• 継母伝説・二番目の恋 36

    ・・・でも、よく考えると・・・
    あの王妃が健康な妊婦でいられるわけがない。
     
    「今まで以上に気を付けなければ!」
    思わず叫んで飛び起きたところに、王が入って来た。
     「うむ、わしもそう思い直した・・・。」
     
    公爵家の娘は、露骨に警戒しつつ掛け布団を引き上げた。
    「何故そちらのドアからお入りになってるの?」
    そのドアは、王妃の部屋へと繋がる内ドアである。
     
    「いや、王妃のつわりがひどくてな・・・。
     見ていると、こっちまでつわりが移ってな・・・。」
     
     
    「こんな時に夜伽など、何をお考えでらっしゃるの!」
    公爵家の娘の激昂に、王が慌てて否定する。
    「違う、違うぞ。
     わしは側で見守ろうと・・・。」
     
    「だったら最後までお見守りあそばせ!」
    王を王妃の寝室へと追い返して、公爵家の娘はベッドに入り直した。
    側室に蹴り出される、大国の王・・・。
     
     
    ふたりの、いや、王妃の懐妊を知る全員の杞憂が当たり
    王妃のつわりはひどく、見る見るヤツれていった。
     
    「何か食べたいものはございませんの?」
    枕元で優しく訊く公爵家の娘にも、王妃は首を横に振るだけ。
    その姿は、一緒に踊ったあの夜とは
    うって変わって、痩せ細って生気も失せていた。
     
     
    このままじゃいけない・・・
    そうは思うけど、公爵家の娘は誰にも相談しなかった。
    王妃の事であたくしに思いつかない事は、誰にも思いつかないわ!
     
    公爵家の娘は、部屋でひとりで考えた。
    何故だかわからないけど、誰にも指図をされたくなかったのだ。
     
    うん、どう考えてもこれしかないわね
    公爵家の娘は、南国の料理を作る事にした。
     
    しかし、それは思う以上に困難だった。
    現王妃のせいで、余計に歓迎されない南国の料理
    ただでさえ材料が入手しにくいところに、今は冬なのだ。
     
     
    「兵士を数人、貸してくださいませ。」
    公爵家の娘は、王に頭を下げた。
     
    「バカな、南国人街へ行くなど
     南国料理以外、他にももっと方法があるであろう!」
    王の叱責にも、公爵家の娘は動じなかった。
     
    「そう思うお方ばかりだから、あたくしが自ら動かねばならないのですよ。
     王さまも、ご自分の我がままを自覚なさっているのなら
     あたくしが王妃さまのためにする事に、文句など仰れないはず!」
     
    ビシッと言い放つ公爵家の娘に、王はひとことの反論も出来なかった。
    公爵家の娘は、ドアの前で振り返って更に言った。
    「今回の事は、あたくしの “貸し” ですわよ、王さま。」
     
     
    言いたいだけ言うと、公爵家の娘はスタスタと部屋を出て行った。
    入って来て出て行くまで、笑顔のひとつも見せない。
     
    女は子が出来ると強くなると言うが
    肝心の妊婦は弱って、姫がより強くなるとは・・・
    王は、こめかみを押さえつつ、グラスの水を飲み干した。
    「姫に兵を。」
    侍従を呼び、命じる。
     
    しばらくして、侍従が戻ってきた。
    「一個小隊 (約30人) もいらない、とつき返されました・・・。」
    「何? 王の寵姫がそんな少人数で出掛けたと言うのか!」
     
     
    玉座で王が激怒している時
    既に公爵家の娘は汚いドレスで
    5人の私服兵士だけを連れて、城門を馬で駆け抜けて行った。
     
     
     続く 
     
     
    関連記事: 継母伝説・二番目の恋 35 12.9.11 
          継母伝説・二番目の恋 37 12.9.18 
          
          継母伝説・二番目の恋 1 12.6.4 
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  • 下ネタじゃない方の皮むき

    時々体のあちこちにアザや切り傷が出現していて
    それが、まっっったく身に覚えがない場合が多く
    わけわからんそういう事態は
    とりあえず、すべて霊の仕業にしている自分を
    最早すがすがしいレベルのアホウだと、何となく気付いてきたわけだが
    1個だけ本当に謎だったのが、左手親指の付け根にたまに現れる擦り傷。
    句点なしでどんだけ長文を書いとんのか、その神経も謎だが。
     
    その謎が昨日やっと解けた。
    (傷の方の謎ね。 句点なし長文の方は単に日本語が不自由なだけだし。)
     
     
    じゃがいもは、とりあえず常備はしているけど
    芽を出すまで放置していて、野菜室で飼育しているような存在である。
     
    わかってる!
    じゃがいもは常温保存だとわかってる!
    玉ねぎも常温保存だとわかってる!
     
    でもうちの冷蔵庫、ものすごい過疎区でな
    料理酒も醤油も化粧品も、冷やしたら爆発するもの以外は
    総員召集をかけて、ブリ込んでいるんだ。
     
    あっ、“爆発” でプッとか苦笑してんじゃねえぞ。
    何十年か前に、学校の寮にいた頃に
    冷凍庫に入れてた炭酸飲料を、部屋で開けたら大噴火しやがって
    同室の先輩たちも大噴火しちゃって
    寮中が大騒ぎになった事があるんだぞ。
     
    冷やしたら爆発するものはある!!!
     
     
    話がえらい逸れたあげくに長文になったのは慣例だが
    真に言いたかった事は、先日買った味噌が気に入らなくて
    じゃがいもを入れたら、ちょっとはマシな味になったんで
    じゃがいもの出番が増えた、という前置きだったという驚き。
     
    包丁でじゃがいもの皮を剥くと、一回り小さくなるだろ。
    芽を取る手間が省けるので、それでも私は一向に構わないのだが
    歳を取って信心深くなったんか、もったいないの神様が怒るような気がして
    ピーラーを使って、皮を薄く剥くように心掛けているんだよ。
     
    で、皮を剥いている最中に
    「あっ、今削った気がする!」 と、気付いたのである。
    何をと言えば、左手の親指の関節。
    見ると、赤くなっていた。
     
    時々出ていた傷がこれかあああああああっっっ!
     
