カテゴリー: 亡き人

  • 亡き人 21

    太郎がバイトを終えて店を出た時
    時計はもう、夜の11時を回っていた。
     
    ポツポツと人が行き来する繁華街の中
    道の向こうから、中年男性が話し掛けてきた。
    「長野太郎か?」
     
    「・・・はい・・・?」
    太郎には見覚えのない男性だった。
     
     
    「私はこの店の除霊をしていた者だ。
     だが先日クビになった。
     私の代わりにきみが除霊した、と聞いてな。」
     
    太郎はハッとした。
    その瞬間、ゼロが現われた。
    「呼ばれて飛び出てジャジャジャジャーーーン!」
     
    「あっ・・・」
    今来ちゃマズい! と太郎は思ったけど
    呼んだのは多分、自分である。
     
     
    「何だ? この霊は!」
    驚いて叫ぶ男の方を、ゼロが見る。
    「何だと言うおまえこそ何者だ!」
     
    ゼロの、すぐ噛み付き返す狂犬のような反応に
    男は ふふっ と微笑みながら、大声で名乗った。
     
    「私は、スピリチュアル・長崎だ!」
     
    あ、九州きた!!!
     
     
    「・・・・・・・・」
    ゼロは無言でモジモジした。
    「何だ? その反応は。」
     
    「あのお・・・、あまり道端で叫ばない方が良い名前かと・・・。」
    目を逸らしながら、申し訳なさそうに言うので
    余計に失礼さが増している。
     
     
    「人の仕事を奪った上に、名まで愚弄するのか!」
    「え? マジシャンの仕事を奪った覚えなんかないけど?」
    「誰がマジシャンだ!」
     
    「・・・だって、黒の上下スーツに蝶ネクタイにステッキ
     マジシャン以外の何者でもないじゃんー。」
     
    怒りでワナワナと震える男に、太郎が慌てる。
    「ゼロさん、この人、店を除霊してた人らしいですよ。」
     
    その説明に、最大にいらん感想を言うゼロ。
    「え? 男だったの? 女かと思ってたー。」
    「何故だ?」
     
    男の問いに、ゼロがズケズケと言う。
    「だってごまかし方が、せせこましいもん。
     数箇所ほころびを残しといて
     チマチマお呼ばれにあずかろうなどさあ。
     バーン! と完璧に仕事をしてたら
     口コミで評判も広まるだろうに。
     そのセコさで、女霊能者の仕事だと思い込んでたよー。」
     
     
    「ゼロさん・・・、もう止めてください。」
    太郎がゼロを小声でたしなめる。
     
    「え、何で?」
    「その人、憤死しそうですよ。」
     
    男のステッキを持つ手が、ブルブルと震えてるのを見て
    ゾッとしたゼロが太郎に 逃げよう、と耳打ちしたところに
    「逃がさんぞ!」
    と、男が叫んだ。
     
     
     続く。
     
     
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          亡き人 1 10.11.17  

  • 亡き人 20

    ゼロも反省する事があるのか
    しばらく口数も少なく、ションボリとする日が続いた。
    太郎も、そんなゼロを見て見ぬフリをし
    ふたりはお互いに何となく避け合っていた。
     
    血まみれちゃんは、太郎とゼロの間に挟まれて針のムシロだった。
    元はと言えば、自分がゼロにせかしたのだ。
    首を振る事でしか、表現が出来ない血まみれちゃんは
    無表情で、どんどんうつむいていくしか出来なかった。
     
     
    数日後、ゼロは目まいを起こした。
    気付くと、目の前に太郎と山口がいる。
    「呼んだ?」
    「はい。」
     
    呼ばれるのは構わないけど、いきなり消えるんで
    血まみれちゃんが動揺するのが可哀想なんだよな
    ただでさえ最近、気を遣わせてしまっていたのに。
    ショックを受けていないといいけど・・・。
     
    それに私も、突然目が回るのは辛いし
    何か他に連絡手段ないんかなあ
     
    呼ばれた事も瞬時に忘れて
    憮然と考えて込んでいるゼロに、太郎が言った。
    「あの・・・、山口から同居を提案されたんだけど。」
     
    そこでようやく、あ、呼ばれてたんだ、と気付き直すゼロ。
    「へ? 同居? 何で?」
    「あ、俺が説明するわ。」
    山口が軽そうに言った。
     
     
    「この前の忍者屋敷、あれ、俺名義のマンションなんだわ。
     大学の合格祝いに親父が買ってくれたんだ。」
     
    その話に、ほーら、やっぱこいつ金持ちのボンだったろ?
    と、今の今までギクシャクしていた関係も、再び瞬時に忘れて
    自分の予想が当たった事を、盛大に太郎に誇るゼロ。
     
