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あしゅの創作小説です(パロディ含む)

  • 黒雪伝説・王の乱 3

    全員が延々と、は??? となっている最中
    真っ先に事態を認識したのは王子であった。
    「奥さま! 濡れ衣です!」
     
    黒雪は は? と、また王子に言う。
    「戦闘モードに入ってください!
     このままじゃ、謀反人にされますよ!
     私たち、“また” 国を追われますよ!!!」
     
    その言葉に、黒雪のスイッチが入った。
    何がどうなってるのかわからないけど、多分ピーーーンチ!
    黒雪は広間の隅の花瓶を蹴り落して、その台の上に王子を乗せた。
     
     
    「皆さん、王さまのお言葉は誤解です。
     私たちは、この国の繁栄のみを願って・・・」
    王子の言葉を王がさえぎる。
    「ええい、キレイ事をヌカすな!
     余にはわかっておる。
     そなたが余を追い落として王になろうとしている事を!」
     
    「アホか!
     わざわざ追い落とさなくても、王子は自動的に次期王でしょ。
     そんなに寝言を言いたいんなら、思う存分言えるように
     永眠させてあげましょうか?」
     
    黒雪の罵倒に、王はほら見た事か、と叫んだ。
    「聞いただろう!
     余を殺すと!!!」
     
     
    「ほんとに、くびり殺したろか?」
    拳をバキボキ鳴らしていきり立つ黒雪を、王子が止める。
    「奥さま、何でも力押しに持っていくのはやめてください!
     デラ・マッチョ、奥さまを押さえてくださいーっ!」
     
    「えっ、あたしら、デラ・マッチョ決定・・・?」
    嘆きながらも、3人掛かりで取り押さえるので
    さすがの黒雪も、身動きが取れない。
     
    「とりあえず、ここは引きましょう。」
    「えっ? 何でよ、何も悪い事はしていないのにーーーっ。」
     
     
    黒雪の言い分ももっともだが、臣下は王の命令には逆らえない。
    王のおかしさに気付いているのに、王が望む通り
    王子と黒雪を捕えなければならないのである。
     
    「これ以上、この場を混乱させないためには
     私たちが一旦捕まるか、逃げるしかないでしょう。
     捕まえられた場合、奥さまがどれだけ暴れるかわからないから
     城の被害を最小限にするためにも
     ここは逃げる事を選びましょう。」
     
    うーうー唸る黒雪を引きずりながら
    デラ・マッチョたちは、王子のこの意見に賛同した。
     
     
    「どこに行きますか? 王子さま。」
    「とりあえず、西方向に。
     西の村に行くと見せかけて、その後荒野の方面に。
     あそこなら、東国の動きも把握できますから。」
     
    黒雪が追われたなど東国が知ったら、戦になりかねない。
    東国への情報漏れも、事前に止めたい。
     
     
    にしても、また荒野へ・・・。
    あそことは不思議な縁があるようですね。
    王子は必死に女走りをしながらも、あれこれと考えた。
     
    黒雪は縄と毛布でグルグル巻きにされて
    デラ・マッチョたちに、エッホエッホと担がれて運ばれていた。
    追っ手が来ていないのが、こちら側にとっては朗報であった。
     
     
     続く 
     
     
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           カテゴリー 小説・黒雪姫シリーズ 
           
           小説・目次 

  • 黒雪伝説・王の乱 2

    大広間では、黒雪の親衛隊が注目をあびていた。
    しかしそれは遠巻きに遠巻きにで
    彼女らの周囲には、見えないドーナツが置かれているかのように
    空間がポッカリ空いていた。
     
    数日前まで海賊だった彼女らにとっては
    慣れない軍服を着せられた上に
    お貴族様たちの好奇の目に晒されるのは、ひどく耐え難い。
    間が持たずにジリジリしているところに、黒雪がやってきた。
     
     
    頭領、レグランドがホッとして黒雪のところに走り寄る。
    「黒雪さま、おお、ドレス姿がお美し・・・い・・・?」
     
    「お世辞など言わずともよろしい。
     私の美容係など、遠慮なく罵詈雑言の嵐よ。
     まったく、高貴な姫君に向かって・・・。」
     
     
    広間の中央に親衛隊を連れて行った黒雪が、大声で言った。
    「皆さん、ご紹介しましょう。
     今回の旅で功績を上げ、私の親衛隊となった女性たち
     名付けて、肉塊三姉妹です!」
     
