子がおかしくなったのは、数ヶ月前ぐらいから。
    その変化は、継母の時に酷似している、という事だけ。
     
    「ご自分の事を、えらい客観的に覚えていらっしゃるんですねえ。
     確かにそう言われると
     王とお継母さまの雰囲気、似ていましたわ。」
     
    「ええ。 まあね。
     “あの時” のあたくしは、自分で思い出しても
     懐疑心と攻撃性が強かったのよね。」
    「・・・それが通常のお継母さまのような・・・。」
     
    継母がギロッと睨む。
    「じゃあ、今のこの穏やかなあたくしは何なの!」
    「安穏としてるから太るんでしょうが。」
    黒雪がサラッと応える。
     
    王子はハラハラしていたが
    ふたりのやり取りは、これが普通の状態である。
     
     
    「ほら、あなたが鏡を割った時に
     あたくしたち、荒野に飛ばされたでしょ?
     北国の村が滅びた話といい
     鏡は北国に縁があるような気がしない?」
     
    継母の言葉に、王子が考え込む。
    確かに、どうもこの荒野がキーポイントのような気がしますね・・・。
    だけど何故・・・?
     
    王子の思考を、黒雪がさえぎる。
    「それより、お継母さま、何か食べ物ありません?」
    継母が従者に合図をした。
     
    「食料と、サバイバル道具一式を用意しときましたよ。」
    黒雪が飛び跳ねて喜ぶ。
    「凄い! さすが東国の王妃、わかってらっしゃる!!!!!」
     
     
    その感謝に満更でもなかったが、とりあえず怒る継母。
    「黒雪、今回のように何かあった時のために
     あちこちにこういう装備を隠しておくのが基本でしょう。
     あなたこそ、平和ボケしてるんじゃないのかしら?」
     
    黒雪は、ウッ・・・ と言葉に詰まった。
    「おっしゃる通りですわ、お継母さま・・・。」
    継母がなおも追いかぶせて、説教をタレる。
     
    「あたくしなど、西、南、北の関所近くに
     逃亡用具を隠しているわよ。」
     
    「・・・わかりました。
     では、お継母さまを討つ時には、まずそこを潰しますわ。」
     
    今度は継母がウッと詰まり、黒雪がニタッと微笑んだ。
     
     
    相変わらず恐ろしい母娘ですね・・・
    王子が後ろで身震いをした。
     
     
     続く 
     
     
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  • 黒雪伝説・王の乱 11

    王子と黒雪はやっと温泉近くにたどり着いた。
    「温泉に来る良い口実になったのよ、きっと。」
    「そんな事を言うものじゃありませんよ。
     おくさまの事を心配なさったから
     温泉を口実に、様子を見においでになったんでしょう。」
     
    「いずれにしても、一国の王妃が他国に外出など
     国を揺るがし兼ねない暴挙だわ!」
    「まあまあ。
     しかし、どうやって継母上に連絡を付けましょうか?
     継母上はお忍び、私たちは追われる身ですよ?」
     
     
    望遠鏡を覗きながら、黒雪が事もなげに言う。
    「ねえ、あの温泉、私たちの支配下におかない?
     その方が、今後も色々と都合良いと思うんだけど。」
     
    王子は、また始まった、という顔をした。
    「それは賛成しかねますねえ。
     支配 = 庇護 ですよ。
     守るものは少ない方が自由でいられるでしょう。」
     
    「ああ・・・、そう言われたらそうね。」
    あっさりと意見を翻したはいいけど
    ちょっと考え込む黒雪。
     
    「どうしたんですか?」
    「いや、“守る” で何か忘れてる気が・・・
     ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
     ・・・・・・・・・あっっっ!!! 子供たち!!!」
     
     
    驚愕したあとの王子は
    容赦ない非難の目を、黒雪に向けた。
    「・・・今まで忘れてたんですか?
     あなた、母親でしょうに・・・。」
     
    「ごめん!
     ちょっと助けてくる!!!」
    ガッと立ち上がった黒雪の手を、王子が掴んだ。
     
    「子供たちは、じいが見ていますから大丈夫ですよ。」
    「えっ・・・?」
    「王族たるもの、いつ謀反されるかわからないですからね。
     もしもの時の回避方法は、いくつか用意してますよ。」
     
     
    黒雪は激しく感動して、王子に抱きついた。
    「ありがとうーーーーーーー
     さすが、あなただわーーーーーーーっ。」
     
    王子も満更じゃなく、でも釘を刺す事は忘れない。
    「可愛い我が子ですからね。
     でも、あなた、もう少し子供を構ってあげなさいね。」
    黒雪は王子に抱きついたまま、うんうんとうなずいている。
     
