カテゴリー: パロディ小説

  • 黒雪姫 6

    「それは、わしだ。」
    「と、フクロウが言った。 ・・・って、鳥じゃん!」
     
    「ただの鳥ではない。 猛禽類だぞ。」
    賢者はふふんと笑った。
     
    「まあ! さすが役職が付いてるだけあって
     こいつら (小人) と違って、人間的余裕がありますのねえ。
     人間でもなく、鷲 (わし) でもなく、フクロウだったけど。」
     
    「ほお、なかなかウイットに富んだ人間だの。」
    「ええ、高貴な血筋には知性も必要で。」
    賢者と黒雪姫は、ふぉっふぉっふぉっ ほほほ と笑い合った。
     
    「この森もどんどん汚れていってる気がするのお。」
    小人たちが嘆く。
     
     
    「で、何故人間が入り込んだのか、賢者さまにもわからんそうな。」
    「信じがたくて見に来たんだが、本当だったな。
     わしのところにも、何も情報は入ってきとらんのだよ。」
     
    「賢者、まさかの役立たず・・・。」
    暴言を吐く黒雪姫を小人たち全員が蹴った。
    とことんローキックである。
     
    「しかし妖精王さまが、この事態を知らぬわけはない。
     きっと何か理由があるのだ。
     おまえたち、しばらくこの娘を預かりなさい。」
     
    これには小人たちからブーイングが噴出した。
    「ええー、何でわしらがー?」
     
    「しょうがないだろう!
     この娘が妖精の森を我が物顔で闊歩したら、どうなる事やら。
     被害は最小限に抑えねば。」
     
    「じゃ、賢者さまが預かってくださいよー。」
    「もちろん、そうしたいのは山々だが」
    と言った途端、風鈴がヂリヂリ鳴り始めた。
     
     
    「わ、わしはこれから、妖精王さまを探しに行ってくるので忙しいのだ。
     よって、分業、という事で、よっ、よろしく頼むぞ。」
    賢者は慌てて飛び去った。
     
    「賢者って、知恵を武器にした詐欺師みたいなものなのね。」
    黒雪姫の素直な感想に、小人たちは内心思った。
    それを言っちゃおしまいじゃろう・・・。
    だが、風鈴は鳴らなかった。
     
     
    「何? 妖精王って普段どこにいるか決まってないの?」
    「いや、大抵は妖精城にいらっしゃるのじゃが
     今は実りの季節で、あちこちで祭が行われているじゃろ。」
     
    「ああ、稼ぎ時のドサ回り中ね。」
    小人たちが黒雪姫を蹴る。
    「妖精王さまは劇団じゃない!」
     
    「人間界にも来てるの?」
    「いや、人間界は神界の管轄なんで
     妖精界からの介入は出来ない決まりなんじゃ。」
     
     
    この言葉には、黒雪姫も驚いた。
    「神、いるの?????」
     
    「ありゃ? 人間界は儀式とかする、と聞いたが。」
    「いえ、するけど、あんなん単なる行事だと思ってたし。」
    「そういう不信心じゃから、こういう目に遭っとるんじゃないんか?」
     
    「うわあ・・・、かも知れない・・・。
     神様、ごめんなさいーーーーー!」
    黒雪姫は、ひざまずいてブツブツと祈りだした。
     
    「届けば良いのお、その祈り。」
    「届いてもらわんと、わしらが困るしのお。」
    小人たちも、ほとほと困り果てているようである。
     
     
     続く
     
     
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           黒雪姫 1 10.7.5  

  • 黒雪姫 5

    「まあ、今までのいきさつはわかった。」
    「気の毒な境遇で、大変じゃったの。」
    小人たちが、黒雪姫をねぎらう。
     
    「しかし、何故窓ガラスが割れておるのじゃ?」
    「家の中に入るために、やむを得ず・・・」
    「ドアに鍵は掛かっとらんのにか?」
    「ええええええええっ、そんな無用心な!」
     
    「ここいらには、通常は侵入者はおらんのじゃよ。
     と言うか、ドアに鍵を何個かけようが
     窓を割って入ってこられたら一緒じゃろ。」

    小人があごで割れた窓を指し示したので
    バツが悪そうに黒雪姫が目を逸らした。
    「・・・まあね。」
     
     
    「で、何でわしらの家に入って来たんじゃ?」
    「火を点けっ放しで、火事になると大変だと思って・・・。」
    チリンチリンチリンチリンチリンチリンチリン
     
    「鍋のシチューが5分の1に減っておるが?」
    「火にかけっ放しで、蒸発したんじゃないでしょうか?」
    チリンチリンチリンチリンチリンチリンチリン
     
     
    「・・・・・すいません、腹が減って盗み食いいたしました・・・。」
     
    「最初からそう言えば良いんじゃ。
     妖精族は親切なヤツが多いんじゃから、咎めはせんよ。
     そ れ ほ ど は な。」
    黒雪姫は正座させられて、この後30分ほどネチネチと説教された。
     
