丘を越えたら城が見える地点で、夜がふけるまで休憩した後
馬たちと黒雪を残し、王子たちは城へと向かう。
「お願い、戻ってくる時に何か甘い系を持ってきて!」
ファフェイの袖を引っ張り、黒雪が懇願する。
ファフェイには、背後の王子の嫉妬の視線が痛い。
ファフェイが同行するのは、城の中の抜け道を調べて知っているからで
王子たちを送り届けたら、馬たちを連れて
継母のところへと帰って行く予定である。
一同を見送りもせず、黒雪はそのまま
地べたに大の字になって、イビキをかき始めた。
問題は王が目覚めた後・・・。
こっそりと自室に戻り、久々の入浴をしながらも
王子は気が気ではなかった。
翌日、王の部屋に入った王子は
緊張とともに、王が目覚めるのを待った。
「・・・さま・・・、黒雪さま・・・
くー!ろー!ゆー!きー!さー!まーーー!!!」
「うおっ」
大声に飛び起きる黒雪。
「ああ・・・、叫んで体力を使ったんで目まいが・・・」
と言いながら、“胸” を押さえてヨロけるファフェイ。
「・・・えーと・・・?」
寝ぼけて、状況をすっかり忘れている黒雪に
エジリンがケーキの乗った皿を差し出す。
「あ、ありがとう。 えーと・・・?」
ケーキをガツガツ食いながらも、まだボケている黒雪。
コーヒーを淹れながら、エジリンが説明をした。
「王様は、スッキリお目覚めでしただよ。
『急に目まいがして倒れた後の記憶がない』 と
おっしゃってたんで、頭を打って一時的に混乱して
あのような騒ぎを起こしたんだろう、となってるようですだ。
まあ、丸く収まった、という事ですだね。」
どうやら王の記憶は、濡れ衣事件から消えているらしい。
「ふーん・・・?」
コーヒーを飲みながら、黒雪はあいまいに返事をした。
その様子には触れずに、ファフェイは馬の手綱をまとめた。
「それでは拙者はこれにて。」
「うん・・・。」
黒雪は、まだ呆けている。
「さあ、あたしらも城へと戻りましょうかね。」
「うん・・・。」
黒雪の寝ぼけは完全に取れていた。
なのに反応が薄いのは、この大団円に
妙な違和感を感じているからであった。
だけど、その違和感の正体がわからない限り
わざわざ混ぜ返す必要もない。
まあ、いいや
どうせ王子絡みの、妖精だの魔王関係の話だろうし。
黒雪は、考える事を完全に投げ出していた。
続く
関連記事 : 黒雪伝説・王の乱 21 11.10.3
黒雪伝説・王の乱 23 11.10.7
黒雪伝説・王の乱 1 11.8.4
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黒雪伝説・王の乱 22
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黒雪伝説・王の乱 21
全行程が陸路の場合よりラクとは言え
荒野から北の海までの疾走と
他の者に気付かれない場所に停船してからの陸路、
しかも休憩も取れない大急ぎの行軍は、想像以上に過酷であった。
城の近所まで着いた時には、一同はもうヘロヘロだった。
陸路では、不眠不休で馬を飛ばしたからである。
馬ももうヘトヘトだったが、黒雪の形相に
動物なりに、走らなければ殺られる! と察したらしい。
「こ・・・ここまでハードな任務は、さすがの私も初めてだわ。
途中の船がなかったら死んでたかも・・・。」
黒雪が弱音を吐くほどの強行軍に
馬から降りた時には、全員が地面に突っ伏した。
「ちょ、ちょっと休憩を・・・」
音を上げる王子に、黒雪が怒鳴る。
「ダメ!
私たちは食ってるけど
寝せっ放しの王の体力が持たない!」
黒雪は足を踏ん張り、王を担いでフラリと立ち上がる。
「黒雪さま、あたしが王さまを担ぎます。」
手を貸そうとするレグランドに、黒雪が息切れをしながらも言う。
「1時間ずつの交替にしましょう。
城まで、あと少し。
城が見えたら、夜になるまで休めるから頑張るわよ!」
「はっ!」
黒雪のその踏み出した一歩が
まるで地中にズシリとめり込んだ気がした。
それほど疲れていて、肩に担いだ王が重いのである。
意識がない人間の重さは、3倍増しぐらいに感じる。
あとは気力でどれだけ行けるかよ!
