カテゴリー: 小説

あしゅの創作小説です(パロディ含む)

  • 小説を書いて

    黒雪姫が、とりあえず終わった。
    バラ撒いた謎の解明をせにゃならんので
    続編続編と、延々続くんだけど、立て続けに書くと
    黒雪姫シリーズが私の代表作になってしまう。
     
     
    何を文豪みたいな事を言いたれているか、っちゅうと
    「ええー、そんな私なんてー・・・」
    とか、謙虚たれて謙遜ぶって
    作者の体面みたいなんを守るために
    イヤイヤ渋々のフリをして
    発表しているものを、喜んで読みたいか?
     
    私は、どんなくだらんものでも
    「これだああああああああああっっっ!」
    と、出されたものに敬意を表したいんだ。
     
    この程度で何を威張っておる! と
    ちゃぶ台返しをしたくなる場合もあるけど
    それでも “どうだ!” の方が、すがすがしくて好きなんだ。
     
     
    ここで、ついでの噛み付きをするがな
    「あんなもの小説じゃない」 とか、思われてるかも知れんけど
    その通りかも知れんけど、私は小説を読まないんで
    小説がどんなものかすら、わからん。
    が、その “あんなもの” を、私の小説だと自称する。
    “小説” というものを知らんくせにな。
     
    それがヘタだろうが、稚拙だろうが
    私は小説を書いてるつもりなんだ。
    “小説のようなもの” とか、言い逃れはしないぜ。
    このブログにアップされているのは
    私が書いた “小説” だ!!!
     
     
    で、話を元に戻すと
    私の本質は、やっぱりホラーなんだよ。
    血みどろの暴力劇を書きたいわけだ。
     
    でも、それだと、全員ドン引きだろ。
    ホラー、映画の分野でも人気ないもんな・・・。
     
    私のような上品な淑女が、血ドバーとか
    書くのが価値があるのに
    世の中はそれを理解してくれん。
     
    しょうがない、世の多くの天才は
    死後に評価をされるものだから
    きっと私もそれなんだろう、と自分を慰めているさ。
     
    わかっとる!
    関係ない方向に自画自賛に走ってる気もせんでもないから!
     
     
    あー、もう、何でこう狂ったナビのように
    横道に逸れまくるんだろうな。
     
    とにかく、この次は違う内容のを考えていて
    それは多分、楽しい話ではない。
     
    黒雪姫シリーズは、喜劇なので
    安心してアップ出来るんだけど
    マイ趣味系小説は、こうやって言い訳をせにゃならんほど
    アップするのが恐いんだ。
     
     
    と言うかな、“小説を書くのが趣味” と言っていたけど
    調子に乗ってました、ほんとすみません。
     
    ジャンル・やかた は夢が基で話は出来上がっていたし
    パロディなので
    パクれば良かったんで、ラクだったんだけど
    1から脳内で作り上げるとなると、ものすごい苦労・・・。
     
    創作がこんなに大変だったなんて・・・。
    ほんと筆が進まないんだ。
    本職の方々の苦労を、ちょびっと知る事が出来たかも。
     
    でもドS私はここに宣言して、自分を追い込む。
    あさってから新しい話を、一日おきにアップする!
    さあ、必死こけ、私。
    どこぞの政党のように、公約破りはするなよ。
    出来ないなら寝るな!
     
     
    ・・・こんな事をやってて何になるか、というと
    別に意味はないかも知れないけど
    やり遂げる事で、自分の存在意義を確認したいのかもな。
    ダラケきった人生に渇?
     