    ゼロがいつものように、話し掛けてきたので
    内心、安堵する太郎。
     
     
    「でさ、俺、考えたんだわ。
     皆、長野と遊びたいし、ゼロさんにも会いたいんだ。
     長野が忙しいのって、生活費を稼ぐバイトのせいだろ?
     俺のマンション、大学の側で交通費いらないし
     家賃も光熱費もいらねえよ。
     これで長野、バイトを減らせるんじゃねえ?」
     
    「ほお、チャラ男にしちゃ、良い案だなあ。
     中々やるじゃん。」
     
    感心するゼロを、太郎がたしなめる。
    「いくら友達だからって
     そこまで甘えるのはダメだと思うんだけど・・・。」
     
    「うん、まあな。
     でもチャラ男には負担じゃないと思うよ。
     だからチャラ男、この話の許可を父ちゃんから貰え。」
     
     
    いきなりの展開に、山口が反論する。
    「え? 何で親父に?
     あのマンション、俺名義だと言ったじゃんよ?」
     
    「学生の身分だからさ。」
    ゼロがきっぱりと言った。
     
    「子のすべては、親由来なんだよ。
     良い事も悪い事もな。
     親との関係は家庭によって違うけど
     たとえ自立をしてても、無視して良いって事じゃないだろ。
     ましてやおめえ、その住居は愛情でのプレゼントなんだし
     親が相手だろうと、きちんと筋を通せよ。」
     
     
    ええー、めんどくせー、とゴネる山口に
    ゼロが珍しく優しく語りかける。
     
    「太郎を親父んとこに連れて行って、ちゃんと紹介しろ、な?
     大丈夫! 太郎なら、親は喜ぶ友達だ。
     そんで許可が出たら、家賃と光熱費の分配を話し合え。
     タダ住まいは、太郎の肩身が狭い。
     ま、太郎なら、出世払いも可だがな。」
     
    意味深にニヤリと笑うゼロ。
    太郎は何故か、“女衒” という単語を思い出した。
     
     
    だが、ゼロの言う事はもっともである。
    「うん、ゼロさんの言う通りかも知れないよ。
     親を無視して、勝手な事をしちゃいけないと思う。
     まずは、おとうさんと相談してみてくれよ。」
    太郎がそう言うと、山口も考え直した。
     
    「そうだな、一生付き合うつもりなら
     長野が俺の親とも仲良い方がラクだもんな。
     んじゃあ、近い内に実家に行ってくるわ。」
     
     
    太郎と山口が、ふたりでうなずき合っているところに
    空気を読まずに、ゼロが割り込む。
     
    「で、太郎は今日もバイトなんだよね?」
    「あ、はい。」
    「うん、わかった。 頑張ってね。」
    ゼロは駅の方へと飛んで行った。
     
    山口のマンションなら、ゼロさんも大学と自由に行き来できるんだよな
    太郎は、ふとそう思った。
     
     
    にしても、確かに良い話だけど
    そこまで甘えて良いものなのか?
     
    ゼロはその話にはまったく触れて来ないので
    太郎はひとりで悩んだが
    “正解” と思えるものが出ない。
     
    ゼロさんなら答を持ってる気がする・・・。
    だけど、訊けない太郎であった。
     
     
     続く。
     
     
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          亡き人 1 10.11.17  

  • 亡き人 19

    いきなりゼロが太郎の目前に現われ、一同は驚愕した。
    「あー、アルゼンチン・ワープ、便利良いけど
     ものすごく目が回る感じで不愉快なんだよなー。」
     
    眉間を押さえてグチるゼロに、太郎が声を掛けた。
    「あの、ゼロさん、どうしたんですか?」
     
    太郎をキッと睨んで、ゼロが怒鳴る。
    「どうしたもこうしたもねーよ!
     おめえが毎晩遅いから、グレたんじゃねえかと
     血まみれちゃんが心配してんだよっ!」
     
     
    「あっ、ゼロさんだー。」
    「すごーい、瞬間移動が出来るんだー。」
     
    歓声が耳に入り、辺りを見回すと
    心霊研究会のメンバーたちがいた。
    「・・・おめえらかい・・・。」
     
    ガックリするゼロに、メンバーからブーイングが飛ぶ。
    「えー、あたしらじゃ不満なわけー?」
     
    「うん、ちょっと期待してたんだよねえ
     太郎に彼女でも出来たんじゃないか、ってね。」
     
    「それはすいませんでしたねー。」
    スネる女子メンバーたち。
     
    「いやあ、エッチの真っ最中とかじゃなくて、良かったよー。」
    ヘラヘラ笑うゼロに太郎が、やめてください、と怒る。
     
     
    「で、ここはどこなんだ?
     黒い家具だらけで忍者屋敷になっとるが。」
     
    「あ、俺の部屋ー。
     大学から近いんで、部室代わりになってるっつーか。」
     
    「チャラ男・・・、やっぱおめえはアホだったか。
     霊感があるのに、こんな黒い部屋に住むとは・・・。
     悪霊来てくださいー、って言ってるようなもんだと思うが?」
     