黒雪はカッと目を剥いて、一歩一歩を踏みしめていく。
王子とファフェイは、もう言葉も出ない。
「王子さまは?」
「はい、先ほどお部屋に戻られました。
王子さまには執事殿が付いておられるので
私が王さまのお部屋を警護しております。」
クレンネルが王の部屋の前で、見回りの衛兵に答える。
「そうですか、お疲れ様です。」
「お疲れ様です。」
クレンネルは敬礼をすると、仁王立ちで視線を固定した。
王子が食べたかのように見せかけた食器を
厨房に持って行く執事に、大臣たちが声を掛ける。
「王さまと王子さまの話し合いはどうなっておる?」
「はい、このところ王子さまが忙しくて
王さまとあまり話せていなかったので
良い機会だと、充分に時間を掛けていらっしゃるようです。」
「黒雪さまは、どうしてらっしゃるのじゃ?」
「どうせ外に出たついで、と
資源調査をしてらっしゃるようです。」
「おお、そうか。
働き者の姫さまで、ほんに良かった。」
執事は安心を確認し合う大臣たちに
お辞儀をして、足早に立ち去る。
王子たちが中に入って、もう1週間。
実は “王子はこの城にはいない” という事を
城の者たちには、疑う様子は見られない。
だが、それにも限度がある。
皆、悪い想像をしたくないから
我々の言う楽観を無条件に信じようとしているのだ。
王が王子たちに牙を剥いた事は、消せない事実。
それは、王国を揺るがす程の事件!
王子さま、黒雪さま、急いでください!!!
執事とクレンネルが、内心で祈っている真っ最中に
黒雪たちは、決死の行軍をしていた。
続く
関連記事 : 黒雪伝説・王の乱 20 11.9.29
黒雪伝説・王の乱 22 11.10.5
黒雪伝説・王の乱 1 11.8.4
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黒雪伝説・王の乱 20
黒雪の足の下には、小さな丸いものが潰れていた。
「?????????」
全員が覗き込む。
その潰れた丸いものは、ポワンと煙となって消えた。
「今の何なのかしら?」
「生き物じゃなかったわよね?」
「いずれにしても、この世界のものじゃないんじゃ?」
「じゃ、あれが今回の “魔物” でござるか?」
「この話、まだNO死体ですよねっ!」
王子のガッツポーズに、継母が黒雪を見る。
「・・・ああいう事にばかり、やたらこだわって・・・。」
黒雪の気まずそうな言い訳に、継母はニヤッとした。
「愛されてるわね。」
黒雪が継母の言葉に、嫌そうにそっぽを向く。
「う・・・、ううーーーん・・・。」
声のする方を見た一同は、驚いた。
王が転がっているのである!
そうだった、わかっていた事だけど忘れていた。
そこにいた者は全員飛ばされるんだった。
黒雪がとっさに、起きかけている王の首にケリをくらわせる。
王は顔面を土にメリ込ませた。
「王さまが起きたら、厄介な事になるんじゃないですか?」
慌てるレグランドに、王子がより一層慌てて言う。
「だからあなたにも来てもらったんです。
さあ、王を担いでください。
急いで城の王の部屋に戻りますよ!」
王子の進む方向を、黒雪が訂正する。
「そっちじゃないわよ、城は西北の方向よ。」
王子はニコッと笑った。
「こういう事もあろうかと思って、エジリンに頼んで
この先の海に海賊船を待機させてたんですよ。
城まで歩くより、航路の方が早いしラクですからね。」
ああ、あの時のコソコソ話がそうだったのね
黒雪は、王子の読みの深さに感心した。
「さすが、あなたね。」
「奥さま・・・。」
ヒシッと抱き合う二人に、継母がイラつく。
「もう、いい加減にしてちょうだい!!!
一刻を争そう状況でイチャついて許されるのは、映画だけよ!
