• イキテレラ 13

    このところ、王が寝室にやってこない。
    皇太后が去った後、新しい女官が城にやってきたのだ。
     
    新王妃のお話相手に、という名目であったが
    皇太后が寄越した王の妾候補であった。
    多分、彼女は王のお眼鏡に適ったのであろう。
     
     
    しかしイキテレラに降りかかるのは、決まって不運。
    幼い王子が流行り風邪で急逝したのである。
     
    王がイキテレラの目の前に、満面の笑みで現われた。
    「我が妃よ、私に世継ぎを!」
     
    「どうか側室のお方にお願いいたします。
     わたくしの実家よりも、身分が高いお家の出だと伺っております。
     彼女の方が、お世継ぎを産むにふさわしい血筋かと・・・。」
    イキテレラが必死で懇願すると、王は無言で部屋を出て行った。
     
     
    ホッとしたのもつかの間、王はすぐ戻ってきた。
    件の女官を連れている。
     
    イキテレラも驚いたが、女官も同様の様子である。
    「あの、王さま・・・?」
    女官が問いかけようと口を開いたその瞬間
    王が剣を抜き、女官に向かって振った。
     
    女官の首が床に落ちる音が鈍く響いた。
    地鳴りのようだった。
    イキテレラには、何が起こったのかわからなかった。
    女官の体がゆっくりと倒れ、振動で側の花瓶が転がり、床に落ちて割れた。
     
     
    相次ぐ物音を不審に思った侍女たちが、部屋をノックする。
    イキテレラは、女官から目を逸らせる事が出来なかった。
    床に転がった “彼女” と目が合ってしまっていたのだ。
     
    入って来い、と王の許可を得た侍女たちが悲鳴を上げた。
    王は剣の血をはらいながら、平然と命令した。
    「この女は我が妃に無礼を働いた。
     片付けておけ。」
     
    王は、放心状態のイキテレラを引きずって寝室へと向かった。
    「私が愛する妃より、身分の高い女がいてはならぬ。」
    王の言葉で、女官を死へと追いやったのは自分だ、とイキテレラは悟った。
     
     
    イキテレラは、すぐに身ごもった。
    しかし王の通いは止まらない。
     
    「王さま、お腹のお子に障りますゆえ
     何とぞしばらくの間はお控えくださいませ。」
    イキテレラから相談を受けた侍医が、王に進言に行った。
     
    王は、造作もなく答えた。
    「ダメだったら、また作れば良い事ではないか。」
     
    この返事を聞いた侍医は、口をつぐんだ。
    まともな感覚の答ではないからである。
     
    「王さまには、決してお逆らいなさいますな。」
    侍医はイキテレラにそれだけを助言すると、職を辞した。
     
     
    イキテレラの体調は日に日に悪くなっていった。
    気分転換にと、侍女がピクニックに連れ出してくれた。
     
    こんな事ではいけないわ
    絶対に世継ぎを作っておかないと。
    でも、あの男の血を引く子・・・?
     
    自分の腹の中にいる子が、果たして人間なのか
    それすら疑いそうになる。
    どこにいても、何をしていても、すべてが恐怖へと繋がっていく。
     
    馬車に乗っていて、城が見えてくると胸が苦しくなってきた。
    あそこに帰りたくない!
    イキテレラは泣き出した。
     
    「王妃さま、しっかりなさってください。」
    侍女が一生懸命に慰めるが、イキテレラの涙は止まらない。
     
     
    馬車が城に着き、イキテレラが降りようとしてフラついた。
    「大丈夫ですか?」
    支えてくれたのは、馬番の少年であった。
    「・・・ありがとう・・・。」
     
    イキテレラが城へ入ろうとした時にすれ違ったのは、王だった。
    え? と振り返ると、王は少年を切り殺していた。
     
    返り血に染まった王が、イキテレラに向かって微笑んだ。
    「こやつ、事もあろうに我が妃に触れおった。」
     
    イキテレラは悲鳴を上げ、気を失った。
     
     
     続く
     
     
    関連記事 : イキテレラ 12 10.6.10
           イキテレラ 14 10.6.16
           
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  • 人生相談 20 うんこネタ

     <質問>
     
    唐突でぶしつけでごめんなさいで、聞いてくださーいなのですが
     
    職場で同年代の女の子AとBが下らないうんこネタの話をしてて
    目上の上品そうな女性に対して
    Aが「○○さんの前でこんな話したらあかんやろ」とふざけ半分で言ってて
    私が「私もイヤやけど」と言ったら
    A「あんたは、別にいいやろ」って
    そんな話聞きたくない(お菓子食べてたし)って言ったら
    B「だったら聞かんとけば?」だって
    「耳閉じればいいじゃん」 だって
     
    どう思います!?
    人がイヤだって言ってるのに 開き直り?
     