    と、ガックリした。
    聖痕かと期待してたんだよー。
     
     
    余談だが、キリストの手の聖痕は本当は手の平じゃないらしい。
    磔にするのに、手の平に杭を打っても体重は支えられないので
    手首に打ったはず、と学者みたいなんが言ってるらしい。
     
    私から言わせると、手首もどんだけ支えられるんだよ
    てか、手首に杭を打ち込んだら出血死せんか?
    体上部だけでも、きっと肩、二の腕、肘下、手首、手の平と
    万全を期して充分に留めておいたに違いないんだよ
    という意見だが、そんな滅多刺し描写は
    宗教の冒涜にもなりかねんので、想像もするべきではないと思う。
     
     
    話を戻すが、じゃがいもの皮剥き
    ゆっくり剥いているのに、しかもたった1個だけなのに
    何故負傷するのか、さっぱりわからない。
     
    そして傷の出現回数から考えても、何度も手を削っていたはずなのに
    何故気付かなかったのか、腹の底からわからない。
     
     
    霊障だの聖痕だの思うのは、楽しいから良いんだが
    真実を知った時の、このガッカリ度はどうしてくれるんだよ?
     
    「私ってマジバカ・・・?」 と、自己嫌悪に陥るのは自業自得だが
    最近は痴呆まで恐れにゃならん年頃だから
    検査を受けようか、ほんと悩むんだよ。
     
     
    いっつもいっつも似たような勘違いをしているのに
    毎回、新鮮に落ち込むのには理由がある。
     
    私は自分を、“冷静で落ち着いている” と分析しているのである。
    何故そういう判断をしていたのかっちゅうと
    若かりし頃の同年代の女子だちが、何を見ても 「可愛いーーー!」 と
    はしゃぎ、キャアキャア騒ぐのが、さっぱり理解できなかったからである。
     
     
    よく覚えてないんだが、妙な人形とか太平洋のどっかの木像とか
    どう見ても不気味じゃねえ?
     
    見ただけで呪われそうなあれが、何で “可愛い” 評価になるんだ?
    あと、単なるチェック模様とか水玉とか、可愛いって表現はアリなんか?
    正しい反応は、「ふ~ん」 じゃねえ?
     
     
    まあ、こういう事を言ってると、作らんでいい敵を作るので
    とにかく何でも 「可愛い」 と、輪唱して済ませておいたのだが
    内心では、「???」 の嵐が吹き荒れておったさ。
     
    結果、周囲に迎合できない理由を自己正当化して
    「わたくしは同年代の人々の中では落ち着いている性格」 になったのだ。
     
     
    あれから数百年、何故か周囲が私より落ち着いている気がしてならない。
    何この自虐記事私らしくない投げやり棒読み
     
    ついでにこの記事、論点が見事にない。
    ここまでだと、逆に凄いと思わんか?
     
     

    評価:

    京セラ


    ¥ 469

    コメント:私が使っているのが、これ。 買い換えたばかりだからだろうけど、すんげえ切れる! もう、スッパンスッパン下ネタじゃねえぞ! ただ、これにはひとつ欠点があって、持ち手のとこに穴がないんだ下ネタじゃねえぞ! 刃を上にしか、ブラ下げられない下ネタじゃねえぞ!

  • 継母伝説・二番目の恋 35

    公爵家の娘は、自己嫌悪に陥っていた。
     
    チェルニ男爵は、しばらくうつむいていたが
    次に顔を上げた時には、もういつもの静かな男爵へと戻っていた。
     
    公爵家の娘との間の出来事は、公爵家の娘の許可なしには
    誰にも、王にさえも伝えない事
    もっと信じて欲しい事、などを諭されるのは
    口調が淡々としているチェルニ男爵からの言葉でさえ
    自分がバカ娘になった気にさせられる。
     
    イヤだわ・・・
     
    公爵家の娘は、怒られ慣れていなかった。
    チェルニ男爵が話している間中、イヤだわ、としか思えなかった。
    しかし今回の事は、明らかに自分だけの失態なのだ。
     
     
    山羊の紋章の調査は、チェルニ男爵に任せる事になった。
    問題は・・・、この事を王に言うかどうか
     
    だけど、元々今回の発端は、ベイエル伯爵家と公爵家の確執。
    国政には関係ないどころか迷惑なだけよね、臣下同士の争いなんて。
     
     
    この考えには、チェルニ男爵も同意だった。
    チェルニ男爵は、指輪の件は知らなかった。
     
    だがノーラン伯爵の暴走は
    絶対に公爵家の娘のそそのかしが原因だと思ったのに
    実際は、子供のままごとのような展開であった。
     
    そのあまりの純情さに、この姫君が何故あれほどまでに気丈なのか
    少しわかった気がした。
     
    あのお方を抱きしめる人はいないのだ。
     
    チェルニ男爵は、風が北から吹いている事に気付き
    襟を立てて、馬を走らせた。
     
     
    東国がいよいよ冬へと入った。
    寒さは世界を凍らせる。
    が、政治の停滞は国力の弱化を招くので
    より、気を入れて執行せねばならない時期である。
     
    公爵家の娘も、変わらずに走り回っていたが
    城には、時間が止まった一角があった。
     
    王妃の部屋である。
     
     
    祭の最後の夜以来、公爵家の娘と王妃との接触はなかった。
    別に避けているわけではないけれど・・・
    王妃の事は、常に気にはなっていたが
    “何でもない日常の問題が山積み” という状態が一番気ぜわしい。
     
    王さまのお通いも相変わらずだし
    そう言い訳しつつ、王妃の部屋から足が遠のいていた。
     
     
    そんなある日、公爵家の娘は侍医に呼ばれた。
    行くと、ちょうど医務室の前で王と鉢合わせた。
     
    こ、これは・・・
    互いの心臓がドクンと揺れた。
    侍医がもったいぶって、ゴホンと咳払いをしたりする。
    ああ、良いから早く言って!
     
    「ご懐妊です。」
     
    その言葉が終わるか否かなのに
    公爵家の娘は、王と抱き合っていた。
     
     
    ふたりで抱き合ったまま、ピョンピョンと飛び跳ねる。
    それが終わると、凄い勢いで侍医を質問攻めにする。
     
    「予定日はいつになるのだ?」
    「順調ですの?」
    「男子か? 女子か? わしはどちらでも良いぞ。」
    「ああ、お祝いは何にしましょう?」
    「いつになったら、国民に触れを出せる?」
    「どこか暖かい場所で静養した方が良いのではないの?」
     
     
    侍医が圧倒されて、ひとことも返事をしていないのに
    勝手に脳内補完して、それぞれ部屋を走り出て行った。
     
    「わしは見舞いに行くぞ。」
    「今日の夕食のメニューを見直さねば。」
     
    侍医はひとり取り残されて、呆然とするしかなかった。
     
     
     続く 
     
     
    関連記事: 継母伝説・二番目の恋 34 12.9.7 
          継母伝説・二番目の恋 36 12.9.13 
          
          継母伝説・二番目の恋 1 12.6.4 
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  • 地元愛

