3人はコタツでグッタリとうずくまっていた。
「同時通訳はー・・・。」
「何度観てもこれは・・・。」
「何じゃ、この凶悪さは・・・。」
ジジイが怒り出す。
「救いも何もないじゃないか!
日本ではこんな事が起こっとるんか!」
「じゃ、ジェイソンは実際にアメリカで暴れとるんですかいー。」
呆れる主に、ジジイが質問をし直した。
「いや、“恐怖” の概念が、あまりにも違うじゃろ。
日本の霊はこういうものなんか?」
「霊感があったら、こんなん余計に恐くて観れませんよー。
だから日本の霊がどんなんかは知りませんけど
日本の恐怖ってのは、こういう傾向ですねー。」
ジジイが納得する。
「日本、恐すぎるぞ!
さすが、あんたを輩出した国じゃな!」
もう、言い返す気力もない主。
はあ・・・、と3人が疲れきっているところに
リオンがおもむろにドアを開けた。
「・・・また、レディーの部屋にノックもせずにー・・・。」
「心配ご無用、レディーの部屋ならノックしまーす。
おや、皆さんお揃いで今日はどうしたんでーすか?」
「・・・主に騙されて悲惨な体験をさせられたんじゃ・・・。」
「あんたが勝手に押しかけたんでしょうがー!」
ふたりの感情論に、グリスが補足をする。
「皆で呪怨を観たんですよ。」
「呪怨!
あれはいけませーん!
あんなもの恐すぎて、さすがの私もギブしまーした。
もう日本ホラーだけは封印してくださーい!」
「うちでは恐いのしか観ませんー。
じゃ、次はほんとうにあった呪いのビデオを1から観ますよー。」
「また恐いのかい!」
激怒するジジイに、リオンが言った。
「これは大丈夫でーす。
エンターティメントでーす。
日本の心霊物の最高峰の逸品でーす。」
「そそ。 これは笑いながら観れるんですよー。
じゃ、どこに霊が映ってるか、当てるの勝負ねー。」
「待て!」
怒鳴るジジイに、主が睨んだ。
「まだ何か文句でもー?」
「茶と菓子を忘れとるぞ!」
「あっ、私とした事がー。
いやあ、ナイスタイミングー。
ちょうど良いブツを輸入したとこですぜー。」
部屋の隅のダンボール箱の山をゴソゴソと漁る主とジジイ。
「これこれ、亀せんー。」
「何じゃ、ボンチ揚げじゃないか、この前食ったぞ。」
「あれとは違うんですよー、これはー。」
「わしゃ、雀の卵が食いたいんじゃが。
茶はほうじ茶で。」
「玄米茶の有機物を入手しましたよー、へっへっへー。」
「ほお、甘味はないんかの?」
「チロルチョコときのこの山、あっさり系でそばぼうろはどうですー?」
グリスがリオンにコソッと訊く。
「あの隅に積み上げている箱は、全部お菓子なんですか?」
「主が日本から取り寄せている駄菓子でーす。
これがまた絶品揃いなんでーすよ。
娯楽も食べ物も素晴らしいなんて、天国でーすよね。
私、生まれる場所を間違えまーした。
老後は本気で日本に移住を考えていまーす。」
両手に山盛りの菓子袋を抱えた主とジジイがコタツに座る。
「グリスも食べて良いですよー。
でも体に悪いんで、量は控えてくださいねー。」
「おお、体に悪そうじゃが、これは美味い!」
「この醤油味がまた、止められないんでーすよねえ。」
バリバリボリボリ食う大人3人。
TVの画面は心霊だし、まるで地獄絵の餓鬼図のような光景だった。
続く
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かげふみ 32
「わしも上映会に参加するぞ!」
大荷物を持ったジジイが、執務室に怒鳴り込んできた。
「・・・その荷物、何ですかー?」
「わしお気に入りのメディカル枕じゃ!
最近これがないと眠れんのじゃ。」
泊まるつもりかい、と呆れた主。
「・・・良いけど、寝るのはゲストルームにしてくださいよー?」
「おう! どこでもいいわい。
今日は土曜じゃ。 夜更かしもオッケーじゃぞ。
にしても、わしを誘わんとはひどい話じゃのお・・・。
老人はどこに行っても邪魔にされるんかのお・・・。」
書類にサインをしまくっている主の横で、グチグチ続けるジジイ。
「グリスが上映会の事を教えてくれなんだら
わしは孤独老人のまま、短い生涯を終えとったかも知れん・・・。」
「短いー・・・・・?
もう、そこからして言いたい事が山ほどですけど
上映会って、単なるホラー映画のDVDを観るだけですよー?
恐いの大丈夫なんですかー?」
「おっ、わしが映画マニアなのを知らんな?」
「ふん、どうせサイレント映画でしょうがー。」
「バカにするでない!」
「あっ、名前のつづりを間違ったー!!!
