カテゴリー: 黒雪伝説・王の乱

  • 黒雪伝説・王の乱 5

    デラ・マッチョが用意したスープを
    黒雪がかっ込んでいる横で、王子は考え込んでいた。
     
    今回の事で、じいは私に付いて来なかった。
    私には奥さまが付いているから
    身の危険だけはないと踏んだのだろう。
    じいはきっと、城に残って王近辺を調べているはず。
     
     
    「ネオトスが黒幕だったりしてー。」
    黒雪がコーヒーを飲みながら、ヘラヘラと笑った。
     
    一応の人間関係を王子に教わったデラ・マッチョたちは
    黒雪の無神経な言葉にヒヤッとしたが
    王子は黒雪の軽口に慣れているのか
    ネオトスに全幅の信頼をおいているのか、サラリと流した。
    「つまらない冗談ですね。」
     
     
    「て言うか、今ふと思ったんだけど。」
    黒雪が真面目な顔になった。
    「この後、西に行くフリをしつつ東に行くのよね?」
     
    「ええ。 今回の事を東国に知られる前に収めたいのです。」
    王子の言葉に、黒雪が質問する。
    「何で東国に知られるの?」
     
    「えっ? それは・・・。」
    「私の取り巻きに、東国のスパイがいると思ってるんだよね?」
    「・・・・・ええと、それは・・・。」
     
    困りまくる王子に突っ込む黒雪
    デラ・マッチョはいたたまれずに、この場にいた事を
    いや、黒雪の下に来た事を心底後悔した。
    もう、何か最初からドロドロのドロ沼。
     
     
    「普通それはやっておかなくちゃ、よね。」
    黒雪は平然と言う。
    「うちのとうちゃん、東国の王はちょっと頼りないけど
     さすがに嫁ぎ先の娘の安否を確かめる術は心得てるだろうし。」
     
    「え? じゃあ、本当にスパイがいるんですか?」
    王子が驚いて訊き返す。
     
    「あなたはヘビだからわからないだろうけど
     人間の王族の通常の婚姻は、国の外交なのよ。
     姫は嫁ぎ先での、生きた大使館なわけ。
     私と共に北国に来た者の中には、諜報の役目の者もいて当然よ。」
     
    「えっ、私との結婚は政略なわけですか!」
    こういう話になると、すぐに我を忘れる王子。
    「“通常は” っつってんでしょ! うっとうしい!!」
    手の早い黒雪に頭をバチーンと平手で叩かれる。
     
     
    「で、誰が東国の手先なのか、私にもわからないわけだけど
     東国への道の途中で待ち伏せておけば良いわよね。
     ちょうど温泉もあるし。」
     
    王子が叩かれた頭をさすりながら言う。
    「そうですね。
     では、二手に分かれる必要がありますね。
     西の村に話を通してワナを張る側と
     東国への流出を止める側。」
     
    「城に探りに行くのは?」
    口を挟むレグランドに、王子が答える。
    「それは “下ごしらえ” をしてからで良いでしょう。」
     
     
    黒雪が指示を出す。
    「じゃあ、棒、おまえが西の村に行って。」
     
    棒???
    全員が顔を見合わせる。
    「おまえよ、おまえ。」
    黒雪が三つ編みのクレンネルを指差した。
     
    「あ、あたし、棒ですか?」
    「“でくのぼう” よりマシでしょ。
     そんで、頭領と肉は私たちと一緒に荒野へ来るのよ。」
     
     
    「・・・名前では呼ばれないのね・・・。」
    つぶやくレグランドに、エジリンが言う。
    「“頭領” で何の文句があるだよ?
     あたしなんて “肉” だよ。」
     
    「フルネームは “肉団子” ねっ。」
    にっこりと言う黒雪に、エジリンはムッツリする。
     
    「こら、奥さま、あまりにも失礼すぎますよ!
     クレンネル、多分あなたは今回はオトリとして
     単独行動の時間が長くなるはずです。
     難しいでしょうが、お願いしますね。」
    「はい。」
    クレンネルは、少し緊張した声で返事をした。
     