現実にやられると、これ程イラつく事もないのよっっっ!!!」
継母の尋常ならない剣幕に、恐怖を感じた一行は
慌てて北へと走り出した。
「待って! この薬を持ってお行きなさい。
これは眠り薬よ、8時間おきにこれを嗅がせれば
目を覚まさせずに城へと戻せるわ。
従者、馬を!」
継母の従者が、馬を3頭ひいてくる。
「この馬は使い終わったら、ファフェイに返してちょうだい。」
継母の準備の良さに、王子は感嘆した。
「あのお継母上に殺されかけて、なお
生きてるあなたは、“奇跡の人” ですねえ。」
のちに王子は、黒雪にこう語る。
ドドドドと走り去る一同を眺めつつ
継母は何事もなかったかのように、お茶の続きをした。
冷めた紅茶を淹れかえるメイドとウェイターは
武術と策略に優れた従者である。
「戻ってくるかしら?」
「北国はもう冬に入りますので、来られないでしょう。
王妃さまも、そろそろ城にお戻りにならないと・・・。」
継母は一輪挿しのバラの花びらを1枚むしると、紅茶に浮かべた。
「そうね。
では今から10日ほどで、本気で痩せるわよ。」
「御意。」
ウェイターは、クッキーの皿を下げた。
続く
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黒雪伝説・王の乱 21 11.10.3
黒雪伝説・王の乱 1 11.8.4
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黒雪伝説・王の乱 19
「・・・・・・・・どうしても、ここですか・・・・・・」
王子が服の汚れをはらいながら、険しい顔をする。
飛ばされた先は、荒野であった。
「そんな事より魔物はっっっ?」
黒雪がガバッと構えて、振り向く。
と同時にズザーーーッとコケる。
目の前には、バラが一輪飾られたテーブルで
フカフカクッションの椅子に座った継母が
優雅にお茶を飲んでいた。
「あらあら、古典的なズッコケ方ね。
あなた、中身はあたくしより古いようね。 ほほほ。」
その言葉にピキッときた黒雪が
継母に向かって、背の斧を抜いて構える。
「おのれ、見た事もないような醜悪な魔物め!」
継母のこめかみの血管がヒクヒクとケイレンした。
「ちょ、ちょっと、おふたりとも遊んでる場合じゃありませんよ。
王妃さま、何故ここにいらっしゃるんです?」
ふたりの “女の攻防” を、“遊び” と悪気なく断定する王子。
「鏡を割ると、ここに飛ばされるんじゃないかと思ったのですよ。
ここ、あの時の場所なのよ。」
あたりを見ると、確かに広い荒野なのに
“あの時” の “あの場所” である。
「で、お継母さま以外の魔物は?」
「黒雪、あなたって人は~~~~~~っ!」
継母が思わず立ち上がった瞬間、何かが跳ねた。
黒雪が反射的に、“それ” を踏んだ。
考えなしに。
プチッ
全員が顔を見合わせる。
「ご・・・、ごめ・・・、無意識に足が動いて・・・。」
「今、プチッていったわよね?」
「とうとう殺したんですか? この話、ロマンスなのに?」
「えっ? 何だったんですか?」
「拙者の動体視力でも捉えられなかったでござる。」
一同が黒雪の足に注目する。
「いやあああああ、足を上げたくないーーーっっっ!」
「では、このまま靴をここに脱ぎ捨てて・・・」
「何を言ってるのよ、このバカ夫婦は!
いいから足を上げなさい、黒雪!」
「そうでござる。 確認はせねば。」
混乱状態の現場である。
黒雪は意を決して、ソーーーッと足を上げた。
続く
関連記事 : 黒雪伝説・王の乱 18 11.9.22
黒雪伝説・王の乱 20 11.9.29
黒雪伝説・王の乱 1 11.8.4
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黒雪伝説・王の乱 18
王子に続いて、部屋に入ったレグランドの横に人影が動いた。
ドアを閉めたのは、ファフェイである。
「あっ、あんた、どうし・・・」
「シッ」
ファフェイはレグランドの口を塞いだ。
「アヒッ、うっかり女人の唇を触ってしまったでござる!」
動揺して飛び跳ねるファフェイに、レグランドは脱力する。
「・・・メガネをかけて・・・。」
「奥さま、ありましたか?」
王子が部屋の奥へと進む。
仕切りのカーテンをめくると
椅子にもたれ座っている王の横に、黒雪が立っていた。
「うん、ここにあったわ。」
黒雪が指差す方向には、布が掛けられた板のようなものがある。
「・・・やはり、そうでしたか・・・。
だけど何故、王はこのような状態なのでしょう?」
焦点の定まらない目の王は、明らかに放心状態である。
「さあ・・・、今度の鏡は前のとは違う、って事かしらね。」
鏡?