    でも正直、今回の宣言は本当に辛い。
    あまり苦労話をするのもどうかと思うけど。
     
     
    でも、私、何のかんの言って、やれると思う。
    “火事場のバカ力” を出す瞬間って
    ものすごく快感なんだよ。
    だからついつい、自分を追い込んでしまうんだ。
     
    こういう事は、これで最後にして
    のんびりと記事なり小説なりを書いていきたい。
    寿命を縮めてる気がするし
    ババアには結構危険な遊びかも。
     
    皆、自分縛りという、私の変態嗜好につき合わせて、ほんとすまない。
    来年は、“安心して見れるブログ” を目指したい。
     
     
    最後に、またまた余談になるけど
    小説を書き始めてな、少し生活が変わったんだ。
    本とかマンガとか映画とかドラマとか、観なくなったんだよ。
     
    観るのは、自分が書かないであろうジャンルの
    推理系や刑事もののみになっちゃったよ。
    (恋愛ものはどうしても観る気がせず・・・。)
     
    だってさ、パクリ、したくないじゃん。
    パクるつもりはなくても、記憶の隅に残ってて
    それを自分の創作だと勘違いする可能性もあるわけじゃん。
    でも観ていないなら、知らないなら
    “カブった” と、堂々としていられるだろ。
     
    小説書きを趣味にするなら、情報系の調べ物以外は出来ない。
    何かそんなんやってたら、器が小さい人間になりそうだけど
    米粒に絵を描く人もいるわけだから
    小さくても良いかも知れない、と
    自分を誤魔化している真っ最中である。
     
    そんで、この記事はうっぷん晴らしと時間稼ぎである・・・。

  • 黒雪姫 42

     「まあまあ、またお会いできるとは!
     あの時はロクにご挨拶も出来ずに・・・。
     え? 北国の王子におなりに?
     それは本当に喜ばしい事ですわ!
     あなた、王様、このお方が黒雪姫の恋人ですわよ。
     ほほほ、そうスネずに。
     第一王子、こちらにおいでなさい。
     ほら、以前話したヘビ王子、それがこのお方よ。」
     
     
    「王子が許されて、北国の王子として
     人間界に組み込まれたらしいぞ。」
    「おお、賢者さま、それは良かったですな。」
    「妖精王さまも神さまも、粋な計らいをするもんじゃて。」
     
    「そして王子は、黒雪姫と再会できたらしい。
     黒雪姫は北国に嫁ぐらしいぞ。」
    「ほお・・・、あの女を嫁にしたい男がいるとはのお。」
    「わしらは何度投げられた事か。」
    「じゃが、あの王子の母はハブ女王じゃし。」
    「あの女も大蛇も変わらん凶暴さじゃしのお。」
    「わしらも、また会えるかのお?」
    「うーん、もちっと心の傷が癒えてからにしてほしいのお。」
     
     
    「久しぶりじゃな。 ヒッヒッヒッ」
    「・・・魔女か・・・。」
    「あたしが奇跡をあげたのに
     結局捕まるとは、あんたも能がないねえ。」
     
    「そもそも最初に敗戦した時点で
     妖精界から逃げるべきではなかった・・・。」
    「じゃあ、あたしが東国に連れてってあげたのは
     いらん世話だと言うのかい?」
     
    「おまえは実に上手くやった・・・。
     “奇跡” という言葉は、わたくしの誇りまで奪い去った・・・。
     いや、そんな言葉を真に受けた時点で
     わたくしはもう誇り高き女王ではなくなっていたのだろう・・・。」
     
    「泣き言はいらないよ、気持ちはわかるけどさ。
     今回の観察では、あんた以外の動きが面白かったしね。
     まあ、それもあんたの働きのお陰だろうから
     ひとこと挨拶に来ただけさ。」
     
    「魔女よ・・・、おまえは何故妖精王の結界を通れるのだ・・・?
     ここは何者たりとも入れぬ、妖精王の牢。
     何故おまえはそこにいる?」
     
    「ヒッヒッヒッ、質問されるのは好きだよ。
     答えるとは限らないけどね。
     ・・・ま、いいさ。
     あたしゃね、何にも属してないから
     結界どころか、時間も関係ないのさ。」
     
    「属してない・・・?」
    「そう。 あたしゃ、少し道筋を曲げて
     こうなるはずなのがどうなるか、それを観察するのさ。」
     
    「よくわからぬ・・・。
     それで何になるのだ・・・?」
    「さあてね。
     あたしにもわからないよ。
     意味はまた他に誰か、考えるヤツでもいるんだろうさ。
     あたしゃただ水面に石を投げて、波紋を見て楽しむだけさ。」
     