    その場を離れたらよかったかもしれないけど、
    やっと仕事終えて 休憩に入った所だったし なんなんだろうな
     
    ちなみに彼女たちは下ネタを仕事中もしてたり
    気分次第でだらだら仕事をしてたりという態度が目立つ人です。
     
     
     <回答>
     
    : このメールは、実は “人生相談” とは書いてなかったんだ。
    : でも返事を出しても、何故か届かずに戻ってくるんだよ。
    : 
    : 相手の許可なく載せるのはどうかと思ったんだけど
    : こっちから連絡の取りようがないんで
    : 最終手段として、このような方法を取った次第なんだ。
    : 
    : 心当たりがある人、もし都合が悪かったら言ってくれ。
    : 非公開にするから。
     
     
    私はこう見えても、下ネタはしない。
    お上品ぶってるのではなく、本当に上品だからだ。
     
    と言うか、スカトロが病的に大っっっ嫌いなので
    うんこの話もしっこの話もゲロの話も
    たとえ真面目な内容であっても、聞きたくもない。
     
     
    そんな私にはまったく理解できないんだけど
    うんこネタって、万国共通の外さない笑い話だよな。
    特に子供は、“うんこ” という単語自体が好きらしい。
     
    何でだ?
    汚物だぞ?
    精神病の中には、うんこに執着する症状もあるらしいけど
    人の心理の奥底に、うんこを愛するプログラムが組み込まれているんかのお。
    ほんっと、わからんぜ。
     
     
    ああ、すまん
    ネタがネタだったので、つい怒りに己を忘れて
    相談者の事を放置してしもうとった。
     
    「どう思います?」 って、私なら暴れるわ!
    て言うか、常日頃から、こいつの嫌な事をすると反撃される
    と、周囲に印象付けておくよ。
     
    こういうやり方は、敵も作るけど
    嫌な味方がいるのが、一番しんどいと思う。
    敵らしい敵の方が、ずっとやりやすいだろ。
     
     
    だけど多分そのAとBは、職場の中心っぽいな。
    じゃないと、そんな仕事ぶりは許されない。
    逆らうと、ハブられたり面倒な事になりそう。
     
    相談者に対する口ぶりも、良く言えば仲間意識があるので
    ひとり抜けすると、恨まれるような気がする。
     
    それでバトって、空気を変える努力をするのも良いけど
    改革はものすごく大変で、成功の保証もない。
    よって一番安全な方法は、穏便に済ませる事で
    さりげなく席を立つ等しかないな。
    追求されたら、「ほんと、そういう話、嫌いなのよ。」 と言え。
     
    どうも汚物好きの女たちのようだから
    自分がどのラインまでならオッケーか譲歩して
    それを伝えておけばどうだろう?
    「飲食中じゃないなら良いけど。」 とか。
     
     
    うーん、すまん、良い答じゃないなあ。
    ケンカの売買で頭がいっぱいなんで
    円満解決って、私にとってはほんと難題なんだよー。
     
    もっとスマートに回避できる方法を、誰か提案してくれ。
    最近、通りすがる人頼みのクセが付いているけど
    その一方的な助けがとてもありがたい、と気付いてな。 えへへ
     
     
    にしても、「耳を閉じておけば?」 って
    私がそれを言われたら
    「あんたの耳、そんな機能が付いとんのかっ!!!」
    と、驚愕するぞ。
    プールに入っても、中耳炎にならずに済んで羨ましいよなー。
    (もう、ここで既にケンカ腰か?)
     
     
    はあ・・・、まさか自分がここまで
    うんこ連呼する時が来ようとは思わなかったな・・・。
    人生、ほんと予想が付かんな。
     
     
    ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
     
    人生相談は、あまり受付ておりませんが
    ご相談はメールでお願いいたします。
     
    相談前に、私の他の記事をご一読ください。
    こういう “私” に相談する、というその選択について
    もう一度よくお考えくださるよう、お勧めします。
     
    アドレスはプロフィールにあります。
    件名に、「人生相談」 と入れてください。
    でないと、迷惑メールに紛れる可能性がありますので。
     
    匿名で結構です。
    いらん個人情報ばかり書いてこないで
    肝心の相談内容の情報の方にこそ気を遣ってください。
     
    相談内容によっては、相談した事自体を怒りだす可能性もあります。
     
    相談後の意見、返事、報告等がありましたら
    出来れば記事のコメント欄に書いていただけたら、ありがたいです。
    通りすがりの人も、結果が気になると思いますので。
     
     
    ※ 相談内容を転記の際、状況によって
      伏字、改行、修正などをさせていただく場合があります。
     
    ※ 精神的に打たれ弱い方はご遠慮ください。
     
     
    注: たまにこちらからのメールが届かない人がいますが
       その私ブロックは解いておいてください。

  • イキテレラ 12

    王の葬儀は厳かに行われた。
    国中に弔いの鐘が鳴り響く中、王妃はずっとすすり泣いていた。
     
    イキテレラは、泣ける心境ではなかった。
    実の父親を殺すほどの嫉妬、というものが存在するなど信じられない。
     
    だが、現実に “それ” を目の当たりにしてしまったのだ。
    人の所業とは思えない。
    恐くて恐くて体の震えが止まらない。
     
    その隣で、王子はただ静かに参列している。
    その落ち着きが、より一層にイキテレラの恐怖心をかきたてる。
     
     
    王の葬儀の7日後には、王子の戴冠式である。
    世代交代は速やかに行われなければ、国政が乱れる。
     
    今回は “王の暗殺” という大事件であったが
    現場にいたのが全員身内であり、誰にも王を殺す動機もない事から
    王妃の証言通りに、従者の犯行だと判断された。
    従者は、王妃の愛人であった。
     