    「ちょ、その名前はご勘弁を!!!」
    すがりつくレグランドに、黒雪はガラ悪く舌打ちをした。
    「注文が多いわね。」
    「初めての注文だし!」
     
    「はいはい、わかったわかった。
     えーと、黒雪親衛隊です。
     皆さん、よろしくお願いします。」
     
     
    部屋中から拍手が鳴り響いた。
    人々が親衛隊の体に無邪気に触れて喜ぶ。
    「おお、デラ・マッチョではないか!」
    「凄いですわね、デラ・マッチョですこと。」
     
    「デ・・・、デラ・マッチョ・・・?」
    わけわからん褒め言葉?に、呆然とする親衛隊であった。
     
    “デラ” が何かと言うと
    頭の悪いヤツが、メガ → ギガ (だったっけ?) ときたら
    次の単位は デラ だ! と言い張った事に由来する。
    ちなみに今でも、テラよりデラの方がそれらしいと思っている。
    スペイン語っぽくって良いではないか!
     
     
    「・・・私の存在は無視ですか・・・。」
    王子が暗い顔をして、黒雪の背後でつぶやいた。
     
    「うおっ、びっくりした!!!
     あなた、いるならさっさと声を掛けてくれれば良いのに。」
    「・・・普通の妻は、夫を真っ先に探すものですがね・・・。」
     
    目を逸らしながらブツブツ言う王子に
    黒雪はニッコリと微笑んで、頬にキスをして耳元でささやいた。
    「私の忍耐力はそんなにない、って事はご存知ですわよね? ふふっ」
     
    微笑む黒雪のこめかみに、太い血管が浮いているのを見て
    王子は恐怖を感じたけど、どうしても不満が拭い去れず涙目になる。
    「だって・・・、だって・・・」
     
    「二児の父親が 『だってだって』 じゃありませんよ?」
    黒雪の微笑みは最上級になった。
     
     
    王子の背中に妙にサラリとした汗が流れ落ちた時に、広間に声が響いた。
    「王さまのおなーーーりーーー!!!」
    一同が頭を下げて迎える。
     
    王は、ゆっくりと広間に入ってきた。
    「こたびは王子と妃の働きにより、資源が見つかった事まことに喜ばしい。」
    王子と黒雪は、王の前に出てお辞儀をした。
     
    良いけど、毎回のこの儀式が面倒なのよね
    この王、無能なくせにこうやって威張りたがって
    パーティーばかり開くのがうっとうしいわ・・・
    たまにはあんたも何か役に立て、っつの。
     
    黒雪は王子とのケンカのイライラも合わさって
    心の中で、いつも以上のリキの入った罵倒をしていた。
     
     
    「だがしかし、その真意は
     余をおとしめようとする企みと聞いた。
     正当な王の権威を脅かす、この不届き者たちを捕えよ!!!」
     
     
    会場が は??? と、なった。
    もう、誰ひとり残らず、は??? である。
     
     
     続く 
     
     
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           カテゴリー 小説・黒雪姫シリーズ
           
           小説・目次 

  • 黒雪伝説・王の乱 1

    「おおっ、王子さまと黒雪さまがお帰りになられたぞ!」
    城にはもう早馬による知らせが届いていた。
    今回の旅で、最北西の場所に温泉と鉄の鉱脈が見つかった事は
    城中の者が知っていた。
     
    「さすが、あの黒雪さま!」
    城の者は口々にそう感心した。
     
     
    「・・・私の評価は低いですよね・・・。」
    王子にそう言われたら、普通は返事に困るものだが黒雪は違う。
     
    「しょうがないでしょ。
     F1だって、ドライバーのみが褒め称えられて
     メカニックの苦労は目立たないものだし。」
     
    黒雪に気楽に言われて、王子は激しくムカついた。
    「私だって体を張ってるじゃありませんか!」
    王子の声がワンワン響いた。
     
    場所は風呂場。
    王子専用の広い風呂があるというのに
    黒雪の後を付いてきて、黒雪が脱ぐ隣で王子も脱ぎ始め
    黒雪が湯に浸かる横に入ってきて、グチグチ言ってるのである。
    風呂担当の者たちも、全員困っている。
     