レグランドは驚愕した。
と同時に、納得もした。
あの王の突然の狂乱が、話に聞いた “魔法の鏡” のせいならば
すべての理由がわかる。
が、目の前の王が呆けているのは、確かに不可解である。
「鏡にも話し掛けてみたけど、無反応なのよ。」
黒雪が掛かっていた布を取る。
「私が来る前に、そんな危ない事をしたんですか!」
怒る王子に、ノホホンと黒雪が答える。
「お話だけよ、お・は・な・し。」
「鏡が相手でも妬きますよ、私は!」
その言葉がツボに入ったのか
王子の背中をバシバシ叩きながら、黒雪が笑う。
「あはは、あなたもだいぶ面白くなったじゃないの。」
ふたりの気の抜けたやり取りに、少しホッとするレグランド。
ふと横を見ると、ファフェイがこっちを見ている。
「おぬしは良い部下であるな。」
「・・・何を言ってるんだ?」
事もなげに、ふん、と顔を背けたレグランドだったが
ファフェイに見抜かれている気がして、内心イライラさせられる。
「さあ、“これ” をどうしましょうかね?」
王子の迷いに、黒雪がサラッと言う。
「もちろん割るわよ。
南斗水鳥拳は使わないけど。」
「やはり割りますか・・・。」
「もーーーっ、家宝にでもしたいわけ?
ウダウダ言ってないで、とっとと心の準備をしてよ。」
黒雪が壁や床をドカドカ蹴る、例のカウントダウンを始めそうなので
王子が慌てて、ファフェイとレグランドに言う。
「では、どっかに飛ばされるかも知れないし
突然目の前に魔物が現れるかも知れませんが・・・」
「いずれにしても、敵は殺るだけ! 以上!
さあ、いくわよ!」
王子のモタつく演説をさえぎった黒雪が
鏡に向かって、正拳突きをかました。
続く
関連記事 : 黒雪伝説・王の乱 17 11.9.20
黒雪伝説・王の乱 19 11.9.27
黒雪伝説・王の乱 1 11.8.4
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黒雪伝説・王の乱 17
「ああ、王子さま、お待ちしておりました。」
レグランドとクレンネルのふたりが城門前で王子を出迎えた。
「あら? 黒雪さまは?」
「奥さまは待機中です。
さあ、城の者たちが心配している事でしょう
急いで事態の収拾を図りましょう。」
あの黒雪さまが大人しく待機・・・?
違和感を感じたレグランドだったが
王子の後に付いて、城内に入った。
「皆さん、心配をお掛けしました。
今から父上と話し合いを始めますので
あと数日間だけ、このまま待っていてください。」
王子の言葉に、城内にいた者は全員、安堵した表情になった。
「大丈夫です、ちゃんと話せば誤解は解けます。
親子ですから。」
王子がこう叫ぶと、拍手が湧き起こった。
王子はデラ・マッチョふたりを伴い
王の居室の方へと向かった。
王の部屋のドアの前では、執事が待っていた。
「おお、王子さま、よくぞご無事で。」
レグランドには、その言葉が何故か
心がこもっていないような響きに聴こえる。
あたし、この執事殿はどうも信用できないかも・・・
レグランドの視線に、執事がふと振り向く。
ドキッとしたが、うろたえないよう取り繕ったレグランドに
執事はニッコリと微笑んだ。
その瞬間、レグランドはゾッとした。
どうしよう、こいつ絶対にヤバい!
でも王子さまの腹心なんだよね?
じゃあ、王子さまもヤバいヤツって事?
・・・黒雪さま!
何で黒雪さまがここにいないんだ?
ああ、どうしよう、黒雪さまも騙されているんじゃ?