これ、修正液可の書類なんだろうかー?」
「どれどれ?
ああ、構わんじゃろ。
そのミミズの這ったような字なら、sがどこに入ろうと一緒じゃわな。」
3文字の自分の名前を間違うとは、とあざ笑うジジイに
主がブチ切れてハンドクリームを投げつけたところで
グリスが入ってきた。
「おっと、・・・、DVですか?」
「そうじゃ! 主はいつもわしを」
「違うー! ジジイがいつも邪魔」
「はいはい、わかりました、おふたりが仲がよろしいのは。」
「「 仲が良くなんて ないぞ!ないわー! 」」
ハモるふたりに、グリスはやれやれ、と笑った。
「あーっっっ、ムカつくわー、その爽やかさー!」
「若いもんはええのお、箸が転がっても笑えて。」
思わぬ八つ当たりである。
主がイライラしながら数十枚のサイン書きをし
グリスが経理部と執務室を往復し
ジジイがお茶のお代わりとクッキーを頼み
ピリピリした時間が過ぎたのち、主が叫んだ。
「業務終了ーーー!
今日はもうやめー!
予定と違うけど、ジジイが邪魔をしたんでもうやる気なしー。
映画を観ようよー。」
「おっ、待ってました!」
何も手伝わずに座っていただけのジジイが
真っ先に立ち上がったのを見て、主がグリスに言った。
「今日も呪怨を観ますよー。 ジジイのためにー。」
「えっ、またあれですか?」
ゲンナリするグリスに、主がニヤリとした。
「日本ホラーの名作ですからねー。
敬愛するジジイには、ぜひ観てもらわないとー。」
その言葉に、純粋なグリスと違って
さすがの百戦錬磨のジジイは不穏なものを感じた。
「・・・それじゃなきゃダメなんか?
わしゃ戦争映画が観たいんじゃが。」
「うちでは恐いのしかやっておりませんー!」
「なんちゅう、偏ったセレクトじゃ・・・。」
ギャアギャア言いながら、3人で主の寝室へと移動をした。
続く
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かげふみ 1 11.10.27
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かげふみ 31
夜8時過ぎの主の寝室。
DVDをセットした主が、コタツに座り
おもむろに雑誌を開いて読み始めた。
「映画を観るんじゃないんですか?」
グリスの質問に、主が説明をする。
「動画系って、私のペースに合わないんですよー。
ただ観てるだけだと、ものすごく退屈なんですー。
だから映画は必ず、他の何かをしながら観るんですー。」
はあーーー、と驚くグリス。
「リオンはこれを嫌がるんで、困るんですよねー。
この前のヤツのお気に入りのDVD観賞の時なんて、激怒されてー。
私、アニメは観ないけど付き合ってやったのにー。」
そりゃあ怒る人もいるだろう、と内心思うグリス。
主がグダグダ言ってる内に、本編が始まった。
「あの・・・、主様、言葉がわからないんですが・・・。」
とまどうグリスに、主がハッとした。
「あ、ごめんごめんー。
いや、リオンが日本語読み聞き出来るんで、忘れてましたー。
あいつ、ゲームやアニメのために猛勉強したんだとー。」
それ凄いですね! と、感心するグリス。
「ほんっと、筋金入りですよねー。
この映画、日本語オンリーなんで通訳しますねー。」
そう言うと主は映画の会話の通訳に加え、状況の解説も始めた。
「ここは日本の介護サービスの、多分公的機関ですねー。
『担当の○○さんが来てないんだよ。
連絡も取れないんで、きみ代わりに行ってくれる?』
『え・・・、でも私これから用事があって』
『そんな事言わないで、今日だけ! 頼む!』
ここは日本の首都の東京の住宅街ですねー。
ちょっと古い町並みで、新興住宅地じゃないですー。」
雑誌を読みながらの解説に、グリスは驚愕した。
「主様、凄いですね!」
主は、ちょっと動揺しながらかわした。
「ああー・・・、いや私、これは何度も観てるからー・・・。」
映画はシャレにならないほど、恐い。
話が進むにつれ、グリスはある事に気付いた。
「主様、画面をまったく観ていらっしゃらないですよね?」
主は、ギクリとした様子で答える。
「いや、ほら、雑誌を見てても目の端でわかるでしょー?
ちゃんと把握はしていますよー?」
そうかなあ? と思いつつ、グリスは目だけで主を観察した。
主は目の端で観ているどころか、恐い場面になると
雑誌を微妙に上げて、画面を避けている。
「主様、それで “観ている” と言えるのですか?」
グリスの突っ込みに、主が切れた。
「うっせー! こんな恐い映画、直視できっかよー!
良いじゃんー、話はわかっているんだからー!