    「残酷な存在もあったものだな・・・。」
    「おっと、逆恨みはやめとくれ。
     あんたの現状は、しょせんあんたの資質さ。
     あたしゃ行くよ。 じゃあね。」
     
     
    4回も突付いたというのに、今回は失敗だったね。
    さあて、次はどこへ行くかねえ。
     
    魔女と名乗る観察者は、星のきらめく闇の中でノートをめくった。
     
     
     
    「エ・・・? 結局 ワシ 出番ナシ・・・?」 by 樫の木
     
     
     
             終わり 
     
     
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    音声ブログ : 黒雪姫 1 10.10.27 by かいね
          

  • 黒雪姫 41

    荒野の石ころによろけ、パンプスを脱ぎ捨てて黒雪姫が飛ぶ。
    両手を広げて、ガッシリと抱きとめてくれたのはヘビ王子であった。
     
    「まさかあなたが、こんな出迎えをしてくれるとは思いませんでしたよ。」
    王子の驚きに、黒雪姫も同意する。
     
    「自分でもビックリよ。
     何かわからないけど、むっちゃ盛り上がってるわ。」
    お互いにギュッと相手を抱きしめる。
     
     
    「で、何でここにいるの?」
    「3年前に妖精王さまに許されて、神さまが人間にしてくれました。
     私はいきなり北国の王子になったのです。」
     
    「何よ、その反則技。
     やっぱあいつら、万能じゃないの・・・。」
     
     
    「姫、顔を見せてください。」
    黒雪姫が王子の胸から顔を上げる。
    「逞しくなりましたね。」
    「うん、腕なんかあなたの太ももぐらいあるんじゃない?」
     
    王子が黒雪姫から1歩下がり
    黒雪姫の手を取り、右ひざを付いて頭を下げた。
    「黒雪姫、私、北国の第一王子ジークの妻になってください。」
     
    「え? あなたの名前、ジークなの?
     北国に行ったら竜と戦うハメになりそうでヤだなあ。」
    「ひ、姫ーーーーー・・・・・!」
     
    泣きそうな顔になった王子に、黒雪姫は あはは と笑った。
    それから、一礼して丁寧に応えた。
    「喜んでお受けいたします。」
     
     
    黒雪姫のゴツゴツの手に、丁寧に口付ける王子。
    それから、お互いの従者の方に向かって叫んだ。
     
    「「 このお方は私の婚約者です! 」」
     
    北国側も東国側も、呆気に取られていた。
    ふたりの世界にも程がある、という話である。
     
     
    「首都からここまで1ヶ月ぐらい掛かるんですよ。」
    「こっから東国の城までは40日ぐらいかな。
     北国方面も私が道を作ってあげるわよ。」
    「相変わらず頼もしいですね。」
    「ママンはどうしてるの?」
    「母はまだ妖精王さまの下で幽閉中ですよ。」
    「うちの継母は3人の子持ちになったのよ。」
    「私たちにも沢山子供ができると良いですね。」
    「卵で産まれるんかな?」
    「なわけないでしょ!」
    「あはは」
     
     
    話が尽きないふたりは、手を繋いで荒野をゆっくり歩き出した。
    黒雪姫が脱ぎ捨てたパンプスを王子が拾い、履かせる。
     
    そしてまた手を繋ぐ。
    そして見つめ合う。
    そして微笑み合う。
    そして歩き始める。
     
    そしてふたりの未来がひとつになった。
     
     
     続く
     
     
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           黒雪姫 1 10.7.5  
           
    音声ブログ : 黒雪姫 10,10,27 by かいね   

  • 黒雪姫 40

     ようやく荒野手前まで着いた。
    臨時に張られたテントのひとつで
    黒雪姫を中心に、幕僚たちの会議が開かれていた。
     
    「では、ここら一帯を切り開いて関所を作ろう。
     私は明日荒野に入り、そのまま北を目指す。
     供は4人、途中で交代させつつ行く。
     交代の際には、こちらは新しい地図の写しを持たせるので
     そちらからは飲食物を頼む。
     何かあったら、その都度ハトを飛ばす。」
     