必死に無表情を装うレグランドを尻目に
王子がデラ・マッチョに言った。
「クレンネルは、ここで番をしてください。
レグランドは私と一緒に中へ。」
そして、小声でクレンネルにボソボソと細かく指示を出す。
「はい。」
クレンネルは敬礼をした。
「父上、私です。 あなたの息子です。
入りますよ。」
王子がノックをして声をかける。
レグランドは、すぐさま黒雪を探しに行きたかったが
時すでに遅し。
ドアがギイイとゆっくり開く。
続く
関連記事 : 黒雪伝説・王の乱 16 11.9.15
黒雪伝説・王の乱 18 11.9.22
黒雪伝説・王の乱 1 11.8.4
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黒雪伝説・王の乱 16
「ほら、黒雪、デザートよ。」
継母がリンゴのバター焼きを差し入れする。
黒雪は目の前に置かれた皿をマジマジと見つめる。
そういえば “あの時” も、この継母はリンゴを持ってきた。
「ほほほ、今度は毒なんて入れてないわよ。」
察しの良い継母に、黒雪が不思議そうに訊く。
「何故いつもリンゴを持ってくるんですの?」
「あなたの好物だからよ!」
継母が呆れ顔をすると、黒雪は え? という表情をする。
「リンゴ、好物じゃないの?」
「と言うか、むしろ苦手ですわ。
何故そのような勘違いをなさってらっしゃいますの?」
「え・・・、王室便りのあなたのプロフィールに・・・」
そこまで聞くと、黒雪は爆笑した。
「お継母さまーーー、あれを信じてらっしゃったのね。
あれは国民への広告だから、“編集” してありますのよ。
意外なところで純粋でしたのねーーーっ、あははははは」
ムッとしている継母に、黒雪が調子こく。
「今度から、私の本当の好物を持ってきてくださいませね。
そしたら毒入りだろうが何だろうが、ペロリですわよ。」
「あなたの本当の好物って何なの?」
「サキイカですわ。」
「それをアンケートに書いたの?」
「もちろん!」
継母は黒雪の頭を、扇子でフルスイング殴打した。
「そんな事ばかり書いてるから、編集されるのよ!!!」
王子が好奇心で、つい口を挟む。
「で、王国便りは編集されてるのですか?」
「多分、黒雪のだけだと思いますわ。
だって、王やあたくしや、他の子供たちのは
そのまま載っていますからね。
このバカ女が、姫としてふさわしくないトンチンカンな事を書くから
余計な編集をされたのよ。」
頭を抱えてうずくまる黒雪が、涙ぐみながら怒鳴る。
「でも、その編集のお陰で
どっかのクソババアの毒入りリンゴを食わずに済んだのに!」
それを言われると弱い継母。
言葉に詰まっているところに、王子が助け舟を出す。
「まあ、あの事件がなければ、私とあなたは出会えなかったし
今こうして無事なのですから、結果オーライですよ。」
せっかくの王子のフォローも、台無しにする黒雪。
皿の上のリンゴの薄切りをつまみ上げて、更に非難をする。
「しかもバター焼きって、冷えると脂分が固まって最悪なのに
調理場から離れた、しかも寒い荒野という状況で
何故これを持ってこよう、と思うんですの?」
正論が正義とは限らない。
継母と王子が、同時に黒雪にゲンコを喰らわした。
「王妃さま・・・。」
継母の従者が、望遠鏡を差し出す。
それを覗き込む継母。
「あの煙は何なのですか?」
王子も自分の望遠鏡で、継母の見ている方向を見る。
「あれは、東国王族専用の暗号、“ノロシ” よ。」
黒雪が隣で、地ベタにあぐら座りをして
あんだけ文句を言ってたリンゴのバター焼きを食いながら答える。
「黒雪、ファフェイからお呼びが掛かったわよ。
さっさと行きなさい。」