     
    「にしても、人間が妖精の国に紛れ込めるとは不思議じゃのお。」
    「うむうむ、妖精王さまが守っておられるはずなのに。」
    「この娘をどうしたものかのお。」
     
    横から黒雪姫が口を挟む。
    「ちょっとー、娘娘言わないでくださいません? 無礼者さんたち。
     私の事は “黒雪姫様” とお呼び。」
     
    「うむ、わかった。
     それで黒雪をどうするか、ちょっくら賢者さまに訊いてくるかの。」
    「黒雪 “姫” ! 姫!! ひ・め !!!」
    黒雪姫の怒りをよそに、小人のひとりがさっさと家を出て行った。
     
     
    「よーし、わかった!
     あなたたちがその気なら、私にも考えがあるわ。
     さあ、あなたたち、自己紹介なさい。」
    仁王立ちの黒雪姫の前に、残りの小人6人が並ばされる。
     
    「わしはアレクサンデル」
    「わしはハドリアヌス」
    「わしはクレメンス」
    「わしはユリウス」
    「わしはニコラウス」
    「わしはマルティヌスで、今出て行ったのがベネディクトゥスじゃ。」
     
    「・・・・・・・・・・・・
     何かその名前群、こんな話で気軽に使うのはヤバい気がするわー。
     テキトーに縮めたイヤなあだ名をつけようと思ってたんだけど
     絶対にどっかの良識筋からクレームが来ると思う。
     しかも正式に。」
     
     
    黒雪姫は、しばらく頭を指で突付いて悩んでいた。
    「よし、しょうがないわね。
     あなたたちの名前は、“おい”“ちょっと”“そこの” 等
     男尊女卑の夫が妻を呼ぶような、芸のない言い方にするから。
     呼ばれたら、そこらへんにいる一番近くの者が対応するように。
     どうせ7人もいたら、個性なんかこっちには関係ないしね。」
     
    そんなひどい、何て事じゃ、あんまりじゃないか
    と口々に文句を言う小人たちを無視して、黒雪姫は話題を変えた。
     
    「ところで、賢者さまって誰なの?」
     
     
     続く
     
     
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  • 黒雪姫 4

    「あの・・・、もし、起きてくださらんかな?」
    「んあ?」
    体を揺さぶられた黒雪姫は、目を覚ました。
     
    あら、いけない、満腹になったらつい寝てしまったようですわ。
    「って、ええっっっ?」
     
     
    目の前にズラリと並ぶ小人たちに、動揺させられる。
    「ああ・・・、疲れてるのかしら?
     物が何重にも見える・・・。」
     
    目頭を押さえる黒雪姫に、小人が優しく答える。
    「いいや、わしらは7人いるんじゃ。
     ほれ、ちゃんと服の色も違うじゃろ?」
     
    「あら、それは失礼いたしました。」
    改めて小人たちを見回す黒雪姫。
     
     
    「・・・えっと、皆さん、児童じゃないですよね?
     白髪だし、シワだらけだし、肝斑あるし
     もしかして、人権に守られてる人たちですか?」
     
    「問題発言はやめてくださらんかのお。
     わしらは妖精じゃ。」
    「あっ・・・、そっち系でしたか・・・。
     どうもすいませんでした、では私はこれでおいとまを・・・。」
     
    ヘコヘコと頭を下げながら、中腰で出て行こうとする黒雪姫を
    小人のひとりが止めた。
    「待たんか!
     おまえさん、ここにいて何を言うとるんじゃ?」
     
    「はいいいいいい?」
    「ここは妖精の森じゃぞ?
     ここにいるという事は、おまえさんも妖精だという事じゃ。」
     
    「いいえ、とんでもない、私は正常・・・ゴホッ いえいえ、人間です。」
    「人間? 嘘付け!
     そのキングコングのような風情
     どう見ても野人じゃないか!」
     
     
    や・・・野人・・・・・・・?
     
