カテゴリー: やかたシリーズ

  • そしてみんなの苦難 7

    「主様、あたくし、これから厨房に行ってきますわ。」
    帰って早々、携帯ゲーム機に向かっている主に、レニアが言った。
     
    「あたくし、今日の朝食で、もうすっかり
     ここの料理人たちを信用できなくなりましたの。
     食事は全部あたくしが作りますわ。」
     
    主はゲーム画面から目を離さずに返事をした。
    「んー、あー、じゃあ必ずマナタさんを同行させてくださいねー。」
    食事がダメでも警備は良いなんて、ありえない。
     
     
    レニアがマナタを引き連れて出て行ったのを確かめると
    タリスが主に声を掛けた。
    「お忙しそうなところを申し訳ないのですが・・・。」
    「んー、良いですよー、単調なレベル上げ作業ですからー。」
     
    真面目な話なのに顔を上げない主に、タリスはムッとしたが
    思い切って言ってみた。
     
    「マナタじゃ不安です。
     他の者に変えた方が良いと思います。」
    「んー、ダメですー。」
     
    「・・・・・・・」
    タリスはちゅうちょしたけど、とうとう禁を破った。
     
    「・・・り・・・
     理由をお伺いしてもよろしいでしょうか・・・?」
     
     
    主がLV上げをしながら答える。
    タリスが掟破りをしている事など、気にもしていないようだ。
     
    「理由は色々とありますー。
     まず、私たちは隠密行動だから、目立つチェンジなど出来ませんー。
     あちら側が用意してくれたガイドだから、そこまで我がまま言えませんー。
     うちの国がブラックリストに載っちゃったら、どうすんですかー。
     次にマナタさんはあれで確かに、ここでは一流だと思いますー。」
     
    「どこが!」
    つい声を荒げてしまい、ハッとして顔を赤らめるタリスを
    主は見ようともせず、無表情で説明する。
     
    「今日この街を観たでしょうー?
     ここ、ひっどいですよねー。
     貧富の差が激しいだけなら、まだリセット可能ですけど
     ここって復活の呪文がない国っぽいですよねー。」
     
    「・・・はあ・・・。 ?」
    主の言葉の意味がよくわからず、眉間にかすかにシワを寄せるタリス。
     
     
    「この国の人生って、縄のれんみたいなもんですよー。
     縄が全部真下に垂れているだけで、分岐がないー。
     最初に産まれた場所から下りるだけで、横には行けないんですよー。
     
     金持ちの家に生まれたら、きちんとした教育が受けられ
     コネで良い職に就けて、そのまま金持ちー
     貧困家庭に生まれたら、初等の教育すら受けられずに
     自分の周囲の世界の中で、日々の生活に追われて貧困のままー。
     
     救済システムがないんですよねー。
     システムを作れる人間はヌクヌクと育ってるんで、変える必要がなく
     恵まれない人々は、いつまで経っても知恵をつける事が出来ないー。
     何せ教育されないんですから、良くする方法も学べず
     自分の不遇も “運命” だと呪うだけで、それで終わってしまうー。
     そんな無知っぷりが、富裕層にはまた都合が良いわけでー。」
     
    主は初めてゲーム画面から目を上げて、タリスを見た。
    「幸福は、不幸を知らないと生まれないんですよー。
     この国が成り立っていっているのは、その逆もまたしかり
     不幸は、幸福を知らないと生まれないから、ってわけなんですよー。」
     
     
    ニッと笑った主の目を見て、タリスはゾッとした。
    その黒い瞳には、あの貧しい人々への同情の欠けらもない。
     
    ふと、将軍の言葉を思い出す。
    『主の事は、私と同等に扱うように』
     
     
    このお方は奪う側なのだ
    タリスは、ようやく納得がいった。
     
     
    続く。
     
     
    関連記事 : そしてみんなの苦難 6 11.5.30
           そしてみんなの苦難 8 11.6.3
                  
           そしてみんなの苦難 1 11.5.16
           
           カテゴリー ジャンル・やかた
           
           小説・目次 

  • そしてみんなの苦難 6

    「この車、サスペンションがイカれていないか?」
    いくら道路が整備されていないとしても、この縦揺れはひどすぎる。
     
    タリスの問いに、マナタはカラカラと笑って答えた。
    「大丈夫だぎゃあ。
     この車でチェイスする時は、このボタンを押すと
     サスが硬めになるんじゃが。」
     
    「ほっ、本当か! 凄いな!!」
    「冗談だと思いますよー。
     そんな車、この国で作れるわけがないでしょうー。」
    後部座席から主が棒読みで助言する。
     
    マナタがこっちを見て笑うので
    「前を見てろ。」
    と、ひとことだけ言って、タリスはムッツリと黙り込んだ。
     
     
    マナタはとめどなく喋り続ける。
    しかも、タリスを見たり後ろの主を見たり
    危なっかしくてしょうがない。
     
    「いますよねー、運転中にこっちの顔を見て話すヤツー。
     すっげえ危なくて、思わず殴りたくなりますよねー。
     それにしても、喋ると舌を噛みそうなぐらいの揺れですよねー。
     よく話し続けていられるもんですねー。」
    「あざーーーーっす!」
    「いや、全体的にケナしているんですからー。」
     
    陽気なマナタと、イラ立つタリス、実は車酔いで吐きそうな主を乗せた車は
    貧民街へと走って行った。
     
     
    「ここんちょ一帯が貧民街でっせ。
     浮浪者と泥棒の巣窟っちゅうですわ。」
    マナタが説明する通り、建物の壁の色からして、すさんでいる。
     
    「すんげえくっせえなー、何だろうー? この臭いー。
     こういう場所はどこの国にもあるけど
     聞くと見るとじゃ大違い、ってねー。
     本やネットから匂いが出てこなくて、ほんと良かったわー。」
     
    「主様、そういう事はあまりおっしゃらない方が良いかと思われます。」
    タリスの諌めに、主が訊いた。
     
    「何でー? ここの人たち英語がわかるんですかー?」
    「いえ、それはわかりませんが、マナタはこの国の者ですし・・・。」
    「マナタさんは富裕層出身だから大丈夫でしょー。」
     