     
    デラ・マッチョと王子が打ち合わせをしている間
    黒雪はそこいらを爆走していたと思ったら
    ドスンドスンと重そうな足取りで帰って来た。
     
    「ちょ、冗談で狙ってみたらマジで獲れたわ!!!」
     
    見ると、小さめの猪を担いでいる。
    どこまで野性的なのか、呆れる一同の中、王子が頬を染めた。
    「そういうとこが結構好きなんですよね (はぁと)」
     
    バカ夫婦・・・。
     
     
     続く 
     
     
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           小説・目次 

  • 黒雪伝説・王の乱 4

    「おまえたちーーーーーーーーっ
     よくも私を、す巻きにしてくれたわね!」
     
    黒雪のこの怒りを抑えるのは、王子にとっては簡単だった。
    「王を一発も殴らずに、あの場を逃げる事が
     あなたに出来ましたかっ?」
     
    王子がギンッと睨むと、黒雪は気まずそうに目を逸らした。
    「あなた、普段から王がうっとうしいと思ってたでしょう?
     ここぞとばかりに、殴りたかったんじゃないですか?」
     
    黒雪が頭を掻きながら言う。
    「・・・あの王さあ、ほんっとバカ君主の見本だと思わない?
     美しいもの楽しい事が大好きで、政治は大臣任せ。
     地位と権力があるのに、遊ぶ事しかしやしない。
     王家に生まれついて運が良かった、と思っている。」
     
     
    王子はこの意見にあっさり賛成した。
    「ええ。 バカな王だと思いますよ。」
    「でしょ? どさくさ紛れに5~6発ぐらい殴っても良いわよね。」
     
    「・・・普通、1~2発と言いませんか?
     あー、ほんと止めて良かったですよー。
     あなた、どんだけ、ついでの暴力を振るうつもりだったんですか!」
     
    王子がこめかみを押さえつつ溜め息を付いた。
    「いいですか?
     いくら相手がムチャを言ってきたとしても
     手を出したら最後、こっちが悪者になってしまうんですよ。
     殴った瞬間、相手の嘘が本当だと周囲に思われるんです!」
     
     
    黒雪が正座させられて、王子に説教されている間
    デラ・マッチョは、野宿の用意に取り掛かっていた。
     
    「王子さまの判断は正しかったね。」
    「ああ。 あのまま黒雪さまを放置してたら死人が出たよ。」
    「隙さえあれば暴力に走ろうとするもんね・・・。」
     
     
    デラ・マッチョが準備した焚き火のところに座ろうと
    黒雪を呼ぼうとした王子が振り返ると
    黒雪はフラフラとどこぞへ歩いて行こうとしていた。
    「奥さま、どこへ行くんですか!」
     
    王子のイラ立った声に、黒雪もついつい低姿勢になる。
    「いや、ウサギでも狩ろうかと・・・。」
    「何でいつもウサギを狩りたがるんですか!」
     
    王子の剣幕に、デラ・マッチョはヒヤヒヤしたが
    黒雪は真面目な顔で答えた。
    「猪だと、結構大変なのよ?」
     
    「いいから、こっちに来て座ってください!!!」
    肉、大事なのに、と思いつつ、渋々と座る黒雪。
     
     
    無理やり気を取り直して、王子が皆に問う。
    「これからどうするか、何か案はありますか?」
    勢い良く手を挙げたのは黒雪だった。
    「はい! 王を殺せば良いと思います!」
     
    王子は無視して、黒雪に背を向けて続けた。
    「今回の事は、まったくわけがわからない状況で
     まずはその解明から始めるべきだと思うのですが
     その方法について、どう思いますか?」
     
