南館の1階の廊下に入っていく。
「何か、静かですねえー。」
アッシュがビクつきながら、ローズにコソッと言う。
こういう空気の時はヤバいんだよね・・・
ローズもビクついていたが、それを口には出さずにいた。
アッシュにパニくられるのが一番厄介だからである。
「なあに、だいじょう」
「ぶじゃないですーーーーーーーっっっ!」
アッシュが叫んだ。
男の影が浮かび、その手には斧が握られている。
「定番出たーーーーーーーーーーーーーっ! 顔文字略ーーー!」
男は斧を振り上げ、アッシュへと向かってきた。
「逃げな!!!」 「うぎゃあああああああああああ」
ローズとアッシュが同時に叫び、斧が振り下ろされる。
バキッ
斧が突き刺さる音がし、アッシュの脳天に衝撃が走った。
アッシュは進行方向に向き直るヒマもなく、後ずさって
通路のゴミに足を取られて倒れ、廊下の壁に頭を打ったのである。
斧はそのすぐ上に突き刺さっていた。
頭に激痛が走るが、ローズが男と格闘しているので加勢をしようと
斧を抜こうとしたアッシュは、猛然と斧を左右に動かし始めた。
斧が抜けた時、野生の勘で何かをひらめいたように
再びそれを壁に振り下ろした。
何度も何度も。
壁の一部に割れ目を入れたら、次は周辺を足で蹴る。
バキッ メキメキッ ガゴッ ドガッ
一心不乱に鬼の形相で、それを続けるアッシュに
取っ組み合いをしていたローズも男も、呆然と見入った。
体が通るぐらいの裂け目から、アッシュが中を覗くと
ベッドとクローゼットとサイドテーブルだけの狭い部屋の隅っこで
じいさんが怯えながら、小さくなっていた。
中に人がいるとは思わなかったアッシュは、流れで謝った。
「あっ、すみませんー。」
じいさんは、おうっ、あわあわ、と我に返ると
壁にある小さな扉を開け、スイッチを押した。
ドッパーーーン ポン パンパン
花火の音に続いてファンファーレが鳴り、機械音声のアナウンスが響いた。
「ソウゾクタッセイ ソウゾクタッセイ」
はあ? と、裂け目から上半身を出して目を丸くしているアッシュに
じいさんが首を振って訴えた。
「嬢ちゃん、わし、今ものすごく恐かったよ・・・。」
「え? ああー、リアル・シャイニングでしたもんねー。」
アッシュは、ホラーネタには素早く反応をするが
頭の回転はさっぱりだった。
「で、あんた誰ですかー?」
「あれ? わかったんじゃなかったんかい!
じゃあ無効じゃな。」
さっきの取り消し~ と、館内にじいさんの声がアナウンスされる。
「ちちちちち違う、じゃなくてー、主の部屋をめっけたのは自覚してますー。
そういう事じゃなくて、あなたは誰なんですか、って意味ーーー!」
慌ててアッシュが弁解すると、じいさんは再びマイクを握った。
「今のは間違い~ やっぱり相続達成じゃった~。」
「ほれ、わしじゃよ。
さっきあんた玄関ドアのとこから、わしを睨んどったろう。
それに食堂で絡まれた事も何度かあるぞ。
覚えとらんのか?」
そんな影の薄いジジイの存在など、気にもとめていなかったアッシュは
はあー・・・、ものすごい疲れたっぽい溜め息をついた。
実はそこが主の部屋だとは知らずに踏み込んだのだ。
壊せるみたいだったから、我を忘れて壊しにかかった
という、ケダモノのような習性を発揮しただけで
そこがまさかゴール地点だとは、微塵も予想だにしていなかった。
「何だろうー、この途方もない壮大なガッカリ感はー・・・。」
「失礼なやっちゃな!」
じいさんがブリブリと怒った。
続く。
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