    その言葉にマナタが飛びついた。
    「おっ、主様それがしが高貴な家の生まれだと何故に察知かね?」
     
    「・・・その気品を見ればわかりますですよー。」
    半笑いで答える主に、マナタは調子こいた。
    「一流は一流を知る、ってやつですかいな、はっはっは。」
     
     
    マナタの方を見てもいなかった主が、おっ と驚いた。
    「すげえ、道端に盗み盛りの若い兄ちゃんが寝てるー!」
    「ああ、あれは死んじょるんだなー。
     出血してないから凍死だと思われ。
     まだ夜はしばれるしなあ。
     衛生局が見回るから、そん時に持ってかれるで心配ねえだす。」
     
    「主様、車から降りない方がよろしいかと思います。」
    「んだな。 ここいらを車でグルグル回るんで我慢せれ。」
     
    「んーーーーーーーー、じゃあ今日はそうしましょうー。
     ただし明日は歩きますんで、その予定でお願いしますねー。」
    車は激しい上下運動をしながら、あたり一帯を走り回った。
     
     
    「こんな車で、いざという時に故障したらどうするんだ?」
    珍しくタリスがよく喋る。
     
    「そん時は自爆装置を作動させるしかねえだなあ。」
    「それじゃ死んでしまうじゃないか!」
    「ははは、おめさも大概、楽しい男じゃのお。」
     
    マナタに爆笑され、タリスはまたカツがれた、と気付いてムッとした。
    後部座席では、主がこの振動の中、爆睡していた。
     
     
    続く。
     
     
    関連記事 : そしてみんなの苦難 5 11.5.26
           そしてみんなの苦難 7 11.6.1
                  
           そしてみんなの苦難 1 11.5.16
           
           カテゴリー ジャンル・やかた
           
           小説・目次 

  • そしてみんなの苦難 5

    ふいにドアが開いた。
    驚くタリスに、部屋の中から寝ぼけ眼のマナタが蹴り出される。
     
    「マナタさん、次はあなたが見張ってくださいー。
     タリンさん、中に入ってくださいー、話がありますー。」
    ふああああ・・・、とあくびをするマナタを廊下に立たせて
    主はタリスの腕を引っ張り、ドアを閉めた。
     
     
    「タリンさん、あなた飛行機でも寝てないですよねー?
     今からすぐ寝てくださいー。」
    いやしかし、と言おうとするタリスを遮って、主は強い口調で言う。
     
    「寝不足だと、明日に差し支えますー。
     これは命令ですー。
     今すぐ寝てくださいー。」
     
    タリスは、“命令” という単語に弱い。
    言われた通りに自室に入って腕時計を見たら、夜中の2時半だった。
    主は何故起きていたんだろう?
    疑問に思ったが、明日からが本番なので考えずに眠りに付いた。
     
     
    朝になっても、マナタが部屋のどこにもいないので
    呼びに行こうと、廊下へのドアを開けようとしたが
    何かがつっかえて開かない。
     
    イヤな予感がして渾身の力で押して、やっと開いた隙間から覗くと
    倒れているマナタの後頭部が見えた。
     
    「おい、マナタ! 大丈夫か? マナタ!」
    大声で叫んだせいで、主が起きてきた。
    「どうしたんですかー?」
     
     
    ドアの隙間から廊下を確認した主は、テーブルのところへ行き
    ピッチャーを手にスタスタとドアの側に寄り、勢い良く水をブチまけた。
     
    「うわっぷ!!!」
    水を浴びて慌てて飛び起きたマナタ。
    呆れた事に、ドアの前で大の字になって爆睡していたのだ。
    ドアも床も水が掛かってビチャビチャである。
     
    「ある意味、最強の戸締りでしたねー。
     予定外に早起きした事だし、
     さっさと、飯食って用意して出掛けましょうかー。」
    主が腫れぼったい目で、涼しく言った。
     
     
    朝食は悲惨であった。
    時間通りにこないし、やっときた食事は
    得体の知れないスープに、パンはパサパサ、オムレツも味がなかった。
     
    「こんな事も (絶対に) あろうかとー。」
    主はトランクの中から、ウイダーインゼリーとカロリーメイトを取り出した。
    やけに荷物が多く、しかも重いと思っていたが
    着替えの服かと思いきや、トランク1個丸ごと携帯食や菓子類だった。
     
    それをタリスやレニアに渡す主を見て
    他人の分までガツガツと食っていたマナタが言う。
    「何どすえー? 何どすえー?」
     
    主はマナタにもカロリーメイトを1箱投げた。
    3人前の朝食を平らげたマナタは、その1箱も全部食った。
    主はその様子に、見てるだけで満腹になる、と嘆いた。
     
     
    レニアはホテルに残す事にした。
    護衛面で負担が増えるせいもあったが、一番の問題は荷物である。
    一流ホテルであろうと、こういう国では従業員による盗難も多い。
     
    マナタが連絡をして呼び寄せた女性SPと共に
    ホテルの部屋で荷物の番をする事になったのである。
     
    それを告げられた時のレニアの顔は、ホッとしているように見えた。
    今から行く場所は、決して気分の良い場所ではないからだろう。
    そしてあのマナタの車、あれに乗らなくても済む。
     
     
    「くれぐれもお気をつけてくださいね。
     あまり無理をせずに。」
    それでもレニアは心配そうに、主を見送った。
     
    「マナタさん、“今度は” ちゃんと主様を守ってくださいよ?」
    マナタの信用は、24時間足らずですっかり地に堕ちていた。
     
     
    「大丈夫じゃん!
     わいを誰と思おとんのんですかー?
     この国一のSPですわいなー。」
     
    マナタがそう断言して出て行った後、レニアは女性SPに訊いた。
    「本当ですか?」
    女性SPの答はあいまいだった。
     
    「まあ、割に・・・?」
     
     
    続く。
     
     
    関連記事 : そしてみんなの苦難 4 11.5.24
           そしてみんなの苦難 6 11.5.30
                  
           そしてみんなの苦難 1 11.5.16
           
           カテゴリー ジャンル・やかた
           
           小説・目次 

  • そしてみんなの苦難 4

    「おっ、ホテルは普通っぽいじゃんー。」
    主が建物を見上げて喜んだ。
     
    「もちのろんだがやです。
     何せビップをお迎えするだから
     この国でNo.1の超・高級ホテルを用意させたですさー。」
     
    「(何かよくわからんけど) どうもありがとうございますー。」
    タリスには、主の ( ) 内の言葉まで聴こえた気がした。
     
     
    「当然、主様は最上階のスーパーデラックスルーム。
     ここが大部屋のリビングで、主様の寝室はあっち
     ミス・レニアの寝室は、続き部屋のそっち
     ミスター・タリスは、わすと一緒にこっちの続き部屋が寝室でごわす。」
     