あ、ほら、来るぞー! 2階ーっ!」
主が慌てて雑誌に顔をうずめたのを良い事に
グリスは、口を押さえて笑いをかみ殺した。
「・・・さすがに同時通訳は疲れるわー・・・。」
「・・・ものすごく恐い映画でしたね・・・。
リオンさんが怒り出すのも理解できました。」
グッタリとするふたり。
「今日もう1本観ようと思ったけど、また今度にしましょうー。
付き合ってくれますよねー?」
“付き合ってくれますよね”
まさか主様がこんな言葉をおっしゃってくれるとは!
グリスは呪怨の疲れも吹っ飛び、懲りずに再び舞い上がる。
「はい、もちろんです!」
「・・・元気がええのおー・・・。」
グリスが部屋を出ようとしたら、主がコントローラーを出した。
「ゲームをなさるんですか?
お疲れになったでしょうに。」
「アホウー!
あんな恐い映画を観た後に、すぐ寝られるかいー!
気分を変えんと、うなされるわー!」
グリスはひとりクスクスと笑いながら、自室へ戻った。
その様子は監視カメラにバッチリ映っていて
監視員たちは、顔を見合わせて不思議そうな表情をした。
続く
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かげふみ 1 11.10.27
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かげふみ 30
養子・・・、主様も賛成なさっておられるし
次の跡継ぎのためを思うと、断る理由はないけど・・・。
グリスはとりあえず、もう少し考えよう、と思った。
「あの、お返事はいつまでにすれば良いんでしょうか?」
コントローラーや攻略本をきちんきちんと片付けながら、答える主。
「相手が私ならば、今! だけど
この国の人の感覚はわかりませんねー。
1週間後ぐらいで良いんじゃないですかねー。
養子も結婚も、選挙のためと見透かされないよう
先手先手でいく必要がありますしねー。」
主は立ち上がって、DVDラックのところに行った。
「グリス、人に利用される、って事を誇りに思うんですよー。
ゴミは誰も利用しませんからねー。
まあ、今はリサイクルもありますけどねー。
それでも、ああいう上流階級が利用する人間には
それ相応の価値があるんですよー。
良かったですねー。」
グリスは、主の言葉をどう受け取って良いか、とまどった。
でもこの主が言う事は、それも真実のひとつのはず。
主様は、ぼくに嘘もお世辞も慰めもおっしゃらない。
そうじゃなくても、ぼくは主様を信じるべきなんだ。
ぼくは主様の跡継ぎなのだから。
グリスのこの盲信は、“愛” と呼ぶものだと
本人は気付かなかった。
そして、愛する相手を尊敬できる事の才能にも。
グリスの生存は、その能力で決まったのであろう。
あの薄汚い路地の、あの日に。
主はDVDラックを見ながら、しばらく考え込んでいたが
壁の時計 (秒針なし) を見て、つぶやいた。
「もうこんな時間かあー、今日は無理かなー。」
「あ、夜遅くまでお邪魔して、すみませんでした。
ゆっくりお休みになってください。」
グリスが慌てて立ち上がると、主が引きとめた。
「あ、待ってー、グリス、あなた恐いの大丈夫ですかー?」
「え・・・? ホラーとかですか?
さあ・・・、あまり観た事がないんで・・・。」
「私、オカルトやホラー、大好きなんですよー。
だけどこの前、リオンに呪怨を観せたら
あまりの恐さに、ひとりさっさと逃げ帰っちゃって
それ以降、日本の心霊映画は一緒に観てくれないんですよー。
本当にあった呪いのビデオ系は付き合ってくれるんですけどねー。」
「呪怨って何ですか?」
「日本の心霊ホラー映画のタイトルですー。
私、ホラー好きだけど、ひとりじゃ恐くて観れないんですー。
一緒に観て、いや、この部屋にいてくれるだけで良いんで
明日の夜、風呂も何も済ませたら来てくれませんかー?」
“いてくれるだけで良い”
まさか主からそんな言葉を聞けるとは!!!!!!
