アッシュは階段側の廊下の壁に張り付いていた。
耳をくっつけたり、コンコンと叩いたりして、左右にウロつく。
ここに部屋が、最低2個は並んでいるはず。
私の部屋は、ここの並びがバストイレだったから気付かなかったけど
このフロアの南の壁の奥には、かなりのデッドスペースがある。
そんで、この建物、こっから奥は増築されたんだ。
アッシュがかなりムチャをして、剥いだ壁紙とその下の板
その更に下の壁は、途中で材質が変わっていた。
歴史のある館の増築や改築は普通の事だよな・・・。
・・・歴史・・・、どっかで聞いたような・・・?
「あっ!」
しばらく考え込んでいたアッシュが、叫んだ。
飯! 飯を食ってなかったんだよーーー!
それを思い出すと、そそくさと部屋の中に入っていった。
どんなに大事な事でも、ひとつ思い出すと他は全部忘れる
まるで昆虫並みの知能の持ち主である。
ふと目覚めると、あたりは真っ暗だった。
どうやら満腹になって、うたた寝していたようだ。
ソファーで寝たせいか、体のあちこちが痛い。
ヨタヨタと歩いて電気を点けると、時計の針は22時を回っていた。
アッシュはものすごい孤独感に襲われた。
こんな時は、自分以外に生き物がいない世界に迷い込んだ気分になるのだ。
アッシュは何の動機もないのに、サメザメと泣いた。
だめだ、こんな生活だとウツウツしてくる・・・。
どうせあと半年 (最長) の命だから
規則正しい生活とかアホらしいかも知れんけど
それでも沈み込んで暮らしたくない。
きちんとせんと、きちんと!
アッシュは涙を拭って、ローズの部屋に向かおうと廊下に出た。
ドアを開けたら、目の前にローズが立っていて
お互いに 「うわっ」 と、叫んだ。
「ごめんごめん、電気が点いてたから起きたと思ってさ。
遅くなっちゃったけど、鋏、修理できたから
ん? あんた、どうしたんだい?」
アッシュが再び大泣きし始めた理由は
せっかく鎮めた気持ちを、ローズとの鉢合わせの驚愕と
ローズが自分の部屋の明かりをチェックしていてくれた事で
揺さぶられたせいである。
「すい・・・ません、驚いたんで・・・」
「驚いたぐらいで泣かれたらたまらないよ!」
「起き・・たら・・・真っ暗で・・・何か・・・寂しくて・・・」
まったく、こいつはガキかい。
こんなヤツに相続など、とんでもないね!
ローズは、恐らく出会ってから今までで一番呆れていたが
泣きじゃくるアッシュを、可哀想と想ってしまう気持ちもあって
そんな自分にも激しく腹が立った。
でもまあ、死への恐怖感で情緒不安定になってもしょうがないね
ローズは、そう擁護して解釈したが
実はアッシュは普段から、時々こういう
起きたら夜! という事をやらかしては
自己嫌悪に陥って、メソメソしていて
これがアッシュのナチュラルな姿であった。
「はいはい、わかったから、中に入って座って。
さっきの朝飯は食ったかい? お腹は減ってないかい?」
甲斐甲斐しく世話を焼くローズを、アッシュは弱々しく見つめ
ローズはその目を見て、まるで捨てられた犬のようだ、と感じていた。
これが二人の関係を決定した出来事で
その形は、その後変わる事はなかった。
続く。
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