• ピカソとマンガ

    私には絵心がまったくない。
    色彩学の先生に、「おまえは色盲か!」 と怒鳴られるレベルである。
    そんなドアホウが言ってる事なので
    どうか、天高くから見下ろして気の毒がってくれ。
     
    にしても、その怒り方も、本当に色盲だったらどうするんだよなあ。
    てか、うちのパソコン、色盲の漢字も変換しやがらねえ。
    もしかしてこの言葉、人権とやらに差し障るのか?
     
    ともあれ、最初に言い訳をせねばならないこんな世の中なんて
    何て びょ・う・ど・う (笑) ← 火に油
     
     
    そんな私は、もちろん有名画の価値もわからない。
    特に抽象画。
    抽象画の範囲すら知らないんで、ザックリいくけど
    ゴッホの言いたい事は何となくわかる。
    ああいう画風でいきたかったんだろう。
     
    だけどシャガールになると
    何で空中にいきなり馬の生首が浮くのか、さっぱり理解できない。
     
    映画 “月の輝く夜に” に出てくるオペラをする建物
    ごめん、音楽の知識も見事にないんで、アホウ丸出しの説明だけど
    あの天井か壁かがシャガールの絵じゃなかったか?
    それを、「シャガールはこの赤が見事なんだ。」 と誰かが言っていたので
    ほお、シャガールはあの赤が見事なんだな、と丸暗記している次第である。
     
     
    ・・・何か、ものすごく勘違ってるような気がせんでもないんで
    今までのところを確認しに行ってくる。
     
    えーと、シャガールは壁画で
    ニューヨークのメトロポリタン・オペラハウスだって。
    あれ? リンカーン・センターって話もあるけど・・・。
     
    ああ、わかった。
    アメリカのニューヨーク・リンカーン・センター内にある
    メトロポリタン歌劇場 (オペラハウス) だってさ。
    このリンカーンセンターには、芸術的な施設が集まってるらしい。
    私んちで言えば、ゲームソフト収納庫といった位置付けか、なるほど。
     
    私の記憶、割と当たってたよな。
    でも、シャガールの壁画は2個あるらしい。
    ・・・ええ? そうだったっけ?
     
     
    さて、うちの家はマンガ禁止であった。
    理由は、「マンガなんて読むとバカになる」 である。
    マンガを読まずとも存分にバカである事実を告げなかったのは、親孝行。
     
    だが、TVでアニメはやっていて
    何故か “サザエさん” は必ず観ていた、うちのとうちゃん。
    関係ないが、うちのとうちゃん、カツオのちゃっかりさが嫌いで
    あの男子がいらん事をすると、かあちゃんに怒っていた。
    いや、カツオ、うちのかあちゃんが育てたわけじゃないし。
     
    “サザエさん” のような絵は、実物の略画として
    うちの親系の頭の固い人々も、すんなり受け入れていたが
    少女マンガになると、途端に怒り出す。
     
    “ベルサイユのバラ” を観て
    「何であんなに目が大きいのか!」 と
    とうちゃんは、今度は私に怒り出したが
    「私が描いてるわけではないので、わかりません。」
    と答える以外に、どうしろと?
     
    てか、うちのとうちゃん、TVで気に入らない事があると
    すぐ家族のせいにする、それは何の芸風なんだよ?
    “頭が固い” 以上の、判断障害があるとしか思えんぞ。
     
     
    今、私はあの時のムチャな父親の年齢をも越したわけだが
    マンガ、大好きである。
    絵柄に何の疑問も抱いてない。
     
    が、さすがにコナンが出てきた時には驚いた。
    すぐに見慣れたけどな。
     
    しかし、特に外国人が日本のマンガにケチを付けてた時代があった。
    何だあの絵は日本人には人間がああいう風に見えるのか、的な
    まるでうちのとうちゃんの再来であるかのように。
     
     
    しかし、慣れと言うのか、何でも日本が一番!の私には
    アメリカンコミックの方が違和感がある。
    妙に写実的で、2次元の夢を見る事が出来ない。
     
    まあ、お国柄か? とか流していたけど、ふと思った。
    とうちゃんや昔の外国人が言ってた事は
    私が抽象画に対して言ってる事と同じではないのか?
    そこで私はひとつ、結論を見出した。
     
     
    数ある絵の中で、一番理解できないのがピカソなんだ。
    “画風” にしては、突飛すぎる。
    もし、こういう絵を描く人が身近にいたら
    皆も当たらず触らずで、やり過ごすだろ?
     
    ピカソの鉛筆デッサンの絵を見た事があるけど
    もんのすげえーーーーーー上手いんだよ!!!!!!
    素人目にもわかる程、上手い。
     
    なのに絵筆を持たせると、目があっちゃ行きこっちゃ行きだろ?
    心、大丈夫か? と心配しちゃうよな。
     
     
    だけど、そういう私の芸術的センスのない感想も
    頭の固い人が言う、マンガへの感想と一緒なんだよ。
    「人間があんな風に見えるの?」
     
    よって、日本のマンガはピカソレベルの大芸術!
     
    という結論に至ったわけだ。
     
     
    この考えになった事で、抽象画に対しても
    敬意を持って見るようになったけど
    やっぱり1mmも理解できず、付いてる値段でしか価値がわからない私は
    芸術を語る資格は1ミクロンもない。
     
    て言うか、今はその値段ですらも信用ならんよな。
    “欲しい人” たちの中で、一番高く買える金額なんだもんな。
    絵に何億も何十億も出せる世界とか、想像も付かないよな。
     
     
    あ、一応擁護しておくけど
    ピカソは1枚の絵を描くのに、何百枚もデッサンをした
    という話を、どっかで見たか聞いたかした事がある。
     
    そしてすぐに擁護台無しにするけど
    それ、ピカソの話だったか、確信がない。
     
    たとえピカソの話だったとしても
    あの凄いデッサンが、色を塗ったら何でああなるのか?
    という、凡人の疑問は消えないがな。
     
     
    “ミリ” の下の単位は “ミクロン” で良いんかな、と調べたら
    それって何かえんらい昔の言い方で、50年ぐらい前には廃止されてるんだと。
    今は “マイクロ” と言うらしい。
     
    時代の移り変わりについていけねえ!
    ・・・てか、ついていけてた時があるのか・・・?
     
