「ちょっとあんた、ひとりでそれ以上行くんじゃないよ!」
ローズが背後から叫んだ瞬間、アッシュは察知した。
ああ、そうか、ローズは私の見張り役でもあるんだ。
いやローズだけではない。
この館にいる人全員が、自分を見張っているんだ・・・。
ちょっと気落ちしかけたが、考え直す。
もし私が主だったら、同じようにした。
これはゲームではないのだ。 挑戦者が対等になれるわけがない。
味方をつけてくれるだけでも、主側には温情があると言えよう。
私が主だったら、ひとりvs大勢でフクロのなぶり殺しだね。
あれ? アッシュは考え込んだ。
“相続” って、主が在任している以上、“交代” だよね?
交代するメリットって、主側にあるのか?
もしかして、“主” の立場自体がデメリットがあるんか?
でも挑戦者の多さは、主になりたいヤツが大勢いる、って事だよね。
てか、私は実の兄からだから、“相続” だけど
兄は誰から相続されたんだ?
考え込むアッシュに、隣でワアワア怒鳴っているローズ。
そのローズを顔を見つめて、アッシュは思った。
この状況には、わからない事が多すぎる。
多分、最後までわからないんだろう。
言葉の意味について迷うより
実際にある事のみを見た方が良いような気がする。
手摺りに捕まって、上半身を上下させ
玄関ドアの上のガラス窓の向こうを見ようとするアッシュ。
よくは見えないけど、きっと敷地内の電線は地中を通っている。
と言う事は、地下室があるって事か。
でも主の交代は、ローズの記憶にはないようだ。
普通ならそんな長期間、地下で暮らしたくはない。
主は絶対に、地上のどっかの部屋にいるはず。
そんでモニタールームってのがあって、その近くにその部屋はある!
「ローズさん、この館に電気屋さんっていますよねー?」
「電気屋? 電気技師ならいるよ。」
「その人に会いたいんですけど、どこにいますかー?」
「仕事場は地下だね。」
「そこ、危険ですよねー? 行けると思いますかー?」
「行ってどうするんだい? 敵だったら殺しにかかってくるよ。」
「あっ!!! そうか! それはしまった・・・。
私、その人に話が訊きたいんですがー・・・。」
「だったら食堂で待つしかないね。 で、どいつに会いたいんだい?」
「あっっっ・・・・・、何人いるんですかー? 電気技師さんってー。」
「んーーー、5人? 6人?」
やっぱ、この館すげえ、とアッシュは思った。
普通なら、館の管理に何人もの技師はいらないはず。
この館は電気制御されているのだ。
「ここ、地下何階ですかー?」
「さあね。」
「あなたは一緒に考えてはくれないんですよねえー?」
「あたしは護衛だからね。」
あー、私の知能じゃ限界があるー!!!
アッシュは自分が理系じゃなかった事を、激しく後悔した。
いや、ローズとの会話は端々にヒントが隠れている。
それを積み重ねれば、真実が見えてくるはず。
やっぱりこまめな質問は必要だ。
詐欺系の名にかけて! って、違うわ!
脳内ひとりボケ突っ込みに、アッシュは微笑し
それをローズはまだ慣れていないのか、目をそらした。
「じゃ、行きましょうかー?」
アッシュがそう声を掛けると、ローズは嬉しそうに応えた。
「おっ、やっと出陣かい、どこにだい?」
「だーかーらー、地下にですってばー。」
ヘラヘラ言うアッシュに、ローズは軽蔑の目を向けた。
「地下は関係者以外、立ち入り禁止だよ。」
「えっっっ!」
そりゃそうだよな、言わば館の要によそ者を出入りさせるわけがない。
だけどこれで、地下に電気系統の何かがあるのは確実。
5~6人の技師・・・、24時間体制であろう。
アッシュはまたローズの顔を見つめた。
ローズに自分の思惑を言うべきか言わざるべきか。
たとえ何も助言を貰えなくても、“同意” は必要なんじゃないのか?
義務での護衛より、自分に感情移入をしてもらった方が
後々やりやすいのではないだろうか?
でも、ローズからこっちの情報が漏れたら・・・?
アッシュは両こめかみを指で押さえながら、うなった。
いや、どうせ主側が有利なのは変わらない。
だったらローズの “肩入れ” に期待する方が、可能性がある。
意を決したアッシュは、ローズの目を見据えて訊いた。
「あなたには私の情報を誰かに伝える役目もあるんですかー?」
アッシュの真剣な目に、ローズはとまどった。
「そういう役目はない。 あくまで護衛なんだ。」
「攻略に関するヒントもくれない代わりに
周囲にも私の事を何も言わない、という事ですかー?」
「そうだよ。 そんなコウモリのような事はしないよ。」
「わかりました。 信じます。 来てください。」
アッシュはローズを促し、自分の部屋に戻った。
部屋の中央に立ったアッシュは、振り返ってローズに語り始めた。
続く。
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