    この前TVを点けたら、例のケンミンショーをやっていて
    また大阪関連の捏造がないか、と妙な義務感で観たんだが
    結局、私が観た途中からの内容には、大阪コーナーはなかった。
     
    ふと思ったのが、大阪ネタが尽きたら
    今度は埼玉とか千葉などをターゲットにするかも、って事。
    名古屋や福岡などかも知れないぞ。
     
    だからこの番組、観ていて
    ちょっと疲れる事もしばしばあるんだよな。
     
     
    郷土愛は、流浪の民の私には羨ましくもあるんだが
    度が過ぎると、辛いものがある。
     
    何より一番嫌なのは、そこで生まれてよその土地に行った事もないのに
    うちが一番、どこどこはこうこうだから嫌い、と言うヤツである。
     
    旅行に行ってイヤな思いをしたんで嫌い、っていうのは、アリだと思う。
    人の好き嫌いなんて、そんなもんだ。
    料理でも、最初に食ったのが不味かったんで、嫌い扱いする事はよくある。
    もし美味い飯屋で食っていたら、好きになっただろう。
     
    そんなんじゃなくて、よその地に出た事もないのに
    自分のところが一番だ、と断言するのは
    物知らずというか、頭が固すぎるというか
    吟遊詩人の私にとっては、すごく付き合いにくい人種なのだ。
     
    こういうヤツに限って、よそのアラ探しをしてはあざけるので
    話していて、その盲目さに本当にイラ立つ。
    どこの地でも良い部分も悪い部分も、併せ持つものなのに。
     
    一番じゃなくても、てか順位とか関係なしに
    ただ “好き” で良いじゃん。
    何でわざわざ、よそと比べて勝たなければならないんだ?
     
     
    そして私は田舎生まれなんだが、田舎ってそんなに恥じる事か? と
    不思議になる事が、よくある。
    私は田舎は大嫌いなんだが、恥とは思わない。
     
    田舎者だと笑われた事はないが
    てか、多分バカにされた事はあるんだろうけど
    回りくどく言われても、“私” には伝わらないし
    “田舎者” なんて、事実だからまったく気にならない。
    笑われても、へへ、面白いだろ? と逆に同調しちゃうよ。
     
     
    でも日常生活で、田舎だ都会だ一番だ、なんて言ってるヤツなんて
    滅多にいないので、皆、実際にはそんな事を考えて暮らしてはいないと思う。
     
    だからケンミンショーのあのテンションには違和感を感じ
    こういう方向のバラエティって、あんまり良くないんじゃないのかな
    と、不安になってくる。
     
    たかが数十、数百キロの距離で、差別化を図るより
    日本に生まれた事を感謝した方が良くないか?
    満足に食えない国もたくさんあるんだぞ。
     
     
    ・・・ああ、言論思想の自由がある日本だからこそ
    こういうお遊びも出来る、って事なのか!
     
    どうやら私の方が頭が固かったようだ・・・。
     
     
    そんで書いてて気付いたんだが、外国嫌いの日本万歳!の私も
    地元1番のヤツらと、同じ思想じゃないか!!!
     
    私は日本1番なんで、何で日本の中で、と思っていたよ。
    目クソが鼻クソを非難しているようなもんだった・・・。
    本当にすみませんでした。
     
     
    ついでに言い訳を山ほどするけど
    外国人を嫌いだ嫌いだ言うとんのは、政治面だけで
    個人的付き合いに政治は関係ない。
     
    その割り切りをビシッとしとかないと
    どこぞの移民大国のように、俺の常識が世界の常識、と
    あっちこっちで紛争に関わらなくちゃ気が済まなくなるだろ。
    自分は自分、人は人、国は国。
     
    でも日本にいるなら、“日本” を丸ごと大事にしてほしいよ。
    移民制度とかが整備されだしたら
    皆の大切な “地元” も、どうなるかわからんのだぞ。
     
     
    ちなみに私が田舎を嫌いな理由は、買い物好きだからなんだ。
    経済的余裕があるならば、毎日でも心斎橋に通いたい。
     
    でも、老後にお手伝いさんと運転手を常時雇える身分だったら
    海が見える田舎で、ゴールデンレトリーバー (もちろん世話係付き) と
    のんびりと暮らすのも良いな、と思う。
     
    そんな大富豪になっていないのなら
    このまま居心地の良い関西で、気ままに生きていきたいなあ。
     
    東京の便利さと、熊本の正しさも魅力なんだが
    付き合いの気楽さ、気候、自由さは関西が断トツで過ごしやすいんだよな。
     
     
     

    評価:

    帝国書院


    ¥ 2,625

    (2011-12-01)

    コメント:地図は1冊は良いのを持つべき。 そしてそれをトイレに置くんだ。 トイレで地図を見ると便秘が治る! これ、私の実体験。 頭も腸も良くなり、正に一石二鳥。 さあ、下剤代わりに地図をどうぞ。 副作用はウンチクをたれたくなる事だ。 座布団くれ!

  • 継母伝説・二番目の恋 34

    いつものように、忙しくしていると
    “彼” が目の前に立ちはだかった。
     
    公爵家の娘は、通せんぼにも黙って立つのみだった。
    その視線は、ノーラン伯爵の体をすり抜けて
    先の通路を堂々と見つめて、揺らがない。
     
    「・・・さすがですね。
     光を放つ、まばゆい金属のようなお方だ。
     冷たく美しく、お強い・・・。」
     
    公爵家の娘は、その言葉で己の強さを過信してしまった。
    両手を首の後ろにやり、していたチェーンの留め金を外す。
    チェーンを引っ張り出すと、その先に指輪が付いていた。
     
     
    ノーラン伯爵の事故死の一報を耳にした公爵家の娘は
    崩れ落ちそうになり、かろうじて廊下の窓枠に掴まった。
    長い廊下を、とても歩けそうにない。
     
    そのほんの直後に、チェルニ男爵が現れた。
    公爵家の娘を探していたのである。
     
     
    顔を上げようとしない公爵家の娘を抱きかかえて
    チェルニ男爵は、近くの部屋へと入った。
    運が良い事に、そこは空き室であった。
    窓をきっちり閉めた途端、公爵家の娘のあごを掴んでその目を覗き込んだ。
     