    「へえー、(古いけど) 広い部屋ー。 眺め良いーーー。」
    主が喜んで、窓にへばりつく。
    その途端
    「危ないだべす!!!!!!」
    「うぎゃっっっ!!!」
     
    叫びながら、マナタが主をタックルした。
    主は顔面からビッターンと床に倒れた。
    あまりの意外な行動に、さすがのタリスも反応できなかった。
     
    それを見て、レニアが激怒した。
    「何をなさるんですか!
     主様はこう見えても、お歳を召されているんですよ!
     それをなぎ倒すなど、骨折したらどうするんですかっ!!!」
     
    レニアの剣幕に、マナタが申し訳なさそうに弁解する。
    「窓の側は狙撃される恐れっつーもんがあるじゃき・・・。」
     
    四つんばいになって、首をさすりながら主が言った。
    「タ・・・タロスさん、彼に護衛の仕方を教えておいてください。
     私たちが、公的に来てるわけじゃない事も・・・。」
     
    タリスは、はっ、と返事はしたものの
    この遥か斜め下の言動をする男を
    しかもなまじ知識があって腕が立ちそうな、“プロヘッショナル” を
    どう指導をしたら良いのか、途方に暮れた。
     
     
    とりあえず冷静に無難に、今回の旅の主旨と
    護衛法について一通り説明したタリスに
    マナタがうんうんと、腕を組んでうなずきながら言った。
    「タリスと呼び捨てで良いだかね?
     おいどんの事はマナタと呼んでけれ。」
     
    人の話にロクに返事せずに、話題を変える
    これが部下なら鉄拳制裁だ・・・
    冷静な表情とは裏腹に、心の中に熱い炎が燃えたぎるタリス。
     
     
    「いやあ、さっきの事は、まことにごめんだった。
     今回の目的も主様の事も、全部伝達済みだーでわかっとるきに。
     ただ、いつも政治ビッパーのSPをやっとるもんで、つい癖が出てなもし。
     んだでも、あの主様はただ者じゃないと思わんだぎゃね?」
     
    「どういう事だ?」
    いぶかしげに訊ねるタリスに、マナタが解説する。
    「わしゃ、仕事柄、多くのビップと間近に接しておられるがな
     ありゃあ、クセ者だべよー。」
     
    「だから、どういうところがだ?」
    タリスはついイライラを口調に出してしまった。
    「わからんのかね?
     おまん、護衛はそんだばにゃあ経験ないだな?」
     
    マナタはやれやれ、と両手の平を挙げて首を振り
    その仕草が、タリスの逆鱗に触れた。
    しかもタリスは確かに護衛の経験がなく、その図星が余計に腹が立つ。
     
    「おまえとは気が合わなさそうだな!」
    いつものタリスなら、そんな任務に支障の出そうな事は言わないのだが
    あまりの立腹に、うっかり口に出してしまったのである。
     
    「なあに、そういうカップルほどアッチッチーってもんじゃが。
     映画でもそうだべさー。」
    マンタは、カンラカラと豪快に笑い
    その態度が、タリスの心の炎にガソリンを掛けた。
     
     
    タリスが殺気を放った瞬間、悲鳴が響いた。
    何事かと、主の部屋のドアを開けると同時に
    バスタオルを巻いた主もまた、部屋に飛び込んできた。
     
    「シャワーが急に水になったーーー!!!!!」
    主の訴えに、タリスは肩を落とした。
     
    「ちょっと! 何をガックリきてるんですか!
     主様はこれでもお歳なんですよ!
     心臓マヒを起こしたら、どうするおつもりですか!」
    レニアがヒステリックにわめく。
     
    「・・・歳、歳、うるせー・・・。
     マ○コさん、これはこの国ではデフォですかー?」
    「わしの名はマナタだよ、放送禁止用語のような呼び方はやめてけれ。
     デホ? えーと、よくわからんが、湯ー出るが奇跡ですがな。」
     
    「・・・・・・そうですかー・・・・・・
     じゃ、気をつけますー・・・。」
    主は落胆しつつも、あっさりとバスルームに戻って行った。
     
     
    普通なら、ここはサービスシーンなのだが
    それを微塵も感じさせない主は、確かにある意味大物である。
     
    「主様の半裸姿を見るなど、とんでもない事ですわ!」
    タリスとマナタが、とんだとばっちりをくらった。
    「主様も自重なさってください!」
    バスルームに向かっても叫ぶレニアは、怒鳴る事が好きな女性のようだ。
     
    「あがいな痩せっぽち見ても嬉しゅうないぎゃあな。」
    護衛相手の悪口を言うマナタの無神経さに
    タリスはまた腹が立ってきたが
    優れた自制心をフルに活用して、抑えに抑えた。
     
     
    主が寝たというのに、ベッドでグーグーと寝ているマナタを見て
    果てしない絶望感に襲われるタリス。
     
    ・・・もう、こいつをアテにするのはやめよう
    自分ひとりで護衛しているのだと思うのだ。
     
    タリスはホテルの廊下の主の部屋の入り口の前に立った。
     
     
    続く。
     
     
    関連記事 : そしてみんなの苦難 3 11.5.20
           そしてみんなの苦難 5 11.5.26
                  
           そしてみんなの苦難 1 11.5.16
           
           カテゴリー ジャンル・やかた
           
           小説・目次 

  • そしてみんなの苦難 3

    主は飛行機の中で、ずっと携帯ゲーム機で遊んでいた。
    レニアはうつらうつらとしている。
     
    現地に着けば、もうひとりガイド兼護衛が付くという話だが
    今は自分ひとりである。
    眠るわけにはいかない、そうタリスが思った瞬間、声がした。
     
    「寝て良いですよー。」
    主がゲーム画面から目を離さずに言ったのだ。
    それがやたら鋭い指摘に思えて、タリスはちょっと驚いた。
     
     
    「いえ、これが私の仕事ですから。」
    そう答えると、主がボタン連打をしながら棒読みで言う。
     
    「そういうの、やめてもらえませんかねー。
     『仕事ですから』 とかー。
     そんなん言われなくとも、わかりきった事だし
     いかにもイヤイヤやってる、って感じで悲しくなるんですよねー。」
     