    この言葉に黒雪姫がブチ切れた。
    「あーーーーーーーっ、もうーーーーーーーーっっっ!!!!!
     殺されかけて国を追われて何日もさまよって
     あげくが人外扱いかいーーーーーーーーーっ!」
     
    ドカッと殴った壁にボッコリ穴が空いてしまったので、小人たちが慌てた。
    「ち、ちょっと、落ち着いてくれ。
     人間だと言うのなら
     何故おまえさんがここにいるのか説明してくれんか?」
     
    黒雪姫は、止める小人たちを両腕にぶら下げたまま話し始めた。
     
     
    「私は東国の王のひとり娘でした。
     ああ、別に姫という事で、身分の差など気にする必要はありませんのよ。
     己の分をわきまえて接していただければ、それで充分ですわ。
     ほほほ。」
     
    小人たちがドン引きしている空気も読めず
    黒雪姫は、一通りの説明をした。
     
     
    「うーむ、どうにも解せんのお。
     あんたが国一番の美女だって?」
     
    「ええ、まあしょうがないのですわ、そこは。
     うち、山岳民族の国で、ゴツい女が多くって。
     そんな中でも、権力で美姫を嫁に貰える王のもとに生まれた娘が
     とりあえず一番マシなツラになるのは当然でしょう?」
     
    「マッチョブス揃いの国、っちゅう事じゃな?」
    「ま、平たく言えば。」
    黒雪姫は、あっさり認めた。
     
    「そこに、えらく美醜にこだわる後妻がおいでになりやがって、もう・・・。
     少々美人だったとしても、30代と10代とじゃ話にならないでしょ?
     それを 『小娘には負けない!』 とか、周囲を威嚇しまくって
     “あえての” だの、“まさかの” だの、いらんオーラむんむん放出で
     ほんと肉食系熟女って、手に追えませんのよ。」
     
     
    「ふむ、皆、この娘は嘘はついてないようじゃ。」
    「じゃあ、本当にこの娘は人間なのか?」
    「うむ、風鈴が鳴っていない。」
     
    「風鈴?」
    小人は窓の上に掛けてある風鈴を指差した。
    「あの風鈴は、風によって鳴るのではなく
     誰かが嘘を付くと鳴るのじゃよ。」
     
    黒雪姫は妖精界の不条理に目まいがした。
    「・・・そんなもの置いといても、誰も損しかしないような・・・。」
     
     
    しかし少しだけ誘惑に駆られ、風鈴の側に何気なくブラブラと近付いた。
    そして誰にも聴こえないような小声でつぶやいた。
    「・・・・・・・・ 私は美人。」
     
    チリンチリンチリンチリンチリンチリンチリンチリン
     
    「おおっ? 凄い勢いで風鈴が鳴っておるぞ!」
    「誰かとんでもない大嘘を付いたのか?」
     
    小人たちが大騒ぎする中、黒雪姫は険しい表情でその場を離れた。
     
     
     続く
     
     
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           黒雪姫 1 10.7.5  

  • 黒雪姫 3

    山ぶどうを頬張り、種をペーッと吐き出しながら黒雪姫はイラついていた。
    ああ、肉が食いとうございます、油ものが食いとうございます。
    毎日毎日、植物だけじゃ力が出ないわ。
     
    にしても、この森、もう4日も歩いているのに
    終わりどころか、何の変化も見られない。
    北に向かっているのは確かなのに、樹木の種類も変わっていないし。
    黒雪姫は、太陽の位置を再確認した。
     
     
    1日の終わりには、寝る前に槍の柄に傷を入れる。
    そうしないと、日数の感覚がなくなるからである。
    ついこの前、秋節祭が行われたばかりだから
    これからどんどん寒くなる。
     
    マジでヤバいわ
    この時期が一番、食い物が多く実る季節だけど
    早いとこ人里にたどり着かないと、冬になったらアウトだわ。
     
    明日は少しペースを上げましょう。
    ここまで来ての方向転換は、一番してはいけない事。
    このまま行けば、いずれは北国の領土に行き着くはず。
     
    国交がない遠さ、というのをナメてたわ・・・
    黒雪姫は、北へ向かった事を少し後悔していた。
     
     
    木の上で寝るのは、相変わらず慣れない。
    朝になって気が付くと、必ず落ちている。
    しかも打撲とかやっている。
     
    もう、最初から地面で寝ようかしら?
    結局落ちてるんなら、ケモノ避けになってないし。
     
    黒雪姫は、また地ベタの上で目覚めた事にウンザリして
    そのまま仰向けに寝っ転がっていた。
     
     
    ・・・ん?
    地面に付いた後頭部に、微かに振動が伝わった。
    慌てて耳を地面に付ける。
     
    誰か近くを通っている?
     