     
     

    評価:

    田島昭宇

    飛鳥新社


    ¥ 3,675

    (2011-06-04)

    コメント:20世紀の頃に、“マダラ” というマンガを描いていた人。 今は “サイコ” という漫画を連載してるはず。 造詣が浅すぎてすまんが、“マダラ・赤”の頃の絵が、ものすごく好みだったんだ。

  • 継母伝説・二番目の恋 31

    祭は終わった。
     
    その余韻を手放したくない人々は
    どこの誰と誰が秘密の快楽をむさぼった、など
    あちこちで、勝手な噂を立てては消し
    それは宮廷内でも例外ではなかった。
     
    この熱気が冷めると、東国はいよいよ冬へと入っていくのである。
     
     
    「仮装パーティーなど、禁止すべきじゃな!
     堕落の元でしかない。」
     
    ブリブリと怒る大神官長に、衣装を畳む巫女たちがコロコロと笑う。
    「でも、皆、このお祭が楽しみですのよ。」
     
    光がこぼれそうなその笑みに
    大神官長は咳払いをしつつ、目を逸らす。
     
    中庭では、木々の飾り付けを片付ける小間使いたちに
    植木職人が目を奪われては、慌てて鋏の先に視線を引き戻す。
     
     
    そんな、動悸を無理に鎮めようとするかのような空気を
    渡り廊下からボンヤリと眺める公爵家の娘に
    お辞儀をしたのは、チェルニ男爵であった。
    「あの青年は、ノーラン伯爵です。」
     
    ここで、それは誰の事かしら? などと墓穴を掘る公爵家の娘ではない。
    「そうですか。
     して、あの者の目的は?」
    「・・・さあ、若さゆえでしょうか。」
     
    公爵家の娘は、鼻で笑った。
    「愛だ恋だで、己の首を賭けるアホウはおるまいに。」
     
    この “思い込み” をチェルニ男爵は正さなかった。
    それもまた、公爵家の娘の “若さゆえ” なのだから。
     
     
    公爵家の娘は、即座に書庫へと移動した。
    ノーラン伯爵・・・、聞いた事がある程度なので中央貴族ではないだろうけど
    あの洗練された物腰は、昨日今日出の田舎貴族ではないはず。
     
    貴族名鑑をめくる手が止まる。
    ・・・この領地は、ベイエル伯爵領地内・・・?
     
     
    資料室は同じ建物とはいえ、遠い。
    ああ、もう、何故貴族の調査は2室にまたがらなくては出来ないの?
     
    イラ立つ公爵家の娘だったが、系図を探しあてたら
    彼女にとっては、後はもう簡単なパズルである。
     
    ああ、なるほど。
    ノーラン伯爵家は、ベイエル伯爵家の “畑” のようなものなのね。
    ベイエル家は、多産の家系のノーラン家と
    定期的に姻戚関係を結んでさえいれば
    養子や婚姻で、確実にベイエルの血を繋いでいける。
     
     
    公爵家の娘は、ふと思った。
    にしては、ベイエル伯爵家の相続は、更に “男系” も課している。
    公爵の称号を持つうちでさえ、“嫡子相続” という条件しかないのに。
     
    直系男子にこだわる家系は大抵、繁殖力が弱まる。
    それを補うための、ノーラン家の存在なのだろうけど
    それにしても、ベイエル家のこの死亡率の高さは何なのかしら?
    ほぼ20年おきに、家の男性が死亡している。
    死因は、病気、事故、様々だけど何だか異様ね・・・。
     
     
    ここに、ベイエル伯爵家の “秘密” があるかも知れないわね。
    扇で隠した口元を緩ませる公爵家の娘の背後から声がした。
     
    「わたしに直接訊いてくだされば済みますのに。」
     
     
     続く 
     
     
    関連記事: 継母伝説・二番目の恋 30 12.8.27 
          継母伝説・二番目の恋 32 12.8.31 
          
          継母伝説・二番目の恋 1 12.6.4 
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  • バカにする

    この言葉、たまに言う人がいるんだけど
    その意図がわからなかった。
     
    人が人をバカにする事は、普通にある。
    でも私にそのつもりがない時に、「バカにしてるの?」 と言う人は
    何をそう感じて言うんだろう? と、本当に不思議だったんだ。
     
     
    そもそも、この “私” が人をバカにする場合は
    槍で相手の胸を突いてえぐるように、徹底的にするので
    「バカにしてるの?」 など、訊くまでもないからだ。
     
    ああ、でもこれは “罵倒” だな。
    “バカにする” は、もっと軽いよな。
    対等性もない気がするなあ。
     
    私は何様だけど、知能的にも経験的にもアホウだと自覚しているんで
    対等じゃない付き合いは、そのほとんどを相手が上だと見なすんだ。
    そんな相手をバカにする・・・、ないよな。
     
     
    だからきっと、私のふざけた態度が
    バカにしているように見えているんだろう、と思っていた。
    だったら違うよ、誤解だよ
    私は真面目にふざけてるんだよ、とも言ってきた。
     
    だけどブログを書き続けてきた、この10年、ムダじゃなかった。
    コメントでのやり取りで、ちょっとわかったよ。
    “バカにする” と言う心理が!
     
     
    人が自分やその関係の話をする時に
    自分が気に入らない評価だと
    “バカにしている” と思う人がいるのである。
     
    単なる感想も、正当な文句も、悪口も
    私がよくする “面白がる” のも、果ては起きた事実を言うだけでも
    自分が納得しないと、全部 “バカにしている” になる。
     
     
    これは、自分を過剰に守っているのだと思う。
    大抵の人は、自分が何かを言われた時には
    “言われた理由”、つまり自分の言動を省みる。
     
    ところが絶対に傷付きたくない人は
    被害者意識を強くして、自分を守るのである。
    「バカにしてる?」 = 相手がヒドい と非難しているわけだ。
     
    いやいや、そうじゃなく、こういう事なんだよ
    と説明しても、そういう思考のクセが付いている人は
    自分の思う通りの評価をされていない事にしか、目が行かないのだ。
    言われるだけの原因が自分にあるかも知れないのに、それを探そうとしない。
     
     
    こういう心理は、誰でもわかるであろう。
    だって傷付きたくないもんな。
    私なんてほぼ9割方は、付く必要のない傷で
    人生ムダに苦労してるなあ、と我ながら悲しいけど、それも
     
    自業自得! もしくは 自己責任!
     
    とか、えらい格好良い事を言うとるが、その実態は
    うわあん、また非難されたー、きついよー、悲しいよー
    と、のたうち回っているだけだ。
     
    年老いて得した事と言えば、物忘れがより一層良くなったんで
    昨日腹壊したのに、今日またアイスを食うような真似が出来るとこだな。
    つまりは、1個も学習していないんで
    年寄りへの忠言はムダ、という見事な生き証人だよな。
     
     
    直す直さない、八つ当たる八つ当たらないは別として
    私は自業自得、自己責任、天罰ドーン! は
    恐々ながらも受け入れているので、それが不幸な出来事だとは思わない。
    いや、充分に不幸だけど、納得できるだけマシっちゅうか。
     
    でも、責任を取りたくない、バチなんて当たりたくない
    悪いのは私じゃなく他の人よ環境よ、と言う人は
    バカにしてるバカにしてる、と騒ぎたくなるんだろう。
     
     
    ここまでは、普通の道筋による思考。
    こっからは経験による答。
     
    「バカにしてるの?」 は、言葉だけで思われるのではない。
    その場その場にあった、適切な言動をしていないと
    そいつがふざけているように見えるのだ。
    つまり、これからは “言われる側に非がある” という説。
     
     
    和を尊ぶ日本では、意思の統一が重要視される。
    狭い島国ではそうやって治めないと、逃げ場がないからだ。
     
    だからTPOが、ものすごく大事になってくる。
    この “TPO”、何の略かというと
    Time (時)、Place (場所)、Occasion (場合)。
     
    何でいちいち英語を使うのか
    日本にはこれをひとことで表わす素晴らしい言葉があるのに。
     
    空 気
     
     
    TPOに合わせない人は、つまり空気を読まない人は
    その場にいる人のみならず、その場を穢す事にもなりかねない。
    その良い例が、冠婚葬祭である。
     
    日常の場面でも、あまりにも周囲とかけ離れた言動を繰り出すと
    その場に “軽蔑” という雰囲気が生まれる。
    「バカにしてるの?」 と言いながら
    その実は、こっちが相手をバカにしているのである。
    「おめえ、ちっとは空気を読んでくれよ!」 と。
     