     
    「あらあ、あなた、自分の評価のためにやってるんだー?」
    黒雪が、プププと含み笑いをした。
    これ以上に腹が立つ返しもない。
     
    王子がザバーーーッと立った。
    お、くるかな? と黒雪は思ったが、無言で風呂場を出て行った。
    さすがの王子も、今までになく激怒したようである。
     
    黒雪はそのまま、振り返るでもなく
    のんびりとお湯に浸かりながら鼻歌を歌った。
     
     
    「放っといて良いんですのん?」
    ヌッと顔を出したのはキド。
    キドは、またボウルでパック剤を練っている。
     
    「おまえの、そのパック、臭いのよねえ。」
    黒雪の嘆きを、キドは無表情で切って捨てる。
     
    「無臭にするには、また余計な処理が必要なのですわん。
     今はもう、美容は “ナチュラル” の時代ですのよん。
     そんな事より、王子さま、可哀想じゃないのん。」
     
    「んーーーーー。」
    黒雪は、困ったように唸った。
     
     
    “国のため” という信念をブレさせたらいけない。
    何年もお偉いさんをやっていると
    その内に、大義よりも保身が大事になってくる。
    評価などを気にしていたら、判断に支障が出るというのに。
     
    これを黒雪が本能で知っていたのは
    生まれつきのお姫様だったからである。
    評価などなくても、過去は揺るぎないのだ。
     
     
    あの人も妖精界の “王子” とはいえ
    私と違って、生まれた時から既にその立場を失っていたんで
    今のこの地位にしがみつきたがる恐れもある。
     
    北国の再興と繁栄のためには、評価うんぬんは諦めて
    無償で使命を果たしてもらわないと。
     
     
    鏡の前でマッスルポーズを取り、自慢の筋肉を確認しつつも考える。
    さあて、どうやったらあの人が納得するかしら
     
    黒雪にしては珍しく、少し悩んでいた。
     
     
     続く 
     
     
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           小説・目次 

  • 亡き人 後書き

    この話は、私の死生観を元に書いていたのだけれど
    連載している時に、東北大震災が起こり
    亡くなった人が大勢いるのに
    死がテーマの物語を続ける気にはなれずに
    中断した、という特異な経緯がある。
     
    その間、私の死生観が変わったかと言うと、変わらなかった。
    自分でも思うけど、私のそういう感覚は特殊だと思う。
     
     
     
    実母は、私が殺したと思っている。
    兄も親族も、誰も母の生命維持装置を止められなかった。
    止めたのは私。
    何のちゅうちょもなかった。
     
    心の中で母に、“お疲れ様でした” という言葉を掛けながら
    むしろ私は、母の死を祝福していた。
    院内感染という “事故” ではあったけど
    母は人生を全うしたと思えるのだ。
     
     
    母が死んだのは、今でも寂しい。
    幽霊でも良いから、ずっと側にいて欲しい。
    出てこられるのは恐いけど、いる、とわからせてほしい。
     
    私はいつ誰とどこで何をしてても、孤独を感じるようになってしまった。
    まるで世界でひとりきりのような気がするんだ。
    愛してくれた親の死というのは
    こんなに感覚に影響するものなんだろうか。
     
    だけど、だからこそ、自分で母の命を止めて良かった。
    こんなに愛してくれた母だから、私が殺せて良かった。
     
     
    ただひとつ、悔いがあるとしたら
    それをすべき資格があるのは
    母の晩年に一緒に住んで、入院した母の面倒をみた兄である事。
     
    だけど兄にその決断は出来なかった。
    兄は、愛ゆえに母の命の行方を決められなかった。
    私は、愛ゆえに母の命の行方を決めたかった。
     
    きっと多くの人は、兄の感覚に共感すると思う。
    私の感覚はおかしい。
    それは認めるけど、恥はしない。
     
    念のために解説するけど
    母は、兄も私も同じように愛してくれた。
    少なくとも私は、母の兄と私への愛情の違いを感じた事はない。
     
     
     
    “亡き人” の最後には、異論が多いと思う。
    がっかりした人もいるだろう。
     
    私には私の言い分があって、小説を書いている。
    と言うか、私の感覚ではない事を表現するのが、どうも苦手で
    そんな事では、話の幅が広がらないので
    何とか、私にない考えも取り入れていこうと頑張っている最中なんだ。
     
    だから今のところの、私が書いた小説全部に
    私なりの意味を含ませている。
    実はどの話も、意味のない展開はひとつもないんだ。
     
     
    だけど映画やドラマや小説は
    観た読んだ人が、それぞれの感覚で解釈して
    自由に想像を膨らませていくのが面白さのひとつだろ?
     