その意味はともあれ、舞い上がったグリスは快く承諾した。
「じゃ、明日、念のために自分の本とか持って来てくださいねー。
途中で無理だと思ったら、自分の事をして良いですからねー。」
「はい!」
リオンは思わずスキップしたくなるような浮かれようで
自室までの廊下で、そのときめきを抑えるのに苦労した。
その高揚感も、翌日の夜には消えうせてしまう事が
爽やかな青年には想像できなかった。
毒キノコは、どう調理しても毒なのだ。
続く
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かげふみ 1 11.10.27
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かげふみ 29
「あの・・・、ありがたいお申し出に感謝いたしますが
なにぶん急なお話ですので、考える時間をいただけないでしょうか?」
グリスの頼みを、リオンは快諾した。
「もちろんでーす。
だけど急いでくださーいね、結婚も控えていまーすから。」
その言葉にグリスは驚いた。
「恋人、いらっしゃったんですか?」
グリスの率直な疑問に、リオンが笑った。
「私たち支配階級の結婚は、大抵が政略なんでーす。
私も今、貧乏貴族の娘を物色中でーす。」
「え・・・?」
グリスのとまどいに、リオンが詳しく説明をする。
「我が家系は歴史はありますが、元は商人だったんでーす。
お金はあるけど身分がないんでーす。
そのために貴族との婚姻で、高貴な血を入れるんでーすよ。」
「でも何故、“貧乏貴族” なんですか?」
「裕福な貴族は己の知恵があり、我々の力を必要としませーん。
貧乏貴族は能無しなので、財産を切り売りしたくなければ
家名に頼っての婚姻で、婚家にタカるしかないのでーす。
我々は彼らを経済援助し、彼らは我々の血筋に名誉をくれる、
GIVE and TAKE でーす。
しかもこういう結婚では、大抵お金がある方が主導権を握れるので
我々にとっては、理想的な結婚相手なのでーす。」
あまりのカルチャーショックに呆然とするグリスをよそに、主が言った。
「あなたの場合、それプラス “ブサイクな娘” というのも
条件に入れといた方が良いですよー、リオンー。」
「何故でーすか?」
「美人の結婚相手だと、“トロフィー・ワイフ” みたいで下品でしょうー?
“見た目にとらわれず中身で女性を選ぶ誠実な男性”
を演出した方が、得ですよー。」
リオンがポンッと手を打ち鳴らした。
「なるほど!!! さすが主でーすね。
その案、もらいま-す。」
「お役に立てて、なによりー。」
汚すぎるふたりのやり取りに、グリスは虚しい気持ちになった。
「グリス、現実を直視しないと、幸せになれませんよー。」
主の心を見透かすような言葉に、ギクリとしつつも
慌てて否定をする。
「い、いえ、ぼくは別に・・・。」
「誰でも自分の価値に迷う時期を送って生きてきているんですよー。
あなたは解説されるだけ、まだ幸運ですよー。
年寄りの言う事は聞くもんですー。」
「主様は年寄りなんかじゃありません!」
そういうところにだけは引っ掛かって、反射的に怒るグリスに
日頃からウンザリしていた主が反撃をした。
「私が年寄りになったら、価値がなくなるとでもー?」
「い、いえ、決してそういう意味では・・・。」
「年寄りと言って否定されるのは、年寄りしかいないんですよー。
若い子が年寄りとか言っても、一笑にふされるだけですからねー。
もちっと配慮して反応しなさいねー!」
「はい・・・、すみませんでした・・・。」
謝って落ち込むグリスに、リオンが優しく肩を叩いた。
「ははっ、主に敵う者などいませーんよ。
主は怒った事すら、すぐ忘れまーすから大丈夫でーす。」
リオンの言葉にムッとして、振り向いて睨む主。
その瞬間TVからバシュッと音がして、自キャラが倒れたのに気付く。
「ひいいいいいいいいっ、セーブしてなかったのにーーーーーっっっ!!!」
「良かったでーすね、これで主の怒りがゲームに行きまーすよ。」
リオンがグリスにヒソッと耳打ちした。
しばらく畳の上に倒れていた主だったが
ムックリ起き上がると、リオンに攻略本を投げつけた。
「おめえのせいだよーーーーーーっ!」
「ええっ、私でーすかーーーっ!」
リオンは慌てて立ち上がり、上着とバッグと靴を素早くかき集め
叫びながら、裸足で部屋を飛び出て行った。
「では、そういう事で、またーーーっっっ。」
ドアに向かってフーフー言ってる主の後ろで、グリスは妙な感心をした。
に・・・逃げ慣れている・・・
続く
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かげふみ 1 11.10.27
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かげふみ 28
「え? 私を養子にですか?」
夜の8時に主の寝室に呼ばれて、何事かと思いながら来たら
リオンがいて、唐突にその話を持ち出されたグリスは驚いた。