    黒雪姫はそのままズリズリと這いずって、茂みへと身を隠した。
    世の中、良いヤツばかりとは限らない。
     
     
    しばらく辺りを伺っていたが、何の動きもない。
    茂みから茂みへとほふく前進をしていたら、匂いが漂ってきた。
     
    こ、これは飯の匂い!
    高貴な鼻では、多分ホワイトシチューと推測!
     
    ど、ど、ど、どっから?
    黒雪姫は、なめた指を掲げた。
     
    ほぼ無風だけど、あっちからの空気の流れを感じる。
    きっとあっちに民家があって、そこで飯を作っているんだわ!
    さっきまでの用心深さを全忘れして、黒雪姫は飯の匂いへと突進した。
     
     
    たどり着いたのは、一軒の民家。
    都会に疲れて田舎を美化したリーマンが憧れるログハウス。
     
    おおっ、家!!!!!
    走り寄った黒雪姫は、一瞬ちゅうちょした。
    ・・・何かこの家の作り、やけに小さくない?
     
    ま、私の実家、城だし、平民の家はこんなもんなんでしょ。
    窓から覗き込むと、人気のない家の中のキッチンでは
    鍋から湯気が上がっている。
     
     
    おっと、火を点けっ放しで外出しちゃいけませんわ。
    親切なこの私が、消火して差し上げましょう。
     
    うりゃあ! ユダも見惚れた南斗水鳥拳!
    アーンド、ピッキング。
     
    黒雪姫は、かかと落としで窓ガラスを蹴り割り
    手を差し込んで、窓のカギを開けた。
     
     
     続く
     
     
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           黒雪姫 1 10.7.5    

  • 黒雪姫 2

    夜行性の動物の方が危険なのよね。
    日が沈む前に、登れる木を探しておかないと・・・
     
    黒雪姫は枝ぶりの良い木に、よじ登った。
    城の方向を確認したが、もうかすんで見えない。
    今までこんなに城から離れた事はなかった。
     
    今、何時かしら?
    貴婦人は少食がマナーだから、空腹には慣れているけど
    こんなに疲れたのも、生まれて初めてだわ。
    これから、どうしよう・・・。
     
    黒雪姫は、とりあえず枝に座った。
    貴婦人の割に寝相最悪なんだけど、ここで眠るって可能かしら?
     
     
    翌朝、黒雪姫は土手の途中で目を覚ました。
     
    はっ、ここはどこ?
     
    あたりを見回すと、はるか頭上に夕べ登った木が見える。
    ええっ、私、あの枝から落ちたあげくに
    この土手を転がって、それでもなおかつ爆睡してたわけ?
     
    うっわー、姫なのに夢遊ローリングーーー?
    肉食動物が通りかからなくて、ほんと良かったわー。
    黒雪姫は、立ち上がってドレスをパンパンはたいた。
     
     
    黒雪姫は、太陽を仰ぎ見た。
    昨日は太陽を左に見ながら走った。
     
    一番近い国と言えば、西国よね。
    それだけに人の出入りの監視が厳しいだろうし、交流も盛んだから
    そこももう私の敵になっているかも知れない。
     
    このまま北に行けば、国交のない北国なんだけど
    国交がないだけあって、果てしなく遠い。 道もない。
    どういう国かもわからない。
    ・・・だけど追っ手に見つかる可能性は薄い。
     
    しばらく悩んでいた黒雪姫だったが、意を決して北へと向かった。
    「やっぱ、命あっての物種よねえ。」
     
     
    「姫様はピクニックの途中で、足を滑らせて谷底へ・・・。」
    グチャグチャになった死体が、城の地下へと運ばれた。
     
    遠くで説明を受けたグロ耐性ゼロの王が問う。
    「どう見ても、あの肉片は姫ひとりの量じゃないと思うんだが・・・。」
     
    「お付きのメイドたちも共に落ちまして
     あの谷は急流で、あちこちにぶつかったらしく
     下流で回収された時には、もうどれが誰やら、という事らしいです。」
    刑務官がすまなそうに答える。
     
    「おお・・・、何という悲惨な・・・、我が姫よ・・・。」
    フラフラとよろける王を、継母が支える。
    「王様、お気を確かに。
     姫の事は丁重に弔って、皆で悲しみを乗り越えてまいりましょう。」
     