    そこに、「これはこういう意味なんだよ。」 と
    たったひとつの答を言うのは
    いくら書いた本人とはいえ、興醒めもはなはだしい。
     
     
    だから “亡き人” の解説はしない。
    最終話のあの場面は、現実なのか、夢なのかあの世なのか
    誰が誰とどこで会ったのか、それがどういう意味を持つのか
    私の中には私の物語がある。
    このシーンを、あいまいに書いたのにも理由がある。
     
     
    だけど告白すると
    ひとつだけ書けなかったのが、長野の未来。
     
    この小説の “ゼロ” は、私が書いた小説の登場人物の中で
    実際の私の性格に一番近いキャラなんだよ。
     
    私を必要としたのに失ったヤツが、どうなるのか
    私には、どうしてもわからなかったんだ・・・。
     
     
     
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          小説・目次 

  • 亡き人 40

    砂利に足を取られないように、板の上を歩く。
    歩幅が合わずに、よろけつつ。
     
    それが現実ではないという事は、すぐにわかった。
    でもトンネルが見えた時には、いやだな、と思った。
    薄暗さもだけど、列車が来ないかが恐い。
     
    少し歩調を速めるけど、走る事はしない。
    何となく。
     
     
    トンネルの出口では、光の眩しさに
    しばらく立ち尽くしてしまった。
     
    目が慣れてきて、少しずつ視界が開ける。
    遠くに女性が立っていた。
     
    その小さな人影に、何故に真っ先に気付いたのか。
     
     
    真っ青な空に、真っ赤な花畑の中
     
    黒い髪に白い服のその女性だけ
    まるで塗り忘れたかのように、色がなかったからである。
     
     
    その女性は、こちらの存在をわかっていたかのように
    ゆっくりと振り返った。
     
    白も “色” なんだな、と気付いた。
     
     
     
    山口・・・・・父親の会社の跡を継ぎ、危ぶまれつつも
           人材に恵まれ、業績を安定して維持させる。
           結婚後、一男一女の父となる。
           
    福島・・・・・プログラマーになり、結婚後、子供も儲けるが
           激務に離婚、離職。
           田舎に移り住んで、土と共に暮らす人となる。
           
    岡山・・・・・実家の神社を入り婿で存続させ
           自分は、地元では有名な “霊能巫女” となる。
           子供を3人産み、なお精力的に活動をする。
           
    石川・・・・・ゼロの言い付けを守って、キャリア官僚をゲットするも
           第二子を産む際の、夫の浮気が原因で別居。
           そろそろ許してあげてもいいか、と高飛車中。
     
     
     
    長野太郎・・・ 
     
     
     
         終わり
     
     
     
      < おまけ >
     
     スピリチュアル・長崎は、ゼロ捜索時の働きを買われて
     探偵会社に就職した。
     後の霊能力探偵の誕生である。
     
     が、この話を広げたくはない。
     
     
     
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          亡き人 1 10.11.17 
          
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          小説・目次 

  • 亡き人 39

    「いいか? 勘違いするなよ?
     これは美談じゃないぞ。
     私はおめえらにとって、“弊害” だ。
     何気なく近くを歩いていたら、手を引っ掻かれて
     ちょっと血が出たりする、有刺鉄線のようなものだ。」
     
    ゼロは寝心地が悪そうに、体を起こした。
    「私は死ぬ。
     苦しんで、のたうち回って
     助けて、死にたくない、生きていたい
     と、泣き喚きながら死んでいく。」
     
    急に咳き込んで、伏せるゼロ。
    「大丈夫か?」
    スピリチュアル・長崎の手が画面に映り込むが
    ゼロにヒステリックに、はらわれる。
    「私の人生に敬意をはらえるのは、私だけなんだ。
     だから 『死にたくない』 と、あがくんだよ。」
     
     
    「この私の無様な姿を、一生忘れるな!
     私と出会った事を後悔せえ。
     死を恐れろ!!!
     生きていく義務というのが、どんなに辛いか
     でも幸運で当たり前なのか、脳に刻め。」
     
    布団を両手で掴みながら、カメラを睨むゼロの表情は
    怒っているのか、嘆いているのかわからない。
     
     
    肩で息をしながら、再び横になる。
    その、ゆっくりとした動きは、止まる寸前の機械のように見えた。
     
    「・・・一瞬で消える関係もある、と教えてやったんだから
     私に充分に感謝して、隣にいるヤツを大事にせえ。
     おめえらに対して、未練など1mmもねえよ。
     私はとっとと成仏するから、うぜえ想いは持ってくれるなよ。」
     