    「ノーラン伯爵に何をなさったのです?」
    それは、的の真ん中を射抜く質問であった。
     
     
    公爵家の娘の胸元から、自分の指輪が出てくるのを見たノーラン伯爵は
    これ以上の歓喜はない! と確信した。
     
    公爵家の娘が、指輪を持った手を突き出すと
    ノーラン伯爵は片膝を付き、右手を差し出した。
     
    指輪はチェーンをつたい、ノーラン伯爵の手へと落ちた。
    その指輪の温もりを感じた時が
    ノーラン伯爵の命のカウントダウンの始まりであった。
     
     
    「あたくしはただ、『山羊の意味を調べてほしい』 と言ったの。
     ただそれだけなの。
     他にひとことも喋っていないの。
     指一本、触れていないの。」
     
    「バカな事を・・・。」
    チェルニ男爵は、怒りを隠さなかった。
     
     
    「“それ” を “ただそれだけ” と、仰るあなたさまだから
     今回の悲劇が起きたのですよ!
     何故、わたくしにお命じにならなかったのです?」
     
    肩を掴まれて揺さぶられる事など
    公爵家の娘にとっては生まれて初めてで
    恐怖に、つい本心を口走ってしまった。
    「だってあなたは、王さまの・・・。」
     
    チェルニ男爵はその言葉に、悔しそうにうつむいた。
    「確かにわたくしは、王さまのお馬番。
     しかしその王さまに、姫さまのものになれ、と命じられて
     今ここにいるのですよ、わたくしは!」
     
     
    国一番の大貴族の娘で、王の愛を得られる資格のある高貴な姫の
    柔らかそうな肌に自分の指輪が触れていた、と知った瞬間に
    ノーラン伯爵には、もう他に望むものはなくなった。
    そして自分の命も惜しくなくなった。
     
    切れ味を知られていない武器だから
    かくも容易く振り下ろされる。
     
     
    ノーラン伯爵は、暖かい風が吹き抜ける白い花の野ではなく
    ほこりっぽい乾いた土が巻き上がる崖の下で
    人生を終えた。
     
    その指に、山羊の紋章の指輪はなかった。
     
     
     続く 
     
     
    関連記事: 継母伝説・二番目の恋 33 12.9.5 
          継母伝説・二番目の恋 35 12.9.11 
          
          継母伝説・二番目の恋 1 12.6.4 
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  • 訓練ジジイの謎 2

    ここで連載のごとく、報告してきたジジイと犬。
    よそさまの愛犬事情を、何でそこまで観察せにゃならんのか
    と、自分でも思わんでもないけど
    あいつらは、ひと目見たら気になってしょうがなくなるぞ。
    現に、ここでもジジイ’Sの真実を知りたい人、多数だろ?
    何その沈黙。 合 わ せ て く れ よ !!!
     
    と、自分の出歯亀の言い訳はさておき
    あ、私のパソコン、今 “でばがめ” を変換しなかったんで
    世の中はこういう古い言語を絶滅させようとしているんだな?
    と、勘ぐって、あえて出歯亀を掘り下げる。
     
    Q.“出歯亀” とは?
    A.のぞき魔の事です。
     
    えらい身も蓋もない言い方だけど、これが答だろ?
    江戸時代に、よそんちのセックスを覗き見るのが好きな男が
    出っ歯で、名前を亀何とか、と言ったからで
    ・・・ああ、もう、調べてくるわ、しばし待て!
     
     
    ・・・・・・・すんません、何か違ごうとった。
    “出歯亀事件” ちゅう、予想外に深刻な事件が、言葉の由来だった・・・。
     
    明治時代に東京の新大久保あたりで、銭湯帰りの女性が殺害された事件で
    逮捕されたのが、女湯覗きの常習犯の池田亀太郎。
     
    “出歯” は、亀太郎が出っ歯だった、という説と
    でしゃばりの略の “でば” の説があるらしい。
     
    ちなみに、亀太郎冤罪説もあるんで
    “出歯亀” を、とても使いにくい気分になって
    どうしようか、と迷っているわたくし。
    自分で自分の首を絞めてる?
     
    いらん横道で、テンションだだ下がりなんだけど
    もう帰って寝て良い?
     
     
    さて、不確かな事を言うたあげくに帰りたがっている私が
    次にするのは、何と、謝罪!
     
    皆さま、混乱させて申し訳ございませんでした!
     
    1匹の犬の周囲に、3人のジジイがいる、
    これが前提で話を進めてきたわけだが
     
    ああっ、もう皆は謝罪の理由を察しているだろうけど
    ちょっと、ここで寄り道させて。
     
     
    訓練ジジイ’Sの犬と同じ犬種の、若犬をな
    20代のにいちゃんが連れていたんだよ。
    んでな、他の日に同じ犬をな、20代のねえちゃんが連れていたんだ。
     
    ああ、この女性とあの男性は血縁か婚姻関係にあるんだな
    と思うのが、ごく普通の推理じゃん。
    若犬を連れたにいちゃんと、若犬を連れたねえちゃんが
    一緒に歩いているのを見るまでは。
     
    うん、この2人は関係ありだと思っていたのは、さすが推理の女王、私。
    が、まさか同じ若犬が2匹いるとは!!!
    これ、ちょっとしたどんでん返しだよな。
     
     
    にしても、この犬種、うちの地域で流行っているのか???
    ・・・・・・・・・・・・・・
     
    2匹の若犬を見分けられなかった私が
    訓練ジジイ’Sの犬が1匹だと断言するのは、早計ではないか?
    いやしかし、訓練されていたあの犬の行動は
    絶対に同じ犬としか思えない。
     
    何より、4記事にわたって引っ張ってきた訓練ジジイ’Sの話が
    「全部、私の勘違いでしたー」 など
    とんだ風説の流布で、私の沽券に関わらんか?
     
     
    ああ、だけど冷静に考えると・・・
    と、悶々とした日々を送っていたところ
    道路の向こう側にジジイと犬を発見。
     
    それが訓練ジジイである事がわかったのは
    犬が2匹に増えていたからである。
     
    覚えていらっしゃるであろうか
    訓練ジジイ1が、犬ナンパをした老婦人を。
    その老婦人が連れていた犬が、あまり見ない色の小型犬で
    ジジイは、いつもの犬とその犬の2匹を散歩させていたのである。
     
    よし、これでこいつは訓練ジジイ1に決定!
    顔を覚えないと、と鬼神のごとく凝視。 (注: もちろん覚えられなかった)
     
    この2匹散歩は、その後何回か見かけた。
    何歳になっても、女ってのは恐いのお。
    男をすぐパシリ扱いしやがる。
     
    あっつい夏日の散歩を、男に任せて
    自分はエアコンの効いたリビングでティーごっくんか?
    ・・・いやいや、割にご高齢な方たちなので、体調不良かも知れない。
    とにかく、ご健勝をお祈りしておこう。
     
     
    だけどこれでわかったのは
    訓練ジジイ1と老婦人が上手くいってる事だけ。
    肝心の謎については、“私の目利きは鈍い” とだけしか判明していない。
     
    謎は続く・・・、とか思いつつ歩いていたら
    ジジイと犬を発見!
     
