カテゴリー: 亡き人

  • 亡き人 31

    「あっ! マジシャン!」
     
    校門前でスピリチュアル・長崎とバッタリ会った山口。
    ひとめで “例の霊能者” だとわかった。
     
    「おまえ、引っ越しただろう!
     てか、ゼロさん祓ったのか?」
     
    初対面の挨拶もせず、いきなり本題に入る山口だったが
    スピリチュアル・長崎は、即座にその流れを理解した。
    「きみはあの霊の知り合いかね?」
     
    「仲間だよ!
     ゼロさんをどうしたんだよ
     長野が心配して、夜も眠れずフラフラなんだよ!」
     
    「す・・・すまん
     私もそのようなつもりではなかったのだ。」
     
    スピリチュアル・長崎の話によると
    石川が言ってた正にあの日、ゼロとここでバッタリ会ったと言う。
    「水晶が、ここらへんを示していてな・・・。」
     
    スピリチュアル・長崎は、根に持って
    失職でヒマこいてたのもあって
    ゼロを必死で探していたのであった。
     
     
    「やっと見つけたぞーーー
     ここで会ったが100年目
     恨み晴らさでおくべきかーーーっ!」
     
    「クラウザーさんか!
     てか、おめえも大概しつこいなあ。」
     
    さっさと逃げようとしたゼロだったが
    スピリチュアル・長崎の相変わらずの九字切りの早さに
    ついつい見とれてしまう。
     
    「臨める兵ども 闘う者ども 前に在れ!
     列をなして 陣を作り 皆ゆかん!」
     
    「おおおっ! 格好良いーーーーーーー!!!」
    パチパチパチパチと本気の拍手をするゼロに
    スピリチュアル・長崎は、バカにされたような気分になった。
     
     
    ゴオッと風が巻き起こるが、ゼロに異変はない。
    「く、くそっ、こやつ、何者だ?」
     
    スピリチュアル・長崎は、ヤケになって
    次々に知ってる呪文を繰り出していった。
     
     
    「あっ!!!」
     
    ゼロが悲鳴を上げ、突然消えた。
     
    予期せぬ事態に、スピリチュアル・長崎も
    式札を構えたまま、しばらく呆然としていた。
     
     
    「はい、おとうさん、ちょっとこっちに来てくれるー?」
    ヌッと横から顔を出したのは警官2名。
     
    妙な男が紙をバラ撒いて叫んでいる、と
    近隣住民から通報があったのだ。
     
    「おとうさん、何やってるのー?
     ダメだよー、ここ、大学の前なんだよー?
     若い子たち、恐がっちゃうでしょー?
     ちょっと署まで来てもらえるかなー?」
     
     
    スピリチュアル・長崎にとって
    真の敵は警察官であった。
     
     
     続く。
     
     
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          亡き人 1 10.11.17  

  • 亡き人 30

    「なあ、ゼロさん、ここんとこずっといないけど
     どこに行ってんだ?」
    山口が訊くが、太郎にもそんな事はわからない。
     
    「こういう事、今までもあったんか?」
    横に頭を振る太郎。
     
     
    「・・・・・・
     なあ、何で喋らねえの?」
     
    チャラ男にしては鋭いなあ
    ゼロだったら、そう笑って誤魔化したであろう。
    しかし太郎は、律儀に声を出して説明をしようとして
    つい涙ぐんでしまった。
     
    「・・・ゼロさん、 呼んでも来ないんだ。
     どこにもいないんだ。
     いる気配がないんだ!」
     
    太郎は自分の発した言葉で、かえって感情がたかぶり
    ワアッとテーブルに突っ伏してしまった。
    その尋常ならぬ様子に、山口も激しく動揺させられた。
     
     
    「心当たりとかはーーー
     あれば探してるよな・・・。
     おい、血まみれちゃん、ゼロさん知らね?」
    血まみれちゃんはオドオドとするだけである。
     
    山口はメンバーにも電話をしたが
    もちろん行き先を知っているヤツなどいなかったが
    皆も心配になったようで、集まってきた。
     
     
    「あ・・・、でも・・・。」
    石川が言った。
     
    「先週の話なんだけど、ゼロさんが講義中に来たのよ。
     その時は相手を出来なかったんで
     終わった後に構内を探したのね。
     そうしたら校門のところに、ヘンな人がいたのよ。」
     