    「后よ・・・、わしにはもう、そなただけじゃ・・・。」
    「王様、あたくしもあの可愛い姫を失って悲しゅうございます。
     これから姫の冥福を祈るため、塔にこもります。」
    「おお、后よ、実の子ではないというに、何と心優しい。」
    「では・・・。」
     
     
    継母は塔の階段を2段飛びで駆け上がった。
    「鏡! 誰! 美人!」
    扉を開けるなり叫ぶ后を、鏡はたしなめた。
     
    「あんた、どこのカタコト外国人でっか?
     まあ、言いたい事はわかるんで答えたるけど
     読解力に優れたわいの知性に感謝せえよお?
     はいはい、あんたあんた、あんたが一番。」
     
    ほーーーーーーーーっほほほほほほほほほ
    継母は高笑いをした。
     
     
    黒雪姫は生きている。
    なのに何故、継母が一番の美人になったのか?
     
    顔も洗えず、風呂にも入れず、服も着の身着のままどころか
    美しいドレスをビリビリと破り裂いたハギレで
    かかとを折ったパンプスと足を、グルグル巻きで固定し
    (かかとの折れたパンプスは、何故か普通に歩けない)
    長い髪が邪魔にならないようにターバンにし
    ケガ防止に拳にも巻き
    木の枝で槍を作り、見つけた果実はツタでくくって肩にかけ
    オオカミに育てられた少女のような風情で
    森をさまよっていたからである。
     
    美というのは、清潔感が大切なのだ。
     
     
     続く
     
     
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           イキテレラ 1 10.5.11  

  • 黒雪姫 1

    ここは、昔々にあったかも知れない、とある王国。
     
    大きなお城の立派な正門前には城下町が広がり
    そこから隣の国まで続く街道の両脇には
    深い深い森が広がっておりました。
     
    気持ち良く晴れ渡った真っ青な空に、白い雲がフワフワ浮かび
    そよ風に揺れる木々の枝に小鳥たちが愛の調べを歌う、その森
     
     
    ・・・を、黒雪姫は必死に走っていた。
     
    「姫様、いくら命令とは言え
     あなた様は王の血を引く高貴なお方。
     我々には殺す事なぞ出来ません。
     どうかお逃げください。
     人の目の届かぬ、この森の奥深くへと。」
     
     
    あのクソババア、おかしいおかしいと思ってはいたけど
    伝統的な継子イジメだと油断していたわ
    まさか命まで狙っていたとは・・・。
     
    どうすべきだろう・・・、何の用意もしていない。
    あの者たちも、どうせ逃がしてくれるんなら
    サバイバル道具一式ぐらい渡してほしいわ。
    どこまで気が利かないの?
    だからただの従者止まりなのよ。
     
     
    黒雪姫は立ち止まり、木に手をついて肩でゼイゼイと息をした。
    大体 “ピクニック” に、ドレスにハイヒールで行かせる?
    私の衣装担当メイドたちもグルなの?
     
    従者の “逃げろ” という言葉は
    王の唯一の嫡子、というこの私の地位をもってしても
    あの継母には敵わない、という事なのかしら。
     
    こうなるまで何故気付かなかったのかしら・・・。
    くそう、黒雪姫、一生の不覚!!!
    黒雪姫は、木をドスッとどついた。
     
     
    いえ、今更嘆いても、もうしょうがない。
    こうなりゃ出来るだけ遠くへ逃げよう。
    戦闘には自信があるから、ピクニックメンバーは倒せるだろうけど
    規模が見えない城内の敵相手のバトルは、犬死にの可能性が高い。
     
    とりあえず、追っ手が来られないところまで逃げて
    落ち着いた後に、状況を充分に調査してからだわ。
     
    黒雪姫は、一歩一歩、足を前へと踏み出した。
     
     
    「鏡よ鏡、この世で一番美しいのは誰?」
    「それは黒雪姫です。」
     
    「な、何とな!!!」
     
     
    驚く継母に、鏡が呆れ口調で答える。
    「えええー? こっちがビックリですわー。
     そこ、驚くとこですかあ?
     フツーに考えても、年齢的にあっち有利でっしゃろ。
     てゆーか、とりあえず “この国で” って話で聞いといてー。
     世界、結構広いから、そこまで責任持てんわあ。」
     