    「申し訳ございません、今後は気をつけます。」
    「うおっっっ! ああーーーっっっ! やってもたーーーーーー!
     もうー、あなたのせいだからねーーーっ!」
     
    どうやらパーティーが全滅したようである。
    「・・・申し訳ございません・・・。」
    「・・・冗談だってー。
     ヤバいと思った時点で、帰還魔法を唱えなかった私の戦略ミスなんだしー。
     こういう八つ当たりもよくするから、真に受けないでくださいねー。」
     
    無表情で妙な事を言うこの女性を、どう判断すれば良いのか
    迷いに迷うタリスであった。
     
     
    現地は太陽の光が強かったが、日陰に入ると乾燥した風で寒い。
    「暑いんか寒いんか、よくわかんねー。」
    全員が思った事を、主が大声で代弁した。
     
    「主様、思った事を全部口にするのは
     おなたの場合、ほぼ礼儀に反しますから、お止めくださいませ。」
    レニアが冷徹に言い放つ。
    重箱の隅をほじくるタイプの女性である。
     
     
    ひとりのいかつい男が真っ直ぐこちらに向かってきた。
    推定20代後半、浅黒い肌の軍人風刈り上げヘアだ。
     
    多分彼が現地の供だろうけど
    一応タリスは警戒して、主の前に立った。
     
    「よ-よ-、おめら主様ご一行ですだべ?
     おら、護衛ガイドのマナタっちゅうもんだす。
     どか、よろしゅうにお願い申し上げたてまつる。」
     
    何弁なのか、はっきりせんかい!!!!!
     
    誰もが同時に思ったが、自分の言語もおかしい事を自覚している主は
    今度は何も言わなかった。
    多分、彼は精一杯の敬語を使って、礼儀をはらっているのであろう。
     
    「よろしくお願いいたしますー。
     私が主で、彼女はお世話をしてくれるレニアさんー
     彼が護衛のタ・・・タラス?さんですー。」
     
    主はタリスの名をつっかえながら、?付きでも正しく言えなかった。
    人の名前と顔を覚えるのが大の苦手で
    自分の親兄弟の顔ですら、しばらく会わないと忘れるという。
     
    「タリスです。」
    自分で自分を紹介するしかない。
     
     
    「んーだば、まずは宿に行こうですかね。
     車があるきに乗りなっせ。」
    マナタに促がされ、見た方向にあったのは
    見た事もない車種の、古いボロ車であった。
     
    ドアも完全には閉まらないし
    走り出したら、上下にバッコンバッコン揺れる。
     
    「うわ、すっげー、ある意味、ダンシング・カーーーー?」
    また主がわけのわからない事を叫ぶ。
     
    「こっちじゃ良い車は逆に狙われるんですわいな。
     おぬしら、隠密行動なんだしょ?
     こういう車の方が安全保証だぜよ。
     わすはプロヘッショナルですじゃけんのう。」
     
     
    マナタが威張って言うと、主が真面目に突っ込む。
    「そのボロ車に、高貴で美しい裕福そうな女性が乗ってる方が
     いかにも怪しくて危なくないですかー?」
     
    「うんうん、普通はそうだがや、今回は大丈夫なもし。」
    そのマナタの笑顔に主は大らかに笑っていたが、レニアが激怒した。
    「あなた、誰に向かってそんな口を利いているの?
     このお方はとても立派なお方なのよ!」
     
    そのキイキイ声があまりにもうるさいので、主が抑えるよう言っても
    「あなたを侮辱されて黙っているわけにはいきません!」
    と、レニアの勢いは増す一方である。
     
    「ああ・・・もう、何かワヤクチャー・・・」
     
     
    かろうじて4ドア、という小さい車に、4人がギュウギュウ詰めになって
    ホテルへと向かう車内での、主の小さいつぶやき。
     
    この言葉が、今後の日程のすべてを表現している事に
    この時点で知る者は誰ひとりとしていない
     
     
    ・・・わけがなく、そんな事ぐらい全員が容易に予想できた。
     
     
    続く。
     
     
    関連記事 : そしてみんなの苦難 2 11.5.18
           そしてみんなの苦難 4 11.5.24
           
           そしてみんなの苦難 1 11.5.16
           
           カテゴリー ジャンル・やかた
                         
           小説・目次  

  • そしてみんなの苦難 2

    主は時間に厳しいお方だ
     
    そう忠告されなくとも
    タリスは約束の30分前には、スタンバイする男である。
     
    しかしその日は、見た目にはわからなくとも
    期待と緊張が心の中で交錯していた。
    まるで心霊スポットに探検に行く時の気分である。
     
    そしてその “心霊スポット” の部分だけは、当たっていた。
     
     
    黒塗りのリムジンが到着した。
    タリスはいつもの直立不動ポーズをとったが
    心なしか、かなり体が硬直している。
     
    後部座席のドアが、助手席に乗っていたボディガードによって開けられ
    ピンヒールのパンプスを履いた美しい形の脚が、揃えられて出てくる。
    現れたのは、濃い紫のスーツを着た派手な女性。
    降りたかと思えば背を向けて、車の中に手を差し伸べる。
     
    その手を取って出てきたのは
    ニットにジーンズとスニーカーの痩せ細った女性だった。
     
    タリスには、どっちの女性が主かすぐわかった。
    東洋人はこの国にも多いけど、どう表現すればいいのか
    あえて言うと、“異質感” みたいなものが漂っていたからである。
     