    「どんな人?」
    「うん、ゼロさんとは関係ないだろうけど
     マジシャンっぽい格好の?」
     
    太郎は叫んだ。
    「霊能者だ!!!」
     
     
    太郎は両手で顔を覆った。
    「どうしよう、ゼロさん、あいつを恐がってた。
     きっと祓われちゃったんだ!!!」 
     
    「落ち着け、長野
     とりあえずエリア・マネ-ジャーに
     そいつの連絡先を聞け!」
     
    山口が太郎の携帯を差し出すけど
    太郎の手は震えて、携帯のキーを押せない。
     
     
    メンバーたちは驚いた。
    いつも沈着冷静な太郎が、そこまで取り乱すのを
    初めて見たからである。
    しかも未確定の段階で。
     
    「私があの時ゼロさんを引き止めてれば・・・。」
    石川は当然の後悔を口にする。
     
    「そんな事は考えたらダメだよ、あんたのせいじゃない。」
    岡山が当然の慰めを口にする。
     
    「だけど、あの長野くんがあそこまでパニくるなんて・・・。」
    「うん・・・、でも山口くんがいるから大丈夫だと思う。」
     
    ふたりの意外な一面に、メンバーたちは
    事を楽観視した。
     
     
    しかし、現実はいつも醜悪な形を成す。
     
     
     続く。
     
     
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          亡き人 1 10.11.17  

  • 亡き人 29

    「何だあ? これーーー。」
    朝っぱらから大声を張り上げるチャラ男を
    ゼロが怒鳴る。
     
    「うっせー、チャラ男!
     私は霊だから朝が弱いんだよ!
     静かにせんか、バカモノ!」
     
     
    「あ、それ石川のスケジュールだって。
     連絡が取りやすいように、と貼ってたよ。」
    太郎の説明を、山口はさっさと受け入れた。
    「ふーん、じゃ、俺のも貼っとこー。」
     
    チャラ男のは、まるっきりいらねー
    内心思いつつ、横になってウトウトとするゼロ。
    翌日になると、何故か全員分のスケジュールが貼られていた。
     
    何か凄く団結力があるんだけど?
    ま、いいや、これで探しやすくなったわ。
    ゼロは石川のスケジュールを確認した。
    えーと、今の時間は東第2棟の・・・
     
     
    「HEI! イイ男は見つかったkai?
     今付き合うべきは、無難に理系!
     文系は法学経済以外 mushi!
     ただIT意外と潰しが利かね
     国家資格を取るヤツ target
     でも太郎に手を出すなら KILL!」
     
    「・・・私、ラップ嫌いなんだよね。
     しかも韻踏めてないし。」
     
    小声でつぶやく石川の隣に、ゼロが座る。
    「気が合うな、私もだ。
     でもダンスは結構好きなんで、やってみた。」
     
     
    「あっ、あいつ、結構好みの顔!」
    叫ぶなり、ガーッとその男の前に飛んで行ったゼロ。
     
    「混乱して石川に惚れろ、メダパニ! メダパニ!」
    (メダパニ : ドラゴンクエストというゲームの
            敵を混乱させる呪文。 
            ドラクエの魔法使いは結構使えない。)
    ゼロが見えていない男子学生の前で
    妙な波動を発しようとしている。
     
     
    受講中なので、石川は頭を抱えるしかなかった。
    長野くんの心境がわかったわ・・・。
     
    「うーん、私どうも呪文系は使えないみたい。
     戦士か武道家かな?」
    RPGじゃない、っての。
     
    石川は、ノートにデカく書いた。
     
    勉 強 の 邪 魔
     
     
    「あーあ、何だよー、寂しちーーーっ!
     良いよ、ひとり孤独にウロつくよ。」
     
    ゼロは、ユラユラと天井をスリ抜けて行った。
    と思ったら、逆さまに顔を出して叫んだ。
     
    「あの嘘つきクリスマス野郎とは
     きっちりと別れろよー。
     メールで明文化しとくんだぞー。」
     
    石川は、ソッと親指を出してうなずいた。
    ゼロはニッと笑って、上階へと消えて行った。
     
     
    石川がゼロを見たのは、それが最後であった。
     
     
     続く。
     
     
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          亡き人 1 10.11.17  

  • 亡き人 28

    石川事件以来、ゼロは時々大学構内をウロつくようになった。
     
    「いい? 恋愛は相手に惚れさせて始めるべきだぞ。
     絶対に年増霊なはずの私が言うんだから、間違いないから!」
    根拠なく、こう力説しちゃったもんだから
    石川がどういう動きをしているか、責任を感じたのである。
     