     
    「わたくしは戴冠式が終わって落ち着いたら
     歴代の王の墓所のある北の寺院に参ります。」
    王妃の言葉に、イキテレラは不安を感じた。
    「いつまでですの?」
     
    「王を亡くした王妃、つまり皇太后は、寺院にこもって
     夫の魂の安息を祈りながら、余生を過ごすのですよ。
     もうここには戻って来ませんの。」
    「そんな・・・。」
     
     
    イキテレラの手が震えだし、それを鎮めるかのように
    自分の手を重ねながら、王妃が低い声で言った。
     
    「わたくしだけ逃げ出すような形になって、ごめんなさいね。
     出来れば、あなたも連れて行きたいのですけれど
     それは国政上、許されない事なのです。
     戴冠式の後は、あなたが王妃になるのですよ。」
     
    「わたくしには無理です・・・。」
    「だけど、するのです。」
     
     
    王妃は、イキテレラの両頬を手で包みながらささやいた。
    「王子には気をつけなさいね。
     実の母親が言う言葉ではないけれど、あの子は狂っています。
     万が一の時には頼みますよ。
     王国には、もう次の世継ぎはいるのですから。」
     
    何が “万が一” なのか、何を “頼む” のか
    イキテレラには考えたくもない事であった。
     
     
    王妃、いや皇太后を乗せた馬車が城門を出て行くのを
    イキテレラは涙ながらに見送った。
     
    「我が妃は、いつ見ても泣いているなあ。 はっはっは」
    王子、いや王の王妃に対する心無い言葉に
    その場にいた者全員が、ギョッとした。
     
    イキテレラは、無言で部屋へと急いだ。
    王の言動のひとつひとつがすべて
    自分への脅迫に思えて恐ろしくてならない。
     
     
    戴冠式の時に、イキテレラが勺杖を王に渡す儀式があった。
    王は杖を受け取れば良いだけなのに、杖を持ったイキテレラの手を握った。
     
    強く握り締めた手を離さず、自分を睨む王に
    イキテレラはどうして良いのかわからず、思わず王の目を見た。
    その時が初めて、夫と目を合わせた瞬間だった。
    暗く深い茶色の瞳だった。
     
    王は空いている方の手で、勺杖を取りながら
    ゆっくりとイキテレラに顔を近づけた。
     
    「それでも私はあなたを愛しているのですよ。」
     
    王は薄ら笑いを浮かべて、イキテレラに口付けをした。
    端から見ると、単なる夫婦のキスなのだが
    イキテレラにとっては、死刑執行書へのサインにも等しかった。
     
    この時のイキテレラの恐怖を察する事が出来たのは、皇太后だけである。
    皇太后は戴冠式が終わった途端、荷造りを始めた。
     
     
     続く
     
     
    関連記事 : イキテレラ 11 10.6.8
           イキテレラ 13 10.6.14
           
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  • 機能追加のお試し[アンケート]



    ず~っと前から、あしゅからの要望があったアンケート機能です。
    といっても、ブログランキングにあったものを拝借しているのですが。
    使い勝手を確かめるためにも、ちょっと使ってみますね。
    みなさん、投票してみて下さい。

  • 誘わない人

    こっちから声を掛けると、ホイホイ付き合ってくれるのに
    自分からは絶対に誘って来ないヤツっているだろ。
     
    いっつもいっつも自分からばかり誘っている状態だと
    え? 本当は私と遊ぶのイヤなの? と、ふと不安にさせられるよな。
     
    私、結構これ。 誘わないタイプ。
    だから多分、誘わないヤツの気持ちを代弁できると思う。
     
     
    私は自分からはあまり人を誘わない。
    メールもしない。
    これは誰に対しても、こうである。
    用がある時を除いて。
     
    何故そうしてるのか? という理由、
    私の場合は、ある日ふと思ったんだ。
    他人と自分の事情って違うんじゃないか? と。
     
    私が話したい時に、相手が話したいとは限らない。
    もちろん、こんな事を言ってたら友達付き合いなど出来ないわけで
    融通を利かせたり、我がままを聞いてもらったり、は当たり前の事である。
    現にこの私でさえ、少々都合が悪くても相手を優先させる。
     
     
    だけどな、長年生きてきて今更になって思ったのがな
    自分のペースは他の人と違い過ぎるんじゃないか? って事。
     
    ここらへん、どういう事になっとんのか
    空気が読めないんで、ほんとわからないんだけど
    全体的に見ると、いつもいつも世話になっとる側なんで
    いつ面倒を見てもらうかは、相手の都合で良いよ、みたいな。
     