「はーい。 本当なら大学進学の時に申し込みたかったのでーすが
あなたの跡継ぎへの気持ちが揺れていたようだったので
気を利かせて控えたんでーすね。」
「でもまた何故でしょうか?」
「叔父があと数年で政界を引退するので
私が票田を継いで、市議会議員になるのでーす。
身寄りのない者を養子にする慈悲は、選挙のために有利でーす。」
隠さない邪心は主で慣れていたとはいえ、グリスはさすがにウンザリした。
隣でゲームをしていた主が、その様子を見て言った。
「グリス、この国では “身分” というものが幅を利かせているんですよー。
あなた、外の学校に行ってた時に、差別されましたかー?」
「はい、同年代の子たちには少し・・・。」
「大学ではー?」
「あ、そういえば、大学ではまったく。」
「後見人のリオンは、大学に面会に来てくれましたか-?」
「はい、度々いらしてくださいました。
講義室や寮を見学なさった後は、大学のカフェでお茶をしたり
大学周辺の美味しいレストランに連れて行ってくださったり。」
「良い車に乗って、良い身なりで、侍従を連れてー?」
「・・・はい・・・?」
主はコントローラーを置いて、グリスに向き直った。
「本来なら、あなたや私は差別対象の人種なんですよー。
あなたが大学で差別をされなかったのは
いかにも身分の高そうなお金持ちが後見人だ、と
周囲にリオンが見せ付けていたからなんですよー。」
グリスはリオンの顔を見た。
リオンはただニコニコとしているだけだった。
「リオンはあなたの着る物も送ってくれてたんでしょうー?」
「はい、季節ごとに。
靴や時計もいただきました。」
「それらはすべて良い仕立てのものだったでしょうー?」
「はい、私にはもったいないほどの高価な物で
いただく度に恐縮したものです。
リオンさん、本当にありがとうございました。
今でも大切に使わせていただいています。」
「私は大金持ちですから、大丈夫でーす。」
リオンは変わらずニコニコしながら、腹黒い答をした。
「あなたの元に来るリオンを直接見てない人も
あなたの格好や持ち物を見て、あなたを軽んじてはならない
と判断していたんですー。
善も悪も関係なく、この国ではそういう感覚なんですよー。
あなたが余計な不遇に邪魔されずに
快適な大学生活を送れたのは、リオンの気遣いのお陰なんですよー。」
グリスは言葉に詰まった。
主との仲に嫉妬をして、リオンを敬遠していた自分を恥じたのである。
「リオンの養子になれば、あなたはこの国で認められますー。
加えて、あなたの次の主候補をあなたが養子に出来る、という
可能性も出てくるんですよー。」
グリスは、ハッとした。
そうか、そういう事も考えて判断しなきゃいけないんだ。
「パスポート期限失効の私には、その選択肢はありませんでしたー。
まあ、ダーティーな手段はあるにはありますけど
リオンの養子である方が、あなたの今後のためになりますしねー。」
主の養子? グリスにそれは酷な話である。
そんな事になったら、親子になってしまう。
いくら血が繋がっていないとはいえ、道義的に罪悪感がある。
「でも養子にも相続権が発生しますよねー。
それはどうクリアするんですかー?」
主がリオンに訊く。
「それは遺留分なしの生前贈与で、最初に片付けておきまーす。」
「あの、たとえ養子になったとしても、ぼくは財産など受け取れません。」
グリスのその当然の遠慮に、リオンが首を振る。
「グリスくん、これはケジメでもあるんでーす。
自分の野望が一番ですが、私は私なりにきみを愛しているんでーすよ。」
「ま、そうじゃなきゃ、いくら作戦のためでも
他人を養子になど出来んわなー。」
主がひとりごとのように言って
TV画面の方を向いてゲームを再開した。
続く
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かげふみ 29 12.2.1
かげふみ 1 11.10.27
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かげふみ 27
さて、マデレンが来てからというもの、主の様子がぎこちなくなったか。
一日目の最初は、それこそカメラを意識して
カメラ目線で妙なポーズを取ったりしていた。
マデレンは特に注意をする事もせず、忍耐強く無言で撮影を続けた。
主様は素人だから、慣れるまでにはかなりの月日が必要だわね。
カメラマンとしての実績は、その忍耐強さに表れていた。
ところが初日の午後にもならない内に、主が言った。
「何かもう、格好つけるのが面倒くさくなっちゃいましたー。
どうあがいても、私は私でしかないし、それを隠す必要もないし
不適切な部分ばっかりでしょうけど
そこらへんは、そっちで何とか体裁つけてくださいねー。
ほんっと、面倒かけてすみませんけどー。」
そう宣言すると、ダラッと椅子に座った。
主は、いつもの主に戻った。
マデレンはその主の姿を見て驚いた。
今まで数々の被写体を追ってきたが
こんなに早く、素をさらけ出す人物はいなかった。
この人はどういう人なんだろう?