     
    私がどっちの意味で言われてるのか、
    きっと両方の意味で、満遍なく怒られてるのだろう。
     
    そういう頭の悪いヤツにも、最後のチャンスはちゃんと残されている。
    それは、“愛すべきバカ”。
    バカにされる事と愛は、どうやら関係ない時もあるみたいなんだ。
     
    空気を読むのがヘタでも、周囲に合わせて
    わからない時や怪しい時は、口も手も出さずに大人しくしておこう。
    それを3回のうち1回成功させていれば
    そう悪気はない、と世間様は受け取ってくれるかも知れない。
     
    いずれにしても、良い意味でも悪い意味でも
    愛・最強! だな。
     
     
    いやあー、にしても、まさか自分が “愛されバカ” とか
    そういう情けない地位を、視野に入れる事になるとは思ってもいなかったよ。
     
    だって私は天才でナイスバディーなんだから
    尊敬されてしかるべき! と自信満々でいたら、あれえ? だったよ。
    人の評価というのは、本当に思いがけない方向に行くよな。
     
    しょうがねえ、私は今はバカで良いや。
    “能ある鷹は爪を隠す” の、ことわざにもあるように
    私にも爪がどっかに隠れているんで、えっと
    いや、その隠した場所がどこか、ちょっと忘れて
    うるせえ! その内、ノーベル平和賞でも取って
    実はわたくし本当に天才でしたのよほほほほほ、と奢り高ぶるよ。
    あの18金のメダルは換金させてもらうがな。
     
    ↑ こういう言動がバカにされる原因。
     
     

    評価:

    Public Design/Floyd


    ¥ 2,625

    コメント:アフィっといて何だけど、こういうのを買うヤツは ど う か し て る ぜ! “メダル” の検索で出てきた中でも、目を引いた逸品。 他にも色んな模様があるから、ネタ的プレゼントとしては、一瞬だけ面白いかも。

  • 継母伝説・二番目の恋 30

    翌日の自室で書類の束を手に、公爵家の娘は迷っていた。
     
    チェルニ男爵に何を訊こうというの?
    彼は王の手の者、あたくしよりも王の側に添った考えをするはず。
    王の耳に入って不興を買うような恐れがある事は訊いてはならない。
     
    公爵家の娘は、しばらく考え込んだ後に
    持っていた書類をトントンと揃え、引き出しに入れた。
    そもそも夕べのあの人が誰だろうと、どうでも良い話よね・・・。
     
     
    仮装パーティーは、まだ2日ある。
    だけど誰が誰やらわからないなら、情報も集められない。
     
    もう、あたくしは出るのは止めておきましょう
    壁にもたれかかって天井を見上げたら、溜め息が漏れた。
    ここ数日、忙し過ぎたわ。
     
    ドアをノックされた。
    「姫さま、養護院への贈り物の件で、院長がおいでになっております。」
    「すぐに行くわ。」
     
    ああ、そうね、まだ祭事は終わってはいないのだわ
    公爵家の娘は、サッと頭を切り替えた。
     
     
    その夜は、早々にベッドにもぐり込む。
    パーティーの喧騒が遠くに聴こえる。
     
    ・・・・・・・・・・・・・
     
    そう言えば、王妃はこの祭の間中、部屋に篭もっていた。
    王妃の “代理” は、神事の時のみのはずだったが
    いつの間にか、王の隣には王の叔母が常に鎮座していた。
     
    頼み事をした手前、王も叔母上を退けられなかったのだろうけど
    これだから、弱みを見せられないのよね
    ・・・身内にも・・・。
     
     
    公爵家の娘は、ベッドから身を乗り出して空を見た。
    月はもう、ほとんど消えそうに細い。
     
    明日は新月ね
    そう思った瞬間、花火の音が響いた。
     
    月があっても、きっと誰も気付かない。
     
    ・・・・・・・自分以外の世界中が激しく動いている、って
    どういう気持ちなのかしら?
     
     
    「王妃さま、少しお寒いでしょうけど、屋上に参りましょう。」
    最後の仮装パーティーの夜
    男性の礼装をした公爵家の娘が、王妃の部屋を訪れた。
     
    屋上には、ささやかなパーティーの用意がしてあった。
    小さいテーブルに、料理やジュース
    何本もの良い匂いのするキャンドル。
     
    「王妃さまは仮装パーティーには1度もいらしてませんものね。
     今宵はここで、ふたりで踊りましょう。」
     
    公爵家の娘が、王妃にマスクを着ける。
    そして一歩後ずさり、うやうやしくお辞儀をする。
    「あたくしと踊ってくださいませんか?」
    王妃は恐る恐る公爵家の娘の手を取った。
     
     
    ふたりは、ただ踊った。
     
    言葉もなく、視線も合わせず、笑みもなく
    何かから逃れるかのように、ただただステップで円を描いた。
     
    足元の楽しそうな宴の音楽に合わせ
    1羽の大きな鳥が、小さな雛を抱きかかえるように
    満点の星の光を消す月もいない夜、地上と空の隙間を羽ばたいた。
     
     
    その軌跡は、まるで祈りであった。
    それぞれの想い。
     
    公爵家の娘がついた溜め息は、いつか国を揺るがす風になるかも知れない。
    王妃の涙は風に乗り、城の庭に落ちて小さな植物の芽を潤すだけでいい。
    だけど小娘たちに出来るのは、無言のヒソヒソ話だけ。
     
     
    ふたりは、ただ踊った。
     
    それが最後だったとわかるのは、すべてが終わった後である。
     
     
     続く 
     
     
    関連記事: 継母伝説・二番目の恋 29 12.8.23 
          継母伝説・二番目の恋 31 12.8.29 
          
          継母伝説・二番目の恋 1 12.6.4 
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  • 静電気

    うちの兄はものすごい静電気体質で、本当に爆竹の音がする。
    日本が銃社会なら、発砲してると誤解されて撃ち殺されかねない。
     
    そんな兄は、家電をよく壊す。
    特に壊れやすいのが、ビデオデッキとパソコン。
    コンポも殺っていた。
     
    「うちにくる家電、外れが多くてすぐ壊れるんだよ!」
    と、物や運のせいにしているが、何故そこで我が身を省みないのか?
    壊してるのは、おめえの静電気のせいじゃねえのか、この電気男!
     
    と罵倒したいけど、あちこち触る度にパンパン騒音を出しながら
    痛みに、くねり歩く姿を見ていると
    そこまで非情にはなれない心優しい妹なのだ、私は。
     
     
    あれから十数年。
    ・・・なあ、静電気体質って遺伝なんか?
    にしては、うちの両親にそういう傾向は見られなかったんだけど
    今・・・・・、私、電気ババア
     
    私の場合、起こるのは外出時のみで、家の中ではならない。
    それも、出掛けてから長時間経った後だ。
    どうも疲れてくると、静電気を溜めやすいようで
    私の静電気は、ストレスの具現化か?
     