    3人目のジジイは、メガネっ子だったので
    これはあの冬の夜に横断歩道で出会った2人だと確信。
    犬を見ると
     
    ・・・・・・・・・ものすごく太っていた・・・・・・・・・・
     
    メガネっ子ジジイ・・・、あの冬から、春が来て夏になるまでの間に
    どんだけ甘やかしていたんだよ?
    いや、「可愛くて怒れない」 と言ってたから
    あの犬が調子こいて、メガネっ子ジジイの食い物を横取りしてたに違いない。
     
    こう思ったのは、太った犬が気持ちまですさんでしまったのか
    えらくふてぶてしい表情になっていたからである。
    深読みしすぎか、メガネっ子ジジイも持て余し気味。
     
    あの冬の夜に見た絆も、感じられなくなっていた。
    メガネっ子ジジイは犬をグイグイ引っ張って、前を歩き
    犬はジジイに逆らうように、寄り道をしダラける。
     
    以前は、道行く人に興味を示していたのに
    今では誰の事も気にせず、地面ばかり嗅ぐ犬。
    だから犬はきちんとしつけをしないと、双方が不幸になるんだよ。
     
     
    これで、犬は少なくとも2匹いた事が証明された。
    訓練ジジイ1の犬は、相変わらず精悍なスタイルだからだ。
    ジジイの訓練が実を結んだのか、暑くても真っ直ぐ前を見て姿勢良く歩き
    時々ジジイを見上げて気にしている。
     
    コントのような訓練風景だったけど
    犬はジジイの心意気を、しかと受け取ったようだ。
    (最近は散歩だけで、訓練をしているところに遭遇していないので
     訓練が続けられているかは、今のところは不明。)
     
     
    犬2匹とジジイ2人が別個に存在しているのは
    確実に確認したので、これは信頼して良い。
     
    さあ、残る謎は、ただひとつ。
    訓練ジジイ2の存在である。
    これには6つの答の候補がある。
     
    1.訓練ジジイ2はたまの訓練代理
    2.訓練ジジイ1と2は同一人物
    3.じゃなく、訓練ジジイ2は存在すらせず私の勘違い
    4.訓練ジジイ2と3匹目の別の犬がペアとして存在する
    5.その他
     
     
    犬が1匹である、という見立てを、若犬も含めて2度も破られたので
    自分の目に、まったく自信がなくなりました。
     
    それどころか、訓練ジジイ2を見たのが何回だったのか
    忘れてしもうとります。
     
    訓練ジジイ1と2の見分けは、ジジイ2がマッチョでちょい若い事。
    だけどジジイ1に恋の花が咲いて、最近ちょっと男らしくなっているので
    この見分けもグラついている真っ最中でございます。
     
    いや、思い出せ、最初の時期のジジイ1を。
    女投げはするわ子供に嫉妬するわ、割にロクでもない性格が際立っていた。
    それに、まだ体付きまでは変わってはいない。
    大丈夫、訓練していたジジイは確かに2人いる!
     
    ・・・はず・・・。(ほんとに自信喪失中)
     
    何話目かで、「犬好き生命を懸ける!」 とか言った気がするんで
    犬好きの称号も剥奪されちゃったし・・・
     
    私と動物の未来は、マジ真っ暗!!!
     
     
    えらい長い事、引っ張っている訓練ジジイシリーズだが
    シリーズにするつもりはないんだけど、謎が解けないと気持ち悪くてなあ。
     
    でも一般市民に世界の真理が解けるとは思えないんで
    私はこのまま気持ち悪い気分を抱えて
    犬とジジイを見かけ続ける、背景の1人でしかないのだろうか・・・。
     
    ああ、何てザコキャラ!
     
     
    関連記事: 狡猾な愛すべき犬というヤツら 11.3.28
          以下 カテゴリー 動物 でシリーズ4話あり
     
     
     

    評価:

    藤原 尚太郎

    主婦の友社


    ¥ 1,575

    (2009-03-27)

    コメント:国内登録151犬種のリストだけじゃなく、飼いやすさランキングや人気順位、性格、運動量、手入れ法などのデータも載っているんだと。 これは実用的な1冊であろうぞ!

  • 継母伝説・二番目の恋 33

    しかし、公爵家の娘は何の行動も起こさなかった。
     
    だってあたくしが、あのチェルニ男爵を出し抜けるとは思えないわ。
    アタフタする方が、余分な事まで疑われるのよね。
    ここは、バカな若者がひとりで舞い上がって
    勝手な事をした、という体裁を取り繕いたいわ。
     
    そう思った時点で、ノーラン伯爵ひとりの盛り上がりではなかったわけだが
    公爵家の娘の、チェルニ男爵への敗北宣言は正しかった。
     
     
    「山羊の紋章ですが・・・。」
    ブ厚い本を手にしたチェルニ男爵の第一声は、公爵家の娘の肝を冷やした。
     
    あたくし、誰にもひとことも言ってないのに!
    指輪も見られてないのに!
     
    呆然とする公爵家の娘の表情は
    その夜のチェルニ男爵の寝酒の、良い肴になった。
     
    喜怒哀楽を表に出さないこの男爵が
    珍しくクスクスと笑いながら、ベッドサイドの灯りを消した時
    少し太った月は雲に横切られていた。
     
     
    チェルニ男爵から預かった本には、貴族の紋章の歴史が書いてあった。
    “指輪” の始末に気を取られていたけど、問題は紋章の方なのよね
    すっかり忘れていたわ・・・。
     
    公爵家の娘は、少し気落ちした。
    これだから、あたくしはまだまだなのだわ・・・。
    落ち込みながらも、パラリパラリと本のページをめくる。
     
    王家の紋は、クロスした2本の斧。
    これは最終的に東国を平定したのが、武力に優れた山岳民族だったからで
    国内の貴族にも、斧の紋章を持つ家は多い。
    でも背景に、勝利の木の葉の模様を入れられるのは王族だけで
    しかも中央上部に王冠を掲げられるのは、王さまただひとり。
     
    うちの紋章は、2頭の狼。
    鷹や鹿といった、山の動物の紋章も多い。
    あら?
    ページをめくる手が、ふと止まる。
     
    ベイエル伯爵家はうちと似てるけど
    ああ、これは山犬なのね、珍しい。
     
     
    ・・・ベイエル伯爵家は中央貴族。
    つまりうちと一緒で、首都の周囲に領地を持つ貴族のひとつ。
    うちは全国的に領土を持っていて、その広さを誇っているけど
    中央付近に集中しているベイエル伯爵家の領地に、山羊の産地はない。
     
    ノーラン伯爵家は、ベイエル伯爵家に吸収されたけど
    その領地は古くから南の草原地帯にあり、変わってはいない。
     
    紋章は、その家にとって意味がある形。
    だけどこの2家には、山羊の要素がひとつもない。
    これはどういう事かしら・・・?
    公爵家の娘は考え込んだ。
     
     
    そう言えば、チェルニ男爵は本当に指輪の事を知っていたのかしら?
    そうじゃなくて、“紋章” に注目していたのだとしたら?
     