    その言葉に、山口が慌てる。
    「えっ、そうなの?」
    「うん、仏壇が並んでるようにしか思えんわ。
     霊にはすんげえ居心地が良いんじゃね?」
    「えええーーーっ、デザイン性を重視したのにーーーっ。」
     
    嘆く山口に、ゼロが冷たい口調で優しい言葉を掛ける。
    「今度から何かする時は、大人のヒトに相談しようねー?」
     
     
    山口を不幸のドン底に叩き落した後に
    振り向いて、今度は太郎を詰問し始めるゼロ。
    「で? 何で最近遊びに目覚めたわけ?」
     
    「え・・・、だってゼロさんが
     『人付き合いをしろ』 と言うから・・・。」
    意外なその言葉にゼロは驚き、そして考え込んだ。
     
    「・・・そうか・・・
     大学とバイトと勉強、の太郎のスケジュールだと
     友人と付き合う時間もないもんな・・・。」
     
    ゼロは太郎に頭を下げた。
    「太郎、無責任な事を言ってごめん。
     今の優先順位は、勉強だと思うんだ。
     あれもこれも、は時間的に無理だよな。」
     
    そして、メンバーたちを見回して言った。
    「皆、頼む。
     太郎が司法試験に合格するまで待ってくれ。
     こんな夜の数時間でさえ、遊ぶと勉強の時間がなくなるんだ。」
     
     
    いや、別に良いけど、という空気に
    いたたまれなくなった太郎は、少し怒ってゼロに言った。
     
    「ゼロさん、厚意で遊んでもらってるのに
     “待ってくれ” なんて、勝手すぎますよ。
     それに司法試験を誤解してるようですけど
     大学卒業後に法科大学院に入って
     それを卒業して、やっと受ける資格ができるんですよ。」
     
    ゼロは目を丸くした。
    「え? そうなの?」
     
    「そうでなくても、僕の都合で
     皆を振り回すわけにはいかないですよ。
     さあ、帰りますよ。
     皆、ごめんね。」
     
    太郎の言葉に、自分の非に気付いたゼロがうなだれた。
    「そうだわ・・・、私が勝手すぎた・・・。
     皆、ごめんなさい。」
     
     
    ゼロは、部屋を出た太郎を慌てて追いかけた。
    そして足早に歩く太郎の首にしがみついて謝った。
     
    「ごめんね、太郎
     あなたの立場を悪くするような真似をしちゃったね。
     出すぎた事だったよ、本当にごめんね、許して。」
     
    太郎がどう答えて良いか迷って、無言でいると
    それを拒絶と取ったのか、ゼロが立ち止まって泣き始めた。
     
    太郎はもう怒ってはいなかったが、すぐに許すのもシャクに障るので
    振り返って怒った口調で言った。
     
    「やめてください!
     霊がすすり泣いてる姿なんて、ほんと恐いんですから!
     さあ、帰りますよ、早く来てください!」
     
     
    ゼロは、ヒックヒックしゃくり上げながらも
    太郎の背中にしがみついて来た。
     
    “帰りますよ”
     
    太郎は少し自分にガッカリした。
     
     
     続く。
     
     
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          亡き人 1 10.11.17  

  • 亡き人 18

    「だからさ、UFOっているいない、じゃないと思うの。
     だって、“未確認飛行物体” って意味なんでしょ?
     世間で確認できていない飛行物体って、あるじゃん。
     軍の開発途中の戦闘機とか偵察機とかさ。
     何で UFO = 宇宙人の乗り物 になってんの?
     てかさ、私が確認できない、ってだけでも
     UFO扱いして良いと思うの!」
     
    ゼロがいつものように、自論を好き勝手に喋りまくる中
    血まみれちゃんの様子が、いつもと違っていた。
    どことなく、ソワソワしている。
     
     
    「ん? どうしたの? 排卵日か?」
    ゼロのくだらないギャグに、血まみれちゃんが髪を逆立てて怒る。
     
    ・・・と言っても、血まみれちゃんは無表情である。
    普段はボーッと宙を眺めて制止している。
    たまの意思表示も、首を縦に振るか横に振るかでしか出来ない。
     
    だけど、しつこく一方的に喋りかけている内に
    ゼロは、血まみれちゃんの感情の微妙な変化を
    読み取れるようになっていた。
     
     
    「ごめんごめん、死人に排卵日、何の卵だよ? っちゅう
     高度なブラックジョークだってばー。」
    能天気にヘラヘラ笑うゼロに
    血まみれちゃんが真面目な顔で、時計を見る。
     