    こいつと付き合うとロクでもねえ事しかねえだろうな
    みたいな事を書き連ねながら、何なんだが
    私の気持ちとしては、なるべく相手に負担を掛けたくないんだよ。
     
    いつ相手が都合が良いか、とか
    そういう全体像も、ほんと読めないんで
    せめて始まりの合図ぐらいは相手に合わせよう、みたいな。
     
     
    メールでもそうなんだ。
    相手がどういう状況かわからないから
    用事でもない限り、遠慮してしまう。
     
    でも、それぞれにそれぞれの対応法があるだろうから
    ここまで気を遣う必要もなく、もっと気楽に連絡しても良いんだろうな
    とは、わかっている。
     
    でも、天然だのマイペースだの変わってるだの、散々言われてるとな
    よくわからんけど、何となく私、多分絶対におかしい気がする!
    と思い込んで (その思い込み方まで自信なさげに)
    どうしても他人を巻き込む事柄には、臆病になってしまうんだよ。
     
     
    だから人付き合いに関しては、私は
    来るもの拒まず、去るもの追わずで
    自分に主導権はない、と決めている。
     
    この決心が、えらく冷酷に映る時もあるようだけど
    相手が私を思い出すよりも、私が相手を思い出す回数の方が
    絶対に多い! と、ここだけは自信がある。
     
    根拠は、私は一日中脳内の隅で記憶が勝手に巡っているんで
    コンスタントに、友人知人ネット仲間も出てきているからである。
    だから、ちゃんと愛はあるんだよ
    いつも想っているんだよ、と言いたい。
     
    そんなん、ちゃんと言葉で伝えなきゃ相手は気付かんわけで
    こっちの勝手な言い訳なのはわかっているけど
    この、“伝える” っちゅうのも、重くねえか?
    と、ちゅうちょするんで、もうどうすりゃ良いのか
    自分でもワヤクチャなんだ。
     
     
    自分から誘わないヤツって、このように
    人との距離感に自信がないんだと思う。
    本心は、決して付き合いがイヤなわけじゃなく
    むしろどんどん誘って! って感じ。
     
    誘わない人の、全員がこうではないだろうけど
    私はこうで、私と似たような理由の人もいると思う。
     
    あー、もうそれを言われたらねえ・・・、という
    卑怯な言葉を、最後に発射させてもらうが
     
     悪 気 は な い ん だ
     
     
    まあ、私はそこまで頑なに誘わないわけじゃないけど
    それ系のトラブルが1度あって、その時に気付いたよ。
    相手によっては、“誘われる” って段取りも重要なんだな、と。
     
    だから誘わない人は、気をつけた方が良い。
    相手を疑心暗鬼に陥らせているかも知れないから。
    3度に1度は誘う側に回るべきだな。
     
    考えてみれば、こっちが遠慮して出来ない事を
    相手に押し付けている形になってる、って場合もあるし
    付き合いもバランスが大事だと思う。
     
    まあ、相手の都合おかまいなしの若者時代を過ごし
    年を取ってからやっと、世界は自分基準じゃない、と気付いて
    いきなり極端に遠慮し始めた私には言われたくないだろうがな。

  • イキテレラ 11

    「王子はまた、毎晩あなたの寝室に通ってらっしゃるようね。」
    お茶を飲むイキテレラの隣で、王妃がほほほと笑った。
    「この分じゃ、2人目もすぐ出来るでしょうね。」
     
    わたくし、ちゃんと世継ぎを産みましたわ
    これでもう役目は終わった、と思っていたのに・・・
    気落ちしているイキテレラの頬に、王妃が手を伸ばした。
     
    「わたくしには王子の気持ちがわかるわ。
     可愛いイキテレラ。」
     
     
    王妃の指が、イキテレラのまぶたを撫ぜ
    まつげをかすめ、唇をなぞった。
     
    「わたくしの事も恐い・・・?」
    王妃の唇が、イキテレラの右の頬を這う。
    イキテレラに返事は出来なかった。
    王妃の唇がイキテレラの唇をふさいだからである。
     
    イキテレラの倫理観では、ありえない出来事だったが
    王妃の繊細な動作は、王子との行為よりはよっぽどマシに思えた。
     
    「王子の事は、もうしばらく我慢なさい。
     あの子にはわたくしが適当な妾を見繕ってあげますわ。」
    王妃はイキテレラの耳元でささやいた。
     
     
    昼間は母親、夜は息子、と、とんだ変則的な親子どんぶりだが
    この腐敗した性生活は、早々に終わりを告げた。
     
    王妃とイキテレラの目の前には
    血に染まった胸で息絶えた王と
    血に染まった剣を持ち、立ち尽くす王子が
    月光に照らされて浮かび上がっていた。
     
    「王子、あなた、何をしているの?」
    王妃が震える声で訊く。
     
    「父上は、我が妃と密通しておりました。
     ですから斬りました。」
     
     
    王妃とイキテレラが、思わず顔を見合う。
    確かに王子以外にイキテレラに近付ける男性は、王しかいない。
    だがイキテレラと密通していたのは、王妃であって王ではない。
     