     
    しばらくの間、ゼロは無言で宙を見つめていた。
    ほんの数秒だったけど、何分にも思えたのは
    その様子が儚げで、不安をあおったからであろう。
     
    「スピリチュアル(笑)・長崎、もう良い。
     言いたい事は永遠にあるんだけど
     どっかでキリを付けないとな。」
     
     
    「こんな映像、見せられる方はたまらないぞ。」
    スピリチュアル・長崎の言葉に、ゼロが鼻で笑う。
     
    「隠せよ、良識ある “オトナ” たち。
     絶望に見えるであろう私の最期を。」
     
    「悪いけど、そうさせてもらう事になると思う。」
    「ふふん、賭けようぜ、あいつらがこの映像を見つけるかどうか。
     その時も止めろよ、観るべきじゃない、と。」
     
    「何を賭けるのだ?」
    「んー、おめえが負けたら、死ね。」
    「何だ、その、やったらいけなさ過ぎるバクチは!」
     
    ゼロは横目でニッと笑う。
    「おめえは負けるよ。
     私はもう既に今この時も、あいつらに見られている気配を感じるんだ。」
     
     
    その後、スピリチュアル・長崎に向かって敬礼をする。
    「んじゃ、スピリチュアル(笑)・長崎
     50年後ぐらいに迎えに来るんで、賭けのツケを払えよ。」
    「50年後は、私は普通に生きていない気がするのだが・・・。」
     
    「ばかもの、ギャグだよ。
     おめえ、ほんとに頭が固いな。
     そんなんじゃ、いつまで経っても貧乏霊能者のままだぞ。
     置き土産に、ひとつ忠告をしてやろう。
     
     和 服 を 着 ろ
     改 名 し ろ
     
     言われた事ねえだろ?
     気の毒すぎて、誰も注意できねえんだよ。
     そこをあえて言ってあげた私に感謝せえ。」
     
     
    ゼロは目を閉じた。
     
    「てか、疲れた。
     もう寝るよ。 目が覚めるかわからんけど。
     ふん。」
     
    「・・・ああ、おやすみ・・・。」
     
     
    暗転。
     
     
     続く。
     
     
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  • 亡き人 38

    「映像を撮るのは構いませんけど
     できれば一生、隠しておいてください。
     大事なのは、生きていく人たちですからね。」
     
    弱々しく喋っている、ベッドに横たわる老婆。
    かすかにゼロの面影がある。
     
    「ふふ、生霊だなんて知らずに、自由に動き回っていたせいで
     目覚めてみたら、年齢以上に体にガタが来ていたわ。」
     
     
    私は幸せな人生でした。
    両親には可愛がられ、愛する男性と結婚して
    何不自由ない暮らしをしていました。
     
    それがどうしてこうなったのか・・・。
    目覚めてみれば、夫は他に家庭を持ち
    両親は既に他界し、ひとりぼっちになっていたのです。
     
    もう思うように体も動きません。
    多分あとちょっとで、私の命は尽きるのでしょう。
     
     
    何も生み出せず、残せなかった私の人生
    普通はこのままだと、きっと成仏できずに
    本当の霊になって、さ迷っていたでしょう。
     
    だけど私は幸せだったと思えるのです。
    あの子たちの側で過ごした数ヶ月間
    まるでそのために私は生まれてきた、とすら思えるのです。
     
    今も目を閉じて想うのは、あの子たちの事ばかり。
    どうか幸せになってほしい
    何の打算もなく、心からそう願える。
    その瞬間、自分がとても美しい魂を持った気分になれるわ。
     
    こんな気持ちで死んでいけるなんてね・・・。
    ・・・ありがとう。
     
    老婆は微笑むと、目を閉じてひとつ大きく息を吐いた。
     
     
     
    次の瞬間、カッと目が開く。
    「こんなのを、おめえら “良識あるオトナ” は
     期待してるんかよ?」
     
    カメラに向かって、中指を立てるその姿は
    辛そうにベッドに沈み込んでいても
    まぎれもなく、“ゼロさん” だった。
     
     
    「いや、日本人なら、こうだな。」
    握り拳の人差し指と中指の間から、親指の先を出す。
     
    「なあ? スピリチュアル(笑)・長崎ぃ~~~っ。」
     
    映像を撮っているのは、スピリチュアル・長崎のようだ。
    「予定と違うではないか、勘弁してくれ。」
     
     
    「この “ゼロさま” の話を、そんな美しく綴らせねえぞ。
     私に関わったんなら、最後まで付き合うしかねえんだよ!
     特におめえは、私を退治しやがったしな。」
     