「お継母さまは?」
「あたくしは、ここで待ってるわ。」
「ええーーー、コトが終わったら、またここに来なきゃいけないのー?」
「別に来る必要はないわよ。
あたくしは、ここにエステに来ているのだし。」
ふん、と、ほくそ笑む継母を、黒雪は睨んだ。
ほんと、食えないババアだわ・・・。
王子と黒雪が去った数日後、継母は従者に言った。
「さあ、そろそろ、お茶をしに出掛けるわよ。」
続く
関連記事 : 黒雪伝説・王の乱 15 11.9.13
黒雪伝説・王の乱 17 11.9.20
黒雪伝説・王の乱 1 11.8.4
カテゴリー 小説・黒雪姫シリーズ
小説・目次 -
黒雪伝説・王の乱 15
レグランドが城内に入ると、皆がチラッとこっちを見る。
が、すぐまた、自分の仕事へと戻る。
見て見ぬフリなのである。
要するに、コトを起こしたくない、って事だよね。
レグランドは、衆人の視線を感じながらも
とりあえずネオトスのところに向かった。
意外にもネオトスは、王子たちを案じてはいなかった。
「黒雪さまと一緒なら、無敵ですからね。」
無表情で言うネオトスの心理が、レグランドには謎だった。
妖精界時代からの家臣だと聞いていたけれど
それにしては、この突き放しっぷりが不可解である。
これが親なら、わかってはいても心配でならないだろう
ましてや、妻があの無鉄砲な黒雪さまなのに・・・
怪訝に思うレグランドに、ネオトスが言う。
「“そんな事” より、早く王子たちを呼び戻すのです。
王は自室にこもっています。
これは、王の身に何やら起きているようですぞ。」
レグランドは、ネオトスの言い回しに気付かず
その剣幕に圧されて、慌てて城の出口へと取って返した。
城外に出ると、頭上からファフェイが降ってきた。
飛び退こうとするヒマもなく
レグランドの喉には、短剣を突きつけられた。
「おぬしの首、いただいたり!
なんちゃってー。」
ファフェイは素早く短剣を回しつつ、サヤに入れた。
「おぬしは、相討ちを狙うタイプだから
こういう遊びは危ないでござるな、フシュシュ。」
何度も不意を衝かれ、プライドはズタズタである。
だがこの男、黒雪よりレグランドより素早いのは確かだ。
この変態に戦いで負けるとは、と
激しくイラ立つレグランドだったが、ひとことだけ言った。
「・・・メガネを掛けて・・・。」
「拙者は、お后さまに報告する。
黒雪さまたちは、すぐにおいでになる事であろう。
では、さらばだ!」
ファフェイの黒装束は、一瞬で闇に溶けていった。
「あっ・・・」
レグランドは追おうとしたが、もうファフェイの姿はなかった。
さっき別れたはずの彼が何故ここにいるのか、何をしてたのか。
黒雪さまたちは彼を信用しているようだけど
しょせんは他国の間者、疑いは常に持っておかないと・・・。
豹変した自国の王、他国の密かな介入
レグランドは、得体の知れないものに前後を挟まれた気分であった。
続く
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黒雪伝説・王の乱 16 11.9.15
黒雪伝説・王の乱 1 11.8.4
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小説・目次 -
黒雪伝説・王の乱 14
レグランドは困惑していた。
城の周囲に、見張りすら見当たらないのである。
まさかもう皆殺し・・・?
恐ろしい考えが頭をよぎる。
どうしようかと、しばらく辺りを伺っていると
城の一部屋で、白い布が振られている。
観察していると、その布は定期的に振られているようである。
罠か? 囚われている人があそこにいるのか?