    「えーと、今、夜中の11時過ぎ。 それが?」
    次に血まみれちゃんは、太郎の椅子を見た。
     
    「ああ、わかった。
     『太郎の帰宅が遅くて心配』 って言いたいんだね?」
    血まみれちゃんが首をブンブンと縦に振る。
     
     
    「ちょ、やややや止めてーーーっ。
     おめえ首のところもケガしてるから
     千切れそうで、ハラハラさせられるって。」
    ゼロが血まみれちゃんの首を押さえると、傷が少し消えた。
     
    「あれっ? 治ったよ、ここ! 少しだけど。」
    自分の手の平を見つめるゼロ。
     
    「んー、この治癒能力、何か不安定だよね。
     この前、試してみた時は治らなかったのに。
     法則とかがあるんだろうか?」
     
     
    考え込もうとするゼロに
    血まみれちゃんが、必死にゼロの顔を覗き込む。
    「あ、ごめん、太郎の話だったね。」
     
    ゼロがカレンダーを見ながら言う。
    「確かに最近、太郎の帰りが軒並み遅い。
     これは・・・。」
     
    血まみれちゃんが身構える。
    「彼女でも出来たのかなー?」
    血まみれちゃん、カクッと肩をわずかに落とす。
     
    「おっ、良いリアクションが出来るようになったじゃん。」
    笑うゼロに、血まみれちゃんが涙目で訴える。
     
     
    「うーん、太郎も青春真っ盛りだし
     放っといて良いんじゃないか、とも思うけど
     横道に逸れて、人生の目標をフイにする可能性もあるわけだし
     ああいう真面目くんほど、ハジケやすいしねえ・・・。」
     
    何のかんの言って、血まみれちゃんの頼み事には弱いゼロ。
    「わかった。
     どこで何をしてるんか、確認しとこう。
     んじゃ、帰りは太郎と一緒になると思う。
     行ってくるね。」
     
     
    血まみれちゃんがうなずくのを見た後
    ゼロが、ハヤタがウルトラマンに変身する時のようなポーズを取った。
     
    「アルゼンチン!!!」
     
    ゼロの姿が、血まみれちゃんの前から消えた。
     
     
     続く。
     
     
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          亡き人 1 10.11.17  

  • 亡き人 17

    1店舗目から駐車場へと移動しながら
    太郎の背中のゼロに責められるエリアマネージャー。
     
    「大体、何で夜にすんの?」
    「夜の方が見えるから・・・。」
     
    「あのさ、って事は、霊は夜にパワーアップするんじゃない?」
    「あ、ああ、そうだと思う。」
    「決して、おめえのパワーアップじゃないよね?」
     
    「・・・・・・、ああっ、そうかも知れない!」
    ハッとするエリアマネージャー。
     
     
    「何か私、昼夜あまり関係ないっぽいのね。
     だったら、相手の力が弱まってる昼にやりたかったわ。」
    「そうか、そういう事なら・・・」
    「てかさあ、営業時間外にしないと
     おめえの評判ガタ落ちだと思うよー?」
     
    「ううっ・・・」
    激しく落ち込むエリアマネージャーを
    黙って見ていた太郎が、さすがに同情したらしい。
    「ゼロさん、ちょっと言い過ぎですよ。」
     
    その言葉に益々不機嫌になるゼロ。
    心なしか、背中がずっしり重くなった気がする太郎であった。
     
     
    2店舗目は線路の横だった。
    店に入ろうとするエリアマネージャーを、ゼロが呼び止める。
    「ちょっと待って。 ここで説明して。」
    「あ? ああ、いいけど・・・。」
     
    この店は、祓っても祓っても怪異が起こるという。
    店の中に貼ってある御札も、すぐにボロボロになる。
    霊能者は、ここが霊道だから定期的に祓わないとしょうがない
    と言っているらしい。
     
    「その霊能者に全店舗任せているのね?」
    「ああ、前任者の時からの付き合いらしい。」
    「その霊能者さ、ここで店の中だけやってた?」
    「確か、そうだったはず。
     どの店も外周りは何もしてないと思う。」
     
    ゼロはそれを聞くと、考え込んだ。
    「どうしたんだね?」
    エリアマネージャーが訊くと、うーん と唸る。
     
     
    「・・・これを言って良いのかわかんないけど
     他の霊能者に替えた方が良いと思う。」
    その言葉にエリアマネージャーが険しい顔をする。
    「詐欺だと言うのかね?」
     
    「その霊能者さ、ちゃんと能力はあると思う。
     でも、あえてカモれる場所を何箇所か残してる気がする。
     さっきの店舗の霊もさ、スッキリ祓えたはずなんだよ。
     私のを見てたでしょ?」
     