     
    「いいですかあたくしが説明した事を守ってくださいねガイドや護衛を困らせるような事をしないように勝手な行動をしないようにひとりで出歩こうなどもってのほかですからねニッポンやここと違って治安が良くない場所ですからくれぐれも気をつけるんですよそのためにもガイドや護衛の言う事をちゃんと聞くんですよそしてあまり表沙汰になるような事はしないようにうんぬんかんぬん」
     
    その後から降りて来た女性が、ジーンズ女性に延々とまくしたて
    その様子を見て、タリスは不安になった。
    どうやら主様はかなりの破天荒ぶりらしい。
     
     
    「主、ご機嫌は如何ですかな?」
    将軍までやってきた。
    「はあ、いたってフツー? ってとこですー。」
     
    その間延びした喋り方と言葉遣いを聞いて、タリスは失望を感じた。
    館の主とは、こんな奇妙な女性なのか・・・。
    祖父たちがいた、その秘密めいた館に対する憧れが
    粉々に打ち砕かれた気分になった。
     
    振り返った主は、将軍の格好を見て何故か喜んでいるようだ。
    「って、あなた軍人さんでしたかーーー!
     早くおっしゃってくださったら、兵器視察とか行きますのにー。」
    「いえ、来なくて良いですから・・・。」
     
     
    このやり取りに少し、ちゅうちょしたものの
    タリスは将軍に近付いて行って敬礼をした。
     
    「今回の旅の供をするのは、彼です。」
    色んな動揺をしているところに、急に将軍にふられたので
    慌てて再度、主に敬礼をして名乗る。
    「タリスと申します! サー!」
     
    主は将軍の顔を無表情で見つめ、将軍は目を泳がせる。
     
    ・・・・・・・・・・・・・・・・
     
    真正面を見ているタリスが、その空気を敏感に感じ取り
    疑問に思い始めたところで、主がやっと応えた。
     
    「はいー、この度は面倒な事をお願いして申し訳ございませんー。
     どうぞよろしくお願いいたしますー。」
     
     
    主が深々とお辞儀をし、その丁重さにタリスは一瞬驚いた。
    将軍に無礼な口を利いて許される身分の人物が
    一介の士官である自分に、丁寧に挨拶をしてくれたのだ。
     
    しかし頭を上げた後に、主は再び将軍を無表情で見つめる。
    東洋人の表情は、ただでさえ読み取りづらいのに
    主の意図が何なのか、タリスにはさっぱりわからなかったが
    決して目を合わせようとせずに、汗を拭き始める将軍は
    どうやら主に対して、何かヘマをやらかしたらしい。
     
     
    「さ、飛行機の時間が迫っていますので、急がないと。」
    派手な女性が、後ろからせかす。
     
    「では、私はここで失礼しますよ。
     良い便りを待っています。 お気をつけて。」
    将軍はそそくさと退場して行った。
    主に睨まれにやってきたようなものである。
     
     
    旅のメンバーは、主と主の世話係の女性とタリスの3人である。
    先ほどの口うるさい女性が、旅行中の世話係のレニアである。
    お供にはデイジーが付いて来たがったが
    館の雑用を仕切らなければならないので、レニアが任命されたのであった。
     
    レニアは50代の堅苦しい女性で、主様信奉の強い女性である。
    今回の旅の真の目的と手段は聞かされてはいないが
    その忠誠心と口が堅いところ、詮索をしないところ
    そしてきちんと、主の “しつけ” もしてくれるので
    旅のお目付け役として、リリーに見込まれたのであった。
     
     
    3人を乗せて、飛行機は離陸した。
     
    空を飛ぶ機体を、高速道路を走る車の中から見上げながら
    将軍の胃は、キリキリと痛んでいた。
     
     
     続く。
     
     
    関連記事 : そしてみんなの苦難 1 11.5.16
           そしてみんなの苦難 3 11.5.20
           
           カテゴリー ジャンル・やかた
                  
           小説・目次  

  • そしてみんなの苦難 1

    ジャンル・やかた 71 10.4.14 から始まる迷惑のひとつ。
     
     
     
    「きみは “館” を知っておるかね?」
    高級そうなデスクに両肘を付き、偉そうに質問をするこの中年男性は
    長老会のメンバーで、主言うところの “威圧感のある紳士” だ。
     
    彼は国防軍の将官である。
    クリスタル州の軍は、下士官にいたるまで全員
    クリスタル州出身者のみが配属されるという、異例の地なのだ。
    彼の家は代々軍人の家系で、彼の息子たちもまた軍人を目指している。
     
     
    「存在は知っております! サー!」
    直立不動で答えたタリスもまた、クリスタル地方の出身だが
    この地方の者なら誰もが、館の事を知っているわけではない。
     
    多くの者たちは、そういう館がある事すら知らないのである。
    知ってはいても、孤児施設程度にしか思わず
    詳しい内情を知る者は、ほんの一握りであった。
     
     
    タリスが “館” という単語を知っていたのは
    彼の祖父祖母が館出身者であったためである。
     
    祖父祖母は館で知り合い、結婚をするために館を出た。
    館出身者には黙秘の掟があり、それを破る事は
    今後、他の者が館を出られなくなるだけでなく
    喋った自分の命までも危ないわけで
    その義務を背負い、ふたりは館の事は一切語らなかった。
     
    だが孫と釣りに行った時に、山の向こうを見つめながら
    「あそこで、ばあさんと出会ったんだ・・・。」
    と、ポツリとひとことつぶやいてしまう。
     
    その時の祖父の目の寂しげな光が、タリスにとっては
    妻との出会い、というロマンチックな思い出とどうしても結びつかず
    まだ幼かったタリスは、その “山の向こう” が脳裏に焼き付き
    成長を続けても、事あるごとにその地域を気にしていた。
     
    祖父の様子と、何を訊いても答えてくれない頑固さに
    聡明な子供だったタリスは、質問を一切止め
    地図を見たり、近くに “釣り” に行ったりと、控えめに調べていった。
    お陰で、“館” の存在だけは知る事が出来たのである。
     