     
    黒雪姫が説明していると、テントの外が騒がしい。
    「何だ? 何かあったのか?」
    隊長が顔を出すと、兵士が動揺して言った。
     
    「今、北国の使いという者がやってきました!」
    テントの中も、ザワついた。
     
     
    北国? 北 “国” ?
    神さまたち、ちゃんと北国を直してくれたんだ!
    黒雪姫は安堵のあまり、胸を押さえて手を机に付いた。
     
    「北国の方も、国交のために南下をしていたらしく
     荒野の向こうに宿泊地を設営したそうです。
     それで明日、北国の高官が来るので
     こちらの長と謁見したいと申し出ております。」
     
    「ふむ、礼に適った申し出じゃの。」
    隊長がヒゲを撫でながら、満足気につぶやく。
     
     
    「では、明日は私が行こう。」
    黒雪姫の言葉に、侍従長がジロッと睨んだ。
    「ドレスを着てくださいね。」
     
    驚く黒雪姫。
    「えっ? ドレスなんか持ってきてるの?」
    「もちろんです。」
    「この鍛え上がった体で?」
    「はい。」
    「男の女装に見えると思うよ?」
    「致し方ありませんな。」
     
    まさかこんな落とし穴があるとは!
    黒雪姫は愕然とした。
    東国が変態国に思われなきゃ良いのだが。
     
     
    翌日、朝早くから湯浴みをし、ドレスを着た黒雪姫。
    「もうーっ、無防備に日焼けなさるから
     ファンデのノリが悪いわんっ。」
     
    「すまん、こういう事態は想定してなかったもんで・・・。
     と言うか、おまえ、いつからいた?」
    クネクネしながら黒雪姫にメークアップをするのは
    オカマの兵士である。
     
    「今まで出番がなかったんで、お気付きにならなかったでしょうけど
     姫さまいらっしゃるところに、美容係は必ずお供しますわん。
     こういう場所には女性は無理だから
     男のアタシが待機してますのよん。
     やっとお役に立つ事ができて、嬉しいですわん。」
     
     
    「へ、へえー・・・。」
    とまどう黒雪姫に、カマがズケズケ言う。
    「ああーーーんっ、これじゃメイクしない方がまだマシなぐらいっ!
     口紅もアイシャドウも似合わないし
     お粉も顔中浮いちゃったわんっっっ!」
     