    「うぬぬぬぬ・・・、特殊能力を持っていなければ
     おまえのような無礼物なぞ、即座に割ってしまえるのに・・・。」
     
    怒りに震える継母に、鏡が更に追い討ちを掛ける。
    「凡人は大人しく天才の言葉を聞いとれ、って事ですわー。」
     
    「おのれーーーーーーーっっっ!!!」
    ガッシャーーーーーーーン
    継母は、鏡の横に積み上げている皿を1枚壁に叩きつけた。
     
    「そうそう、そうやってザコでも割って気を晴らしとき。」
    継母は鏡をキッと睨んだ。
    鏡の中には、怒りに歪んだ自分の顔が映っている。
     
    「おお、いけないいけない
     シワが固定されてしまうわ。」
    眉間のシワを指で伸ばす。
     
     
    継母が黒雪姫を殺す決心をしたのは、この日であった。
    その2年後に、黒雪姫はピクニックイベントに行かされる。
     
     
     続く
     
     
    関連記事 : 黒雪姫 2  10.7.7 
     
           カテゴリー 小説・黒雪姫シリーズ
           
           イキテレラ 1 10.5.11  

    音声ブログ : 黒雪姫 1 10.10.27 by かいね   

  • イキテレラ 後書き

    “ジャンル・やかた” を書いていて
    自分の凶暴性にショックを受けたので
    恋愛物を書いてみたくなった。 春だったし。
     
    目標は、本気でロマンスの王道、ハーレクインである。
    だとしたら、姫に王子に玉の輿だろ?
    (ほんと貧相な想像力ですまんが)
     
    姫と王子の話とか言われても、おとぎ話しかねえよな。
    あっ!!! だったら、童話をアレンジすりゃ良いんじゃないか?
    と、ひらめいたんだ。
     
     
    今になって考えると、初手からパクり腰満々なわけで
    ほんと自分の衝動の方向性が信じられん。
     
    姫の名をモジったら、バカみたいな名になったあげくに
    本家の名もバカみたいだと気付いて、ほんとすいません。
    ヨンドリサンとかしなくて良かったよ、ほんと。
     
     
    しかし書き始めたら、本家とはまったく別物になってしまった。
    これは計算してやったわけではない。
     
    ここでまた大ショックを受けたのが
    恋愛物を書こうとしているのに
    どうしてもイキテレラが王子に好意を持ってくれない事。
    それどころか、何故か暴力やら殺人やらに繋がってしまう。
     
    最初は、ああ・・・、じゃあ、ツンデレで
    → えっと、ちょっと控えめなロマンスに
    → うーん、ミステリー・ロマンスになるかな?
    → え? 何でスプラッタに?
    → まさかの拷問劇?
     
     
    ・・・私って人格障害じゃないだろうか? と本気で悩んで
    診断サイトとかに行ったよ・・・。
     
    だけど診断、受けてねえよ。
    万が一が恐すぎるだろ。
    てか、単にホラー好きなだけじゃん、変質者扱いすな!
     
    とかいう、自作自演の八つ当たりはおいといて
    もう、最大の理性の下に、ものすげえ書き直しをして書き直しをして
    軌道修正して軌道修正して、それでもこれだ・・・。
     
    書き直しをしないと、世界残酷物語になっとったわ。
    そんぐらい、惨劇の方向に行くんだよ。
     
     
    この茶番劇は、本人には結構なもがき苦しみだったんだが
    多分ここに来ている人の予想を、1mmも裏切ってないと思う。
    皆、私に恋愛物は無理だと思っていただろう?
    口惜しや、ああ、口惜しや。
     
    はあ・・・、しょせん私はこれかよ? と、結構落ち込んで
    仕舞いにゃとにかく、さっさと終わらせようとしたのさ。
     
     
    小説とか、考えて書くものだと思っていたんだ。
    だけど違うんだな。
    プロの人はどうだかわからないけど
    私の場合は、設定を決めたら人物たちが勝手に動くんだ。
    何かさ、今までの人生で自分が培った “常識” に沿って
    話が勝手に進むんだよ。
     
    という事は、こうなってもしょうがないんじゃないかな。
    恋愛物とか嫌いで観ないし、ホラーとかが好きなのだから
    私の創作の源は、どうしても猟奇系に偏るだろうよ。
     
     
    この話では、途中でロマンスは諦めて
    “何もしないという攻撃” みたいなものを
    書こうとしたんだけど、そんな哲学まがいのものより
    王さまのストレ-トな残酷さの方が楽しくてな。
     