    ・・・あたくし、何だかズレている気がする。
    今回の仮装パーティーの一件で、すっかり動転していたけど
    そう、問題はノーラン伯爵じゃなくて、ベイエル伯爵なのよ。
    ベイエル伯爵の事を探らなくてはいけないところに
    偶然、ノーラン伯爵が来たのよ。
     
    偶然?
    ベイエル伯爵の罠かも知れ・・・
     
    自分で思った言葉に、傷付けられる公爵家の娘。
    その傷の痛みにも驚く。
     
     
    開いていた本を、そっと閉じる。
    だが、視線は上がらない。
     
    どうして心が重苦しいのか、わからない。
    どうしたら良いのか、わからない。
     
    唇を噛みしめると、鼻の奥がツンと痛くなった。
    手がかすかに震え出す。
    指を目のところに持っていこうか迷っていると、ドアをノックされた。
     
    「姫さま、明日の会議の打ち合わせをなさりたいと
     福祉大臣がいらっしゃってます。」
     
     
    公爵家の娘は、息を止めたが
    それは本当にほんの一瞬だけであった。
     
    「・・・すぐに参ります。
     福祉大臣には、フルーツ入りのパウンドケーキをお出しして。
     紅茶には、砂糖の他にジャムを数種用意して。
     生クリームが嫌いなお方なので、留意するように。」
    「かしこまりました。」
     
     
    公爵家の娘は、立ち上がった。
    うつむいた顔を、ググッと上げる。
     
    何がしたいか、何を望むかなど、下々の者の感覚。
    あたくしは公爵家の娘。
    何をすべきか、何を望まれるか、だけを考えるべき!
     
     
    公爵家の娘は、サッと振り向いて
    わざと足音を響かせながら、部屋を出て行った。
     
     
     続く 
     
     
    関連記事: 継母伝説・二番目の恋 32 12.8.31 
          継母伝説・二番目の恋 34 12.9.7 
          
          継母伝説・二番目の恋 1 12.6.4 
          カテゴリー 小説・黒雪姫シリーズ 
          小説・目次 

  • 戦国無双3セーブデータ誤消去!

    今日は小説アップの日だけど、ごめん、皆
    とても文豪できそうにない!
     
    ここが “自称・文豪” でしかない所以だろうけど
    今日は・・・今日は・・・
    あああああああああああああああああああああああああ!!!!!
     
     
    私がハマってた戦国無双3は、Wiiのソフトで
    戦国時代の有名武将37人ぐらい?のミッションをプレイできる
    シミュレーションゲームである。
     
    私の目標は、全武将をLV・MAXにし
    村雨城に、赤と青の衣装の今川義元に槍を持たせて突撃する
    というものだった。
    ゲームを知らない人には何を言うとんのかわからんだろうけど
     
    ↓ こんな感じのイケメン揃い (一部除く) の中
     
      
     
    ↓ こいつをメインキャラで使おう、としてたのだ。
     
     
     
    格好良い勇者様なんざ、もうウンザリなんだよおおおおおおお!!!
     
     
    参考文献: 戦国無双3コンプリートガイド 上 (株)コーエー 1800円
          問題ありの場合は、土下座しつつ速やかに削除いたしますので
          いきなり告訴の前に、まずはご一報をお願いいたします。
     
     
    このゲームを始めたのは
    思春期の少年の性欲並に、ストレスが溜まりまくってて
    せめてゲームで 「俺さま強えええええええええええ」 をしたかったからだ。
     
    確か7月上旬ぐらいじゃなかったかなあ。
    苦労するミッションはあれども、雑兵をバッサバッサと斬り捨てて
    正に、俺さま強ええええええええええ! を満喫し
    ドラクエの不謹慎なCMじゃないけど
    「戦国無双3に専念したいので、しばらく文豪を休みます。」
    と言いたいところを、社会的地位でグッとこらえ
    毎日ツイッターで無双の話をしまくりたいところを
    若者の模範となるべき老婦人にふさわしい高尚な話題で我慢し
    コツコツコツコツとミッションクリアとLV上げを積み重ねてきたのを
    夕べ、セーブデータを読み込む時に
    手元が何か狂ったのか、よくわからないけど
     
    1個しかないセーブデータを消去してしもうた!
    あの連呼、うざいだろうから、あ × 20
     
     
    まっさらなデータ画面を見て、血の気が引いたよ。
    これが江戸時代だったら、持病の癪を起こさにゃならんとこだった。
     
    パニパニしそうになってる脳みそをなだめつつ、丁寧に丁寧に考えて
    これはセーブデータを誤って消しちゃったな、と
    完全に理解するまで、かなり時間が掛かったさ。
     
    ムダとはわかっていても、確認に行ったけど
    Wii本体にもSDカードにもデータは残っておらず
     
    KOEI、自動セーブのゲームを
    何で一瞬で消える仕様にしたんだよ!!!
     
    いや、これは私のイージーミス。
    今でも何で消しちゃったのかわからんけど
    とにかく私が悪い以外の何ものでもない
    そう納得できるわけもないけど、消えたものはしょうがない。
     
    ちょうど良い、今までのプレイは
    Aボタン連打 → 無双皆伝 のゴリ押しで
    武器もパワータイプしか残してなかったから
    やり直しは軍略を練って、スピードも考えて
    と、無理やり気を取り直して、0からのプレイ再開。
     
     
    やりにくかった武将からやっていこう、と
    竹中半兵衛をプレイし始めたけど
    失意のどん底で半兵衛LV.1はつらすぎて・・・。
     
    当たり前だ!
    ただでさえ落ち込んでいるんだから
    堅実な幸村あたりでヒャッハー・プレイをすべきなのに
    やはり悲しみで判断力が消え失せているのか・・・。
    セーブデータも消え失せたがな。
     
    ・・・自分の突っ込みに激しく傷付いた・・・うわあああああん
     
     
    途中でコントローラーを放り出して、床に五体投地してて
    ゲーム画面からは、うるせえ三味線の音楽がチャンチャカチャンチャカ鳴ってて
    ああ・・・、私、生きていける気がしない・・・
    でもゲームごときで憤死とか、Wii史上もっともアホウな死因だろうし
    と、ウツウツと泣き言の迷宮をウロつき回り
    何もする気がせず、寝た。
     
    が、眠れるわけもなく、やっと寝入ったかと思ったら
    家に強盗が入ったけどビール瓶で殴り倒したり
    子供たちがケーキを手に 「100周年アニバーサリー」 と叫びながら
    部屋を汚す、といった、ありとあらゆる方向のイヤな夢を何個も見ては
    1時間おきに目が覚める。
     
    5:20分に目覚めた時には、さすがに
    私、どこまで落ち込んでるんだ、と自分が情けなくなったけど
    この気持ち、ゲーマーならわかってくれるはず!
     