    本当にわかっているか怪しいものですね、この猪女は。
    そう思う王子だったが、黒雪の感謝が心地良い。
    思わずニンマリしつつ、ギューッと抱き締め返した。
     
    と、その時、温泉の建物から馬車が動き出した。
    「あっ、誰か出てくる。」
    「頭が出てます、隠れてください!」
    望遠鏡を覗く黒雪を、王子が岩陰に引っ張る。
     
     
    黒雪は這いつくばって、地面に耳を付け
    王子は体育座りで、ジッと息を殺す。
     
    「・・・ねえ・・・。」
    黒雪が王子を横目で見ながら、顔を曇らせる。
     
    「い・・・嫌ですよ
     そんな不安になるような表情をしないでくださいよ。」
     
    王子が早過ぎるビビりを発動した直後
    黒雪が剣に手を掛け、王子をかばうようにしゃがみ込んだ。
     
     
     続く 
     
     
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  • 黒雪伝説・王の乱 10

    レグランドとファフェイは、西の村にいるクレンネルと合っていた。
    「城から追っ手は来てないよ。
     と言うか、動きがまったくないみたいなんだ。」
     
    レグランドは眉をしかめた。
    「それはちょっと解せないね。
     あの王さん、何がしたいんだろう?」
     
    「“権力の誇示” じゃないでござるかね、ウフッウフッ。」
    「で?」
    「へ?」
    「誇示して、そしてどうするの?」
     
    ファフェイはニタニタしながら、軽く答えた。
    「何も考えてないんじゃないでござるかね、ウフッウフッ。」
     
    「・・・・・・」
    イラ付いて無言になるレグランド。
     
     
    「この分だと、多分あたしも移動して良いと思うんだ。
     エジリンが来たら、あたしは東に進もうか?
     この辺ももうすぐ初雪だよ。
     あたしらなら雪山越えも可能だけど
     王都の連中には辛いんじゃないかね。」
     
    クレンネルの提案に、レグランドがうなずく。
    「そうだね、多分もう西には追っ手は来ない。
     来ても、あまり意味がないし。
     ここは放置で、我々は黒雪さま近辺にいた方が良いね。」
     
     
    「クレンネルさんは、荒野と城の間のここに陣取るべきであろう。
     私は城の南東に位置して
     城に潜入するレグランドさんとの
     連絡の中継ぎをいたすとしましょう。」
     
    ファフェイのしっかりした喋り方に
    レグランドが驚いて、広げた地図から顔を上げると
    ファフェイはかけていたメガネを慌てて外した。
     
    「メガネ、普段は掛けないんでござる、ヒュヒュヒュ
     似合わないんでござるよー。 恥ずかちーーー! ウフッウフッ」
     
    「ちょ、似合う似合わない以前の問題じゃ?」
    「そこまでケナさないでほしいでござるよー、ヒュヒュヒュ・・・」
    「いや、そうじゃなくて!」
     
     
    いきり立つレグランドに、クレンネルが耳打ちをした。
    「何て説明するつもりだよ?
     『メガネを取ると気持ち悪いですよ』 ってか?」
     
    そう言われたレグランドは納得した。
    確かに、誰もそんなひどい事を言えるわけがない。
     
    「黒雪さまは、『裸眼のおまえは気持ち悪い』 って
     おっしゃるんですよ、ひどいと思いませんか? フシュッ!」
    ・・・言ってるじゃん、しかも一番言いそうな人が。
     
     
    そこでレグランドは、逆方向から攻めた。
    「あたし、メガネをしている人が好きなんだ。
     だからずっとメガネをしていてくれないか?」
     
    ファフェイはモジモジしながら、メガネを取り出す。
    「うう~ん、惚れないでくださいよおっ? ウフッ」
     
    握っていた鉛筆を、ついヘシ折ったレグランドだが
    表情はあくまで平静を保つ。
     
     
    メガネを装着した途端
    ファフェイはキリッとしたインテリ・イケメンになり
    レグランドとクレンネルを驚愕させた。
     
    ちょ、顔付きまで変わってる!
     