     
    しかしゼロは、ものすごい方向音痴だった。
    この前の捏造伝説の教室の場所もわからない。
     
    こんなウロウロしてるとこを太郎に見つかったら
    きっと凄く怒られちゃうよーーー
    ゼロは、構内の木のてっぺんに、天狗のように居座って
    太郎以外の心霊研究会のメンバーを探した。
     
     
    西の方で、ザワッと空気が波立った。
    ふと見ると、石川がいる。
     
    お、石川はっけーーーん!
    ツイ と、真上に飛んで行くと、何と石川が男に怒鳴っている。
     
    「ひどいじゃないの!」
     
    ゼロが慌てて石川の前に降り立つ。
    「はい! そこまで! ストップ!
     そこで止めないと、絶対に後で後悔するから!
     あーーー、見に来て良かったーーーーーーっ!
     ほんっと良かったああああああああああああ!!!」
     
    「何で・・・」
    口を開く石川を、誘導する。
     
    「何も言うな、頼む、黙って聞いてくれ!
     人前での争いは、後々必ず後悔するから!
     消したい過去になるから!
     このバカ野郎は、って、誰か知らんけど
     私が霊障バリバリ当てとくから!
     いいから、こっちに来て!
     黒歴史を作る前に、きっと老女霊の私の言う事を聞いて!」
    ゼロのあまりの剣幕に、石川は無言でゼロの後を追った。
     
     
    人気のない裏庭にたどり着いて、ゼロはやっと止まった。
    「で、どうしたの?」
     
    「・・・彼が、今度のクリスマスは友達と飲み会だって・・・。」
    そこまで言うと、ゼロの目を見た。
    無言で見つめ合うふたり。
     
     
    「えーと、じゃあ、おめえの1週間のスケジュールを
     教えてくれるかな。
     どこの講堂を使うかを明記して
     マンションのリビングに貼っておいて。
     私、その時間に合わせて行くから。」
    ゼロが事務的に言う。
     
    「え・・・、それは良いけど、何をしに?」
    「良さげな男の物色じゃん。」
    「でも、彼は?」
     
    「は? 誰? それ誰?
     え? 違うと思うけど、もしかしてさっきの男なら
     おめえの人生には、もう1秒も関係ないんじゃない?
     そもそも私、ああいう感じの体育会系って嫌いなんだよねー。
     爽やかな卑怯者、っちゅうかさー。
     そんなどうでも良いヤツの事より
     今、付き合っとくべき男ってのはね・・・」
     
     
    勝手に話を進めるゼロに、石川は吹き出した。
    同時に涙も噴き出した。
     
    うずくまって泣く石川の横に座り込んだゼロは
    延々と “私が思う良い男” 論を展開した。
     
     
     続く。
     
     
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          亡き人 1 10.11.17  

  • 亡き人 27

    「もうー、ゼロさん、今の驚いたよ、ひっどーい。
     何で私が説教されなきゃならないのよ?」
     
    「それは、だ。」
    ゼロは両手をリズミカルに動かしながら歌い始めた。
     
     
    彼女がいるのに、他の女を狙うって?
    そんな男、別れろYO
    股かけている女と学食でデート?
    そんな男、別れろYO
    しかもデートが、学食ランチ?
    そんな男、別れろYO
     
    クネクネと踊りながら、途中
    ボッボボンッと口でパーカッションを入れつつ喋る。
     
     
    「ついついディスっちゃったぜー。
     私も、結構な芸達者だよね。」
     
    飽きたのか、面倒くさくなったのか
    急に素に戻すゼロ。
     
    「てか、おめえも他の男と話すだろ
     あまつさえ、男 (チャラ男) のマンションにも出入りしてる。
     それを疑われるの、ウザくねえ?」
     
    ゼロの言葉に、石川の表情が曇った。
    「うん・・・、そうなんだけど
     彼は私のする事に、あまり干渉しないし。」
     
     
    その言葉を聞いたゼロは、気まずそうに頭を掻いた。
    「・・・ああ・・・、もう自分で答は出てるんだね?」
    石川の目から涙がこぼれ落ちる。
     
    「うん・・・、彼とは私から告って
     付き合ってもらってる、って感じで
     連絡もいつも私からで
     最近は何だかセフレでしかない感じで・・・。」
    ボロボロと泣きながら、石川が途切れ途切れに喋る。
     