    「ううむ、確かに・・・。」
    「そんで、ここさ、店が霊道なんじゃなく
     この横の線路伝いに霊がどんどん通ってるっぽい。」
     
    「えっ、霊って線路上を移動するの?」
    驚く太郎に、ゼロがあいまいに答える。
    「いや、それはよくわかんないけど、ここはそうみたいなのよ。」
     
    「それじゃあ、店を祓っても無意味だというわけかね?」
    「うん、店内の浄化より、店外に結界を張った方が良いと思う。」
     
    「それはきみには頼めないのかね?」
    エリアマネージャーの言葉に、ゼロが呆れた。
     
    「よく考えて物を言えよ、私は霊だろ。
     力勝負のバトルならどうにかなるけど
     専門家じゃないと、そういう儀式みたいなんは無理だよ。
     てか、自分をも祓う術なんか使えるわけがねえじゃん。」
     
     
    「そうか・・・、じゃあ誰に頼めば良いものか・・・。」
    アゴをさすりながら悩むエリアマネージャーに、ゼロが言う。
     
    「でもさ、ここを試験場にすりゃ良いと思う。
     ここで私と同じ意見を言う人なら
     確かな腕を持ってる、って証拠だし
     それにこんなカモ場、滅多にないし、誠実さも量れるよ。」
     
    「おお、そうだな!
     じゃあ、まずは霊能者探しだな。」
     
     
    翌日、太郎にエリアマネージャーから電話があった。
    「いやあ、夕べはどうもありがとう。
     思った以上の成果に、感謝しているよ。
     特別手当をはずむからね。
     また何かあったら頼むよ、ゼロさんによろしく。」
     
    いえ、とんでもない、お役に立てて良かったです
    と、太郎が型通りの返事をして電話を切った後に
    振り向くと、ゼロが仁王立ちをしていた。
     
    「な、何ですか?」
    「今の電話、エリアマネージャーからだろ?
     相手が切るまで切らずに待ったか?」
    「は、はい。」
     
    「・・・んなら、良い。
     それと、夕べのおめえの態度、60点ね。」
    「それは低いんですか? 高いんですか?」
    「普通。 ほんと、フツーーーーーー!」
    ビビる太郎に、吐き捨てるように言うゼロ。
     
     
    「自分の能力外の場面で、いらん主張をせんのは良い。
     でも、フォローやサポートに回れる機会はあった。
     どんな時でも常に、自分のやれる事を探さないと
     相手に何の印象も持たれずに終わるよ?
     わかった?」
    「は、はい。」
     
    オドオドしながら返事をする太郎に
    怒ってばかりじゃなく褒めなくちゃ
    と、珍しく気を遣ったゼロが、背中を向けながら言う。
    「素直さは満点だけどね。」
     
    思わぬ褒め言葉に、つい顔が赤くなる太郎であった。
     
     
     続く。
     
     
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          亡き人 1 10.11.17  

  • 亡き人 16

    「あの・・・、ゼロさんに店に来てほしいって
     エリアマネージャーが・・・。」
     
    言いにくそうに切り出す太郎に、ゼロが容赦なくイヤな顔をする。
    「あああーーー? 何か私、コキ使われてねえ?
     おめえのお友達とか上司にさー。」
     
    「・・・すみません・・・。」
    素直に謝る太郎に、ゼロはより一層憤慨した。
    「おめえさ、仮にも弁護士を目指してるんだろ?
     気の利いた言い訳のひとつも出来ないとマズくねえ?」
    「はあ・・・。」
     
     
    この返事にも、怒るゼロ。
    「あーーーっ、企業の面接官の気持ちがわかった気がするー。
     これが “ジェネレーション・ギャップ” ってやつ?
     ね、太郎、筆記も大事だけど実技のスキルも付けるんだよ?」
     
    「それはどうやって学ぶんですか?」
    「人付き合い!
     どんな時どんな場所でも、結局は VS・人 なんだよ。
     ね?」
    よりによって、血まみれちゃんに同意を求めるゼロ。
     
    急な同意要請に流されて、慌ててうなずく血まみれちゃん。
    ゼロが得意げに大声を出す。
    「ほらあー、浮遊霊ですら付き合いを大事にしてるんだよー?」
     
    ねーーー、と血まみれちゃんに向かって首を傾けるゼロに
    血まみれちゃんも動揺しながら、頭を縦に振る。
     
     
    「じゃ、血まみれちゃんも、付き合いで一緒に行く?」
    ゼロが誘った途端、血まみれちゃんは青ざめて消えた。
     
    「仰る通り、濃厚なお付き合いで・・・。」
    つぶやく太郎に、ゼロがニッと笑いながら言う。
    「その調子!」
     
    この人の感覚がいまひとつわからないなあ
    悩みながら靴を履く太郎に、ゼロがおぶさった。
     
     
    待ち合わせ場所からは、エリアマネージャーの車で問題の店舗に向かう。
    「・・・その体勢は何なんだね?」
    車内でも、太郎の背にしがみつくゼロを見て
    怪訝そうに訊くエリアマネージャーに、太郎が丁寧に説明をする。
     