    黒雪が王子の後ろで、手を挙げながら叫ぶ。
    「はいはいはいはい!!!!!
     王を拷問して口を割らせれば良いと思います!!」
    王子がブチッと来たようで、黒雪の両肩を掴んで諭し始めた。
     
     
    「あなた、昔はもっと賢かったですよねえ?
     何でそんなに脳みそまで筋肉化しちゃったんですか?」
    王子も大概な言い様だが、黒雪はとても良い作戦のように誇る。
    「だって考える担当はあなたがいるから。
     ほら、役割分担。 あなたも私も同じように必要、ね?」
     
    この答は、黒雪なりの王子への思いやりだとはわかったけど
    王子はガックリと肩を落とした。
     
    「にしても、少しは考えてくださいよ・・・。
     私が考えてる隙に、あなたが先走って暴れたら
     元も子もないんですよ?
     あなたに犬死にしてほしくないんですよ?」
     
     
    王子が姫のように真珠の涙をハラハラとこぼしているところに
    黒雪が、何故そこで言う? というセリフを吐いた。
    「犬と言えば、ネオトス、どうしてるの?」
     
    王子が追い討ちをかけられたかのように嘆く。
    「私の腹心のじい、犬扱いですか・・・。」
     
    が、その後、王子がハッと気付いた。
    「そう言えば、じいがいましたね!」
     
     
     続く 
     
     
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           黒雪伝説・王の乱 1 11.8.4 
           
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  • 黒雪伝説・王の乱 3

    全員が延々と、は??? となっている最中
    真っ先に事態を認識したのは王子であった。
    「奥さま! 濡れ衣です!」
     
    黒雪は は? と、また王子に言う。
    「戦闘モードに入ってください!
     このままじゃ、謀反人にされますよ!
     私たち、“また” 国を追われますよ!!!」
     
    その言葉に、黒雪のスイッチが入った。
    何がどうなってるのかわからないけど、多分ピーーーンチ!
    黒雪は広間の隅の花瓶を蹴り落して、その台の上に王子を乗せた。
     
     
    「皆さん、王さまのお言葉は誤解です。
     私たちは、この国の繁栄のみを願って・・・」
    王子の言葉を王がさえぎる。
    「ええい、キレイ事をヌカすな!
     余にはわかっておる。
     そなたが余を追い落として王になろうとしている事を!」
     
    「アホか!
     わざわざ追い落とさなくても、王子は自動的に次期王でしょ。
     そんなに寝言を言いたいんなら、思う存分言えるように
     永眠させてあげましょうか?」
     
    黒雪の罵倒に、王はほら見た事か、と叫んだ。
    「聞いただろう!
     余を殺すと!!!」
     
     
    「ほんとに、くびり殺したろか?」
    拳をバキボキ鳴らしていきり立つ黒雪を、王子が止める。
    「奥さま、何でも力押しに持っていくのはやめてください!
     デラ・マッチョ、奥さまを押さえてくださいーっ!」
     
    「えっ、あたしら、デラ・マッチョ決定・・・?」
    嘆きながらも、3人掛かりで取り押さえるので
    さすがの黒雪も、身動きが取れない。
     
    「とりあえず、ここは引きましょう。」
    「えっ? 何でよ、何も悪い事はしていないのにーーーっ。」
     
     
    黒雪の言い分ももっともだが、臣下は王の命令には逆らえない。
    王のおかしさに気付いているのに、王が望む通り
    王子と黒雪を捕えなければならないのである。
     
    「これ以上、この場を混乱させないためには
     私たちが一旦捕まるか、逃げるしかないでしょう。
     捕まえられた場合、奥さまがどれだけ暴れるかわからないから
     城の被害を最小限にするためにも
     ここは逃げる事を選びましょう。」
     
    うーうー唸る黒雪を引きずりながら
    デラ・マッチョたちは、王子のこの意見に賛同した。
     
     
    「どこに行きますか? 王子さま。」
    「とりあえず、西方向に。
     西の村に行くと見せかけて、その後荒野の方面に。
     あそこなら、東国の動きも把握できますから。」
     