マデレンは、レンズを通して主の本質を見つけたい
という、使命とは別のやり甲斐を感じた。
マデレンの標的は、主だけではなかった。
ジジイやグリス、リリー、その他館の諸々の人々
周囲を通して、“主の素晴らしさ” を作り上げるのである。
主の、一日中カメラに追い回される、という懸念も
それによって、少しは薄れた。
館という独特の空間にも、マデレンは興味をそそられた。
不安があったこの役目だけど、楽しく仕事が出来そうだわ
マデレンは日々イキイキと、カメラを担いで動き回った。
マデレンが主の次に興味を持ったのは、グリスであった。
普段から無愛想な態度の主が、この次期主に対しては
目も合わせずに、ことさらに冷たくあたる。
なのに、彼はそんな主に従う。
しかも嬉々として、である。
端整な顔立ちでスタイルも良く、頭も良さそうな
非の打ち所のない若者なのに、何故このような冷遇に耐えているのだろう。
複雑な生い立ちゆえに、辛抱強いのかも知れないけど
それだけでこの仕打ちを我慢できるのだろうか?
マデレンは、主とグリスの関係が理解できなかった。
「ああ、それはな、単純な話じゃ。」
ジジイがカメラに親指を立てながら言う。
ジジイは写りたくて、館に日参していた。
「あんたも数ヶ月、主を撮ってきたからわかるじゃろうが
あやつには “優しさ” というものがないじゃろう?」
「いえ、そんな・・・。」
「かばわんでよい。 事実じゃからの。」
言葉を濁すマデレンに、ジジイが軽く言う。
「じゃがな、特殊なのは、あやつは自分にも優しくないんじゃ。
甘えるわ、我がままだわ、勝手だわ、ロクでもないヤツじゃが
自分を守ろうとだけはせん。」
確かに・・・。
あの素の出し方は、自分を良く見せようとしていたら出来ない。
マデレンは妙に納得できた。
「それが館の者には逆に、“主は自分より皆を守ってくれる” という
安心感を与えておるんじゃよ。
グリスもそうじゃ。
実際に主はグリスを守るためなら、己を平気で見捨てるじゃろうな。
だから普段どんなに冷たくされても
主に対しては絶大な信頼感があるんじゃ。」
はあー、と感心するマデレンにジジイが言う。
「あんたもこの館に関わったからには
主の “守る” 対象になっとるだろうよ。」
「え? そうなんですか?」
驚くマデレン。
「主は、館を守るためだけの存在じゃからな。」
普通に考えれば、人権を無視したひどい話をするジジイに
マデレンが気になって訊いてみた。
「あの、立ち入った事をお聞きしますが
元様は何故この館にいらっしゃったんですか?」
「んー、わしはある国の有力貴族だったんじゃ。
その国の貴族の長男は騎士となり、次男は僧侶になるのじゃ。
わしは長男じゃったんで、戦に出とった。
じゃが、内戦で我が一族の与する側が負けてな。
我が家系は、お家取り潰しとなったんじゃよ。
そのまま国に残ったら、残党どもが “お家再興” とかうるさいんで
諸国を放浪して、たどり着いたのがここじゃったんじゃ。」
「すごい過去をお持ちなんですねえ。」
素直に受け取ったマデレンに、ジジイがピースをした。
「という設定でどうじゃ?」
「えっ? 作り話なんですか?」
ジジイは、フォッフォッフォッと笑うだけだった。
ファインダーを覗きながら、マデレンは思った。
このお方も謎だわ・・・。
続く
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かげふみ 1 11.10.27
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かげふみ 26
「マデレンと申します。」
館にカメラマンがやってきた。
「この館の事は、ひと通り教わってまいりました。
私などがこのような大役を果たせるか、不安もありますが
精一杯努めさせていただきますので
どうぞ、よろしくお願いいたします。」
立派な挨拶をする30代の逞しい女性に
グリスはホッと胸を撫で下ろした。
仏頂面の主に代わって、グリスが挨拶をする。
「こちらこそ、よろしくお願いいたします。
こちらが主様で、私は次期主の予定のグリスと申します。
ご不便な事がありましたら、何でも私にお申し付けください。」
「恐れ入ります。
少し自己紹介をしますと、私はクリスタル州の西の海辺の町出身で
今までは戦場カメラマンをやっていましたが
首と背骨を負傷して、静養中だったのです。
そこにこのお話をいただきまして、自分なりに理解できたので
お引き受けする事にいたしました。」
「とすると、将軍から派遣されたんですか?」
グリスの問いに、マデレンは首を振った。
「いえ、私は軍人ではなく新聞社勤務なのです。
クリスタルシティにあるクリスタル州立新聞社です。
今回のお話は、社主直々のお達しによるものです。」