    「はい、移動している時は、この方が安定するらしいんです。」
    「何となく、ってだけだけどね。」
    お偉いさんに、無愛想タメ口のゼロ。
     
     
    1店舗目に着いた。
    「ここはね、一番奥の席がいつも空くんだ。
     お客さんが座っても、すぐに帰ってしまう。
     かと言って、回転が良いわけでもないんだよ。
     あそこの席は、客単価が飛び抜けて低いんだ。」
     
    「その理由は、もうわかってるよねえ?」
    ゼロの問いに、エリアマネージャーが即答する。
    「ああ、女性が座ってるのが見える。」
     
    「じゃ、祓えばー?」
    「祓ったんだけどねえ。」
    「もー、しょうがないなあ。」
     
    ゼロは太郎の背から降りて、女性に近寄った。
    そしてクルクル回りながら叫んだ。
    「ウルトラ☆ミラクル☆ゼロちゃんチョーップ!」
    空中元彌チョップレベルの技なのに、女性はボフンと霧散した。
     
    「おおーっ、凄い凄い!!!」
    エリアマネージャーが拍手をする。
     
     
    「あのお、すんませんが、ひとつお聞きしたい。
     何で今、これをしなけりゃいけないんですかあ?」
     
    ゼロの問いに、エリアマネージャーが改めて答え直す。
    「いや、だから売り上げに響くぐらい・・・」
    「じゃなくてー!」
    ゼロがイライラしながら言う。
     
    「おめえには私が見えてるだろうけど
     他の従業員やお客には見えてないと思うよー?
     おめえさ、端から見たら、無言の青年にしつこく話しかけて
     ひとりではしゃいでいる気色の悪いオヤジなんじゃない?」
     
    「ああっっっ!」
    周りを見回し、その冷えた視線に大慌てするエリアマネージャー。
     
     
     続く。
     
     
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          亡き人 1 10.11.17  

  • 亡き人 15

    「へえ、良かったじゃん。」
     
    軽く言うゼロの口調に、素早く山口が怒り出した。
    「はあー? 俺がイジメられてるのが良かったー?
     何言ってんの? このおばさん。」
    最後のひとことに、ゼロの右眉がピクッと上がる。
     
    「山口、今すげえ辛いっぽいから!」
    「20歳過ぎたらおばさん、とか言う男ってバカだから!」
     
    周囲の必死のなだめをよそに、ゼロは山口にガンをつける。
    まさに背景は竜巻にゴオオオの効果音である。
     
     
    しばらく視線ビ-ムの攻防をやっていたふたりだったが
    ふーっ と溜め息をついて、ゼロが壁にもたれ掛かった。
     
    ら、壁をすり抜けて行った。
    うりゃあ! と、腹筋で復活してきたゼロが山口に怒鳴る。
     
    「おめえさ、最初バカにされて無視されたんだよね?」
    「おう。」
    「で、今度はそいつらにイジメられ出したんだよね?」
    「そうだっつってんだろ。」
     
    「おめえさ、そこの椅子、気になる?」
    「・・・? いや?」
    「そういうこっちゃ!!!」
    「どういう事だよ?????」
    山口が叫んだ。
     
    「山口くん、人間は静かにしてくれ、近所から苦情がくる。」
    太郎が慌てて山口をたしなめる。
     
     
    「あ、ごめん。
     でも、ほんとわけわかんねーよ。」
    山口の困惑に、ゼロが二度目の溜め息をついて言う。
     
    「どうでも良いものって気にならないだろ?
     好きでも嫌いでも感情を動かすものは、どうでも良くないんだよ。
     つまりおめえは、元仲間にとって
     どうでも良くはない存在だ、って事。
     良かったね、存在感があって、というわけ。
     わかったか!」
     
    おおおおおお、と一同から歓声が上がった。
    「そうか、俺、特別な存在だったんだ。」
    「良かったな、山口。」
    あーあ、アホ揃い・・・、とゼロは横目でその様子を見ている。
     
     
    「で、どうするんだ? 元仲間。」
    福島が訊くと、山口が意見を仰ぐようにゼロを見る。
     
    目を合わさずに、ひとりごとのようにつぶやくゼロ。
    「別に、あえて意識する必要もないんじゃない?
     付き合っても良い事なさそうなヤツらだから
     その他大勢のカテゴリーにでも入れて、普通に接しとけば?」
     
    「うん、俺、そうするよ。
     皆と会って、俺ちょっと変われた気がするし。」
    山口がキラキラと語る。
     
     
    ああ・・・、若え者の爽やかな輝きは
    浮かばれない魂には悪い・・・
     
    ゼロは嫌そうに目を背けた。
     
     
     続く。
     
     
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          亡き人 1 10.11.17  

  • 亡き人 14

    「よお、長野、次、何?」
    「ああ、北海道教授の講義だよ。」
    「それ、すげえレポート提出が多くて大変だろ。
     去年それを取ったヤツを知ってるから、ノートを借りてきてやるよ。
     コピーして持っとくとラクだぜ。」
    「え、ほんと? 凄くありがたいよ。」
     