     
    ふむ、彼の祖父たちは館の秘密を守っていたようだな
    タリスの様子を見て、威圧紳士は悟った。
     
    “行く先の土地に詳しく、監視 兼 護衛になる知的イケメン”
    この、主の要望について話し合っていた時に
    長老会メンバーの全員が、こちらをチラチラ見る。
     
    彼らの言いたい事はわかる。
    他国に詳しくて護衛になれるなど、軍関係者が最適である。
     
    『それは良い方法かも知れない』 などと
    賛同してしまった己の言葉にも、責任を取らなければならない。
    この数日間、威圧紳士は士官リストを睨み続けてきた。
     
    コトはそう単純ではないのである。
    ある程度の館の事情も知らせなければならないので
    上官の意思に逆らわない忠誠心と、秘密を洩らさない口の堅さも必要である。
     
     
    ここで浮かび上がってきたのが、タリスであった。
    評価は生真面目で几帳面という、正に軍人の鑑のような性格である。
    しかも祖父祖母が館出身なら、家族の名誉のためにも口を閉ざすであろうし
    軍人にしては、知的でハンサムな方だと思・・・う・・・?
     
    威圧紳士はパソコンで検索したジェームス・スペイダーの画像と
    タリスの写真を交互に見比べつつ、迷いながらも決定したのであった。
    そのジェームス・スペイダーの画像は
    主の望む “昔” のではなく、現在の姿であった。
     
     
    「きみに特殊任務を与える。」
    「はっ!」
     
    真っ直ぐ前を向きつつ、声を張り上げるタリスは緊張した。
    この基地での最高位の将官の部屋に入った事など初めてだし
    直々のお達しなど、まずありえない事なので
    余程の重要な極秘任務なのだと感じていた。
     
    「館には、“主” と呼ばれる管理者がいる。
     その主が次の管理者を選ぶために、某国に旅立つ。
     きみには主に付き添って、監視と護衛、世話をしてもらいたい。
     主の事は、私と同等に扱うように。
     この任務とこの任務で見聞きした事は、すべて他言を禁ずる。」
     
     
    タリスは生粋の軍人なので、質問はしない。
    言われた事を淡々と、だが確実にこなすだけである。
    しかしこの任務には、内心疑問だらけであった。
     
    多分、この某国の言語を大学時代に少し勉強していたので
    今回の旅の護衛には、自分が選ばれたのだろうが
    それにしても、次の管理者選びの旅?
    一介の施設の管理者を将軍と同等に扱え?
     
     
    子供の頃に抱いた、祖父の表情への疑問と同じ感覚が
    タリスの脳裏によみがえった。
    “館” には、とてつもない秘密があるようで
    それがタリスを惹きつけている事は間違いない。
     
    正直、旅が待ち遠しくてたまらない。
    “館” の一部に直に接する事が出来るのだ。
     
     
    タリスは、はっ、と敬礼をして部屋を出た。
    廊下を一直線にズンズンと進む。
     
    感情を律する事を美徳とする、四角四面なその男の心には
    子供の頃に感じたっきり、すっかり忘れていた
    走り出したくなるような、あのワクワク感が蘇っていた。
     
     
     続く。
     
     
    関連記事 : そしてみんなの苦難 2 11.5.18
           
           カテゴリー ジャンル・やかた
           
           小説・目次  

  • ジャンル・やかた 後書き

    何度も書いてるけど、総決算として一応説明すると
    この小説もどきは、高熱にうなされていた時に夢で見た話。
     
    その夢がまた設定がきちんとされていて、ウトウトする度に続きが見られて
    しかも私にとっては、結構楽しい内容だったので
    それまで小説系など書こうと思った事もないのに
    物語として書いてみよう、という気になったのである。
     
    夢だったので、当然私が主人公である。
    アッシュの性格や物の考え方や言動は、私そのものである。
    こういう状況だったらこうするだろうな、という私の考える私像だ。
     
    私の考える私像でも、最大の美化をしているのは当然である。
    好き放題にやってるのに、皆に受け入れられる
    ってのが私の理想なんで、作中ではそれを充分に叶えられて
    とても楽しかった。
    こうやって妄想って肥大するんだな、と知ったぜ。
     
     
    ローズは、私の周囲の人たちをミックスした感じの性格だ。
    何故か面倒見が良い人々が多くて、恩恵にあずかっている。
    本当にありがとうー。
    皆の親切は、この小説もどきで花開いたよー。
    リアルじゃこのブログは秘密にしてるんで、全然意味ないけどなー。
     
    それ以外の登場人物のモデルはいない。
    似た人もいなく、完全に空想上の人物だ。
    自分に似てる! と思ったやつ、己の人格を疑え。
    ヘンなヤツだらけだぞ、この話は。
     
     
    そんで、この話に出る人名地名は、草花の名をもじったものなんだ。
    名称を考えるのが一番の悩みの種で、迷いに迷ったんで
    いっそ何かの種類に統一しちゃえ、と。
     
    それで種類が多そうなのが植物かな、と決めたは良いけど
    大自然には一切興味がないんで、草木の名前とかもまったく知らず
    植物図鑑サイトを頼りに頼ったよ。
    各サイトの製作者の皆さん、ありがとうー。
    皆さんの親切はこの小説もどきで、以下略。
    (植物だけに “花開く” とか、たわけたら殴られそうだな。)
     
    ちなみに、主と主候補たちは全員 “灰色” という名前。
    グレー、アッシュ、グリス。
    ジジイはひとりだけ、そのままジジイで名無しなんだが
    こいつ、すげえイジメ甲斐のあるヤツで大好きだった。
     
     
    夢で見たのは、子供に暴力をふるうシーンまでだった。
    本当は、夢では子供を切り殺してしまったんだけど
    それはあんまりだろう、と思ったんで、蹴るだけにした。
     
    それでも、とんでもない事なんだが
    夢で見るって事は、私って襲われたらたとえ相手が子供でも
    やっちゃうのかも知れんのかな・・・、と
    かなりのショックを受けた場面だったんで、あえて省略しなかった。
     
     
    夢で見たと言っても、そんなに詳細には見てはいない。
    脳内でわかっているだけで、場面はところどころに分割されていた。
    それを繋げて書いたら、えれえ長くなる長くなる。
     
    全体の設定は夢で決まってたので
    ラストをどうするかは、私の思想で決めた。
    そのラストに向かって、どう動くのか
    それを想像するのは思ったよりも簡単だった。
     
    ただそれを文章にすると、これまた長くなる長くなる。
    たとえて言えば、家から会社まで車で通勤しているとするだろ?
    そしたら、いつも通っているから道順はわかるよな。
    でも、その道の両側にどんな家があって、どんなビルがあって
    とまでは、全部は覚えてはいないだろ?
     