    「あ・・・、すま・・・。」
    ものすごく無礼な事を言われてるのに
    申し訳ない気持ちになるのが不思議である。
     
     
    もう、メイクアップなんだかメイクダウンなんだか
    ドレスアップなんだかドレスダウンなんだか
    わからない身支度を終えて、北国の使者を待つ黒雪姫。
     
    「おいでになりました。」
    その声に、テントを出て見ると
    荒野の向こうに、数人の人影が見えた。
     
     
    その人影が徐々にくっきりし始めた時
    その内のひとりがこちらに走り始めた。
     
    黒雪姫も走り出した。
     
     
     続く
     
     
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           黒雪姫 1 10.7.5    

  • 黒雪姫 39

     黒雪姫は3人目の弟の誕生で、城に戻っていた。
    「まったくあなたときたら、子供を産まないと帰って来ない。」
    継母が、いまいましげに文句を言う。
     
    王妃はこの10年の間に、宣言通り3人の子を産んだ。
    ひとり目が男児、ふたり目は女児、そして今回はまた男児である。
     
    栄養ドリンクをグビグビ飲みながら、黒雪姫が反撃する。
    「あの遠距離を往復するのは
     冠婚葬祭でもないと無理というもんですわよ。」
     
     
    「もうすぐあの荒野に到達ですって?」
    「ええ、荒野手前に関所を作っている間に
     北国に親書を持っていきます。」
     
    「あなたが?」
    「はい。」
    「北に国があるのかもわからないのよ?」
    「でも行きたいんです。」
     
    継母は微笑んだ。
    「そうよね。 行きたいわよね。」
    黒雪姫も、無言で微笑んだ。
     
     
    「姉上!」
    馬具を整える黒雪姫に声を掛けたのは、第一王子である。
    「よお、長男。」
    黒雪姫が笑顔で応える。
     
    「もう行っておしまいになるのですか?」
    「うん。」
    「いつもトンボ帰りですね・・・。」
    「ごめんね。」
     
    「母上から聞きました、ヘビの恋人の話を。」
    「いや、見た目はヘビじゃないんだけどね・・・。」
     
    あのババア、何をどう言うとんのやら。
    黒雪姫は、継母の寝室のある方を見上げた。
    窓辺に継母らしき姿が見える。
     
     
    「姉上・・・。」
    「ん?」
     
    第一王子が黒雪姫の腕を引っ張ってかがませ
    その首にしがみついた。
     
    「姉上、どうか、黙っていなくならないでくださいね。」
    首に回したその、小さい腕の力が
    第一王子の不安をもの語っていた。
     
    黒雪姫は、第一王子をそのまま抱き上げた。
    「あはは、工事が終わって戻ってきて
     そのまま嫁にも行けずに、ボケ老婆になるかもよー。」
     
    第一王子は真剣な顔で言った。
    「そうなってほしいです。
     どこにも行かずに、ずっと側にいてほしいです。」
     
    本人は城にほとんど戻らないので、知らなかったが
    北国への道路工事の指揮を、女だてらにこなしている事から
    黒雪姫は東国の英雄になっていた。
    そんな黒雪姫に、弟妹は憧れを抱いていたのである。
     
     
    泣きじゃくる弟を置いて行くのは
    さすがに黒雪姫とて、辛いものがあった。
     
    何度振り向いても、弟はそこで泣いている。
    もう一度、もう一度だけでも戻ろうか
    一瞬そんな迷いも生じる。
    城の窓を見ると、継母が手を振る影が見えた。
     
    黒雪姫は戸惑ったように、手を少し上げると
    厳しい表情で行く手を向き、二度と振り返らずに馬を飛ばした。
     
     
     続く
     
     
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           黒雪姫 1 10.7.5   

  • 黒雪姫 38

    「ああ、やっと北国がかすかに見えました。」
    高台に上がった部下が、黒雪姫に望遠鏡を手渡した。
     
    「文献によると、あの荒野から先が北国です。
     その遥か彼方の山の木は、針葉樹になっているようです。
     多分かなり寒い国でしょうね。」
     
     
    黒雪姫は望遠鏡を覗いた。
    あの時チェスをした、あの荒野だった。
     
    荒野からの冷たく澄んだ風が、急に頭上を吹き抜けた。
    その瞬間、もう遠くになってしまっていた記憶がくっきりとよみがえった。
     
     
       本当にこの娘は人間なのか?
                ただの鳥ではない
            リンゴを丸ごと
     いつのまにかここに
               おまえらここがどこだと
          兵隊たちが攻めて
       女王にしてあげようぞ
                   姫を守れぬではないか
             滅んだわ
       ご苦労であった
                身の程を知れ
         嬉しくない結末
     一番忘れたくない
           諦めはしません
                 いつか
                     信じて
     
     
    ああ・・・、私は確かにあの時あそこに彼らといた・・・。
     
     
    鼻の奥が熱くなったけど
    泣くのは未来を否定する事になるような気がしたので
    目を見開いて、空を睨んだ。
     
    以前とは違って、空は春へと向かう時の
    手元に降りてくるような、かすみがかった青である。
     
     
    無言の黒雪姫を、部下が見てハッとした。
     
    姫のくせに、作業服にタオルでハチマキ
    日に焼けて真っ黒で、手は豆だらけ傷だらけ
    筋肉もゴツゴツと付いて、髪はボサボサ
    何日も風呂に入っていないので、泥まみれである。
     