    黒雪が追われたなど東国が知ったら、戦になりかねない。
    東国への情報漏れも、事前に止めたい。
     
     
    にしても、また荒野へ・・・。
    あそことは不思議な縁があるようですね。
    王子は必死に女走りをしながらも、あれこれと考えた。
     
    黒雪は縄と毛布でグルグル巻きにされて
    デラ・マッチョたちに、エッホエッホと担がれて運ばれていた。
    追っ手が来ていないのが、こちら側にとっては朗報であった。
     
     
     続く 
     
     
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  • 黒雪伝説・王の乱 2

    大広間では、黒雪の親衛隊が注目をあびていた。
    しかしそれは遠巻きに遠巻きにで
    彼女らの周囲には、見えないドーナツが置かれているかのように
    空間がポッカリ空いていた。
     
    数日前まで海賊だった彼女らにとっては
    慣れない軍服を着せられた上に
    お貴族様たちの好奇の目に晒されるのは、ひどく耐え難い。
    間が持たずにジリジリしているところに、黒雪がやってきた。
     
     
    頭領、レグランドがホッとして黒雪のところに走り寄る。
    「黒雪さま、おお、ドレス姿がお美し・・・い・・・?」
     
    「お世辞など言わずともよろしい。
     私の美容係など、遠慮なく罵詈雑言の嵐よ。
     まったく、高貴な姫君に向かって・・・。」
     
     
    広間の中央に親衛隊を連れて行った黒雪が、大声で言った。
    「皆さん、ご紹介しましょう。
     今回の旅で功績を上げ、私の親衛隊となった女性たち
     名付けて、肉塊三姉妹です!」
     
    「ちょ、その名前はご勘弁を!!!」
    すがりつくレグランドに、黒雪はガラ悪く舌打ちをした。
    「注文が多いわね。」
    「初めての注文だし!」
     
    「はいはい、わかったわかった。
     えーと、黒雪親衛隊です。
     皆さん、よろしくお願いします。」
     
     
    部屋中から拍手が鳴り響いた。
    人々が親衛隊の体に無邪気に触れて喜ぶ。
    「おお、デラ・マッチョではないか!」
    「凄いですわね、デラ・マッチョですこと。」
     
    「デ・・・、デラ・マッチョ・・・?」
    わけわからん褒め言葉?に、呆然とする親衛隊であった。
     
    “デラ” が何かと言うと
    頭の悪いヤツが、メガ → ギガ (だったっけ?) ときたら
    次の単位は デラ だ! と言い張った事に由来する。
    ちなみに今でも、テラよりデラの方がそれらしいと思っている。
    スペイン語っぽくって良いではないか!
     
     
    「・・・私の存在は無視ですか・・・。」
    王子が暗い顔をして、黒雪の背後でつぶやいた。
     
    「うおっ、びっくりした!!!
     あなた、いるならさっさと声を掛けてくれれば良いのに。」
    「・・・普通の妻は、夫を真っ先に探すものですがね・・・。」
     
    目を逸らしながらブツブツ言う王子に
    黒雪はニッコリと微笑んで、頬にキスをして耳元でささやいた。
    「私の忍耐力はそんなにない、って事はご存知ですわよね? ふふっ」
     
    微笑む黒雪のこめかみに、太い血管が浮いているのを見て
    王子は恐怖を感じたけど、どうしても不満が拭い去れず涙目になる。
    「だって・・・、だって・・・」
     
    「二児の父親が 『だってだって』 じゃありませんよ?」
    黒雪の微笑みは最上級になった。
     
     
    王子の背中に妙にサラリとした汗が流れ落ちた時に、広間に声が響いた。
    「王さまのおなーーーりーーー!!!」
    一同が頭を下げて迎える。
     
    王は、ゆっくりと広間に入ってきた。
    「こたびは王子と妃の働きにより、資源が見つかった事まことに喜ばしい。」
    王子と黒雪は、王の前に出てお辞儀をした。
     