    「恨まれる筋合いはないぞ。
     あのままだと、本当に浮遊霊になってたのだぞ。」
     
     
    ゼロが枕元の雑誌を、スピリチュアル・長崎に投げつけた。
     
    「それでも良かったんだよ!」
     
     
     続く。
     
     
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  • 亡き人 37

    「・・・というわけで、獅子の親が誕生してるんだけど・・・。」
    居酒屋に仲間たちを集めて、CDを出す山口。
     
    「長野くんが来てないけど、どうしたの?」
    訊く石川に、山口が口ごもる。
    「だって、あいつにとっては一生を左右する事だろ。
     ・・・ウカツに話せないよ。」
     
     
    「私たちの一生だって、左右されてるけどね。」
    岡山が冷たく言い放つ。
    「はっきり言うけど、私はその映像は観たくない。
     私にとってのゼロさんは、あのゼロさんだから。」
     
    「それは、ちょっとひどくないか?」
    福島が非難めいた口調でたしなめると、岡山がいきり立った。
     
    「それ、ゼロさんの最期の場面じゃないの?
     ゼロさん、私たちに見せたくなかったんじゃないの?
     だから山口くんのお父様は隠したんでしょ。」
     
    ザワザワしている居酒屋で、自分たちの周りだけが
    時が止まったように静まり返ったような気がした。
     
     
    「・・・ゼロさん、成仏しないで、また戻って・・・」
    福島の言葉を、岡山がさえぎった。
    「ゼロさんは成仏したわ!」
     
    「・・・うん、ごめん・・・。」
    福島がうつむく。
    石川もうつむく。
    岡山など、涙目になっている。
     
     
    「じゃあ、これは封印、って事だな。」
    山口がバッグにCDを入れた。
     
    皆しばらく、無言で飲んだり食べたりしていたが
    口を開いたのは福島だった。
    「いや、全員で観るべきだと思う。」
     
    「私は見たくない、ってんでしょ。
     何で無理やり見せられなきゃいけないのよ?
     “逃げちゃいけない” なんて、キレイ事を言わないでよ?」
    岡山のとげとげしい口調に
    福島はオドオドしながらも、言い切った。
     
    「それは、ぼくたちが “ゼロさんを見たがった” からだ。」
     
     
    他の3人が、痛いところを突かれたような表情になった。
    そうだ・・・、あの時、興味本位で長野のアパートに行き
    ゼロさんに会えて、ただ純粋に喜んだんだ・・・。
     
    「ぼくたちは、自分の好奇心の責任を取らなきゃいけない
     と思うんだ。」
     
     
    「待てよ、俺たちはそれで良いかも知れないけどよ
     長野はどうなんだよ?
     ゼロさんから、あいつのとこに来たんじゃないか。」
     
    「・・・呼んだんだと思う・・・、長野くんがゼロさんを・・・。」
    岡山の言葉に、石川が避けるように身構える。
    「やだ、恐い事を言わないでよ。」
     
    「ごめん、でも、そうじゃなくって
     長野くんは、それが宿命だったんだと思う。
     そう考えると確かに、ゼロさんが何であれ
     私たちは見届けなくちゃいけないし
     長野くんは、終わらせなくちゃいけないのよね。
     じゃないと、進むどころか留まる事も出来ない・・・。」
     
     
    「ちょ、あんた何者よ?」
    ビビって体を離す恐がりの石川に、岡山がサラッと答える。
    「私は神社の跡継ぎ娘よ。」
     
    「「「 へえええええええええ? 」」」
     
    何年も付き合ってきて、今更ながらに知った
    驚愕の事実であった。
     
    「通りで鉄の処女なのねえ。」
    思わず余計な言葉を洩らした石川を、岡山が睨む。
    「そうよ、あんたとは違うのよ
     このスイーツ・ビッチ!」
     
    「え? そういう風に思ってたわけ?」
    「あんたこそ!」
     
     
    「ちょ、止めろよ。」
    慌てて止める山口と福島を、逆に石川と岡山が怒る。
     
    「ゼロさんがいなけりゃ、口を利く事もなかったのよ
     そんぐらい別世界の人種なのよ、私たちは。」
    「それがケンカできるぐらいになれたのは
     ゼロさんがいたからなんだからね。」
     
    「えっと・・・?」
    意味がわからない山口に、福島がささやく。
    「要するに、“ケンカするほど仲が良い”
     と、言いたいんじゃないだろうか?」
     