    だけど真っ直ぐに空を見上げる黒雪姫は、何故か神々しく見えた。
    その瞳は、誰も見た事のないものを映しているかのように輝いている。
     
    部下は思わず片膝をついて、黒雪姫へ深く頭を下げた。
     
     
     続く
     
     
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           黒雪姫 1 10.7.5  

  • 黒雪姫 37

    「ご出産、おめでとうございます、お継母さま。」
    部屋の入り口で、敬礼をする黒雪姫。
     
    「まあ! 黒雪、見舞いに来てくれたのですか?
     さあ、こっちにおいでなさい。」
    ベッドに横たわっていた継母が、笑顔で迎える。
     
     
    「ごらんなさい、見目麗しい男児よ!」
    ベビーベッドには、男の子が寝ている。
    「・・・遮光器土偶って知ってます・・・?」
     
    「産まれたては皆こうなの!」
    継母は黒雪姫のわき腹を、ゴスッとドツいた。
    「ぐふっ・・・、早速世継ぎをお産みになるとは
     さすがお継母さま・・・。
     くうーっ、良いパンチで、ううう・・・。」
     
     
    「で、そっちはどうなの?」
    継母のベッドに腰掛けた黒雪姫が、天井を仰ぐ。
     
    「ええ・・・、道のりは険しいですね・・・。
     2年も経って、多分まだ森の3分の1も行ってない。
     途中に番小屋を建てながらなので
     肝心の道路工事も、なかなか進まないのです。」
     
    「そう・・・。」
    継母が黒雪姫の背中を撫ぜる。
     
    「まあ、あなたでダメだったら、弟たちにやらせなさいな。
     念には念を入れて、あと2人は産んどくわよ。」
    「まことに頼もしい限り。」
    継母と黒雪姫は、笑い合った。
     
     
    ふたりの関係は、“あれ” 以来
    どう変わったというわけでもない。
    元々ふたりとも、あっさりした気質ではあったのだ。
    継母が鏡に狂わされていただけで
    なるべき母娘の関係になった、と言えるのかも知れない。
     
    しかしふたりの間には、それ以上の何かが生まれていた。
    大蛇の前で、共に命を落とす覚悟をした瞬間から。
     
     
    黒雪姫は立ち上がった。
    「では、行ってきます。」
    「もうなの?」
     
    継母は引き止めた。
    「せめて1日ぐらい、ゆっくりして行きなさいよ。」
     
    継母の頬にキスをしながら、黒雪姫はあっさりと言った。
    「お継母さまこそ、大仕事の後なのですから
     ごゆっくりお休みください。」
     
     
    黒雪姫が乗った馬が、森へと土煙を上げていくのを窓から見下ろす。
    男の子のような娘が、初めて男性を意識したもんで
    どうして良いのかわからず、とにかく労働で紛らわしてるのよね。
     
    継母は黒雪姫の後姿を眺めつつ、クスッと笑った。
     
     
     続く
     
     
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  • 黒雪姫 36

    森の中を、木を切る音が響く。
     
    カーン カーン カーン カーン
     
    「姫さま、いつこちらにお戻りになられます?」
    兵長が差し出すマントをはおりながら、黒雪姫が答える。
    「ん、継母上の様子次第だけど、早ければ4~5日後ぐらいかな。」
     
    「そうですか、道中お気をつけていってらっしゃいませ。」
    「不在中は、よろしく頼む。」
    黒雪姫は馬に飛び乗り、森の中の道を駆け出した。
     
     
    2年前の会議で、黒雪姫は北国との国交を提案した。
    「道路を作りながら、国境まで進むのです。」
     
    王は愛娘が自ら指揮を取る、この大規模な工事事業に難色を示した。
    「今まで交流がないものと、わざわざ始める必要もないであろう。」
     
    「西とも南とも国交は盛んです。
     北だけが地形のせいで世界から取り残されているのですよ。
     同じ人間同士、助け合うのは当たり前です。」
     
    黒雪姫が必死に言うが、王は渋る。
    「しかし、好戦的な種族だったらどうする?」
     
     
    「その時は我が国の傘下に治めればよろしいのですよ。
     我が東国の民ほど、勇敢で強い民族はおりませんわ。」
    王妃が扇子であおぎながら、 ほほほ と笑った。
     