    ゲーマーじゃない人は、えーとえーと
    さんざん通って、同伴でブランドバッグを買ってあげ
    アフターで値段書きがない皿にすら乗ってない寿司屋で奢ってやり
    やっとホテルの予約を入れられた、と思ったら
    「ごめんね、急におかあさんが田舎から出てきちゃって」 と
    ドタキャンされるような、何でこんな例しか思い付かないのか
    自分で自分をはちくり回したいよっっっ!!!
     
     
    いや、通常通りに振舞えるんだよ。
    でも今朝起きたら、左肩が激痛レベルで痛くて
    えらい力を込めてうなされてたらしく
    こんな苦悩は、今日ここで吐き出して
    また新しい1歩を踏み出さなくては、と思ったんだ。
     
    これがゲームの話だから、まったく同情されないだろうけど
    自分でも言ってて、私って思った以上にバカじゃないのか?
    と疑いを持ち始めて、アイデンティティーが崩れそうだけど
     
    2ヵ月の積み重ねが、一瞬の判断ミスでパア
     
    この1点に的を絞って、どうにか共感してくれ。
    ゲームとか俺さま強えええとか置いといて。
     
     
    この前さ、逆流性食道炎とやらになっちゃってさ
    いや、病気の情報はいらないぞ。
    悪い方の暗示にかかるの、得意だから。
     
    凄えストレス源を抱えている時に、ほんのちょっとの悪い事が続くと
    一気に色々と崩れ落ちるよな。
     
    私、無意識に何か悪を働いてるんかなあ?
    バチが当たり続けているように思えるんだけど
    宝くじでも買ってみようかな・・・。
     
     
    戦国無双3のセーブデータに未練タラタラ
    私の夏を返して状態 あ×100
     
     
     

    評価:

    コーエー


    ¥ 6,059

    (2009-12-03)

    コメント:2ヵ月間やり込んだセーブデータを間違って消去しただよ! 自動セーブなら、「消して良いんか? ほんとに良いんか? マジで? 冗談抜きで?」 まで確認してくれよおおおおおおっっっ(号泣)

  • コーヒーを淹れ直す

    冷たいお飲み物が下剤になる私は
    春夏秋冬オールシーズン温かいお飲み物で
    “ヌルい”“常温” を定番化してくれよ!
    と、世に訴えているのだが、中々広まってくれない。
     
    これは今後も事ある度に、ネチネチと言い続けるが
    今日の問題は、その “温かいお飲み物”、
    これを攻撃しようと思っている。
     
     
    自販機でも、“温かい” と銘打ちつつ
    缶を持てないレベルの熱湯地獄なわけだが
    スタバのコーヒーも、同様に熱くて持つのが恐いんだけど
    あれでもコーヒーの適温なんだと。
     
    「熱くして」 と、お客が注文しているのを目撃。
    あれで激熱じゃないんか! と驚くとともに
    おめえの舌は耐熱加工か! というビックリも。
     
    いや、私さ、“冷たい” もダメだが
    実は “熱い” もダメなのだ・・・。
     
     
    ほら、よそんちで茶ぁとかコーヒーとか出されるじゃん。
    飲めないと思わんか?
    ・・・熱くて・・・。
     
    それで、最初に砂糖だけ入れておいて、待っていたら
    「コーヒー、冷めちゃったね、淹れ直すね」 と言われ
    慌ててタックルしたよ、ちょ待てすいませんすいません、と。
    私は冷めるのを待ってたんだよ。
     
    いや、わかってる。
    スタバ様が仰るように、コーヒーには香り立つ適温がある事も。
     
    この話をするのは、もう4回目ぐらいだと思うんだけど
    かあちゃんが客に茶を出したら
    「ぬるいんで淹れ直して」 と言われ、客が帰った後に
    「玉露を出したのに・・・」 と、嘆いていたんで
    茶ぁ系には、“適温” がある、と知った私だから。
     
     
    ちなみに私には、味のわかる茶はない。
    が、私は成人後もコーヒーが飲めなかった。
    いつも紅茶を頼む、子供舌で有名だった。
    (私世代は、コーヒーが飲めるようになったら オ・ト・ナ)
     
    そんな私が真夏のある日、東京の学芸大駅を降りたら
    灼熱地獄で、アパートまで帰りきらずに
    その時、フラついて偶然曲がった住宅街の一角に喫茶店を発見。
     
    そういうところにある喫茶店って、激しい地域密着型で
    常連以外は居づらい雰囲気のとこが多いので
    通常の状態だったら素通りするのだけど
    その時は冷房と冷たいお飲み物に誘われて、つい店の中へ。
     
    平日の昼間と言うのに、店内はいっぱいの客。
    椅子に座ってメニューをと頼むと、ないと言われる。
    そこは夏はアイスコーヒーしかない、と。
     
    私はコーヒーが嫌いだ。
    しかし外の炎天下はもっと嫌いだ。
    冷房下にいるために、仕方なくアイスコーヒーを頼む。
     
    で、きたのはストレートのコーヒーだけ。
    砂糖とミルクで誤魔化して飲もうと思ってたのに
    甘みはつけてあるので、そのまま飲めと言われる。
     
    もう、こんな店、大っ嫌いなんだよーーー!!!
     
    でも、外の熱波はもっと嫌いなので
    仕方なく、ひと口飲む。
     
    ・・・・・・美味かった・・・・・・・
     
    暑さのせいじゃない。
    その後、何度か通ったから。
     
    コーヒー嫌いの私が、それを克服できたほど
    そこの店のコーヒーは美味かったのだ!!!
     