    太郎は一気に充実した学生ライフになっていた。
    心霊研究会のメンバーは、意外に個性的揃いで
    彼らと一緒にいると、自然と知り合いが増えていくのである。
    以前はひとりで食べていた昼食も、誰か彼か話しかけてきてくれる。
     
     
    “縁を拒む必要もないだろ?”
    ゼロの言葉が印象に残ったので
    太郎は努めて周囲と馴染むように振舞った。
     
    太郎は内向的ではなかった。
    ただ、“友達を作る期間” を逃がした子供は
    ガツガツしないと、中々輪にとけ込めないのに
    そういう事に気が回らず
    しかも真面目で大人しいので、人目を惹くタイプでもなく
    結果、ひとりでいる事が多くなってしまうのである。
     
    別に仲間外れにされているわけでもないし
    何でもひとりで出来る。
    他人がそれほど自分の事を気にしているわけではない
    と、知っていた太郎は、“ひとり” を苦にせず
    今まで、それで普通にやってこられた。
     
    それが、山口たちとの交流で状況が変わった今
    相変わらず勉強にバイトに忙しいのは変わらないけど
    何となく気持ちにハリが出てきた、というか
    同じ事でも、以前より楽しく出来るようになった気がする。
     
    ひとりも気がラクだったけど
    人といるのも良いかも知れない
    太郎には、“他人” たちとの交流が
    大切な時間になってきていた。
     
     
    太郎たちが学食で昼食を取っていると
    服を濡らした山口がやってきた。
     
    「それどうしたの?」
    福島が訊く。
    「ああ・・・、元仲間の女に水ぶっかけられた。
     『あっ、ごっめーん』 って。」
     
    「もしかして、イジメに合ってんの?」
    石川が直球で訊いてきた。
    その言葉に、山口がハッとする。
     
    「ああーーーっ、かも知んないー。」
    テーブルに突っ伏した山口に、福島が突っ込む。
    「おまえ、気付くの遅いよ。」
     
    「にしても、うざいヤツらよねえ。
     私が仕返ししてあげようか?」
    岡山の言葉に、山口は驚いた。
    「どうやって?」
     
    「式神でも飛ばして。」
    一同がドッと笑った。
     
     
    「うそうそ、そんな芸当できないって。
     無視が一番じゃない?」
    「だよねえ。」
     
    そう話がまとまりかけた時に
    ふと太郎が笑って、何気なくつぶやいた。
     
    「ゼロさんなら、どう答えるんだろうなあ。」
     
    その言葉に、仲間たちが乗る。
    「あ、あたしは、『ぶっ殺す!』 に1票。」
    「ぼくは 『暴れる』 でー。」
    「・・・てか、全員それじゃ賭けにならなくない?」
     
    「おまえら・・・、俺の苦悩を賭けるんか?」
    ちょっとムッとする山口だったが、ふと思った。
    「でもゼロさんの反応、確かに興味あるよな。」
     
     
    「それじゃあ、長野のバイトが終わる時間に駅前集合なー。」
    という予定になった。
     
    太郎は少し不安だった。
    ゾロゾロと人を連れて行くと
    ゼロの気分によっては、怒り出す恐れがあるからである。
     
     
     続く。
     
     
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          亡き人 1 10.11.17  

  • 亡き人 13

    「ゼロさま千手観音拳 (単なる殴る蹴る) !!!!!」
     
    頭が動くより先に、気付いたら血まみれちゃんと黒綿菓子の間に入り
    黒綿菓子をタコ殴っていたゼロ。
     
    黒綿菓子は、ボワンというような空気圧感があって
    ゼロが殴ったあたりから、モロモロと小さい塊に崩れている。
    集めてあった羊毛が風で舞ったような感じだ。
     
     
    えーと、えーと、真っ黒くろすけ?
    試しに目の前に浮く塊を、両手で挟むように叩くと
    パシュッと消滅した。
    手の平を見ても、黒くなっていないので
    真っ黒くろすけではないようだ。
     
    「私、これ、倒せる気がするんだけど、どうしよう?」
    血まみれちゃんに訊くと、ものすごい勢いで首を横に振っている。
    「触らぬ神に祟りなし、って事かな?」
    血まみれちゃん、うんうんうんうんとヘッドバンギング。
     
    「んじゃ、逃げるぞーーーーーっ!!!」
    ゼロと血まみれちゃんは、再び脱兎のごとく飛び出した。
     
     
    かなり遠くまで逃げてから振り返ると
    分裂したはずの黒綿菓子は、また一体化し始めている。
     
    「あれって、霊の集合体みたいなものかな・・・。」
    ゼロがつぶやくと、血まみれちゃんがうなずいた。
     
    そうか、さっき血まみれちゃんも吸収されそうになったんだな。
    あれっ? でも、あれ、殴ったら消えるよね?
    なのに何で吸収されるわけ?
     