     
    「では、あたしはエジリンが来たら東に向かう。
     エジリン、もう今日にも来ると思う。」
     
    「うん、あたしは城に忍び込んで
     とにかく状況だけ掴んで伝えるよ。」
     
    「そして、それがしはそれを黒雪さまたちにお伝えしよう。」
     
    「「 ・・・・・・ 」」
    腕組みしてキリッとするファフェイを
    呆気に取られて見つめるレグランドとクレンネル。
     
    その後、三者は三方向にと歩き始めた。
     
     
     続く 
     
     
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  • 黒雪伝説・王の乱 9

    「で、ファフェイの登場は、まったく価値のないものだったんだけど
     これからどうする?」
    王子に訊く黒雪に、ファフェイが怒る。
     
    「失礼にも程があるでござるよ、プンプン!
     大体、それがしが1人でここまで来るとお思いでござるか?」
     
    「うわ、こいつ、“プンプン” とか言ってるわよ。」
    顔を見合わせて、気持ち悪がる黒雪とレグランド。
    マッチョでも、やはり気持ちは女性である。
     
    意外に気にしないのが王子。
    「それより、他に誰か来てるんですか?」
     
    「ムッフッフー。」
    ニヤニヤしながら、クネるファフェイ。
     
     
    首を倒してゴキゴキ鳴らせる黒雪が
    差し出した手の平に、レグランドがハンマーを置く。
     
    「はわわわわわわーーーーーっっっ
     すまぬでござるすまぬでござる言うでござる白状するでござると言うか別に隠し立てをするつもりはないんでござるてか黒雪さまをお連れしろと言われてここにいるんでござるよって他意はないんでござるよーーーーーっっっ! フヒュフヒュフヒュフヒュ」
    瞬時に3mぐらい後ろに飛び退いて、土下座するファフェイ。
     
    「しばらく見ない内に、キモさに磨きがかかったわね・・・。」
    さすがの黒雪も呆れ果ててしまった。
     
     
    「で、誰が来てるって?」
    「お后さまでござるーーーーーーーっ! ヒュヒュヒュヒュ」
     
    「は?」
     
    その場のファフェイ以外の全員が、聞き返した。
    「・・・お后さまでござる・・・フフッ。」
    ドキマギしながら、テンション低くクネるファフェイ。
     
    「? ? ? ? ? ! 」
    6秒後にファフェイ以外の全員が叫んだ。
    「「「ええええええええええええええええっっっ?」」」
     
     
    「お后さまって、“あの” お継母さまの事?」
    「東国の王の后が他国へ?」
    「しかも城でゴタゴタしてる真っ最中に?」
     
    それが事実だと呑み込めたら
    次は怒りと恐怖が襲ってきた。
     
    「そっ、それは政治上ありえませんよ!」
    「あのバカババア、何をチョロチョロしとんのやら!」
    「これで東国のお后さまに何かあったら
     益々厄介な状況になるじゃないですかー!」
     
    アタフタする3人に、ファフェイが言う。
    「だから、おしのびで・・・。」
     
    「おまえらが全力で止めんか!
     てか、早く言え!!!」
     
    ゴーーーーーーーーーーン!
    黒雪が思いっくそ、ファフェイの頭を叩いた。
     
     
    ファフェイが頭のコブを押さえて、転げ回ってる横で
    3人が深刻な顔で相談する。
     
    「私はすぐにお継母さまのところに行くわ。」
    「そうですね、あのお方を留め置く事が出来るのは
     奥さましかいないでしょうし。」
    「城はどうしましょう?」
    レグランドの指示仰ぎに、王子はしばらく考え込んだ。
     
     
    「では、私と奥さまはお后さまのところへ行きます。
     あなたとファフェイさんは、協力して城を探ってくだい。」
    王子のこの命令に、レグランドは思わず一瞬イヤな顔をした。
     
    「ファフェイはああ見えても、能力はあるのよ。」
    黒雪の言葉に、へえ? とファフェイを見直しかけるレグランド。
    が、それも次のひとことでチャラになる。
     
    「特に逃げ足の速さは見事なのよ。」
    とことんいやらしい人間である。
     
    「ふむ、だったらファフェイを途中に潜ませて
     私たちとの連絡係になってもらって
     城へはレグランドひとりで行った方が良いですね。」
     
    王子の言葉に、黒雪も同意する。
    「そうね。
     城の者はきっと今頃困ってるはず。
     頭領は私の側近だから、逆に頼ってくるんじゃない?」
     
    「まあ、そこまで軽く考えてたら危ないですけど
     王が捕らえたいのは、きっと私と奥さまだけでしょうしね。」
     
     
    その後、王子とレグランドが細かい打ち合わせをし
    ファフェイは黒雪に念入りにしばかれ
    一向は二手に分かれて、歩き始めた。
     
    レグランドが振り返ると、王子と黒雪は手を握り合って歩いて行く。
    それを微笑ましく思えば思うほど
    視界の端をチョロチョロする忍者に、イライラさせられる。
     