    あっ、私の気のせいじゃないぞ。
    連れて行った友人知人も、皆、喜んだから。
     
    これは、30年ほど前の話。
    あの頃は、“東急東横線” と言ってて
    渋谷から5つ目だったかの、学芸大前の駅の北の商店街をしばらく歩いて
    途中で右に曲がった住宅地に、ポツンとある喫茶店なんだ。
     
    名前も忘れたよ。 まだあるかな。
    行ける人、探してみい。
     
     
    こういう経歴でコーヒーが飲めるようになったんだが
    ひとつ、誤算があった。
     
    私は、“そこの店のコーヒーなら飲める” のであった。
    つまり今でもコーヒーの味はわからない。
    スタバ様のコーヒーも飲めない。
     
    砂糖と牛乳をガッツリ入れたインスタントコーヒーなら飲んでるぞ。
    苦味が強い後味が苦手なので、それがないコーヒーなら飲めるんだ。
    今のコーヒーの流行りは濃いよな。
    昔のように、“アメリカン” てな薄いやつが流行らないかなあ。
     
     
    という味音痴な私に、コーヒーを淹れてくれる人は実に気の毒で
    冷たいのは飲めない、熱いのも飲めない
    もう、おめえに飲ませる茶ぁはねえ! 状態だと思う。
     
    そんな私に、淹れ直すとは!
     
    いやあ、生まれて初めて聞いたよ。
    「コーヒーを淹れ直すね。」 って言葉。
     
    映画じゃ何度か目にしてるけど、リアルじゃないなと思ってたよ。
    普通の人って本当にやってたんだ? 淹れ直し。
    ザツな私にだけ、おもてなしの心がなかった、というオチか?
     
    「冷めたから淹れ直すね。」
    実際に聞いた時は、激しく感動されられた。
    その直後は土下座の嵐だったがな。
     
     
    ものの味もわからんくせに、温度にまでケチをつけるなど
    ほんと難儀ですまん事だが、皆よく熱い茶を飲めるよなあ。
     
     

    評価:

    Bodum (ボダム)


    ¥ 2,625

    コメント:このボダムのこれ、ほんと結露しなくて重宝してるんだ。 テーブル汚れず。 ボダムの2重耐熱グラスでシュッとした縦長のデザインの取っ手つきは、あまりないんで見つけたら即買いアイテムのひとつだぞ。 これは400ml入るんで、健康茶でも淹れて飲むべし。

  • 継母伝説・二番目の恋 32

    ノーラン伯爵は、想像とは違って
    初々しさが残る、穏やかな雰囲気の好青年であった。
     
    意識して見ないと印象に残りにくい、そんな影の薄さがある。
    あっさりとした顔立ちだからこその、化粧映えだったのであろう。
     
    突然の再会に、心臓が止まりそうになった公爵家の娘だったが
    その柔らかい雰囲気に、少しホッとした。
    なるほど、これならあたくしが気付かないのも無理がないわね
    自分の注意力不足の言い訳も出来る。
     
     
    ノーラン伯爵は、公爵家の娘が見ていたページを覗き込んで落胆した。
    「・・・ああ、何だ、
     わたしの事を気にしてくださったのではないのですね・・・。」
     
    その素直な言い様に、公爵家の娘は思わず口走ってしまった。
    「あ、ごめんなさい
     
     ・・・・・・・・!!!」
     
     
    何てこと!
    王にすら詫びた事などなかったのに!
     
    青ざめて自分の口を押さえる公爵家の娘と
    高貴な姫君の意外なひとことに驚く青年。
     
     
    ノーラン伯爵は微笑んだ。
    これ以上になく、嬉しそうに。
     
    本来なら、不敬だと怒ってもおかしくない状況であったが
    その純粋な微笑みに、公爵家の娘は抗えず
    苦々しく言うしか出来なかった。
    「・・・秘密よ・・・。」
     
    ノーラン伯爵は、片膝をついて頭を下げた。
    「一生の宝として、永遠にここに隠しておきます。」
     
     
    その左胸に当てた手の中指に、紋章の指輪が光った。
    「その指輪は?」
    公爵家の娘の問いに、ノーラン伯爵が指輪を外す。
     
    「これはノーラン家の山羊の紋章です。」
    そして公爵家の娘が差し出した扇の上に、その指輪をそっと置いた。
     
     
    公爵家の娘は、指輪をマジマジと見た。
    山羊の紋章・・・
    「ノーラン伯爵家の領地は、山羊の産地なのですか?」
     
    「いえ、我が領地の主な産業は、五月雨草の栽培です。
     その紋章は、ベイエル伯爵家から授かったものだそうです。
     うちはお察し通り、ベイエル伯爵家の分家なのです。」
     
    「さみだれそう・・・?」
    「ええ、春に咲く5つの白い花びらが名前の由来です。
     面白い事に、その真っ白の花びらから
     自然界では珍しい、黒い染料が採れるのですよ。」
     
    公爵家の娘は、思い出したように言った。
    「ああ、あの毛染めの原料の・・・。」
     
    ノーラン伯爵は、うなずいた。
    「ええ、それです。
     わたしの領地では、冬ではなくて春になると
     見渡せる野という野が、一面の銀世界になるのです。
     五月雨草が一斉に咲き乱れる様子は、まるで雪が積もったような光景で
     なのに、そよぐ風はポカポカと暖かくて・・・。」
     
    言葉を止めたのは、公爵家の娘が見つめていたからである。
    「す・・・すみません、風景などどうでも良い話ですよね・・・。」
     
    「ええ。
     見せてくださり、ありがとうございました。」
    指輪を返そうとしたら、ノーラン伯爵が両手を後ろへ隠した。
    「それは姫さまに持っていてくださりたいのです。」
     
     
    紋章入りの指輪は家長の証しであり、貴族にとっては宝石よりも重要である。
    それをおいそれと他人に預けるなど、ありえない。
     
    こいつは何を言い出すの? と、公爵家の娘が怪訝な表情をするのも構わず
    ノーラン伯爵は立ち去ってしまった。
     
     
    こんな指輪を持っているのを知られたら、私の立場まで危うくなる。
    人に悟られないように彼を探し出して
    人に見られないように会い
    人に気付かれない内に返さなければ
     
    ・・・ああ、面倒くさい!!!
     
    公爵家の娘は、ノーラン伯爵のロマンに心底イラついた。
    個人的感情を漏らしまくるヤツというのは
    その繊細な情熱が、はた迷惑である。
     
     
    “付け込まれた” 事を、チェルニ男爵にバレたくない。
    あたくしひとりで、さっさとどうにかしないと。
     
    公爵家の娘は、ノーラン伯爵に一瞬でも惹かれた事を後悔した。
     
     
     続く 
     
     
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