    普通は静電気は、乾燥する時季の風物詩だと思っていたのだが
    雨が降ってても汗をかいてても、季節に関係なくバチバチくる。
     
    真夏の炎天下で、汁ダクなのにビリビリきてると
    電気ウナギとか電気クラゲが、水中で放電できるのも不思議はない
    と、生物学に造詣が深くなった気分になる。
     
     
    静電気なんて、一発一発は痛いっちゃあ痛いけど
    そんな大騒ぎするようなものでもないじゃん。
     
    でもそう思うのも、その日初期の3~4発まで。
     
    最初はたまにビリッときてたのが
    その内に、何かを触る度にビリビリくる。
    それが無機物でも有機物でも、無差別にビリビリくる。
    すれ違いざまに、ちょっと人に触れるだけで放電してしまい睨まれる。
     
    一挙手一投足ごとに、針でチクチク刺される事を想像してみい。
    もう、動くのがイヤになるんだよ・・・。
     
    静電気がこんなに辛いものだとは思わなかった。
    私の車に乗ろうとして、パンパン鳴った時に
    「車が壊れるからやめて!」 と怒ってごめんね、お兄ちゃん。
    静電気防止用腕輪を見て、「何のまじない?」 と
    バカにしてごめんね、お兄ちゃん。
     
    そういう思いやりのない言動をしてたら
    自分がそういう立場になりました。
    これが因果応報! 天罰ドーン!
     
     
    でも私は情報化社会の女神なので、ネットで対策を練ろう
    嘆くばかりじゃないわよ、ほほほほほ
    と、調べようとしたら、“静電気の健康被害” とか出てきて
    そんなん読んだら、絶対に暗示に掛かるので
    即座にサイトを閉じて、嘆くばかりになってしもうた・・・。
     
    何か、静電気と戦う人とかいるし
    どうにも出来ないんじゃないんか? と
    検索見出しだけでも、充分に絶望した!
     
    そう言えば、静電気防止腕輪は効かない、と兄が言ってたし
    会う度に相変わらずパンパン鳴ってるし
    私も一生、静電気に悩まされる宿命なのだろうか?
     
     
    そういや、この兄、割に突拍子もない事を試すヤツで
    「静電気を爪で流せば良いんだよ、爪には痛覚はないし。」
    とか言って、爪を伸ばしていたけど
    自分の出す静電気は、多少伸びた爪では足りなかったようで
    皮膚に届いて、のた打ち回っていた。
     
    体の表面に潤いと、とか言ってボディーローションとか
    一生懸命に塗ってたりもしたようだが、今なら言える。
     
    このわたくしの潤々ボディーしかもナイスな
    に静電気が溜まるのだから、どういうお手入れをしても
    ムダムダムダムダーーーーーーーーッッッ!!!
     
     
    ちなみに私も、“爪先で放電する” も試してみたけど
    これは多分、爪を1cm伸ばしても無理だと思う。
     
    今、たった今、思い出したんだけど
    結婚時代に、暗い車庫から家に入るドアに手を伸ばした時に
    指先からコバルトブルーの光る青い真円の球形の玉が
    ノータリン的くどい説明になっとるが、言いたい事はわかるだろ?
    その美しい丸い玉が、ポワッと指先から発射されて
    1.5~2cm先のドアの金属部分に当たって
    体に痛みがバシッときた事があるんだ。
     
    その玉の速度がゆっくりと、でもスーッなめらかに動いてて
    「おお、ET、ゴーホーム?」 と思う時間があった程なんだよ。
    いや、ゴーホームじゃなかったかも知れないけど
    アイキャンノットスピークイングリッシュでな。(スペルにも自信なし)
     
    普通、電気系ってピシッと直線的なイメージがあるじゃん。
    なのに、その玉は人魂のように、フーッって動きだったんだよ。
    多分、軌道は直線だったんだろうけど、何かフワしつこい?
     
    なので、静電気の影響範囲は結構長距離!
    浮いてドアに吸い込まれていったのに、体にまで衝撃がくる。
    静電気の影響防止は、きっと10cm以上は離れんと無理だぜ。
     
    というのが、おわかりいただけだろうか・・・・
    “本当にあった呪いのビデオ” 風に。
     
     
    うちの兄の静電気は、『稲妻のような直線』 らしい。
    これは目撃した人から聞いた話で、私は見ていないので
    ギザギザ稲妻なのか、直線ドーンなのか、イメージが掴めない。
     
    色は私とまったく同じだと、証言で確信できたので
    どうやら、うちの一族 (と言っても兄と私のふたり) の
    静電気カラーはコバルトブルーのようだ。
     
     
    皆が防ぐ苦労をしているんじゃ、静電気を防ぐ事って難しいんだよな。
    病弱な私が、将来ペースメーカーをつけたら
    こりゃ文字通り、命取り? とボヤいたら
    今のペースメーカーは大丈夫だと、教えて貰った。
     
    私が真剣に悩んでいるというのに
    友人が私の腕を掴んで、自分の指先を金属にくっつけて
    「おおっ、電気が流れてる!」 と、はしゃいでいたが
    これは本当だろうか?
     
    マジで悩んでいるので、突っ込む気力もなかったんだが
    兄も同じ気持ちだったんだろうか?
    真剣に聞いてあげなくて、ごめんね、お兄ちゃん。
     
     
    えーと、言葉を忘れたんだけど
    私は人に触ってバチッとなって痛いんだけど
    伝道?する人は痛くないんだって。
    自分を電気が通っていくだけだから、とか?
    私が痛いのは、放電してるからとか?
     
    悩んでいる関連なのに、聞いた事を覚えてないって
    どんだけアホウなのか、って話だろうけど
    とにかく痛いのは静電気体質の人だけだってよ。
     
    でも、そしたら時たま人混みでバチッとなって睨む人、
    その人は痛いから睨んでるんだよね?
    でも静電気は発しないと痛くないんだよね?
     
    えええええええええええ
    だったら、お互い様じゃんーーーーーーーーーーー!!!!!
    瞬間だから、言葉で謝れずに頭を下げてたんだけど
    それは良いんだけど、誰か知らんがおめえも己を知れよ!!!
     
     
    痛み分けの傷付けあいはともかくも、この静電気をどうにかしないと。
    兄の通った道を私は歩んでいる、と言う事は
    私もその内に家電を壊し始める、という恐れが。
     
    家電全般、壊れたら困るんだけど、何よりもパソコンを壊したら
    私のネット活動によって保たれている世界平和が危ぶまれるんで
    何とか対策を練りたい。
     
     
    衣類とかの考慮はなしで。
    繊維の組み合わせとか、貧乏人にムチャ言うな!
     
    乾燥は皮膚的にはしていないけど、心的にはしているが
    そんなくだらん事はどうでも良いとしても、年齢的にムチャ言うな!
     
    “壁に触る”、触りたくない。
    意外に潔癖入ってるんで、エスカレーターの手すりも触りたくない。
     
    衣類の柔軟剤、匂いがキツいのが多くなったので、したくない。
     
    食生活の改善、効果が出る前に寿命が尽きかねん。
     
    静電気防止スプレー、経費がかかりすぎる、気管支弱いババアにムチャ言うな!
     
    静電気防止グッズ、ステッキタイプ、ハリポタババアと思われたくない。
    腕輪タイプ、願いを込めてる類に見えるくせに効かないらしいのでイヤ。
     
    はい、我がままばっかり言ってると、打つ手なし。
    皆、こんな意固地な老人になったらダメだYO! なので
    キーホルダー式の静電気防止グッズを買ってみた。
    使用レポ、カミングスーン!
     