    「ああ・・・???」
    女心は複雑怪奇。
     
     
     続く。
     
     
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  • 黒雪伝説・略奪 9

    海賊たちと王子は、明け方まで話し合った。
     
    船酔いの後の徹夜・・・。
    ゾンビのような風情で船室に入ってきた王子を出迎えたのは
    壁に片足を立てかけ、もう片足は床へとはみ出し
    頭をベッドから落として、ゴオゴオいびきをかく黒雪だった。
     
    「そんなあなたも好きですよ。」
    王子は黒雪にキスをして、布団の空いた隙間に潜り込んだ。
     
     
    翌朝、いや、もう昼過ぎなのだが
    ほぼ全員が寝不足の体調不良の中
    ひとりだけ12時間睡眠をした黒雪が叫ぶ。
     
    「あーーーっ、寝過ぎで頭が痛いーーー!」
    こんなに人心を逆撫でする言動もあるまい。
     
     
    「奥さんに説明したのかい?」
    頭領が王子に訊く。
    「いえ、まだ・・・。」
     
    「何で言わないのさ?」
    「奥さまは、あまり気になさらないと思いますよ。」
    「あたしらが気にするんだよ!」
     
    半ボケでスープをすする黒雪のところに頭領が行き、肩膝を付いた。
    「黒雪さま、今日からあなたにお仕えさせていただきます。」
    「ああ?」
     
     
    王子と海賊の間で決まったのは、こういう事である。
    海賊稼業を廃業し、この地に再び村を築く。
    村の収入は、漁業と温泉と鉄の採掘。
     
    そして、村は “秘密を守り継ぐ村” として
    王国に忠誠を誓い、王族直営地とする。
     
     
    へえ、上手い事まとめたわね
    寝ボケ頭でそう思いながら、黒雪は言った。
    「で、何で私に仕えるの?
     こっちのヒ弱い王子にこそ、護衛が必要じゃないの。」
     
    頭領は厳かに頭を下げた。
    「元海賊として、まがりなりにも武力を誇ってきた我々としては
     強く逞しいお方にお仕えしたいのです。」
     
     
    この言葉に気を良くした黒雪は、調子こいた。
    「その気持ち、汲み取ってあげましょう。
     ではこれから、妃の親衛隊は代々この村から選出いたします。」
     
    「はっ。」
    敬礼する頭領に、黒雪が訊く。
    「で、どの人を貰って良いの?」
    「ご自由に。」
     
    「うっひょおーーーーー!!!
     早速みんな、甲板へ出て!」
     
    黒雪は、居並ぶ海賊たちの前を何度も行き来した。
    途中、筋肉をチェックしたり、乳を揉んだり
    どこの人身売買かと疑いたくなるような、やりたい放題である。
     
     
    異様に熱心に確認した後、もったいぶりながら宣言した。
    「では、まず頭領、おまえ。
     そしてそこのでくのぼうと、そっちの肉団子
     おまえたち3人、良ければ私に付いてきなさい。」
     
    「「「 ははっ! 」」」
     
    でくのぼうとは、ひと際背が高い
    明るいブラウンの髪を三つ編みにした女性で、名はクレンネル
    肉団子は、丸々と肥え太ったエジリンという女性である。
    頭領の名前は、レグランドと言う。
    呼び名はともかくも、3人とも選ばれて光栄そうである。
     
     
    その様子を遠目に見ながら、王子は少しヒガんだ。
    兵隊ごっこですか、楽しそうですね・・・。
     
     
    海賊村の建設は、来年の春を待って着工する予定にした。
    それまでは、海賊たちは北西の村に世話になる。
     
    「一番近くの村同士になるのですから
     仲良く交流してくださいね。」
    王子が念入りに仲裁をした甲斐もあって
    どうやらこうやら、円満解決へと向かった。
     
     
    黒雪は親衛隊を連れて、城へと戻った。
    城ではとんでもない事態が待ち受けてるとも知らずに・・・。
     
     
     
           終わり   
     
     
     
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           カテゴリー 小説・黒雪姫シリーズ
                  
           小説・目次 

  • 黒雪伝説・略奪 8

    「頭領にだけ全部話して、海賊たちにどう言うかは
     頭領自身に任せりゃ良いんじゃない?」
    黒雪のこの言葉で、王子は頭領にすべて話す決心をした。
     
    “事実” を聞いた頭領は、意外にもすべてを信じた。
    「いくら貴人の言う事とはいえ、鵜呑みは感心せんなあ。」
    混ぜっ返すような黒雪の言葉に、頭領は真面目に返した。
    「鵜呑みにするだけのワケが、こっちもあるんだ・・・。」
     