    正直、自分が女性で心底良かったと思う。
    もし男性に生まれていたら、犯罪者になっていた自信がある。
    それも攻撃性あふれるド変態。
     
    今の私は、か弱く性欲の薄い上品な淑女だからこそ
    社会に迷惑を掛けずに生きていけるんだと思うんだ。
     
     
    パクリをしといて “創作” など、おこがましいけど
    この創作作業、やってみると自分の闇が見えてきて、とても動揺するぞ。
     
     
    あ、老婆が言ってた “観察者” とは
    そういう立場のヤツがいるかもな、と
    幼少時に庭でアリを追い回していた時に思ったんだ。
    ただ、そんだけ。
     
     
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           イキテレラ 1 10.5.11  

  • イキテレラ 17

    「ふむ・・・。」
    書類を読みながら、屋敷のホールを足早に歩く中年男性。
     
    「いかがでした?」
    スレンダーな体型の女性が、男性に駆け寄る。
     
    「遅かったよ。
     王妃は火あぶりにされたそうだ。」
    「火あぶり? よりによって何故にそのような残酷な刑を!!!」
    女性は思わずよろめき、男性が慌てて支える。
     
     
    「王が乱心したのは王妃のせいで、王妃は魔女だとなったのだ。」
    「・・・はっ、この時代にバカらしい!」
    ソファーに横になった女性が、吐き捨てるように言った。
    「そのような野蛮な国は、早急に根絶やしにすべきですわ。」
     
    「いいのかね? きみの祖国だろう?」
    「いまや、その出自も恥にしかなりませんわ。
     王妃を魔女扱いして火あぶりだなど・・・。」
     
    「王妃はどのような女性だったのかね?」
    「自分にも他人にも興味がない人でしたわね。
     そのせいで、周囲はどんどん傷付いていく。
     本人に自覚はないのでしょうけどね。」
     
    「義理とは言え、妹に対して辛らつじゃないかね?」
    「事実ですもの。」
     
     
    イキテレラの父と義母は、国境近くの温泉地へと移り住まわされた。
    継子イジメの噂のせいもあったが
    父の具合があまり良くなかったからである。
    程なくして、父は亡くなった。
     
    父の訃報は城へも届けられたが
    イキテレラを外に出したがらない王によって握り潰された。
    代わりに王は大臣たちに命じて、義姉たちに縁談を用意する。
     
    上の義姉は、母を伴って隣国の裕福な商人へと嫁いだ。
    下の義姉は、同じ隣国の軍人の家系へと嫁いだ。
     
    “王妃の義姉” という肩書きによる
    恵まれた縁談で、分不相応ではあったが
    ふたりとも妻として母として、家を立派に仕切っている。
     
     
    手紙を読み終えた女性は、窓際に歩み寄った。
    妹の夫は快勝したらしい。
     
    これでまた階級が上がる事でしょう。
    だけど生国がなくなったなど、お母さまには言えないわね。
    この頃少しお体が弱ってらっしゃるし。
     
    イキテレラ・・・
    あのままあの家にいれば、あなたはあなたでいられたでしょうに。
    生まれつきの召使いが、王妃になったのが悲劇だったんだわ。
     
    女性は手入れの行き届いた庭を、満足気に眺めた。
    窓に映った自分に気付き
    すっきりと開いたドレスの胸元を整え直した。
    その顔に、水滴が一筋垂れたのは雨ではない。
     
    空は優しい光にあふれていた。
    秋が深まる時の、遠く高い淡い青。
     
     
    冬が始まる前に、ガラスの国はなくなった。
    何もしようとしないひとりの女性によって、すべてが滅びたその奇跡。
     
     
            終わり
     
     
    関連記事 : イキテレラ 16 10.6.22
                     イキテレラ 後書き 10.6.28
     
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           イキテレラ 1 10.5.11     

  • イキテレラ 16

    イキテレラは城の一室に留め置かれた。
    潰した王家の最後の妃をどうするか、意見が分かれたからである。
     
    部屋には、王の形見だという品々が置かれていた。
    その中に光るものがある。
    ふと見ると、ガラスの靴だった。
     
    あら・・・
    イキテレラは、思わず靴を手に取った。
     
    「今まで思い出してくれないとは、冷たいねえ。」
    誰もいないはずの背後で声がする。
     
     
    「・・・わたくしにかけた呪いを解いてくださいませんか?」
    振り向きもせずにイキテレラが言う。
    魔女はヒッヒッヒッと笑った。
     
    「何だい、そんな風に考えていたのかい?
     あたしゃ、あんたに奇跡をひとつあげただけなんだがねえ。」
    「どういう “奇跡” ですの?」
    「カボチャを馬車に、ネズミを馬に、だよ。」
     