     
    レグランドには、過酷な任務になった。
    親衛隊に就任した直後なのに・・・。
     
     
     続く 
     
     
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  • 黒雪伝説・王の乱 8

    「で、おまえ、何故ここに?」
    黒雪の質問に、ファフェイは口を押さえてウフウフと笑う。
    その姿を見て、レグランドは嫌悪感を覚えた。
    やだ、何かこいつ、気持ち悪・・・。
     
    「お后さまは、“鏡” をお探しになってるんでござるよ、ウフフ。
     黒雪さまのお側にも、もちろん間者を忍ばせてるんでござるけど
     いいところで連絡が途絶えてしまい、ウフ
     それで、それがしが遣わされたのでござる、ウフフフフ。」
    膝を付き、頭を下げたまま語るファフェイ。
     
    「お父さまじゃなく、お継母さまだったのね・・・。
     お父さま側は何をしてるのかしら?
     相変わらず手ぬるいわねえ。」
     
    黒雪が嘆く横で、王子がファフェイに質問をした。
    「間者とは誰ですか?」
    ファフェイはウフウフと笑っているだけである。
     
     
    「言わないのなら、私の敵って事で良いのかしら? その間者。」
    黒雪が無表情で言うと、ファフェイは慌てだした。
     
    「いえっ、滅相もない!
     それがしどもは心配しての事で
     決して黒雪さまに敵対などしないでござる! アフフフフフフフ」
     
    小刻みに足踏みをするファフェイに
    レグランドは、虫でも見るような目つきになってしまった。
     
    「だったら誰なの?」
    「キキキキキキドでござるっ! アフアフアフ」
     
    一瞬全員が 誰????? という表情になったが、すぐに思い出した。
    あのカマ美容係か・・・・・。
     
    「あ、そ、そうね、お継母さまはキドと気が合うでしょうね。」
    キドの意外な重要人物設定に、黒雪が愕然としながらも納得する。
     
     
    「で、どういうわけであなたはここに来たんですか?」
    引き続き王子がファフェイを詰問する。
    「んー、さすが王子さま、核心をブラさないでござるなあ、ウフフフ。」
     
    黒雪が王子の顔を覗き込んで言う。
    「ね? 誘い受けってイライラするでしょ?」
     
    私はこんな事してない! と反論したかったけど
    怒っていた黒雪が、それを忘れて普通に話しかけてきたので
    我慢して、でも返事はせずにファフェイの方を向いた。
     
    ファフェイは、忍者の定番の服装をしていて
    それは逆にこの世界では、これ以上にないほど悪目立ちなのだが
    その上に、胸元から手裏剣をチラ見せしたりしている。
     
     
    「待ったってムリよ、こいつは。」
    黒雪が指の関節を鳴らしながら、近づこうとすると
    ファフェイが急に後ろに飛び退いて、土下座した。
     
    「フハーーーーーーーーーッッッすまぬでござるすまぬでござる言うでござる別に秘密じゃないんでござると言うか黒雪様が無事かを確かめに来たんでござる何も隠してないんでござるーーーーーーーーっっっ!!!フェッフェッ」
     
    土下座しているファフェイの耳をかすめて
    地面にかかと落としをした黒雪が怒鳴る。
    「さっさと吐かないから、恐怖を味わうハメになるのよ!」
     
    「奥さま・・・、チンピラのような言動はしないでください。」
    黒雪のガラの悪さを、さすがに王子がたしなめる。
     
     
    どうやら、ファフェイは腕では黒雪には敵わないようである。
     
     
     続く 
     
     
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  • 黒雪伝説・王の乱 7

    「ん・・・?」
    いきなり突っ伏して、地面に耳をつける黒雪。
     
    「何をしてるんです?」
    「シッ! 動かないで!!」
    王子とレグランドは、その場で固まるしかなかった。
     
     
    「・・・かすかに気配があったのよ。
     南の方から。」
    「あなた、時々人間とは思えない能力を発揮しますよね。」
     
    「これ、サバイバル法なのよ。
     東国じゃカリスマ山賊ってのがいてね
     そのほとんどは、見た目の良さで売ってるんだけど
     私の師匠は、真の山賊技術で尊敬されてるお方だったのよ。」
     
    「さ・・・山賊がいるんですか?」
    驚くレグランドに、王子が笑いながら言う。
    「北国だって海賊がいるじゃないですか。
     山か海かの違いですよ。」
     