     
    ちっ、しょうがねえ、とゼロは石川に言った。
    「ちょっとここで、そのまま待ってろ。」
     
    アルゼンチーン! で、太郎のところに行き、命令をする。
    「石川が精神病院送りにされない内に
     えーと、あっ、あそこのヘンな壷を隠し持って
     さっきの教室に、すぐさま行って。」
     
    「え? え? 何故そんな事に?」
    「いいから、早く!」
     
     
    教室に入った太郎は、即座にゼロの言葉の意味を理解した。
    部屋の隅に向かって、ひとり号泣している石川の
    周囲に遠巻きに人垣が出来ている。
     
    ゼロから言われた通りに、太郎は動いた。
    隠し持っていた壷を、ソッと部屋の隅に置き
    石川に何事かを耳打ちする。
     
     
    石川がハッと我に返り、振り返ると
    離れたところから自分を見つめる無数の目があった。
     
    「ちっ違うの、ごめん!」
    石川は慌てて否定した。
     
    「ここにある壷に向かって、願い事を唱えると叶う
     って伝説を聞いて。
     真剣に願えば願うほど、届くって言うから
     うち、ちょっとお祖母ちゃんの具合が悪くて。」
    どこの家のジジババも、何回かずつは殺されているものだ。
     
     
    幸い、皆はその嘘を信じ込んだ。
    が、その日以来、祈願者が耐えない教室になってしまった。
     
    「ふっ・・・、またひとつ伝説を作ってやったぜ。」
    勝ち誇るゼロを、太郎がいさめる。
    「捏造ですからね、その伝説。」
     
    「伝説ってのは、そういうもんよ。」
    「・・・あまり調子に乗らないようにしてくださいね。」
    太郎はゼロに、メッとした。
     
     
    「なあ、何かおまえら、ラブラブじゃね?」
    横から口を挟んできた山口に、ゼロが舌打ちをする。
     
    「これだから、邪念だらけのチャラ男は・・・。
     これはラブじゃなくて、愛なの!
     わかってないなあ、チャラ男はあーーー。」
     
    「ぼくだってわかりませんよ・・・。」
    こっそりつぶやく太郎だった。
     
     
     続く。
     
     
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          亡き人 1 10.11.17  

  • 亡き人 26

    「ほんま、怒るで、しかし!!!」
    ワープの目まいに、ゼロがガラ悪く凄む。
     
    「ごめん! ゼロさん、私が頼んだの。」
    石川が両手を合わせて拝む。
    「何か、石川が相談したいんだって。」
    太郎の説明に、ゼロが ふーん と腕組みをした。
     
    「こっち、こっち、人に聞かれたくないから。」
    石川はゼロを教室の隅に連れて行った。
    太郎は今から別教室で何かの作業らしい。
     
     
    「で? 病気もらっちゃったか、デキちゃったか
     股かけられたか、フラレちゃったか、どれかな?」
    ゼロのロマンのない言い草に、石川はギョッとした。
    「何でわかるの? 恋愛相談だって事が。」
     
    「多分、年増霊であるゼロさまには
     おめえが処女じゃない事もわかるぞお?」
    「えっっっっっ!」
     
    なっ何で? と焦る石川にゼロがふふんと笑う。
    「男との距離感が微妙に違うと思わないか?
     処女と非処女。
     しかも非処女が近いわけじゃあない。
     岡山は、ありゃ処女だな。
     それも乙女系じゃなく、男いらねの鉄の処女だよね。」
     