     
    イキテレラは、ふう と溜め息をついた。
    「本当なんだよ?」
    「もういいですわ。」
     
    「それより、あんた、処罰されそうだよ。
     王の処刑の時のあんたの態度はマズかったねえ。
     あの立派だった王子をたぶらかしたあんたは
     魔女だ、って話にいっちゃってるよ。」
    「もういいですわ。」
     
    「何なら、もう一度だけ “奇跡” をあげようか?
     ちょっと責任を感じるしね。」
    「もういいですわ。」
     
    イキテレラは、同じ返事を繰り返した。
    その姿はごく自然で、何の気負いも見受けられない。
     
     
    「そうかい?
     じゃあ、あたしは行くよ?」
    「魔女さま、ご機嫌よう。」
     
    魔女はその言葉にニヤッと笑った。
    「あたしゃね、実は魔女じゃあないんだ。
     成り行き上、そう名乗ったがね。」
    老婆がイキテレラの顔を覗き込んだ。
     
     
    「あたしゃ、単なる “観察者” なんだよ。
     あんたは稀有なプレイヤーだったよ。
     良い経験をさせてもらったよ、ありがとね。」
    「そうですか、喜んでいただけて何よりですわ。」
     
    「ん? 質問とかないのかい?」
    「疑問は希望を持つ者の特権ですわ。」
     
    「む・・・・・。」
    老婆はつまらなさそうに姿を消した。
     
     
    イキテレラの希望は、あの舞踏会の夜
    ガラスの靴とともに砕け散ったのである。
     
    魔女が杖を振らなければ、ドミノの駒は倒れなかった。
     
     
    これさえなかったら、こんな事にはならなかったのに・・・。
    イキテレラは無表情で、ガラスの靴を掴む指の力を抜いた。
     
    靴は吸い込まれるように床に落ちていき
    透き通った音を響かせて、カケラが飛び散った。
     
     
     続く
     
     
    関連記事 : イキテレラ 15 10.6.18
           イキテレラ 17 10.6.24
           
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  • イキテレラ 15

    王がイキテレラの部屋へと入ってきた。
    窓から外を眺め、ニヤニヤしている。
    いつになく上機嫌であった。
     
    イキテレラには、王のすべてが理解不能でうっとうしかった。
    「私はあなたの笑顔を一度も見た事がない。」
    この状況で王がそう言いだした時にも、少しも反応しなかった。
     
    王は座っているイキテレラの前にひざまずき、その靴に口付けた。
    そしてイキテレラの手に剣を握らせた。
    「あなたはいつでもこの私を殺せるのですよ。」
     
     
    一生懸命に笑いかける王の背後で、ドアがけたたましく開いた。
    とうとう民衆たちが城内へとなだれ込んできたのだ。
     
    「我が妃よ、愛する我が妃よ!!!
     はははははははははははははは」
     
    叫びながら王は連行されていった。
    イキテレラは無表情で、それを無視した。
     
     
    侍女たちは解放された。
    逃げ出した大臣たちの何人かは捕えられ
    王とともに、処刑を待つ身となった。
     
    イキテレラは、侍女たちの証言により
    “囚われの姫” として認識された。
     
     
    民衆たちが見守る中、広場に作られた斬首台の前に立たされた王は
    司祭に “最後の望み” を訊かれた。
     
    王は堂々と高らかに答えた。
    「我が妃の微笑み。」
     
    かつては好青年であった、その名残りが見られる王のこの答は
    街の女性たちのハートにキュンッ絵文字略ときた。
     
     
    イキテレラが連れて来られた。
    王は後ろ手に縛られたまま、イキテレラの前へとひざまずく。
     
    王が見上げているイキテレラの反応を
    街中の者たちも注目している。
     
     
    しかしイキテレラは眉ひとつ動かさなかった。
    まなざしは宙に固定されている。
    その態度は、期待に満ちた子供のような王の表情と対比すると
    呆けているというよりは、冷酷に映った。
     
    王は一瞬うつむいたが、立ち上がり少し微笑みながら
    イキテレラに口付けをした。
    「永遠の愛をあなたに。 我が妃よ。」
     
    王は、斬首台に自ら首を乗せた。
    王の首が転がっても、イキテレラは身動きすらしなかった。
     
     
     続く
     
     
    関連記事 : イキテレラ 14 10.6.16
           イキテレラ 16 10.6.22
           
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