    「わたくし、王さまとそのような事はいたしておりません!」
    イキテレラの叫びを、王子が迷いもなく否定した。
    「・・・嘘ですね!」
     
     
    「何故そう思うのですか? 王子よ。」
    王妃の問いに、王子が答えた。
     
    「最近、妃の体が柔らかくなりました。
     我が妃は、他の者に抱かれている。
     私にはわかるのです。」
     
    イキテレラには、その言葉の意味はわからなかったが
    激しい嫌悪感に襲われた。
    「何て汚らわしい・・・。」
     
    吐き捨てるように言い、部屋を出て行こうとするイキテレラを王妃が留める。
    「お待ちなさい、このままにしておくわけにはいきません。
     たとえ王子と言えども、王殺しは重罪なのです。
     王国を混乱させてはなりません。」
     
     
    王妃が部屋を出て行き、ひとりの従者を連れて戻った。
    「こ、これは何が起きたんですか?」
    倒れている王を見て狼狽する従者を、王妃が斬った。
     
    「この者が王を殺したので、王子が成敗したのです。」
    王妃は、剣を床に投げ捨てた。
    「さあ、人を呼びなさい。」
     
    そう王子に命じると、王妃は王にとりすがって泣き始めた。
     
     
     続く
     
     
    関連記事 : イキテレラ 10 10.6.4
           イキテレラ 12 10.6.10
           
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  • 歯ぎしり

    私たちの世代は、歯が悪い人が多い。
    健康の事も歯の事も1個も考えていない悪どく美味い駄菓子が出回る中
    親も学校もデンタルケアの意識などなかったからだ。
    私も例にもれず、歯には悩まされ続けてきた。
     
    歯科に勤めていた友人によると
    私らの子供時代、しかもド田舎の歯科の技術は
    ひどいものだったとよくわかった、と言っていた。
    「私たち、ロクでもない治療をされてたのよ
     ほんと訴えたいぐらいだわー。」
    この友人もまた、歯に悩んでいたひとりである。
     
    私たちが子供の頃は、虫歯になるとすぐ
    神経を取ったり、歯を抜いたりしていたそうだ。
    そういや私の奥歯は、ほとんど神経を抜かれている。
     
     
    しかし解せない事があった。
    神経を抜いた歯なのに、痛くなるのである。
    そういう時は歯科医は、“根っこの治療” を繰り返した。
     
    私もそれで何の疑問も持たず、自分の歯の弱さを呪い
    「ああ・・・、もういっそ総入れ歯にしたい・・・。」
    と、つぶやいた事もあった。
     
    その時に母と叔母が居合わせて、姉妹揃って慌てて止めてくれたけど
    ・・・するわけないじゃん
    そんだけ歯には悩んでいる、って事なんだよ、わかってよ
    と言おうとしたら、「あなた、誰に似たんだか歯が弱いわよねえ。」
    という母の他人事な言葉に
    「おめえのしつけが悪いんじゃあ!」
    と、暴れたくなったんで、口を閉じて孤独に苦悩を続けた。
     
    歯科助手の友人によると、子の歯の健康は親の責任、だそうだ。
    私らの年代は、歯の事に関しては時代を呪い親を呪う。
    自業自得の部分もあるだろうけど、苦労しているのは自分なので
    己のツケはチャラになっている、と信じている。
     
     
    で、“神経を抜いた歯が痛む”
    この不可解な現象で何十年も歯医者通いを強いられてきたが
    ある日、歯じゃなく歯茎が痛いんじゃないか? と、ふと気付いた。
     
    朝起きると、歯茎が痛い事もよくある。
    歯槽膿漏を疑ったが、歯茎は年相応に健康だそうだ。
    何でだろう? と、何年も謎は解けなかった。
     
     
    タイトルで、すぐわかっただろうけど
    そう、私は歯ぎしりをしていたのだ。
     
    歯茎が痛むのも、かぶせ物がすぐ取れるのも
    この、歯ぎしりのせいだったんだよーーーーーーーー!!!
    気付けよ、歯科医!
    言えよ、歴代彼氏!
     
     
    で、マウスガード?とやらを作ってもらった。
    とても不愉快なつけ心地だったけど、歯茎は痛まなくなった。
     
    ・・・が、差し歯が取れそうになった・・・。
     
    マウスガードというのは、きっちり歯型に合わせて作られているので
    朝起きて取る時に、差し歯も引っ張てしまうのである。
     
    差し歯という、高額な上に余計な部分の治療をすると
    歯型が少々変わるので、マウスガードが合わなくなっちゃうんだが
    マウスガードって、最低半年以上経たないと新たに作れないんだと。
    医療費の詐欺みたいなんを防ぐため、とか言われたよ。
     
     
    もう、どこまで不運なんやら、と天を呪う前に
    こっからが私の偉いところである。
     
    気合いで歯ぎしりグセを直したのだ!!!!!
     