    「色んな人種がいるけど、それぞれを尊重しつつ
     人間は、いえ、世界は団結していかないといけないのです!
     大国である我が国が、その指揮を執るべきです。」
     
    黒雪姫のこの決意に満ちた演説で、大臣たちも納得し
    王以外の満場一致で、北国への道路建設計画が始まった。
     
     
    「コムスメ姫様は、おとぎ話で何かを学んだのかしら?」
    会議が終わって、部屋を出ようとする黒雪姫に
    王妃、姫にとっては継母が、相変わらずの攻撃口調で近付いてきた。
     
    「別に。 ただ待ってるだけ、ってのは無理な性格で。」
    「それで愛する人の悲願を代わりに叶えてあげようと?」
     
    その言葉に、黒雪姫は少しうつむいた。
    「・・・私には、愛がどういうものかわかりません・・・。」
     
     
    「あなたのお父さまとあたくしの間にあるのが、愛ですのよ。」
    黒雪姫は驚いて継母の顔を見た。
    継母の笑顔が、聖母のように輝いて見える。
    「あなたは誤解してるかも知れませんけど、愛ですのよ。」
     
    「うわ、ウソくせえーーーーー!」
    黒雪姫が叫ぶと、継母はいつものように
    ほーっほほほほ と高笑いをしながら立ち去った。
     
     
    あれも愛なんだ・・・
    えらく驚いたが、俄然やる気が出てきた。
     
    「よっしゃあ、やるぞーーーーー!!!」
     
     
    「また姫さまが、何か叫んでいらっしゃるよ。」
    「うちの姫さま、猛獣だよな。」
     
    窓の下を巡回する衛兵が嘆きながら通り過ぎた。
     
     
     続く
     
     
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  • 黒雪姫 35

    目が覚めたら、城の自分のベッドだった。
    「えええ? まさかの夢オチ?」
    黒雪姫は混乱した。
     
    あっ、お継母さま!
    お継母さまはどうなってるんだろう?
    ドタドタと食堂に駆け込む黒雪姫。
     
    既にテーブルについている父王が注意をする。
    「これ、黒雪、おまえはいつまで経っても落ち着きがない。」
    継母の方を見ると、目を伏せて無言でツンと座っている。
     
    やっぱり夢だったの?
    動揺しながら、テーブルにつく。
    顔も洗わずに。
     
     
    城の屋上から見る森は、鮮やかな新緑だった。
    城下町もいつもと変わらぬ賑わいを見せている。
    塔に鏡台はなかった。
     
    「姫さま、ここにいらしたんですか。
     おやつのケーキはどれになさいます?」
    侍女がケーキが並んだトレイを持ってやってきた。
     
    黒雪姫は気付かなかったが
    あの日、一緒にピクニックに行き
    黒雪姫暗殺完了偽装のために
    ガケから落とされた侍女のひとりである。
     
    「あ、う、うん、これとこれとこれと・・・。」
    とまどいながらも、何種類も選ぶ黒雪姫の耳に
    飛び込んできたのは、継母の言葉だった。
     
     
    「黒雪、少しは控えなさい!
     せっかく殿方に恋されたというのに。」
     
     
    黒雪姫は一瞬目を見開いたが、すぐに元の表情に戻した。
    軽くお辞儀をして立ち去る侍女の背中を見ながら
    つぶやくように訊く。
    「・・・また会えると思いますか?」
     