     
    再び悩みかけたその時
    血まみれちゃんが心配そうにゼロの顔を覗き込んだ。
     
    「あ、ごめんごめん、恐かったよね
     大丈夫? どこも異常はない?」
    うんうん
     
    「じゃ、さっさと帰ろうか。
     ここはもう出入り禁止、っちゅう事にしよう。」
    何か言いたげな血まみれちゃんに、ゼロは気付かなかった。
     
    「あー、しっかしカフェとか寄れないの、辛いよねー。
     てか、自販機すら利用できんもんね。
     散歩に茶ぁ飲みは付き物なのにねー。」
     
     
    血まみれちゃんは相変わらず喋れなかった。
    物に触れないので、筆談も出来ない。
    「自動書記とか、あれどんだけ強い霊なんだろうね。」
     
    ふたりでいる時には、ゼロがひとりで喋っていた。
    ゼロの話の内容は、多岐にわたっていたが飛び飛びになる。
    何よりも、よくこれだけ喋り続けられるものだ
    というぐらいに、話題が尽きない。
    それにはゼロなりの理由があった。
     
    「太郎がいない今、喋っておかないと
     太郎に構ってほしくなるんだよー。
     何かね、喋らないと脳内がどんどん混雑していくのよ。
     でも、太郎の勉強の邪魔をしたらダメじゃん?
     だからごめんけど、血まみれちゃん、相手してね。」
     
    血まみれちゃんは、うんうんとうなずいた。
    ゼロの話題は、知らない分野の事が多かったし
    それよりゼロから必要とされている事が嬉しかった。
     
     
     続く。
     
     
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          亡き人 1 10.11.17  

  • 亡き人 12

    ゼロと血まみれちゃんは、公園に来ていた。
    「アパートからちょっと離れているけど来れたねえ。
     うちら半径どれぐらいまで移動できるんだろうねえ?
     んで、基準って何なんだろう?」
     
    考え込むゼロに、血まみれちゃんは首をかしげる。
    「まあ、その実験は、追々やってみよう。
     血まみれちゃんも、今度アルゼンチンやってみてよ。
     太郎んとこに行けるかどうか。」
     
    いやいや、と首を横に振る血まみれちゃん。
    「したくないの?」
    うんうん、とうなずく血まみれちゃん。
    「えーと、何でかな。」
     
     
    しばらく考えたゼロが言う。
    「1.血まみれちゃんの土着は太郎じゃない
     2.血まみれちゃんは、そもそも地縛していない
     3.マジでアルゼンチンに行けそうだから
     4.迷子になったら困るから
     どれ?
     1? 2? 3? 4?」
     
    血まみれちゃんは、1と4でうなずいた。
    「迷子になった事があるの?」
    うんうん
    「そん時、どうやって戻った?」
    いやいや
    「自動的に?」
    いやいや
    「戻ってないの?」
    うんうん
    「じゃ、迷子のまま?」
    うんうん
     
    ええ・・・?
    じゃあ、血まみれちゃんは浮遊霊って事?
    血まみれちゃんに移動制限はないんか?
    私は地縛霊?
    でも太郎に呼び出されるよねえ?
    ゼロは益々考え込んでしまった。
     
     
    「て言うかさ、考えてもわかるわけないじゃん、って話だよねー。」
    ゼロが顔を上げて、血まみれちゃんの方を見ると
    血まみれちゃんが青ざめていた。
     
    「ちょ、何フリーズしてんの?」
    血まみれちゃんの顔の前で、手の平を上下させた時に
    その目が一点を見つめているのに気付き、振り返るゼロ。
     
    視線の先には、真っ黒の巨大な綿菓子のようなものが
    ウニャウニャしながら、こっちへゆっくりと近付いて来ていた。
     
    「あ、あれ何? とか質問しているヒマがあったら
     とっとと逃げるべきじゃない?」
    ゼロが慌てる程に、“それ” は嫌な雰囲気をかもし出していた。
     
     
    「逃げろ! おい、血まみれちゃん、正気に戻れ
     とにかく逃げろ、あれ、ヤバいって!!!」
    ゼロの剣幕に、血まみれちゃんがようやく反応した。
     
    「おらおらおらおら、全力で遁走せえーーーーーーっ!!!」
    ゼロの叫びに、血まみれちゃんも必死で飛ぶ。
     
     
    次の瞬間、血まみれちゃんがヨロめいた。
    「って、ああっ、浮いてるのに何でコケる!」
    前を飛ぶゼロが振り返りつつ突っ込む。
     
    血まみれちゃんはコケたわけではない。
    黒綿菓子から伸びた手みたいなものに捕まれたのだ。
     
    「ああああああ、触手プレイきたーーーーーーーーっ!!!」
     
     
    もうゼロ、ピンチ過ぎて、わけわからん状態。
     
     
     続く。
     
     
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