迷いに迷ったあげく、レグランドは黒雪を見習う事にした。
堂々と正門から入るのである。
あたしが無理をしないと、きっと黒雪さまがムチャをなさるから・・・
主を危険な目に遭わせるのは
親衛隊として、無能を意味する。
生き恥を晒すぐらいなら、犬死にを選ぶレグランドもまた
筋肉バカのひとりであった。
正門への道を歩き始めた途端
城の外壁の東端で、白い布が激しく振られ始めた。
レグランドは、反射的に道路脇の木の陰に隠れた。
北国の城は、城下町の東1kmぐらいのところに
孤立して建っているのである。
高い塀で周囲を囲まれていて
街道脇には木が等間隔で、ポツンポツンと生えているだけで
何とも寒々しい風景である。
逆に言えば、気付かれずに城に近付くのは困難なのだ。
レグランドは、そのまま夜を待つ事にした。
城壁の布は、自分を止めている気がしたからである。
太陽が沈みきり、自分の影が闇に溶け込んだ頃
先ほど、白い布が振られていたあたりで
今度はランプの明かりが揺れている。
レグランドは、足音を立てないように気をつけつつ
明かりの方へと走った。
明かりの主は、城内警護の兵士であった。
「王子さまたちはご無事でしょうか?」
「ええ、今は私の報告を待ってるところです。
あれから城内では何が起こったんですか?」
「それが・・・」
兵士が首を横に振りつつ言う。
「何も起きていないんです。」
「それは一時待機、とかでですか?」
「いえ、あの後、王さまは何も言わずに
部屋にお戻りになられて、それっきりなのです。」
レグランドは、兵士の言う事が理解できずにいた。
「私たち警護も、どうして良いのかわからず
城の者も皆とりあえず、通常の業務をこなしていて・・・。」
レグランドの無言に、兵士が小声で叫んだ。
「だって、ヘタに訊いたらマズい雰囲気なんですよ。
王子さまたちを追え、という命令でも出されたら
それこそ、困りますし・・・。」
「姫さまと王子さまのお子さまたちは無事ですか?」
「はい、ネオトス殿がお守りになっておられます。」
「そう・・・。」
レグランドは考え込んだ。
実際に追手が来なかった事から、この兵士の言葉は信じられる。
では、次にどうするか・・・。
「王さまの部屋を探る、しか選択肢はないだろう!」
いきなり真後ろで声がしたので
慌てて飛び退くレグランド。
見ると、ファフェイが立っていた。
後ろを取られる、というのは想像以上に悔しいものだ。
「拙者は忍びだから、これが仕事なのだ。」
ファフェイは、悲しき宿命のように頭を振ったが
単なる趣味である事は、レグランドにはわかっていた。
ゆえに、その小芝居で余計にはらわたが煮えくりかえった。
続く
関連記事 : 黒雪伝説・王の乱 13 11.9.7
黒雪伝説・王の乱 15 11.9.13
黒雪伝説・王の乱 1 11.8.4
カテゴリー 小説・黒雪姫シリーズ
小説・目次 -
黒雪伝説・王の乱 13
「何故、寝袋って1人用しかないんですかね・・・。」
王子が星空を見上げながら、白い息を吐く。
「・・・さあ・・・。」
眠い黒雪は面倒くさそうに、それでも返事だけはする。
「ふたりで一緒に寝られる幸福、というのは
孤独に育たないとわからないものでしょうね。」
王子の可哀想な身の上ぶりに、少しイラッとした黒雪が
低音で不機嫌そうに言う。
「片時も離れずに側にいてくれた執事がいるでしょうが。
人間界の王族は、ふたりで寝る、という意識すらないものよ。」
じい・・・
王子は妖精界での、隠れ住んでいた日々を思い出した。
あの頃は、定期的に住処を替える時以外は
私は閉じこもった生活だった。
家や食料や生活道具は、全部じいが用意してくれた。
学問や常識なども、すべてじいが教えてくれた。
私はいつも本を読んで過ごした。
ずっとそうやって生きていくのだと思っていた。
自分がハブ女王の息子だと聞かされるまでは・・・。
王子は、ふと疑問が湧いた。
そう言えば、何故あの時に
小人さんたちの家に行く事になったんだろう?
確か、じいが一緒に来てくれと言い出したんだった。
今になって思い返すと、あの家に姫がいると
じいはわかっていたんじゃないだろうか?
何故・・・?
王子は、この自問自答にショックを受けた。
何故今まで、この事に疑問を感じなかったんだろう?
気付かない事、知らされていない事は多い。
黒雪はそれでも平気なようだが
幸せを知った今の王子は、子供時代の自分が
みじめだった事にも気付いてしまったのだ。
その理由を探さないと、この幸せがまた
自分の元から去っていきそうな気がして
不安でたまらなくなる。
「奥さま、私はもう二度とひとりになりたくありません!」
王子は寝袋に包まれたまま、寝ている黒雪の上に頭を乗せた。
「んーーー・・・、神さんに言え、そういう事はー。」
黒雪が寝ぼけつつも、厳しい事を言う。
王子は、イビキをたてて爆睡する黒雪の胸の上で
シクシクとすすり泣いた。
夜中に泣くヘビ王子・・・
なかなか恐いものがあるが、本人にとってはドン底である。
続く
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