コォ・・・ン
「あれ? 今何かヘンな音が聴こえませんでしたー?」
「いや? どんな音だい?」
「遠くでわら人形を打ってるようなー・・・。」
「わら人形? 何だい、それ?」
「日本古来より伝統的に行われている、呪いの儀式ですよー。」
「・・・・・日本って、本当にどういう国なんだい?」
「神も仏も家電も混在している、何でもアリの国ですよー。」
「あんたの言ってる事は、どうも信じられないねえ。」
「兄や私は、典型的な日本人ですよー。」
「ああ・・・、なるほどね・・・。」
ローズが入れてくれたお茶を、ひと口すすって続ける。
「そういや、ここ、幽霊とか出ないんですかー?」
「幽霊? 聞かないねえ。」
「あなたは神を信じますかー?」
「宗教はやってないんでね。
日本人は何だっけ? ブッディストって言うんかい?」
「日本には八百万の神様がいて、幽霊もウジャウジャいるんですよー。
八百万は神道で、幽霊は仏教の分野になるんかなー。」
「・・・何か色々と大変そうだね・・・。」
「そうなんですよー。 もうゲシュタルト崩壊ですよー。」
「何だい? ゲシュタルトって?」
「そんな難しい事を私に訊かないでくださいよー。」
ローズは、アッシュとの会話に慣れてきていた。
「さて、寝ようかね。」
さっさと流して、腰を上げる。
「あんた、ちゃんと寝るんだよ。」
「・・・はい・・・。」
心細そうに表情を曇らせたアッシュの頭に、ゲンコツを一発入れる。
「ほら! シャンとしな!」
アッシュの返事を待たずに、ローズは部屋を出て行った。
どうせ、また思い出してはメソメソするんだろ、こいつは。
ローズの読み通り、アッシュは中々眠れずにいた。
時計を見ると、夜中の1時である。
また腹が減った。
考えてみれば、今日は1食しか食っていない。
こんな時間に食べると、体調が悪くなるのだが
食わず癖が付くのは、もっとマズい。
アッシュは食堂へ向かった。
食堂は無人かと思っていたが、賑わっていた。
しかも全員、酔っ払いである。
ああ・・・そうか、そうだよな
飲酒はどこの世界でも習慣だもんな。
その、全世界共通の言動の酔っ払いに囲まれて
アッシュは居心地悪く、飯を食った。
「嬢ちゃんは、まだ酒を飲めない歳かねー?」
「はい、未成年なんですー。」
一体いくつサバを読めば気が済むのか
シラッと答えるアッシュに、オヤジが叫んだ。
「俺は10歳から飲んでるぜー、わはははは。」
「俺なんか産湯がウイスキーだったぜ、ぎゃはははは。」
「あたしなんか母親がアル中で、腹ん中で既に酒浸りさー。」
ドワッと笑いの渦が巻き起こる中
アッシュだけは無表情で、皿を突付いていたが
いたたまれず席を立ち、そそくさと食堂から退散した。
「愛想がないのね。」
え? 私? と振り返ると、女性が立っていた。
えーと誰だっけ? と、珍しく思わなかったのは
その強烈な香水の匂いである。
アッシュが初日に門のとこで会った女性であった。
「はあ。 酔っ払いに愛想良くしても良い事ないですからー。」
その答に大笑いするその女性も、かなり酔っている。
構わず行こうとするアッシュの顔を覗き込む女性。
ジッと凝視され、目が泳ぐアッシュ。
「あなた、お兄さんと全然似ていないのね。」
「はあ、よく言われますが、ほんとにほんとの実の兄妹でー。」
「でも、目の色は同じね。」
「すいませんが、日本人は全員この色なんですよー。」
「髪も一緒ね。」
「ほんとすいませんけど、日本人、皆こうなんですー。」
女性はふふっと笑い、フラフラと東の廊下へと歩いて行った。
明るい茶色の巻き髪のその小柄な女性は
他の住人たちと一緒にここにいるにしては、異質な雰囲気である。
あの人は何をしている人なんだろう?
女性のピンヒールを見て、アッシュは違和感を感じた。
続く。
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