    脳内物語では、その道順をすっ飛ばして一瞬で目的地に着くんで
    それを文章で説明しようとすると
    状況をわかりやすくするためにも、両側の建物の種類まで書かにゃならん。
     
    そういう感じで、脳内での短い展開を文章にすると
    やたらめったら長くなる事には、実際に書いてみて驚いたよ。
     
     
    脳内での物語は、10話ぐらいで終わると思ってたんだ。
    ところが3話過ぎあたりから、あれ? これはヤバくねえ?
    と思い始めて、10話を超えたあたりから
    いや、これはマジで激ヤバだろー、と
    大体の展開で、何話ぐらいになるか計算してみたら
    80話は軽く行くんじゃないか? となって
    その計算にも時間が掛かって
    そういうヒマがあったら書き進めた方がまだマシじゃないか、みたいな
    でも “私” の計算だから、絶対に怪しい答なはず、みたいな
    そういう感じで、書き始めた事をちょっと後悔もした。
     
     
    だけどチラホラと、「読んでる」 って言ってくれる人が来てくれて
    それにも、もんのすげーーーーーーーーーーーー意外で驚いたんだけど
    むっちゃくちゃ励みになって、書くのもどんどん楽しくなったんだ。
     
    マンガの後書きとかで、「読者に感謝」 と
    書いてる人の気持ちがマジでわかったぜ。
    「続きは?」 と言われるのが、こんなに励みになるとは知らなかった。
    途中で止めなくて良かったよ。
    本当に本当にありがとう。
     
     
    そして驚いたのが、読んでくれた人のマナーの良さだ。
    続いてる時は、励ましのみのコメントで
    終わってから感想を言ってくれる。
    最終回になって初めて、出てきてくれた人たちもいた。
     
    「次はこうなるんだろ?」 みたいな
    先読み推理を言う人がひとりもいなかった。
     
    そうか、連載物というのは、こういう態度で読むんだな
    と、教えてもらったよ。
    礼儀をどうもありがとう。
     
     
    話が膨らみすぎて、どう削るか悩んだあげくに
    これは番外編 (今で言うところの “スピンオフ” か?) で
    書けばいいや、というぐらいに
    ジャンル・やかたの世界は、私の脳内で広がってしまった。
     
    某漫画家が、1作品を数十年も続けるのもわかる気がする。
    その人たちはプロだから、他にも色んな作品も描いてるけど
    私は一発屋で終わりそうな気配だがな。
     
     
    ただただ、書いていて単純に楽しかったんで
    この小説もどきの執筆は続けたいと思っている。
     
    て言うか、この “小説もどき” という言い方も
    何か卑怯くせえ謙遜なんで止める。
    私は小説を書いているつもりなんで、ちゃんと “小説” と言うよ。
    出来はともかくもな。
     
    とにかく、老後の良い趣味が見つかった、という気分なんだ。
    美容にゲームにホラーに映画なのに
    これ以上趣味を増やしてどうするんだ、って気もせんでもねえがな。
     
     
    なお、これから恒例の言い訳のコーナーに入るが
    文章がヘンなのは認める!
    それは、ほんとすいませんすいません。
     
    (誤字脱字等は指摘してください。
     途中でつじつま合わせの確認のため、読み直してみたら
     ものすげえ箇所、間違ってたんだ。
     面倒だったんで、まだ直してないけど。 ← ・・・ )
     
    だけど、いっちょだけ主張したい。
    今って携帯とかPCとかで、漢字変換が容易に出来るだろ
    書けない読めない漢字を使うと、意味がわからずほんと困る
    という己の経験から、あえてひらがなで表記してる部分もあるんだ。
    ルビ (読み仮名) が振れないだろ、PCって。
     
    皆ここらへんを配慮してくれたらなあ、と思うんだが
    それは単に私が漢字を読めないドアホウなだけかも知れない。
    それでも私は、これからも自分が書けない漢字は使わないでおく。
     
    普通は本を読んで、漢字を覚えるもので
    そういう意味でも私の記事はタメにならん、っちゅう話で終わってしまって
    何じゃこりゃあああああああ!!! by ゆうさく・まつだ
     
    古っ? うるせえ、まごう事なきババアなんだよ、私は!

    関連記事: カテゴリー ジャンル・やかた

  • ジャンル・やかた 76

    何も見えない 何も聴こえない
     
     
    漆黒の闇の中にアッシュはいた。
    何故自分がここにいるのか、いつからいるのか
    わからなかったが、何も考えたくもなかった。
     
    アッシュは、ただそこにジッといるだけだった。
     
    ただ一瞬、ほんの微かな香りが漂う事もあり
    何だかとても懐かしく、いとおしい匂いなのだが
    それが何なのかも思い出せない。
     
    アッシュは、ただそこに立っているだけだった。
     
     
    「ちょっと、あんた! いつまでそうしているんだい?」
     
    聞き覚えのある声に、アッシュのすべてが息を吹き返した。
    途端に周囲が明るくなり、視界が開け、はっきりと見えるようになった。
    目の前に立っていたのはローズで、ここは館の屋上だった。
     
    ああ、そうだった。
    私はこの館の主だったんだ。
    そして多分、死んだんだ。
     
     
    「だってローズさんが言ったんじゃないですかー。
     『ここで待ってな。』 ってー。」
     
    「あんたねえ・・・・・。
     だからと言って、何十年も待ってるんじゃないよ。」
     
    「へ? そんなに待たせたんですかー? ひっでーーーーーー!
     遅刻するにも程があるってもんですよー。
     てゆーか、私それ、すっかり地縛しちゃってるじゃないですかー。
     びっくりー!
     まさか自分が地縛霊になるとはーーー。
     最初はホラーで、次にアドベンチャー、そんで洗脳セミナーときて
     最後が心霊ものとは、壮大な生涯ですよねー。」
     