    ああ・・・、と、納得する石川。
    「で、どれかな?」
     
    「とりあえず、決定じゃないけど
     浮気されそうっぽくって・・・。」
     
     
    「なあ、さっきっから隅っこで壁に向かって
     ひとりブツブツ言ってるあの女、何なの?」
     
    当然、人々にはこう見えるわけで。
     
     
    「で、今、彼はその女と学食にいるはずなのよ。
     何を喋っているか、ちょっと聞いてきてくれない?」
    石川のお願いを、ゼロは即答で断った。
     
    「イ・ヤ!」
     
    「何で?」
    叫ぶ石川に、ゼロが答えた。
    「私は今から凄く忙しくなるんだよ。」
     
    「・・・今って、何で?」
    「それはな・・・、い ま  か   ら 」
    ゼロがユラリと立ち上がった。
     
    「おめえに説教するからだよーーーっっっ!!!」
     
    ゼロがヌバーッと、石川に迫り
    キャアアアアアアア と教室中に石川の悲鳴が響く。
     
     
    石川の大学での立場は、これで揺るぎないものとなった。
    イヤな方面の意味で。
     
     
     続く。
     
     
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          亡き人 1 10.11.17  

  • 亡き人 25

    「霊がいる呪われた黒ずくめの部屋ぁ~~~~~。」
     
    皆が引越しで忙しく働いている時に
    何もする事がないゼロは、リビングの黒い家具から
    顔半分を出して、荷物を運ぶ人々を威嚇していた。
     
    「うわー、マジ、ヤな事しないでくださいよー。」
    山口が本気で嫌がる。
     
     
    同居のお陰で、太郎はほぼ毎日していたバイトを
    半分にまで減らす事ができた。
     
    家賃は1部屋占有だけなので、月2万という破格値だし
    光熱費も “基本料金” という項目があるので
    2人で分担する方がお得だし
    大学の側なので、交通費は0になった。
     
    余裕が出来た時間の半分は、遊びに回された。
    学校の側という立地は、仲間のたまり場になるのである。
     
     
    今宵も仲間が集まってドンチャンやっているところに
    ゼロが来て、高らかに宣言した。
     
    「おまえら若人に、『遊ぶな』 とは言わないけど
     何事も程々にせえよ。
     太郎が司法試験に落ちたら
     子々孫々祟ってやるからな!」
     
    この言葉に、一同は悲鳴を上げた。
    「長野、頑張れよ!」
    「私たち、しょっちゅう来るけど
     気にしなくて良いのよ。」
     
    太郎がキッと睨むと、ゼロは悪魔の笑みを浮かべた。
    「ほっほっほ、若い者はたまには絞めにゃ暴走するしな。」
     
     
    何気ない日々が過ぎて行った。
    スピリチュアル・長崎の暴挙を
    エリア・マネージャーに相談したら
    系列会社の塾の事務へと、バイト先の変更を手配してくれた。
    太郎に取っては、思いがけない出世である。
     
    「ゼロさん、大事にしてあげなさいよ。」
    エリア・マネージャーは、太郎の肩をポンポンと叩いた。
     
    ゼロの除霊以来、エリア・マネージャーには
    “男子好き” という疑いが掛けられていたので
    太郎とも、これが最後の接触になるだろう。
     
    ゼロさんに迷惑を掛けられたようなものなのに・・・
    太郎は、エリア・マネージャーに申し訳なく思った。
     
     
    引っ越しで浮かれ騒いでいた仲間たちも
    いつもの落ち着きを取り戻し
    学業にも精を出すようになったある日
    太郎のところに石川がやってきた。
     
    「ね、ちょっとゼロさんを呼び出してくれない?」
    「ゼロさんに会いたいならマンションに来れば?」
    「緊急なの、お願い!」
     
    両手を合わせて頼む石川に、太郎はつい承諾した。
    ゼロさん、呼び出しを嫌がるからなあ・・・
    怒るだろうなあ・・・。
     
     
     続く。
     
     
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          亡き人 1 10.11.17  

  • 亡き人 24

    「別に霊がいたって良いだろお、おやじぃー。」
    巻き舌発音で、山口が無重力すぎる発言をする。
     
    「良いわけねえだろ!」
    激怒したのはゼロだった。
    実父を差し置いて。
     
    「普通は霊とかいちゃダメなの!
     てか、多くの人には霊は見えないの!
     まったく、おめえは無防備発言が多すぎるんだよ
     そういうのは世間からは、“ちゃんとしてない” と見なされるんだよ。
     いい加減、まともな感覚を持て!
     このクソバカチャラ男!」
     
     
    山口に向かってギャアギャア怒鳴るゼロを、太郎がたしなめる。
    「あの、ゼロさん、おとうさんの前なんで・・・。」
     
    その言葉に我に返ったゼロは
    再びズザザザと後ずさり土下座をした。
    「すっ、すいませんーーー!
     ほんと、すいませんーーーーーー!!!」
    「おやじぃ、ゼロさんには悪気はないからさあ。」
     