    どういう方法かというと、お得意の “自己暗示” である。
    夜、布団に入って目を閉じて、自分に言い聞かせる。
    と言っても、私の性格上、いくら自分自身にとはいえ
    命令されたくないので、神さまに代理をお願いするのだ。
     
    神さま、絶対に歯ぎしりをしませんように・・・
     
    毎晩毎晩これを祈っていたら、歯ぎしりが止んだぜ。
    まあ、たまーーーに、やっちゃったかな?
    と思う時もあるけど、ほぼ直ったと思う。
     
     
    それから、歯のクラウン?は取れなくなった。
    頭痛肩凝りで、歯茎が痛む事はあるけど
    その頭痛肩凝りも、驚くぐらいに緩和されたので
    歯ぎしりって結構すべての元凶じゃないか? と疑っている。
     
    歯ぎしりをせにゃならん心理状態、というのも
    ものすごく問題がありそうだが
    自分の問題など、病弱と貧乏以外に思い当たらないんだよなあ。
     
    って、もしかして ↑ の2つ、最強の悩みなのでは? あはは
     
     
    あ、そうそう、この呪文のコツはな、歯ぎしりだけじゃなく
    “歯のくいしばり” の単語も入れておく事だ。
     
    ストレスでも何でも、歯ぎしりをおっ始めるヤツは
    普段から無意識に歯をくいしばっている可能性が大きい。
     
    私がそうだったからだ。
    歯をくいしばっていると、体中に力が入るので
    肩凝りや首凝り、背中の痛みなどが頻繁に起こっていた。
     
    起きている時は、歯のくいしばりを意識して止める。
    常に上下の歯を閉じないようにする。
    その際に口まで開けていたら、ヌケサクになるんで
    唇は意識して閉じ合わせておくようにな。
     
    そして夜に眠りにつく前の呪文。
    「神さま、歯ぎしり、歯のくいしばりを絶対にしませんように。」
     
     
    自己暗示は、この寝る前の呪文がものすごく大事なんだ。
    続けていると、私、努力してる! という満足感が得られるし
    (いや、実際は何も頑張ってもいないんだがな)
    自己暗示に掛かりやすい、と思い込めたらマジで効くようになる。
     
    テストの前になると腹が痛くなる、とか
    皆、結構マイナス方面の気合いは経験してるだろ
    それを良い方向で出すようにするんだよ。
     
    自分をコントロールするために、自己暗示、結構役に立つと思う。

  • イキテレラ 10

    初夜の事は、まったく記憶にない。
    しかし、そんな事はもはや問題ではなかった。
    王子は毎晩イキテレラの寝室へと来るのである。
     
    たとえ伽をしなくとも、隣で眠る。
    イキテレラの体を抱きしめて。
     
     
    それで王子は心地良く眠れているようだが
    イキテレラの方は、まったく眠れない。
    何日経っても、この男に慣れないのである。
     
    わたくしを守ってくださると仰るのなら
    この方がこの世からいなくなってくれるのが一番早いのに・・・。
    しかし、この願いは絶対に叶わない。
     
    妊娠を待つ身としては、薬も酒も厳禁で
    寝不足が続き、どうなるかと心配していた矢先に
    懐妊したと知らされた時は、心の底からホッとした。
    これでわたくしの役目は終わる。
     
     
    身ごもったイキテレラは、何よりも優先された。
    王子の訪問も、つわりを理由に断る事ができた。
     
    周囲にいるのは、物静かな侍女だけ。
    時々王妃さまが気遣って見舞ってくださる。
    イキテレラは、城で初めての安らかな時間を過ごす事ができた。
    これで産まれてくるのが、世継ぎであれば・・・。
     
     
    イキテレラの祈りが届いたのか、無事に健康な男児を出産した。
    出産直後のイキテレラの元に、王子がやってきた。
     
    「我が愛する妃よ、世継ぎを与えてくれた事を心より感謝します。」
    王子の瞳からこぼれた涙が、イキテレラの頬に落ちた。
    王子は疲れきってもうろうとしているイキテレラに口付けた。
     
     
    育児は主に乳母がした。
    イキテレラは時々授乳をするだけである。
     
    王家というのは、このようなものなのかしら?
    子を産んだというのに、母親になった実感もない。
    わたくしは何をして過ごせばよろしいの?
     
    日々をボンヤリと過ごすイキテレラに、侍女が王子の訪問を告げる。
    産後の体調不良を理由に、ずっと避けてきたのだけれど
    今日はイキテレラの実家に関して話があるらしいので
    断るわけにはいかない。
    イキテレラは渋々と腰を上げた。
     
     
    ドアを開けると、王子は窓際に立っていた。
    日光を受けるその姿を見て、イキテレラは思った。
    あら、このお方の髪の色は黄土色ですのね。
     
    王子は久しぶりに会う妻を、眩しそうに見つめた。
    「具合はいかがですか?」
    「ええ・・・、まだ少し・・・。」
     
    「そのようなあなたをわずらわせるのは、心苦しいのですが
     あなたのご実家の事で、少し相談がありましてね。」
     
     
    イキテレラの実家は、婚礼の際に多額の支度金を王家から渡された。
    そして皇太子妃の実家として、月々の “恩給” も貰っているのだ。
    「問題は、この他にちょくちょく金銭の工面に来られるのですよ。
     あなたのお父上がね。」
     