     
    あ、ひとつ大きな不安があるんだ。
    静電気体質って、雷が落ちやすいとかあるんだろうか?
     
    ド腐れクソババアの分際で、気色悪い事を言うてすまんが
    実は、雷、・・・恐いんだ・・・。
    いや、ほんのちょっとだけだがなっ。
     
     
    関連記事: 静電気防止キーホルダー 12.9.14 
     
     
     
     

    評価:

    ぺんてる


    ¥ 590

    (2006-09-01)

    コメント:これに似たタイプの静電気防止ホルダーを購入。 静電気による健康被害ってのがあるらしいぞ。 静電気は家電だけじゃ飽き足らず、我々の健康まで破壊しようとしとるとは!!! 静電気体質の選ばれた人々よ、すみやかに放電せよ!

  • 継母伝説・二番目の恋 29

    城下町の大神殿のテラスから、王と王の叔母が
    集まった国民に向かって麦の穂を巻いている。
     
    その穂は1年間のお守りになるので
    国民たちはこぞって受け取ろうと、必死である。
     
     
    王の叔母ははしゃぎながら、穂を振舞う。
    王は西国から、拳ほどもあるピンクサファイアを取り寄せたらしい。
    ピンクのサファイアって、色の悪いルビーよね
    そう鼻で笑う公爵家の娘は、宝石に興味がなかった。
     
    そんな “褒美” をとらせなくても
    あの叔母さまは華やかな事がお好きだから
    今回の王妃の代理は喜んで受けたでしょうに。
     
    だが茶色のドレスは、王の叔母に似合っていた。
    いや、東国の貴族には茶色は定番の色なのだ。
    公爵家の娘は、少し気持ちが沈んだ。
     
    王妃は風邪を引いた事にする予定が
    本当に熱を出してしまったので、何ひとつ嘘はない。
     
     
    まあ、王妃にはこの仮装パーティーも苦痛だっただろうから
    本当に熱を出して、かえって良かったかも知れないわね
    そう思う公爵家の娘の仮装は、甲冑の男装である。
    公爵家の娘も、馬鹿げた乱痴気騒ぎは好きではなかった。
     
    マスクもしているし、誰が誰かわからないのなら意味はない
    もう少しここにいて、さっさと部屋に戻ろう、と考えていたら
    ひとりの貴婦人が手を差し出してきた。
     
    「いえ、あたく・・・、いえ、わたしは・・・」
    断ろうとするその言葉を遮ったのは、男性の声であった。
    「紳士は貴婦人の誘いは断れないはずですよ。」
     
    そうね、無粋な事はすべきではないわ
    女装とは思えない、その美しさに驚きはしたものの
    すぐにそう思い直せる公爵家の娘の社交性は、帝王教育の賜物である。
    王妃にダンスを教えたお陰で、男性のステップも踏める。
     
     
    だが甲冑は、レプリカとはいえ重い。
    しかもガシャンガシャンと音がうるさい。
     
    「ふふ、あなたさまの事だから
     地味な衣装になさるとは予想しておりましたが
     まさか戦士とは、思った以上に勇ましい姫君だ。」
     
    その言葉に公爵家の娘がムッとして、貴婦人の顔をマジマジと見る。
    肌が美しいせいでメイクも浮かず、女装が自然に似合っている。
    多分、若い男性なのだろうけど心当たりがない。
     
     
    あたくしとわかって誘っているようね
    まがりなりにも王の側室に、どういう魂胆かしら?
    いぶかしむ公爵家の娘に、艶めいた形の良い唇が微笑む。
     
    「そんなに警戒なさらないでください。
     わたしはただ、あなたの信奉者。
     今宵限りのダンスを望むだけなのです。」
     
    しかしその微笑みはスッと消え
    マスクの奥の目が、公爵家の娘の目を捕らえる。
    その視線には、まるですがりつくような甘い重さがあった。
     
    このような眼差しを、いつも見ている気がする・・・
    公爵家の娘は一瞬、黒い瞳を思い浮かべた。
     
     
    夜の明かりでは、瞳の色まではわからない。
    公爵家の娘は、思わず相手を抱く手に力が入りそうになった。
     
    公爵家の娘じゃなかったら、そのまま中庭までステップを踏み
    細い三日月の明かりの下、ひとときの逢瀬を楽しんだかも知れない。
     
    しかし公爵家の娘は、公爵家の娘なのだ。
    人々の輪の中心から1mmも逸れずにそこにいなければならない。
    相手もそれをわきまえているようで、手を握り返しもしない。
     
     
    公爵家の娘が戦うように踊っている内に、曲が終わった。
     
    「包容の姫君に永遠の愛を。」
    ドレスの裾をつまみ、実に優雅なお辞儀をした直後
    美しい男性は人の森へと消えていった。
     
     
    ひとりになった瞬間、公爵家の娘は初めてギクリとした。
     
    王はどこ?
    あたりを慌てて見回したが、見つからない。
     
    “無礼講” というのは、どこまで通用するのかしら・・・
     
     
    公爵家の娘のその疑問は、自分の心が揺れた証拠。
    それに気付かないのは、公爵家の娘がまだ、“子供” だからであった。
     
     
     続く 
     
     
    関連記事: 継母伝説・二番目の恋 28 12.8.21 
          継母伝説・二番目の恋 30 12.8.27 
          
          継母伝説・二番目の恋 1 12.6.4 
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  • 肥後のいっちょ残し

    この言葉は、故かあちゃんが言ってた言葉で
    皆で食べるもの、大皿の料理とかお菓子とか
    その最後の1個は、遠慮して手を出さないのが礼儀なんだそうだ。
     
    この解説、私の記憶なんで、もちろん怪しい内容で
    “いっちょ残し” じゃなくて、“ひとつ残し” かも知れん。
     
    かあちゃんとこの家系は、誇りある熊本市民なんで
    こういう風習は実在するんだろうけど、どこの地域の話かはわからない。
     
    私は広島の父親と熊本の母親の間に
    しかも他県で生まれ育ったので、何県人でもないのに
    何故教えてもいない、この肥後のいっちょ残しをするのか
    母親も不思議がっていた。
     
    だけど私自身はその答を知っている。
    遠慮や礼儀ではなく、単に少食だからなのだ。
     
     
    この言葉をどういう時に言われていたか、っちゅうと
    私、自分でもよくわからないんだけど
    “最後のひと口” になると、途端に満腹になるんだよ。
    それも、もう絶対に口に何も入れたくないぐらいのレベルで。
     
    つまりキレイに食う事が出来ずに、行儀が悪い事この上ないんだが
    自分ちで他に人がいないんなら、やりたい放題で良いだろ?
     