    「さあ、どうかしらね。
     何しろこの世界は、一瞬でどうなるかわからないみたいだから。」
     
    継母はその気取った表情の顔を、扇で仰いでいる。
    何それ、結局どっちなの?
    「私は奇跡を待って、いかず後家ですか?」
     
     
    継母は ほほほ と笑った。
     
    「あなたの事だから、求婚してくれるのは
     爬虫類ぐらいしかいないでしょうよ。」
     
    黒雪姫も笑った。
    「ヘビに騙されるぐらいなら
     惚れられた方が、なんぼもマシでしょうが。」
     
    そしてふたりで20cm距離で、笑いながら睨み合った。
    突如、上空に暗雲が立ち込み始める。
     
     
    「おうおう、本当の母娘じゃないというのに
     相変わらず仲が良いのお、おまえたち。」
     
    父王の、まったく状況を読めていない言葉に
    同時に鬼のような顔で、ギロリと振り向く継母と黒雪姫。
    王はニコニコと微笑んでいる。
     
    「はあ・・・、気楽でよろしいわね、殿方は・・・。」
    「その手にあるものを守るために
     どんだけの犠牲が払われたかも知らずにねえ・・・。」
     
    溜め息を付きながら散会する母娘に、王がアワアワする。
    「お、おい、わしは仲間外れか?」
     
     
    「・・・とりあえず東国存続の保険として、世継ぎの出産よろ。」
    黒雪姫が去りながらそう囁くと、継母が腕組みをしながら応えた。
     
    「まかせなさい。 ほーっほほほほほ」
     
    突然、大粒の雨が降り始め、空に雷光が走った。
    何故か、悪役風味の演出しか似合わないふたり。
    ニヤリと不敵に微笑み合いながら、それぞれ城内へと消えた。
     
     
    わけがわからず、うろたえる王だけ
    取り残されてズブ濡れ。
     
     
     続く
     
     
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           黒雪姫 1 10.7.5   

  • 黒雪姫 34

    「誰もが嬉しくない結末なのですか?」
     
    そう叫んだのは、意外にも継母であった。
    黒雪姫が横目で何とか継母の方を見る。
    継母の顔には、怒りの色が浮かんでいる。
     
     
     戦いというのものは そういうものなのだ
     万能というのも この程度のものなのだ
     
     もし 真に万能なものがいたら
     それ以外のものが存在する理由はなくなるであろう
     
     ここでみなに詫びる事をよしとせぬ、わしもまた
     存在する理由が必要なもののひとりなのじゃよ
     
     
    あ、何かもう、その言葉だけで良いや。
     
    妖精王の弱気発言で、筋肉バカの黒雪姫にはあっさりと諦めが付いた。
    散々振り回されて、大変な思いをした日々だったけど
    それはそれで結構楽しかったかも知れない。
     
    命をも落としかねない状況だったけど
    こうやって無事なんだし、武勇伝にすれば良いや。
     
     
     さあ そろそろ始めるとしよう
     特例になるが、その功績に感謝する意も込めて
     そなたらの記憶は残すか、選択できるが
     
    「残して当たり前ですじゃ!」
    真っ先に怒鳴ったのは小人たちだった。
     
    「生涯で一番忘れたくない日々じゃぞ!」
    「そりゃ、楽しかったとは言えんが・・・。」
     
    黒雪姫には小人たちは見えなかった。
    後ろの方にいたからである。
    小人たちの言葉の真意はわからなかったが
    皆、震える涙声だった。
     
     
    ふと目の前を見ると、王子が自分を見つめている。
    そのまなざしは悲しみで溢れていたが、沈んではいなかった。
     
    「姫、私は諦めはいたしません。
     いつかあなたと再会できる事を信じて、償っていきます。」
     
    黒雪姫が、はあ、そうですか、とボケッとしていると
    継母が小声で怒鳴った。
    「黒雪、殿方のプロポーズには
     きちんとお答えしないと無礼にあたりますよ!」
     
    プププププププロポーズーーーーーーッッッ?
     
    黒雪姫は激しくワタワタして
    よりによって、最悪な返事をしてしまった。
     
    「へへへヘビのくせに!」
     
     
    それでも王子は、ニッコリと笑った。
    その笑顔に胸がチクッと痛み、思わず追加で叫んだ。
     
    「でででも、へへヘビも良いかもっっっ?」
     
    ああ・・・、このバカ処女
    ここにきて今更な、ベッタベタ定番のツンデレ?
    継母が見ていられずに、恥ずかしそうに顔を背けた。
     
    その時、世界がゆっくりとにじんでいった。
     
     
     続く
     
     
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