    ローズは頭を振った。
    「あんたと話すと、いっつもわけがわかんなくなるのは相変わらずだねえ。」
    「いい加減、慣れてくださいよー。」
     
     
    アッシュがヘラヘラ笑うのを見て、ローズもついつられて笑ってしまう。
    「ま、いいや。 ほら、あそこに行くんだよ。」
    ローズが指差した先には、黒い渦が巻いている。
     
    「え? うっそーーーーーっっっ!
     何かいかにも “地獄への入り口” って感じじゃないですかー。
     普通、花畑とか光の階段とかじゃないんですかー?」
     
    後ずさりするアッシュに、ローズが迫る。
    「あんたねえ、あたしらがそんな良いとこに行けると思ってるのかい?
     あたしらはこれから、今までした事の償いをしなきゃいけないんだよ。」
     
    「ええええええええええ------っっっ
     生前反省して、結構良い事もしたのにダメなんですかー?」
    「反省と償いは、また違うんだよ。 良い行いも別問題さ。
     した事の始末は必ずつけなければいけないんだ。」
     
     
    アッシュはビビりながら訊いた。
    「何ー? 熱湯風呂とか氷漬けとかいう目に遭うんですか-?」
     
    「いや、そんなもんはないよ。
     ただ生きていた時に自分がしてきた事を、自分の姿を言葉を
     1分1秒残らず目の前で再現されるのさ。
     あたしらはただそれを見せられるだけさ。
     繰り返し繰り返し、何十年も何百年もね。」
     
     
    その言葉にアッシュは絶望的になった。
    「うっわーーーーーー・・・・・、それはマジ地獄すぎるー・・・。
     私、ここでこのまま地縛しといて良いですかー?」
     
    うなだれるアッシュに、ローズが肩を叩く。
    「何十年ここにいようが、いつかは絶対に受けなきゃいけない事なんだよ。
     そうやって自分の行いを省みて初めて、安らかな眠りにつけるんだ。
     あたしは自殺したから、その分償いの時間も長いけど
     一緒の場所なんだから、さあ行こう。」
     
    アッシュの表情がパッと明るくなった。
    「えっ、ローズさんも一緒なんですかー?」
     
    「そうだよ、皆並んで自己嫌悪を味わい続けるのさ。」
    「えっ、じゃあ、大久保清とかいましたー?」
    「・・・・・知らないよ、そんなヤツ・・・。」
     
     
    「んじゃ、行きますかー。
     ローズさんと一緒なら、どこでもオッケーゴ-ゴゴー! ですよー。」
    「・・・相変わらず、妙な前向きさだね・・・。」
     
    ローズが隣に並んだ瞬間、アッシュの右目が見えるようになった。
    アッシュは驚いてローズを見た。
    「ん? どうしたんだい?」
     
    ローズの笑みに、アッシュも笑って返した。
    「何でもないですー。 さ、ズンズン行きましょー。」
     
     
    「行く前に、館の様子を見納めしなくて良いのかい?」
    アッシュが軽快に答える。
     
    「良いんですよー。
     私の出番は終わりましたからー。
     立つ鳥、跡を汚さず、老兵は去るのみ
     我が人生に一遍の悔いもなし、byラオウ ですよー。
     後は後の人たちに任せましょうー。」
     
    「あんたらしいね。」
    ローズが微笑むと、アッシュが調子こいてローズの両手を握った。
    そんなアッシュの行為に苦笑しつつも、ローズも合わせてくれる。
     
     
     
    「さあ、これから永い永い地獄が待ってるんですから
     せめて今だけは、ワルツでも踊りながら楽しく進みましょうよー。」
     
     
     
              終わり。
     
     
     
    関連記事: ジャンル・やかた 75 10.4.26
          ジャンル・やかた 後書き 10.4.30  
        
          ジャンル・やかた 1 09.6.15
          カテゴリー ジャンル・やかた

  • ジャンル・やかた 75

    アッシュが死んでから、数十年の時が流れた。
     
    館は、いつのまにか “アッシュ館” と呼ばれるようになっていた。
    浄化作戦のため、館にできた広報部による宣伝とともに
    グリスの時代に立ち上げたサイトに
    生前のアッシュが残した言動の数々を、館の住人が何人も書き込み
    グリスの後の代で、それは宗教になった。
     
    日本人であるアッシュの名を元に
    ASU (明日) 教と名付けられたその宗教は
    村やクリスタルシティのみならず、国内外に信者が増え
    アッシュの墓がある館は聖地となり、巡礼者が絶えなかった。
     
    アッシュの墓には、バラの花を奉げるのが習わしとなっていた。
    周囲には、真冬でさえバラの花が絶えなかった。
    敷地内の温室で、“アッシュ・ローズ” というバラが
    栽培されていたからである。
     
     
    館では、アッシュの写真集や本やDVDなどのグッズや
    敷地内で出来る作物や加工品が売られ
    アッシュが言った通り、寄付が投資へと変わり街中が益々潤った。
     
    館に住むものは、誇りを持つようになった。
    最早、住人は “元犯罪者” ではなくなった。
     
     
    浄化が終わったのである。
     
     
    館には奇妙な伝説があった。
    “ローズレシピ” を付けて屋上に行くと、アッシュの姿が見える、という。
     
    この “ローズレシピ” とは
    アッシュの寝室用のアロマスプレーのレシピの事である。
     
    封印されていたローズの寝室をグリスが開いた時に
    部屋の中はローズがいた時のままになっていて
    そこにあったノートに書かれていたのだ。
     
     
    ローズは殉教者扱いになり、館ブランドのすべての商品には
    バラのマークが入れられるようになった。
    ローズのアロマ水も飛ぶように売れた。
     
     
    “主” の名は、アッシュで最後となった。
    館は、亡き主への永遠の忠誠の代わりに、永遠の繁栄を約束された。
     
     
    続く。
     
     
    関連記事: ジャンル・やかた 74 10.4.22
          ジャンル・やかた 76 10.4.28
          
          ジャンル・やかた 1 09.6.15