    「まあ、何てみっともない・・・。」
    イキテレラは、目を伏せて深く溜め息をついた。
    「お義母さまとお義姉さまたちは、少し贅沢なんですの・・・。
     うちは貴族とは言え、決して裕福ではありませんのに・・・。」
     
    イキテレラの嘆きに、王子は慌てて言いつくろった。
    「ああ、いえ、違います。
     お金の事は構わないのです。
     ただ、その、義理の母娘たちはあなたをいじめていたくせに
     皇太子妃になったあなたにタカって、という噂が街でたっていましてね。
     それは外聞が悪いんじゃないか、と大臣たちが心配するのですよ。」
     
    「ああ・・・、そういう事でしたの・・・。」
    イキテレラは、目を上げて窓の外に広がる空を見た。
     
     
    しばらく無言で流れる雲を見つめていたけれど
    実はイキテレラは、実家の問題については何も考えていなかった。
    ただ、隣に立っている大きな男性の存在感を
    明るい昼間の太陽の光で打ち消そうとしていたのである。
     
    何故このお方は、こうも私の顔を凝視するのかしら・・・
    イキテレラはイライラさせられていた。
    決して王子の方を見ようとはしなかったが
    王子の仕草は、目の端でわかる。
     
    「わたくしの実家の事は、すべてお任せいたしますわ。
     嫁いだ身としては、口を出す権利はございません。」
     
     
    イキテレラが窓に背を向けた時に、王子が言った。
    「あなたとこのように会話をするのは初めてですね。」
     
    「そうですか? ではわたくしはこれで・・・。」
    王子の言葉に妙な色気を感じて、ゾッとして
    ドアへと急ぐイキテレラを、王子が背後から抱きしめる。
     
    「このような日中から何を考えていらっしゃるのです!」
    「あなたを間近に見て我慢できるほど、私は忍耐強くはないんですよ。」
     
    まさか王子という身分の者に、“無礼者” と言えるわけもない。
     
     
    王子がイキテレラのドレスを整えながら、激情を詫びた時にも
    王子が部屋を出て行って、侍女が迎えに来た時にも
    イキテレラは無言で平静を装った。
     
    夫が妻に性行為をするのは、当然の事なのである。
     
     
     続く
     
     
    関連記事 : イキテレラ 9 10.6.2
           イキテレラ 11 10.6.8
           
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  • ババアの太り方

    冬場はコートや重ね着で乳バンドはつけずに済むのだが
    薄着の季節になってきたので、渋々ブラをつける。
    そして行く先々でナイスバディナイスバディと褒められつつブラブラ。
     
    ・・・すまんが、最初にこんぐらい飛ばしとかんと
    今日の記事は、私の心が静まらんのだ・・・。
     
     
    で、帰宅して着替える時に、ふと違和感に気付く。
    大きめサイズのブラにしているのに、乳肉が盛り上がっとる。
    ? と思いつつ、鏡でチェックをしたら
    乳が垂れているのである!!!!!
     
    ああああああああああ、ユースキンS 10.4.9 の記事で
    散々自画自賛したバチが早速当たったかーーーーーーっ???
     
    と、自業自得を奥深く悔やもうとしたが
    更に嫌な予感に襲われ、全身をチェックしたところ
    下腹と下尻に肉が増えているような気がする。
     
    慌てて体重計に乗ったら、何と3kg増えていた!!!
    おお、神よ! と、天を仰いだぐらいに嬉しかったぜ。
    太るのなんか、高校生以来だから。
     
     
    私のベスト体重は、54kgである。
    高校生の時に、この体重を維持していたのだが
    誰もが羨むダイナマイトバディだった。
     
    それが体調を崩し、あれよあれよと痩せてしまい
    何年も掛かって、ようやく47kgで安定できたのである。
     
    私は165cm。
    ナイスバディ自称がこの体重で、異存のあるヤツもいるかも知れん。
    が、現実の私を見ると、芸能人の公称サイズの方に疑問を抱くはず。
     
    今の私は、乳と尻を有するスレンダー系ナイスバディである。
    体重が45kgを切ったら、正直死ねるぐらいきつい。
    外見もプロブレム対象になる。
     
    まあ、医師も褒める骨格の繊細な美しさで
    どう転んでもナイスバディである事は間違いない。
     
     
    ・・・と、思っていたよ、今の今まではな。
    恵まれた資質に思い上がって、自分の体などよく見てなかったんだが
    それでも違和感を頼りに、全身を調べたところ
    二の腕下、脇下、乳下、下腹、尻下に肉が増えとった。
     
    見事にイヤな部分ばかりだろ?
    ここに合計3kgの肉が分散して増えたわけだ。
    まだ幸いだったのは、アゴ下には肉は付いていない事。
    と言うか、ここが変わらなかったから、気付くのが遅れたんだと思う。
     