     
    頭領が顔をグイッと近付けて訊いた。
    「あたしらが何故、海賊をやっているかわかるかい?」
    黒雪も顔をググッと近付けて答える。
    「暴力で稼ぎたいから?」
     
    王子がバシーーーッと黒雪の頭をはたいた。
    「皆が皆、あなたみたいな人じゃないんですよっ!」
     
     
    「あたしらの部族は、昔は海賊じゃなかったんだ。
     ちゃんとした “村” があったんだ。
     それが偶然にもここ、この地なんだよ。」
    見回すと、確かに廃屋がポツポツ残っている。
     
    「うちの村は男たちが船を作り、畑を耕し
     女たちが漁に出る、という風習だったんだよ。
     海の神様は男性なんで、男が海に出たら荒れる
     という言い伝えがあってね。」
     
    「それは珍しいですね。
     多くの地では、海の神は女性だと言われてますよ。」
    「へえ、じゃあ、さっきのタコは男だったから
     触手攻めをしてたのね?」
     
    下ネタのつもりは、さらさらない黒雪だったが
    王子が青ざめた顔で、たしなめる。
    「奥さま、軟体動物が相手でも私は妬きますよ!」
     
     
    頭領がイラ立った様子で、溜め息を付く。
    「あんたたちが仲が良いのは、よーくわかったから
     今は “こっちの事情” に集中してくんないかな?」
     
    「あ・・・、すみません。」
    王子だけが恐縮して詫びた。
    黒雪はテヘヘと笑っている。 悪気はないようだ。
     
     
    「あたしがまだ10代の頃だった。
     嵐で何日も海上で立ち往生させられて
     やっと村に戻ってこれた、と思ったら
     村はこの通り、廃れてしまっていたんだ。」
     
    両手を広げて訴える頭領。
    「留守にしていたのは、ほんの数日だったのに。
     その時に村にいた人々は行方不明さ!」
     
    「王子をさらったのは、何か知ってるんじゃないかと思ったからさ。」
    と言ったが、王子をおとりに黒雪を呼び寄せたのは
    ついでに、噂の黒雪を見てみたかったからでもある。
     
    頭領は頭を抱えた。
    「何かがおかしいんだ。
     世界が変わったとしか思えないような・・・。」
     
     
    「ああー、それ多分、王子組み込みリセットされた時だわ。
     洋上にいたから、見過ごされたんじゃない?
     結構、適当な再生をしてるっぽいし。」
     
    「無神経な言い方をしないでください!」
    怒る王子に、黒雪があっさりと言い捨てる。
     
    「だって神さまのやってる事自体が無神経なわけでしょ。
     人間は少しは被害者ヅラしても良いと思うわよ。」
    「それを言われると・・・。」
     
    暗い顔をする王子の顔を覗き込んで、黒雪が優しい口調で言う。
    「ああ、あなたは人間出身じゃないけど
     根本的には、あなたのせいじゃないんだから
     ウジウジしないでねー?」
     
    「ウ・・・ウジウジですか・・・。」
    王子は複雑な気分になったが
    黒雪はこれでも慰めているつもりなのであろう。
     
     
    「じゃ、あたしらには文句を言う事すら出来ないってわけだね?」
    説明を受けた頭領は、怒りに満ちた表情で言ったが
    黒雪は容赦なく言い捨てた。
     
    「ふん。 型通りのセリフを言わないでよ。
     しょうがないじゃない。
     おまえ、あのデカい手を見て、かなうと思える?
     自分個人のプライドやらを大事にして、強大な敵を作るより
     弱者ヅラして、ご褒美をむしり取る方が
     ずっと国のためになると思わない?」
     
    黒雪は、握っていた鉄の石をグッと突き出す。
    「だから真実は、あまり知らせたくないのよ。
     被害を実感しなきゃ、傷も付かない。
     おまえ、どの仲間にどの程度伝えるか、よく考えることね。
     知って良かった真実なんて、実際はどうでも良い事ばかりなのよ。
     ほとんどの事が、知らなきゃ良かった~~~(泣) なんだから。」
     
    頭領は言葉に詰まった。
    黒雪の言う事はドス黒いけど、的を射ている。
     
    「不思議な事もあるものね、で終わらせときなさいよ。
     皆が皆、現実に耐えられるわけじゃないんだし。」
     
     
    こんな脳みそが筋肉の姫さんに、要点を突かれるとは・・・
    固まって狼狽する頭領を見かねて、王子が入れ知恵をした。
     
    「あの・・・、“使命感” なら
     比較的、変換しやすいと思いますよ?」
     
     
     続く 
     
     
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