    良いけど、毎回のこの儀式が面倒なのよね
    この王、無能なくせにこうやって威張りたがって
    パーティーばかり開くのがうっとうしいわ・・・
    たまにはあんたも何か役に立て、っつの。
     
    黒雪は王子とのケンカのイライラも合わさって
    心の中で、いつも以上のリキの入った罵倒をしていた。
     
     
    「だがしかし、その真意は
     余をおとしめようとする企みと聞いた。
     正当な王の権威を脅かす、この不届き者たちを捕えよ!!!」
     
     
    会場が は??? と、なった。
    もう、誰ひとり残らず、は??? である。
     
     
     続く 
     
     
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  • 黒雪伝説・王の乱 1

    「おおっ、王子さまと黒雪さまがお帰りになられたぞ!」
    城にはもう早馬による知らせが届いていた。
    今回の旅で、最北西の場所に温泉と鉄の鉱脈が見つかった事は
    城中の者が知っていた。
     
    「さすが、あの黒雪さま!」
    城の者は口々にそう感心した。
     
     
    「・・・私の評価は低いですよね・・・。」
    王子にそう言われたら、普通は返事に困るものだが黒雪は違う。
     
    「しょうがないでしょ。
     F1だって、ドライバーのみが褒め称えられて
     メカニックの苦労は目立たないものだし。」
     
    黒雪に気楽に言われて、王子は激しくムカついた。
    「私だって体を張ってるじゃありませんか!」
    王子の声がワンワン響いた。
     
    場所は風呂場。
    王子専用の広い風呂があるというのに
    黒雪の後を付いてきて、黒雪が脱ぐ隣で王子も脱ぎ始め
    黒雪が湯に浸かる横に入ってきて、グチグチ言ってるのである。
    風呂担当の者たちも、全員困っている。
     
     
    「あらあ、あなた、自分の評価のためにやってるんだー?」
    黒雪が、プププと含み笑いをした。
    これ以上に腹が立つ返しもない。
     
    王子がザバーーーッと立った。
    お、くるかな? と黒雪は思ったが、無言で風呂場を出て行った。
    さすがの王子も、今までになく激怒したようである。
     
    黒雪はそのまま、振り返るでもなく
    のんびりとお湯に浸かりながら鼻歌を歌った。
     
     
    「放っといて良いんですのん?」
    ヌッと顔を出したのはキド。
    キドは、またボウルでパック剤を練っている。
     
    「おまえの、そのパック、臭いのよねえ。」
    黒雪の嘆きを、キドは無表情で切って捨てる。
     
    「無臭にするには、また余計な処理が必要なのですわん。
     今はもう、美容は “ナチュラル” の時代ですのよん。
     そんな事より、王子さま、可哀想じゃないのん。」
     
    「んーーーーー。」
    黒雪は、困ったように唸った。
     
     
    “国のため” という信念をブレさせたらいけない。
    何年もお偉いさんをやっていると
    その内に、大義よりも保身が大事になってくる。
    評価などを気にしていたら、判断に支障が出るというのに。
     
    これを黒雪が本能で知っていたのは
    生まれつきのお姫様だったからである。
    評価などなくても、過去は揺るぎないのだ。
     
     
    あの人も妖精界の “王子” とはいえ
    私と違って、生まれた時から既にその立場を失っていたんで
    今のこの地位にしがみつきたがる恐れもある。
     
    北国の再興と繁栄のためには、評価うんぬんは諦めて
    無償で使命を果たしてもらわないと。
     
     
    鏡の前でマッスルポーズを取り、自慢の筋肉を確認しつつも考える。
    さあて、どうやったらあの人が納得するかしら
     
    黒雪にしては珍しく、少し悩んでいた。
     
     
     続く 
     
     
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