    それでも、私も太れるんだ、とわかって嬉しいんだが
    その後、米袋を持って、3kgってもしやこれぐらい?
    と、その重さに驚愕して以来、心なしか体が重い。
     
     
    にしても何故いきなり太ったんだろう?
    と考えてみたら、私、禁煙してたんだった。
     
    それでタバコの代わりに、ヴェルタースオリジナルキャンディーを
    むさぼり食っとったんだ。
    何故って、私もまた特別な存在だから・・・。
    (文句はメーカーに言え。 こんなヤツが増えてますよ、って。)
     
     
    つまり糖分のみで太ったわけで
    そりゃ、いらん太り方もするわなあ、って話だろうけど
    それだけじゃないと思う。
     
    歳を取ると、付いてる肉が垂れてくるのは知っとった。
    が、まさか新たに付く肉も、下へ下へと付くとは!
    しかも都合の悪い部分優先で、その下方向に付くような気がする。
     
    私、結構ピンチかも知れない。
    今のところ、まだ服を着たらごまかせる程度だけど
    ナイスバディ自称も、あと1~2年持てば良いかも。
     
    と、ガックリきとったら、歯の治療で飯が食えなくなって2kg痩せた。
    こういうとこは相変わらずなんか・・・。
     
     
    禁煙の何の効果で、こうなるのかはわからないが
    どうやら体重の増えの上限が上がったようである。
     
    体調的には、太った方が良いんだけど
    どこにどう肉を付けるのかをコントロール出来ないと
    ナイスバディが台無しだ。
    出来るんかなあ? 付く肉のコントロール。
     
     
    とりあえず、痩せるのはすぐ痩せられるようなので
    運動系は秋までやらん。
    口寂しさは選民キャンディーを止めて、庶民せんべいでも食っとくよ。
     
    ・・・てか、痩せられるよな?
    そこまで体質、変わってねえよな?
     
    ああ・・・、他の自賛場所を探した方が早いかもー。
    (他の自賛場所があるなら、の話だろうが
     白を黒と言う勢いでヒネり出しちゃるわ!)
     
     
    関連記事: ババアの太り方 2 10.8.11
          レッグマジックX 10.8.13

  • イキテレラ 9

    婚礼が決まり、再び泣き暮らすイキテレラの元に王妃がやってきた。
    「イキテレラ、あなた、王子が嫌いなのかしら?」
    王妃は優しくイキテレラの髪を撫ぜる。
     
    「王子は我が子ながら、たくましく立派な青年で
     多くの女性たちから恋される、理想的な男性ですのに
     あの子のどこが不満なのかしら?」
     
    イキテレラは、オドオドしながら答えた。
    「王妃さま、王子さまに不満など・・・。
     ただ・・・、わたくしは・・・、男性が恐いのです・・・。」
     
    「まあ!」
    おっほっほ と、王妃は高らかに笑った。
     
    「お可愛いらしいお方。
     心配する事はなくてよ。
     王子も今はあなたにご執心だけど
     あのような美丈夫、誘惑は多い。
     すぐに次の女性へと気を移しますわ。
     正妃の仕事は、世継ぎを産みさえすれば終わり。
     後は好きに暮らせるのよ。」
     
    王妃はにっこりと微笑み、イキテレラの頬を撫ぜた。
    「少しの間だけ、辛抱なさいね。」
     
     
    イキテレラはその言葉を頼りに、耐える決心をした。
    何もこの男性は、自分を取って喰おうとしているわけではないのだ。
    家を継いでも、どんな男性が婿入りするかわからない。
    どうせいずれは、結婚はせねばならない運命なのである。
     
    にしても、相手があの人とは、あんまりだわ・・・。
    イキテレラは遠くから王子の後姿を盗み見て、改めてショックを受けた。
     
    大抵の女性なら喜ぶ、広くたくましい背中は
    イキテレラにとっては、恐怖の対象でしかない。
    せめてもう少し華奢な人だったら、まだ良かったのに・・・
     
    イキテレラは元々、ここまでの男性恐怖症ではなかった。
    舞踏会での強引さ、しつこい貼り紙、そして突然の拉致
    経験した事のない、それらの非現実的な出来事での恐怖が
    すべて王子由来だと刷り込まれてしまったのだ。
     
     
    婚礼の儀は、イキテレラには苦行だった。
    常に隣に怪物がいる気分であった。
     
    パレードの時には、無理に笑顔を作って手を振ってはいたが
    王子に握られている片手は、震えて汗をかいていた。
     
    王子はそれを行事への緊張だと勘違いし
    イキテレラの頬にキスをし、ささやいた。
    「私のか弱い姫、今日からは私があなたを守ると誓おう。」
     
     
    王子の顔が近付いた時に、一瞬だけイキテレラの表情がこわばったが
    何とか平静を保ってやり過ごした。
    この嫌悪感を、誰にも気付かれてはならない。
     
    その瞬間に、多分人生が終わるから。
     
     
     続く
     
     
    関連記事 : イキテレラ 8 10.5.31
           イキテレラ 10 10.6.4
           
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