    もったいないない、とかの問題は残るけど
    それで無理に食うと、胸焼け吐き気など気分が悪くなるんで
    健康がもったいないじゃん。
    今でも、この最後のひと口残しはたまにやっている。
     
     
    ただ親の前では怒られるんで、ハナから手を付けなかった。
    そもそも母親ってさ、何であんなに大量に飯を作るんだ?
    特にうちは異常だったんだ。
     
    うちのとうちゃんは、晩飯は酒オンリーでつまみも食わないくせに
    目の前に5品以上、料理が並んでいないと怒るヤツだった。
     
    私なら、ふざけるな! と、フライパンで頭をかち割っとるとこだが
    体が弱いので素手で殴る事はしないのが、私の流儀だが
    うちのかあちゃんは料理自慢なんで、毎晩それをやっとった。
     
    兄の友人など、かあちゃんの飯目当てで
    1ヶ月以上うちに滞在するヤツもいたほどだ。
    食費も入れんと。
     
    父親やお客優先なんで、私の飯は肉のみ、とかだったが
    ひとり暮らしを始めたら、帰省する度に
    私にも優待券が回ってくるようになった。
     
    2~3日は、豪勢なもてなし料理なんだ。
    その後は放置気味になるんで、親の愛のテンション持続期間なんて
    そう長いもんでもないんだな、と冷静に悟ったもんだ。
     
     
    親も私も熊本に移住してからは、たまに食事の誘いがあった。
    飯を作ってくれる時はもちろん
    店に食いに行った時にもバンバン注文して、テーブル中に料理が並ぶ。
     
    飯については、私にしては珍しくデリケ-トな性質なんで
    皿に山盛り乗ってるのを見ただけで、満腹になるんだ。
    同様に多くの料理を見ると、それでもう食べる気が失せる。
     
    餃子の王将ってあるけど、あそこは持ち帰りしか利用しない。
    一度行った時に、周囲の席のテーブルが凄かったんだよ。
    おめえら、それを本当に全部食うんか? と訊いて回りたいぐらいに
    店中の客が大量注文してたんだ。
    王将って、どこでもいつでもこうなんか?
     
    とにかくそれを見て、もうこっちは食えなくなってな・・・。
    “料理は目でも食う” って本当なんだな、と思ったよ。
    いや、この言葉の本当の意味は違って
    “美しい盛り付け” の事なんだけどな。
     
     
    大量に出されると、もうそれだけで食欲がなくなる。
    頑張って食っても、まるでマラソンのゴールの手前で倒れるかのように
    最後のひと口で、挫折する。
    下方向を向いたらヤバい、ってぐらいに。
     
    かあちゃん世代にありがちな、“大量の食い物が幸せ” 攻撃で
    その最後のひと口残しグセが付いて
    ヤクルトも飲み残すドアホウになってしまったんだと思う。
     
     
    が、こんなん全部、言い訳だとわかっている。
    多分、私は産まれた途端、こういう性質だったんだよな。
     
    でも少食の人には、食関係でひどいトラウマ持ちが多いと思う。
    こんぐらいグチっても、バチは当たらないだろうよ。
    ・・・食い物を残してきたバチは当たるかも知れん・・・。
    てかな、食えないほどの量を出すヤツにもバチを当ててくれよ!
     
     
    あっ、やっぱ今のなし。
    かあちゃんにバチが当たるぐらいなら、私に当ててください。
    せっかく成仏しているだろうに、地獄に落とされたら祟られかねん。
     
    どう転んでも私も痛い目を見そうな気がするんで、せめてひとりで痛がるよ。
    ほんとすいませんほんとすいません。
     
     

    評価:

    瑞鷹


    ¥ 624

    コメント:熊本独特のお酒だと思うんだけど、トロミがあって甘いんだ。 これをみりん代わりに煮物に使うと、コクがあってまろやかな美味い仕上がりに。 つまり私レベルでも料理上手を装えるって事! これ、熊本以外の人には知られていないだろうから、今の内に!

  • 継母伝説・二番目の恋 28

    王と大神官長も、祭の前は忙しい。
    しかし、公爵家の娘の “至急” の要請を無視する者はいない。
     
    呼ばれてすぐに集まったふたりは、望遠鏡を手に困り果てた。
    王妃の部屋が見えるのは、物置となっている西の塔の部屋からで
    しかもそれも王妃の部屋の左端の窓辺だけ、かろうじてである。
     
    あのような姿の王妃を部屋から出して、人前に晒すわけにはいかないし
    この、誰もが忙しい最中に、特に忙しい大神官長と王を
    王妃の部屋に呼び寄せたら、目ざとい輩に何を非難されるかわからない。
    塔への呼び出しは、そのためであった。
     
     
    「・・・あの衣装は、春の祭典の時に奉納された糸で
     各地の神殿に仕える役目ある巫女たちが、数ヶ月に渡って縫った、
     正に “神具” なのでありますぞ。
     それを着ないなど、神事の一端が欠けるも同然!」
    大神官長の怒りは絶頂だった。
     
    「・・・代わりに姫さまに・・・」
    続く大神官長の言葉を、公爵家の娘が素早く遮った。
    「それだけは、してはなりません!」
     
     
    「差し出た心配をお許しください。
     でも、あたくしが王妃さまの代理をしたら
     国民に対して、王妃さまの印象が薄くなりかねません。
     それだけは避けたいのです。」
     
    公爵家の娘のこの言葉は
    身分も実力も、王妃の資格を兼ね備えている自分だからこそ
    “あの” 王妃に容易に取って代われる、と言ったも同然である。
    しかし、そんな遠慮をしている時間はない。
     
     
    「だが、あの王妃の姿を晒したくはない。」
    王のこの言葉に、大神官長がきっぱりと断じた。
    「あの衣装は、“東国” の王族が着るためのもの。
     王族の方々には、そういう義務を
     お忘れなき振る舞いを願いたいものですな。」
     
    怒る大神官長に、王も公爵家の娘も反論ができない。
    戦がなくなった現在、王家は神事で国を平定しなければならないのである。
     
    なので東国の王族は、他の普通の貴族たちと違い
    日々の神事のために、食事や生活での節制も必要であった。
     
     
    「王の叔母さまに代理を頼みましょう。
     確か “王族の女性” であれば、“妃” でなくとも良いはず。」
    公爵家の娘のこの提案に、大神官長も同意せざるを得なかった。
     
    神事を壊す事はあってはならないが
    身分の序列が崩れて、国がザワつく事も避けねばならない。
     
     
    王は愕然としていた。
    王族である前に、ひとりの “人間” としての気持ちを
    大切にしただけなのに、国を揺るがしかねない事態を招くとは。
    それが “高貴なる義務” を軽んじた者への災難である。
     
    王の顔色を読み取った公爵家の娘は、王の目を見据えて静かに言った。
    「あれこれ考えずに、目の前に落ちた石をひとつひとつ取り除きましょう。
     それが “責任を取る” という事だと思います。
     今回の事は、まだ終わってはおりません。
     王の叔母さまの反応が不安ですわ。
     こちらの弱みを握られないようにしつつ、頼みを聞いてもらわなければ。」
     
    「うむ、それはわしが何とかしよう。」
    公爵家の娘はその言葉を聞き、お辞儀をした。
     
     
    立ち去る公爵家の娘の真っ直ぐな背中を見送った後
    王はひとり、塔の窓から街を眺めた。
     
    わしは血統も気質も申し分ない王の器を持つ。
    今世はおそらく東国の歴史上、もっとも安定した治世であろう。
    なのに自ら、混乱を招くとは。
     
     
    階下から、少し冷たくなった風が吹き上げてくる。
    王は無意識に、自嘲していた。
     
    そうか、これが “ハンディ” というものか・・・。
     
     
     続く 
     
     
    関連記事: 継母伝説・二番目の恋 27 12.8.17 
          継母伝説・二番目の恋 29 12.8.23 
          
          継母伝説・二番目の恋 1 12.6.4 
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  • 正論は諸刃

    なあ、日曜から月曜へって、まるで異空間移動をするかのようじゃないか?
    最近の月曜の雑談記事は、グチばかりで申し訳ないが
    非日常から日常への転移が上手く出来ないんだよ。
    暑くて。 ← 今年の夏の大活躍な言い訳ワード
     
    国宝級文豪が、これじゃ情けないので
    今日は問題提起として、ちょい前に経験した事を書こう。
     
     
    “エレベーター” と “エスカレーター”、言い間違うよな。
    エレベーターをエスカレーターとは間違わないけど
    エスカレーターをエレベーターと言うのは、よく間違う。
     
    書いてて既に、“エスカレーター” と言うっけ? あの動く階段は。
    とか思い始めているので、エスカレーターって馴染みにくい言葉だ。
    とりあえず私がエスカレーターを指差して
    「エレベーターに乗ろう」 と言っても
    いちいち訂正なんかせんでよろしい。
    ボケてるとか知らないとかじゃなく、単に言い間違ってるだけだから!
     