長老会というのは、どこまでパイプを持っているんだろう
その組織の底の知れなさに、グリスは
決して甘く考えてはいないはずの、自分の取り組む姿勢に
気合いを入れ直した。
ここで気合いの入らないヤツがひとりいる。
「マデレンさん、ようこそいらっしゃいましたー。
ですがー・・・」
「ああ、大丈夫、わかります!」
マデレンは、主の憂鬱をすぐさま汲み取った。
「普通、ずっとカメラに追い回されるなど、ごめんですものね。
ですが、カメラと私を無機物だと思ってください。
いてもいないのです。
撮る側に悪意がないので、すぐに慣れますよ。」
「そういうもんですかねー。」
「野生の動物の映像とかが良い見本ですよね。」
グリスの例えに、主は納得した。
「ああ、なるほどー。」
って、私は獣かい! と思ったが、これも役目のひとつ。
主がさっさと諦めて、気持ちを切り替えた。
「では、申し訳ありませんが、慣れない内は無視させていただきますねー。」
「はい、どうぞしたいようになさってください。
決して無理をなさる必要はありません。
主様のペースでゆっくりといきましょう。」
ふたりのやり取りを横で聞いていたグリスは、主の態度に感心した。
自由奔放なお方には、こんな監視されるような事なんて
誰よりもお嫌であろうはずなのに、それをも受け入れるなんて
このお方は、館の “プロ” なのだ。
自分が主についていき、主の願いを叶えたいのなら
館を攻略せねばならないのかも知れない・・・。
グリスのこの考えは、主様は素晴らしい! という
崇拝に基づく、いつもの感覚だったが
そこに不気味な問題が見え隠れしていた。
今の主に代替わりをして、終息させたはずの相続戦が
形を変えて、次の相続者に襲い掛かっているようにも見える。
管理者の人間としての権利を放棄する犠牲・・・
結局この館は、贄が必要なのかも知れない。
続く
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かげふみ 25
「館はあくまでも公的施設でーす。
我が国では政教分離の原則はないとは言え
あからさまな宗教はいただけなーい。
ですから、情に訴えるんでーす。」
紅茶をひと口飲み、続ける。
「暗い過去を持つ館を改革し、住人たちの心を救った “英雄”、
主をそれに仕立て上げるんでーす。
ひとりの人間を、“恩人” として奉るのは
各地によくある話で、しかも非常に道義的でーす。
神を信仰するのではないので、宗教ではありませーん。
一般民衆の共感も得やすいでしょーう。」
「なるほど、見事な心理誘導だな。」
将軍がつぶやいた。
「そうですね、それなら公でも可能ですね。」
「しかし、“神官” ですぞ?」
「そこは言い方じゃないですかな?
“生涯独身だった主に敬意を表して、館の管理者は独身を貫く”
と義務づける、というのはいかがですか?」
白髪の紳士が落ち着いた口調で発言した。
「「「 おお!!!!! 」」」
メンバーが一斉に、同調した。
「それが良い! ゲン担ぎのようなものだし。」
「伝統は重んじるべき、という我が国の風習にも合う。」
「これで決定ですね。」
会議室の空気が一体になったのをブチ壊すのは、いつも主である。
「あのー、ちょっと良いでしょうかー?
ごく一部には、崇拝者もいますが
どう自分に甘く見ても、“偶像” まで行けないと思うんですがー。」
「それはあんたの死後にするから大丈夫じゃろう。」
失礼な事を見事に言いたれるジジイに、将軍がもっと無礼な異議を唱える。
「ですが、捏造にも限度がある事ですし
主には今から言動を控えていてもらわないと。」
「その事なんでーすがあ。」
リオンが再び提案をする。
「主の毎日の演説は録画されていまーす。
これは後々の良い材料になりまーす。
それだけじゃなく、仕事中などの普段の姿も映像に撮るのでーす。
我々はそれを、切ったり貼ったり塗ったり削ったりして
美しい記録として残せば良いのでーす。」
メンバーのひとりが、ダンディー紳士に耳打ちした。
「いやはや、貴殿のご子息はヤリ手ですなあ。
先が楽しみですな。」
ダンディーは いやそんな、と恐縮しながらも、少し気落ちした。
代々市会議員を務めてきた我が一族だが
私にその才はなく、弟がその役目を肩代わりしている。
その弟も、そろそろ引退すると言っている。
弟の息子たちは、私似で政治家には向いていない。
逆に私のこの長男が弟にそっくりだ。
弟の跡は、多分この息子が継ぐ事になるだろう。
血というものは時折、奇妙な遺伝をするものだな・・・。
ダンディーの生真面目で心優しい性格では、その “才” が
非情で不道徳なものに思える事も、ままあったのだ。
「では、早速カメラマンを手配しよう。」
そう話がまとまりそうになった時に、主が慌てて制止しようとした。
「ちょ、やめてくださいよー!