     
    山口パパは、どう反応して良いのかわからない様子だったが
    やっとか細い声を出したが
    「ま、まあ、おまえたちの好きにしなさい。
     わしはちょっと、まあ、その・・・。」
    と、語尾をむちゃくちゃ濁しつつ
    ヨロヨロと部屋を出て行ってしまった。
     
    「んじゃ、お許しも出た事だし
     さっそく引っ越す準備をしようぜー。」
    山口の言葉に、ゼロと太郎が同時に叫んだ。
    「「良いんかい!!!」 ですか!!!」
     
     
    太郎におぶさりつつ帰る道すがら
    ゼロは謎がひとつ解けた気がした。
     
    チャラ男のフルネームって、山口拓也なんだ?
    スマップかトキオかどっちなんだ? って突っ込まれそうだよな。
    太郎の名前を笑わなかった理由はこれかな。
     
    でも太郎の場合は、間違いなく親のセンスが悪いけど
    チャラ男は、単に不運なだけだよな。
    山口拓也、普通に良い名前じゃん。
     
     
    名前・・・
    ゼロはふと考えた。
     
    ふざけて名乗ったゼロという名前だけど
    よく考えてみると、虚しい響きだ・・・。
     
    そもそも、私の本名は何なんだろう。
    何も覚えていない割に、知識は残ってたりする。
    霊ってこういうものなんだろうか?
    てか、私ってちゃんとした霊なんだろうか?
     
     
    「何を考えてるんですー?」
    太郎が話しかけてきた。
    その声に心配の響きを感じたゼロは、何だかホッとした。
     
    「ううん、別にただボンヤリしてただけー。」
    ゼロは太郎の肩にギュッとしがみついた。
     
    ら、ズルッとすべって、太郎の腹からゼロの上半身が出る形になった。
    「何をやってるんですか!」
    怒る太郎を、ゼロが逆なでする。
     
    「ふはははは、寄生虫型エイリアンだー。
     腹を食い破って出てきたぞーーーっ。」
     
     
    もう、やめてくださいよー、と嫌がる太郎と
    太郎の腹から体半分を出して、ユラユラ揺れるゼロ。
     
    アスファルトに伸びた影は、ひとり分だけだった。
     
     
     続く。
     
     
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          亡き人 1 10.11.17  

  • 亡き人 23

    「きみが長野くんかね。
     拓也から話は聞いているよ。
     今までの拓也の友達とは、ちょっと違うタイプだね。」
     
    和室の座椅子に、どっしりと腰を下ろした和服の男が
    山口の父親である。
     
    「やだなあ、おやじぃ
     俺もいつまでもチャラチャラしてねえよぉ?」
    とても軽そうに、山口が言う。
     
    「初めまして、長野と申します。
     今日はぶしつけなお願いで、恐縮なのですが
     どうかよろしくお願いいたします。」
    太郎が丁寧に頭を下げる。
     
     
    「ふむ・・・。
     わしに異存はないよ。
     ただ友人間とは言え、お金の問題はきちんと話し合いなさい。」
     
    山口父が、茶碗に手を伸ばしたその時、和室に声が響いた。
     
    「アルゼンチーーーン!」
     
    ゼロが唐突に出現したのである。
    「あっ・・・、目まいが・・・。」
    ヨロけるゼロ。
     
     
    「ちゃんとご挨拶できてるか心配で、様子を見に来たのよ。
     へえー、とうちゃん、和服ダンディー!
     海原雄山風味じゃーん
     チャラ男の親にしては意外ー。」
    山口父を四方からジロジロ眺め回すゼロ。
     
    「あ、太郎、手土産は何を持ってきた?」
    無言で固まる太郎。
    「返事できないよね、こういう状況じゃ。
     ・・・って、あれ?」
     
    ゼロが左右にフラフラする。
    「何か雄山とバッチシ目が合ってるんだけど・・・。」
     
    山口が言った。
    「俺のオヤジだぜー?
     霊感あるに決まってるじゃーん。」
     
    「えっ・・・」
    ゼロも固まる。
     
     
    「あっ、そ、その、ご挨拶が遅れて失礼いたしました。
     わたくし、息子さんたちと親しくさせていただいてる霊で
     ゼロと申します。
     多分、霊障とかないので、ご安心いただければ幸いだす。」
     