    どうでも良いが、私はエレベーターよりエスカレーターの方が好きだ。
    だってホラー好きとしては、エレベーターは恐怖のアイテム。
    ドアが開いた途端、ゾンビがワラワラ出てくるかも知れんし
    意思を持ったエレベーターが喰いついてくるかも知れんし
    危険なヤツと乗り合わせる事もあるかも知れん。
    知れん3連発だが、それだけ “密室” というのは恐いものさ。
     
     
    それに、“開” と “閉” の区別がとっさに付かない。
    あの <l> と >l< の違いが、パッとわかるか?
    日本人だから、まだ漢字の方が感じでわかるよ韻!
     
    と、ネットで調べてみたら、どっかで質問してる人がいて
    「“左ヒラメの右カレイ” のように、“左開くの右閉じる”」
    という答が出てたけど、これは全機種統一はされてないんだと。
     
    でもそれを知ってからずっと、乗るエレベーターをチェックしているけど
    今のところ、“左開く” しか見ていないんで、かなり有力な見分け方である。
     
     
    それと同時に、“ボタンキャンセル方法” も色々あると知った。
    これも機種によって違うそうで
     
    ・ キャンセルしたい階ボタンの長押し
    ・ キャンセルしたい階ボタンの2度押し
    ・ キャンセルしたい階ボタンの5度押し
    ・ 全部の階ボタンを押していく
    ・ 全部の階ボタンを上から下へと押す
    ・ 開くボタン + キャンセルしたい階ボタン
     
    2度押しキャンセルの機種が多いようで
    言われてみると、ゲーマーな私はつい連打してキャンセルしちゃった事がある。
    階ボタン全部押しキャンセルは、子供のイタズラ防止だろうな。
     
     
    賢い皆様には、おわかりいただけたと思うが
    ここまでの話は “ついで” で、これからが本題である。
     
    で、そのエスカレーター (動く階段の方ね)(妙なとこで自信なし)
    に乗ろうとしたら、横からスッと女の子2人に割り込まれた。
     
    私は別に良くても、後ろにいる人たちの中に悪を許さない人がいたら
    許しちゃった私までも悪呼ばわりされるんだよな、と
    せちがらい都会事情を交えながら語るが、いや全然関係ないけど
    その女の子たちは、このようにナチュラルにマナーが悪かったんだ。
     
    でも私の意識は、他のところにあった。
    その女の子のひとりの肘が、真っ黒なのだ。
    それも全体的にではなく、直径1cmほどの範囲のみ。
    見ると両肘ともなので、アザではない。
    おめえ、新聞紙の上で肘ついてきたんか? って感じ。
     
    これはもう、全年齢対象で言いたいけど
    露出をする時は、チェックを欠かすな!
    女性でも背毛とか生えてるから、出すなら剃れ! ジョリジョリと!
     
     
    と、アームカバーに首巻きと、見ているだけで暑苦しい格好の私が
    この猛暑に煮えたぎった脳内で、若い娘さん批判をしていたら
    その娘さんたちが、携帯電話を手にキャッキャし始めた。
    「大根 大根 キャハハハ すっげー とって良い?」
     
    その声は、後ろの耳の悪い老婆の私にも聴こえるので
    すぐ公共の場で騒ぐんだよな、若い衆は
    と、若者をひとくくりにしつつ、エスカレーターを降りた。
     
    にしても、“大根を取る” って、どういう事だ?
    と数歩進んでふと振り向くと、彼女たちの前に女性がいて
    その女性の足を写真に撮っていた。
    撮られている女性は気付いていない。
     
     
    頭の動きが少々鈍い私は、その意味がわからなかった。
    その場ではすぐ忘れたのだけど、家に帰って風呂に入って
    自分の体に見とれていた瞬間に、アルキメデスのユリイカ!がきたのである。
     
    ああ、ごめんごめん、つい知識をひけらかしちゃったわ、ほほほ。
    アルキメデスという何かの学者が、何かの発見をした時に
    「ユリイカ!」 と叫んだ、という伝説があって
    この “ユリイカ” とは、どっかの言葉で
    “見つけた” という意味なんだと。
    うわ、“見つけた” とか、日本だったら心霊都市伝説だよな、恐え。
     
    何か、“知識” と言えないレベルであいまいな情報だけど
    調べる気がしないのは、夏の太陽のせい。
    こういう事ばっかり言うとったら、そろそろ誰かにシバかれそうだ・・・。
     
     
    あのバカ女子たちは、前に立っていた女性の足が
    “大根” そっくりだと言って、写真に撮ってたんだよ。
     
    それを私が咄嗟に気付かなかったのは
    実際に売られている大根は、白くて良い形をしているからである。
     
    あれを “太い” とか言うのは、ゴボウぐらいのもんだろ。
    黒いゴボウより白い大根の方が、性的に魅力的だと思うので
    “大根足” というのは、実は褒め言葉なんじゃないのか? と
    スーパーの野菜売り場で常々考えるのが、私が自称文豪たる理由である。
     
     
    これに気付いた途端、怒りにはらわたが煮えたぎったさ。
    数時間後というマヌケさは置いといて
    これが真実だという証拠もないけど
    とにかくこの推測で数日間イライラしていた私は、とても意味不明。
     
    何がこんなに腹が立つのか、自分でもわからないので
    記事にも書けなかったんだけど、音を上げるよ。
    皆の意見を聞きたい。
    なあ、この腹立ち、どう思う?
     
    私さ、今でもあまりわかってないんだけど
    彼女たちの無神経さに腹を立ててるのか
    人を貶めてる言動に腹を立ててるのか、のどっちかだと思うんだ。
    にしても、何でここまで怒ってるんやら???
     