一日中カメラに追われるなんて、冗談じゃないですよー。」
「きみが素で偶像になれるぐらいに好人物だったら
こんな予算も手間も掛けずに済んだのだがね。」
「うっっっ・・・。」
メンバーのその容赦のない批判に、主は反論の言葉も出なかった。
「では、そういう事で・・・」
「ちょっと待ってください!」
会議を締めようとする声を遮ったのは、意外な事に
主の死後の話にしょぼくれて、ずっと無言でいたグリスであった。
「何かね?」
長老たちは、グリスに優しい。
「カメラマンは女性にしてください!」
「「「「「 !!! 」」」」」
その言葉に、メンバーたち全員が意表を突かれ
主は瞬間だけ、嫌な顔をしたが
すぐさま長老たちに納得されたので、その願いは聞き届けられた。
この会議でグリスは発したのは、このひとことだけだった。
続く
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かげふみ 24
翌日の午前中に、さっそくジジイとリリーは
性犯罪冤罪や女性とのトラブルについて、学習室でグリスに講義をした。
グリスは熱心にノートを取りながら聴いていた。
「・・・と、このような事例が現実に起きております。
これらは交通事故と同じで、いつ自分の身に降りかかるかわかりません。
自分に落ち度がなくても、被害に遭う可能性もあるのです。
だから常日頃から、自分のお立場を自覚し
充分に注意して、節度ある言動をなさいますように。」
「ありがとうございました、リリーさん。
とてもわかりやすくて、勉強になりました。
そんな可能性には気付かずに、皆さんに接していました。
今後は気をつけすぎるぐらいに気をつけようと思います。」
礼儀正しく頭を下げるグリスに、ジジイが訊いた。
「おまえは、自分が格好良いと思った事はあるかね?」
「・・・いえ、主様に避けられているので
とてもそんな自信は持てません・・・。」
ああ・・・、主様の予想通り、
どうしても主様が嫌がる方向へ話がいくわね
リリーは内心、そう思った。
グリスと話すと結局は必ず、主様が主様は主様に、なのだ。
気のない相手からの、そういうアプローチは確かにうっとうしい。
だけど主様はそれもお仕事のひとつだし、とリリーは冷たく流していた。
「元様、次期様、魅力というものは人それぞれの嗜好がありますので
自己判断は意味を成しません。
相手に勘違いをさせない、ふたりきりにならない
特別扱いをしない、心身共に距離感を保つ
そういう具体的な対策を講じてくださいね。」
リリーの冷徹な口調に、ジジイは救われた。
ジジイはグリスの事となると、ついつい感情に流されがちなのだ。
にしても、うちの女性陣は冷めたすぎるのお
やはりわしぐらいは、グリスの気持ちをなだめてやらねば。
ジジイは、早々と自分の力不足を棚上げした。
その日の午後は、今度は4人で会議である。
執務室のソファーに座って、ああでもないこうでもない、と話し合った。
「この問題って、私の死後この館がどう変わるかに掛かってきますよねー。」
「主様! そういう事は・・・。」
グリスの横やりに、主が怒るかと思ったら
やけに優しく諭すように話し始めたので、驚くジジイとリリー。
「いいですか、グリス、これは大切な事だから心して聞いてくださいー。
この館の改革は、私の死をもって完了する予定で進められているのですー。
不吉な話題でしょうが、避けては通れない事なのですよー。
私は、私の死後の館をあなたに任せるつもりなのですー。
私のこの願い、聞いてくれますねー?」
“敬愛する主様のお願い” という、卑怯な手を使い
うっとうしい心配を封じる主。
グリスはその汚い手段に、まんまと騙される。
「はい・・・、私情をはさんで申し訳ありませんでした・・・。」
反省するグリスに、主は続けた。
「予定では、“宗教ではない宗教の館” ですー。
それを前提にすると、管理者を “神官” にするのはどうでしょうー?」
「神官かね!」
長老会メンバーたちは度肝を抜かれた。
館での4人の話し合いでは、良い案が他に出なかったので
とりあえず長老会会議に掛けたのである。
「はいー。 何せジジイとババアだったんで
主の “結婚” という項目までは、考えが及びませんでしたー。
でも、この問題、ものすごく重要だと思うんですー。
管理者だけが館に家庭を持つわけにはいかないでしょうー?」
「・・・そうですよね・・・、想定外でした・・・。」
「確かに、館で家庭を持つのは厳しいな。」
「神官だったら、独身を貫く、という掟も可能ですよね。」
「しかし、そうなると途端に宗教くさくなり過ぎるのがなあ・・・。」
ザワめくメンバーたち。
恰幅の良い紳士が問題提起をした。
「ひとつ問題点があります。
州の公共の施設を宗教化しても良いのか、です。
あの館は、今後も元犯罪者の厚生施設でなければならない。
そこに宗教を持ち込んでも良いものでしょうか?」
「だからこそ、主の偶像化をするのでーす。」
リオンがケーキを食べながら言った。
「あんた、いつ見ても何か食っとるのお。」
「重責を担ってるんで、ストレスが多いんでーす。」
ジジイの突っ込みを、サラリと流すリオン。
「それより、主の偶像化とは何かね?」
メンバーたちが一層ザワめきたった。
続く
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