    「違う!」
    王子の言葉に、黒雪が怒り出した。
    「東国の山賊技術は、国技なの!
     東国人は、山賊技術が生涯学習なの!」
     
    王子とレグランドは目を合わせたが、無言だった。
    ふたりとも、そんな国はイヤだな、と思ったが言えるはずがない。
     
     
    「そんな国、何かイヤでござるねえ。」
     
    王子とレグランドはギョッとした。
    自分が無意識に口に出してしまったのか、と慌てた。
     
    「そんな事をこんなところで大声で叫んでいるから
     こうなるんでござるよ。 フヒョヒョヒョヒョヒョ」
    黒雪の背後に人影が見えた。
     
    ああ、自分が言ったんじゃなくて、本当に良かった
    と胸を撫で下ろしたのもつかの間
    よく見ると、黒雪の喉に短剣が突きつけられている。
     
    「黒雪さまの後ろ、取ったり! グフッ」
    男は楽しそうに含み笑いをした。
     
     
    立ちくらみを起こす王子と
    それを支えるレグランドに、黒雪は手を振った。
     
    「ああ、大丈夫。 こいつは知り合いだから。」
    言った後に少し考えて、後ろの男に同意を求める。
    「大丈夫・・・よね?」
     
    男は短剣を華麗に回しながら、鞘に戻した。
    「やっぱり何か起こったんですね? ハフウ・・・。」
     
     
    男の名はファフェイ。
    継母が数年前から忍者に凝り、側に仕えさせている。
     
    「盛り過ぎた筋肉など、動きの邪魔でござるよ。
     暗殺には忍術が一番! フーッフッフッフ」
     
    モデル立ちするファフェイに、黒雪が顔を赤らめる。
    「ごめん・・・、継母ほんと、こんなんばっかり集めてるのよ・・・。」
     
     
     続く 
     
     
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  • 黒雪伝説・王の乱 6

    「棒、西の村でこれをワイロに使いなさいね。」
    さばいた猪肉を担がされるクレンネル。
     
     
    クレンネルと黒雪一行は、城の南西で別れた。
    高台から望遠鏡で覗くエジリンに、王子が訊く。
    「追っ手が放たれた形跡はありますか?」
     
    エジリンは即答した。
    「いえ、ずっと注意していますけど
     今のところ、その気配がないのです。」
     
    王子は考え込んだ。
    「それもおかしいですねえ・・・。」
    「私たちの追放が目的なんじゃないの?」
    黒雪が王子の肩越しにヌッと顔を出す。
     
    「追放・・・? 何のために?」
    「あれよあれ、シャイニング!
     雪に閉ざされた城の中で惨劇が・・・。」
    困って目を逸らそうとしたレグランドは、王子と目が合ってしまった。
     
     
    「とにかく私たちは荒野で待ちましょう。
     あそこなら雪に閉ざされないし。」
     
    「うーん・・・、待ちは性に合わないわー。」
    「あなたは今すぐに城になだれ込んで暴れたいでしょうね。」
    王子の言葉を、黒雪は意外にも否定した。
     
    「ええ? まさかー。
     城攻めは遠くから大砲を撃ち込むものよ。
     おっほっほ。」
     

    黒雪の言葉を聞いた王子が、考え込んだ。
    「・・・・・・・」
     
    「どうしたの?」
    黒雪が訊くも、放置して
    レグランドとエジリンと、何かを話している。
    その後エジリンは、クレンネルの後を追って行った。
     
     
    「ねえ、何がどうなってるのよ?」
    黒雪が王子にせっつく。
     
    王子はそんな黒雪を見て、ニヤニヤした。
    「あなたにせがまれる、というのも中々良いですね。」
     
    その言葉は、黒雪をものすごくイラ付かせた。
    「あなたじゃなければ、殴り殺している自信があるわ!」
     
    黒雪はプイッと背を向けて、荒野の方にズンズン歩き始めた。
    その背中に怒りの炎が立ち上っている。
     
     
    レグランドはゾッとしていた。
    あの黒雪をここまで怒らせて、平然としている王子にである。
     
    どう見ても、王子の方が黒雪に惚れていて
    また、黒雪の方が派手で目立って、能力があり
    常に王子が後を追って回っているように感じるのだが
    近くでしばらく過ごしてみると
    王子の立ち位置がまったく動かないのがわかるのだ。
     
    この王子、意外にも食わせ者かも・・・
    レグランドは密かにそう思っていた。
     
     
    黒雪がブリブリ怒って突き進むちょっと後ろから
    王子が道端の花などを愛でながら、ゆっくり歩いて行き
    そのまた後ろを、レグランドがついて行く。
     
    ポツンポツンと咲く紫の花の隣を、枯れ葉が転がって行く。
    秋が足早に去ろうとしていた。
     
     
     続く 
     
     
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