     
    私も彼女たちと似たような、“無邪気な悪意” を持っているらしく
    それが良い方に解釈されて、“天然” とか “キツい” と
    言われているんだと思う。
     
    その、目く・・・ごめん、スカトロ嫌いなのでキレイに表現すると
    “五十歩百歩” な私に、怒る権利はないだろうが
    不愉快だから、存分に怒る。
     
    前にいた女性の足は、確かに彼女たちよりは太かった。
    でもな、“足の美しさ” で言えば、私が一番キレイなんだ。
    だから私は彼女たちに言えるよな。
    「あら、お若いのに、そんなに形が悪い足でお気の毒。」
     
    ・・・ああ、わかった。
    私は、“自分ではどうにも出来ない部分を否定する言動” が許せないんだ。
     
     
    なるほど、そうだった、そうだった。
    私の地雷は、ここにあった。
    私の “自己正当化” の由来も、ここなんだ。
     
    “自分ではどうにも出来ない事を否定するのは正義ではない”
     
    これさ、正しい事ではあるんだけど、絶対正義でもないんだよな。
    だけどこれを言われると、良識ある人なら反論が出来ないだろ。
    “正しい言葉” って、実に恐い言葉だよな。
    人の良心につけこんで、いくらでも悪用できる。
     
    私はそれをわかっていて、この “正論” を振りかざしてきたんだけど
    今回、本気で腹を立てたという事は、本気で思ってもいるんだな。
    それは知っていたけど、自分の正義感にちょっと驚いたよ。
    良い事なんだか悪い事なんだか、不安だなあ。
     
     
    ごめん、長い前置きのあげくに質問しといて
    自分で答を見つけてしもうた。
     
    ブログを書いてて良かった、と思うのは、このように
    “書く” という行為や、読んだ人からの意見で
    自分をより客観的に見られる事なんだ。
     
    この記事、消そうかとも一瞬思ったけど
    気付いたのが、20行上なんだよー。
    そこまで書いた労力が、とてもとても惜しいので
    “腹立ちの理由は?” のタイトルだけを変えて、アップするよ。
     
    こういう思考の展開みたいなのも、何かの参考になるかも知れないし
    ゴミは出さずにリサイクルなんだろ? 今の世の中は。
     
    と、エコにケンカを売る事も忘れず。
     
     
    あ、そうそう、関西ではエスカレーターは右寄り立ちなんだよ。
    でも、右回りに上っていくところが多いので
    急いでいる人が内回りできる方が、段取り良くねえ? と思うんだ。
    この右寄り立ち、関西だけだろ? 直さねえ?
     
    とか思っていたら、エスカレーターの片側乗りは
    機械に負担が掛かって、故障の原因になるので
    「中央に立って」 というのが、メーカーのお願いだそうな。
    エスカレーターの幅をひとり幅か3人幅にすれば、皆、中央に立つんじゃねえ?
     
    でも、動く階段を更に走る、日本人らしいよな。
    私は動く歩道では、絶対に歩かない。
    だってその動く歩道は、大阪では梅田やなんばにあって
    あそこにいる時の私は、大抵が歩き疲れてヘトヘトなんだ。
    あの歩道に椅子もつけてほしいぐらいだよ!
     
    大阪の動く歩道にヨロヨロと立っている老婆がいたら、それが私だ。
     
     
     

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    コメント:こ・・・今年の夏の首巻きは辛い、辛過ぎる!!! クール機能が付いてないと、やっとられんわ! 黒と白の2色のストール、持ってるけど、白と黒の出す面積を調整すれば、雰囲気を重くしたり軽くしたりが調節できるんで便利。 意外に使えるぞ。

  • 継母伝説・二番目の恋 27

    東国全体が、祭に向けてソワソワしていた。
     
    年間を通して、いくつかの大きな祭や行事があるのだが
    五穀豊穣を願う春の大祭と、実りを神に感謝する秋の大祭は
    数日間に渡って開催される、大きな祭である。
     
    国中の神殿では、神官による祈りが捧げられ
    宮廷でも、王を筆頭に大神官たちによる神事が行われる。
     
     
    だが皆の楽しみは、祭の夜のパーティーであった。
    宮廷では毎年、仮装パーティーが開かれる。
     
    宗教心の薄い東国ならではだが
    祭期間中の主役は神なので、人間は神の下において平等
    とか何とか理由をつけて、要するに普段は規律の乱れに繋がる
    と敬遠される、無礼講の身分隠し夜会を
    この機会にやっちゃおう、という腹なのだ。
     
     
    ここに浮かれていられない女性がひとり。
     
    パーティーにうつつをぬかしていられるなんて、羨ましい限りだわ!
    そうイラ立つ公爵家の娘は、たとえヒマでもあっても
    パーティーは情報収集の場、としか考えない性格であった。
     
     
    王妃の部屋に入ると、ティレー伯爵夫人が待ち侘びていた。
    「ああ、姫さま、お忙しいところを申し訳ございません。」
    爪の先まで優雅にお辞儀をするこの伯爵夫人は、王妃の行儀指導の係である。
     
    「いいえ、大丈夫ですわ。
     何かトラブルでも?」
    一応は訊いたものの、公爵家の娘には事情は読めていた。
     
    王妃も王に付き添って、神事をせねばならないのだ。
    秋の大祭の一連の行事を、あの王妃が覚えられるわけがない。
     
    やはり、王妃の役目をあたくしも覚えて
    ティレー夫人とふたりで教え込まなくては・・・
    公爵家の娘の忙しさは、本来ならば王妃が取り仕切る
    祭事の準備を肩代わりしているためで
    ここにきて、王妃のせいで更に仕事が増える事を覚悟した。
     
    ところが、事態はその予想の脇をかすめて
    はるか彼方まで外れていっていたのである。
     
     
    「・・・・・・・・・・・」
    泣きべそをかいて立ち尽くす王妃の前に行った公爵家の娘は
    かける言葉を見つけられずにいた。
     
    秋の神事の際の王妃が着る衣装は
    母なる大地を表わす暖かいブラウンカラーの生地に
    金糸で豊穣のシンボルの穂が描かれている。
     
    茶色いドレスを黒い肌の王妃が着ると、まるで泥人形であった。
    その姿は、似合う似合わないを通り越して
    哀れすら感じるほど、不恰好であった。
     
    このような姿で国民の前に出たら、益々王妃への不満が噴出しかねない。
    いまや、“王に愛される美しさ” だけが取り得として
    渋々と容認されている立場だからである。
     
    バカなお方だから、そういう国民感情を理解していて
    この衣装を嫌がってるわけではないのだろうけど
    これを嫌がるのは、“我がまま” とは言えないわよね・・・
    公爵家の娘は、さすがに王妃に同情をした。
     
     
    「いかがいたしましょう?」
    ティレー夫人が、公爵家の娘に耳打ちをする。
     
    「この衣装は、ただのドレスではなく
     “祈り” の道具のひとつ、という位置づけがございますので
     色やデザインを変える事は許されない事だそうです。」
     
    ティレー夫人の説明に、公爵家の娘は途方に暮れた。
    「だけど王妃さまは、この衣装で国民の前にお出になるのですよね?」
    「はい・・・。」
     
     
    「急ぎ、王さまと大神官さまに相談いたしますわ。
     王妃さまを、左端の窓辺に立たせておいてください。」
    公爵家の娘がドアに向かおうとすると、その腕に王妃がしがみついてきた。
     
    その目には、公爵家の娘に対する怯えと甘えが混在している。
    公爵家の娘は、王妃のこの眼差しが大嫌いであった。
     
    「・・・・・・、心配なさらないで。
     あたくし、いえ、王さまが必ずどうにかしてくださいます。」
     
     
    公爵家の娘は、王妃の手をほどいて部屋から出て行った。
    ティレー夫人は、公爵家の娘の言い直しを聞き逃さなかった。
     
    「さあ、王妃さま、姫さまが何とかしてくださいますから
     待っている間、少しでも祝典の流れを覚えておきましょうね。」
     
    王妃はその言葉に、素直に従った。
     
     
     続く 
     
     
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