    動揺のあまり、カミながらも土下座するゼロ。
    太郎は真っ青だが、山口は能天気にゲラゲラ笑い転げている。
     
     
    「ごめんーーー、太郎ーーー
     私、最近、太郎の邪魔ばっかりしてる気がするーーー!」
     
    ゼロは部屋の隅っこに向かい、シクシク泣き始めた。
    「だから、そういう仕草も
     霊だとほんと恐いんで、やめてくださいって!」
    太郎がゼロに怒る。
     
    山口パパは、ただ呆然と目を丸くしているだけだった。
     
     
     続く。
     
     
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          亡き人 1 10.11.17  

  • 亡き人 22

    「臨・兵・闘・者・・・」
    「あっ、九字切りしてる、すげえ早え!」
     
    そんな場合じゃないのに、ゼロが思わず見とれていると
    「波っっっ!」
    と男が叫び、手の平をこちらに向けた。
     
    「うわっっっ」
    凄い風圧にヨロけるゼロ。
    「ちょ、止めてくんない? ヘアーが乱れるじゃないの!」
     
    「な・・・何?」
    消えないゼロを見て、驚く男。
     
     
    「はい、ちょっとお話を聞かせてくれるかなー?」
    男の左右に、警官が2人立った。
     
    霊感のない通行人からしたら
    青年に一方的に怒鳴りつけているオヤジは
    充分に通報対象者である。
     
     
    警官のひとりが、太郎にも声を掛ける。
    「どうしたのかなー?」
     
    ゼロが太郎にせかす。
    「知らない人に絡まれて困ってたと言え!」
     
    「あっ、卑怯者!!!」
    叫ぶ男に、ゼロが怒鳴る。
     
    「ウソじゃないじゃん。
     つーか、おめえ、それ以上いらん言動をすると
     尿検査のあげく、ヘタすると措置入院させられるぞ。
     普通の人には私は見えてないんだからな。」
     
    「くっ・・・、ハメられた・・・。」
    膝を付く男に、警官がギョッとする。
     
    「おいおい、おとうさん、大丈夫ー?
     どうしたの-?
     ご家族、誰か呼べるー?
     ちょっと署まで行こうかー。」
     
     
    太郎は警官に、ゼロの言う通りに答えた。
    「えっと、ぼく、この店でバイトをしてるんですけど
     終わって帰ろうと店を出たら
     そこにいたあの人と目が合って
     それから、よくわからない事を言われて
     どうしたら良いかと、困ってたんです。」
     
    「ああー、そうー、知らない人なのねー。
     あの人、酔ってるわけでもなさそうだし
     支離滅裂な事を言ってるし、運が悪かったねー。
     そういう時は相手をせずに、すぐ逃げた方が良いよー。」
     
    「何かこの警官も、やる気のない事を言ってねえ?」
    突っ込むゼロに、苦笑いをするわけにもいかない太郎。
     
     
    男は警官に引っ張っていかれ
    太郎は学生証提示ののち、放免となった。
     
    太郎がゼロを見ると、ゼロはいつになく険しい顔をしていた。
    「どうしたんですか?」
     
    「太郎・・・、あの男、笑かしよるけど、本物だと思う。
     私、あいつに勝てる気がしない。
     今度会ったら、退治されるかも知んない。」
     
    「えっ・・・」
    いつも無意味に自信満々なゼロが
    珍しく弱気な事を言うので、余計に信憑性が増す。
     
     
    電車の吊り革につかまりながら、窓を眺める太郎。
    街の明かりに邪魔をされるけど
    窓ガラスに自分の姿が映ってるのが見える。
     
    その肩にゼロは見えない。
    だけど横を向くと、肩に掛かった手が見え
    ゼロが ん? と、太郎の顔を覗き込む。
     
     
    もし、ぼくのアパートがあの人に見つかったら
    ゼロさんたちに危険が及ぶかも知れない。
     
    これは申し訳ないけど、山口くんに甘えるしかない。
    山口くんのマンションなら、防犯がしっかりしている。
     
     
    太郎は翌日、大学で山口に訳を説明し
    改めて自分から同居のお願いをした。
     
     
     続く。
     
     
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